地球帝国の興亡・番外編


    「お祭り」・中編

    1

 「おじさーんっ、たこ焼き二つ下さーいっ」
 天宮の元気な声が響く、俺は財布からたこ焼きのお金をだした。神内はたこ焼きを受け取り天宮と手をつないで歩き出した時、何か鋭い気配を感じた。
 一瞬だったが、確かに感じた。突き刺すような視線とでもいうのだろうか、これが殺気を感じだというのかもしれない。さっとあたりを見回してみたがそれらしい視線を送ったであろう人間は見当たらない、俺の気のせいだったのだろうか?
 俺は天宮にも尋ねてみた。
 「天宮、さっき誰かの視線を感じなかったか、俺はそんな気がしたんだけどなぁ・・・」
 天宮は何も感じなかったらしく。
 「うーん、それは気のせいだよ、わたしはなにも感じなかったよ」
 俺はもう一度後ろを振り返り人ごみの中をさっと見回した、やっぱり気のせいだったのだろう。
 「やっぱ気のせいだったな、疲れてるのかな、俺」
 「神内君、最近ずっと泊まりの演習ばかりだからね、きっとそうだよ、それに訓練じゃないんだからそんな人の気配を気にしなくてもいいんだよ」
 俺の顔を見て微笑みながらそう天宮が言った。そうなのかな・・・
 「そうだな、今日はそういう事は忘れなきゃな、なんせ三週間ぶりの土日外出だもんな、今週は二人でゆっくりすごそうな」
 俺がそう言うと天宮はとびきりの笑顔で「うんっ!」と元気に言ってくれた、俺も笑顔になる。
 「神内君、そろそろたこ焼き食べようよー」
 天宮が俺の持っているたこ焼きを見ながら言ってくる。
 「はは食い意地張ってるなぁ、広場につくまで待てよ」
 「うーん、じゃあ早く行こうよ、ほらぁ」
 天宮が俺の腕をつかんで走り出した、引っ張られながら俺は言った
 「おいおい、そんな急がなくても逃げやしないぞ、たこ焼きは」
 俺は元気のいい天宮を微笑ましく思った。
 「いいのっ、だってお腹すいちゃったんだもん、それにあったかいうちに食べたいじゃない」
 ・・・おいおい、さっきチョコバナナ二本とたこ焼き食べたばかりだろう、まだ食うのか、天宮の小さなお腹のどこにそれ程の食べ物が収まるのかが不思議だった、今日の晩飯のスパゲティと増加食の乾パンだけでお腹一杯のように見えるのに、と俺は思った。
 「甘い物とたこ焼きは別腹なのっ、だって神内君もそうでしょ、ね?」
 甘い物が別腹というのは聞くけどたこ焼きが別腹というのは俺は聞いた事がない。天宮理論恐るべし。


    2

 噴水広場につくと俺と天宮は噴水の側の縁石に腰を下ろした、すると天宮は待ちきれなかったかのようにたこ焼きを袋から取り出した。
 ・・・素早いな、天宮そんなにたこ焼きが好きなのか、そんなことを考えてるうちに見る見るたこ焼きは天宮の口の中に運ばれていく、もう少し噛んで食べた方がいいぞと言おうかと思った。
 そんな俺の視線に気づいた天宮は口の中にたこ焼きを詰め込んだ状態で俺に言った。
 「むぐぅ?あっ、ごめん、私だけが食べてちゃだめだよね、はい神内君もどうぞ」
 天宮は袋からもう一つのたこ焼きを取り出すと俺に差し出してくる。
 あの食べっぷりを見ていると、とても一つでは足りないだろうと思った俺は天宮に言った。
 「いいよ、それだけじゃ足りないだろ?俺はいいよ、天宮が食べてくれ」
 すると天宮はさすがにそれは悪いと思ったのだろうか首を振ると、俺にたこ焼きを渡してきた
 「え〜、そんな私だけが食べて神内くんが食べれないなんて悪いよう」
 俺は天宮にまたたこ焼きを返しながら言った。
 「いいって、別に気にしなくても、俺はそんな腹も減ってないし、それに天宮が好きな物を幸せそうに食べてる姿が見れれば俺は嬉しいから、さっ遠慮しないで食べてくれ、ほんとに腹減ってないからさ」
 この不毛な譲り合いを三往復ほどしただろうか、俺も天宮もどこか意地になってしまいなんとしても自分は食べないぞ状態だ。
 このままだとたこ焼きが冷めてしまう。いや最悪、この楽しい時間まで冷めてしまいかねないぞ。
 俺が受け取れば一発で問題は解決するだろう。しかし、これだけいらないと言っておきながら、いきなり受け取るのも何だか変だ。何かうまい解決方法はないだろうか。
 そうだ!これならば、お互いにうまくいくかもしれない、俺はたこ焼きを二人の間に置いた。
 「じゃあ、半分にするってのはどうだ?俺も全部はちょっと無理だけどそれくらいなら何とか食べられるから」
 なにかどっちつかずな答えのような気がしないでもないけど、これなら天宮も食べられるし、俺も半分は食べることができる。
 今さらだけど、本当は俺も食べたかったからだった。もしかすると天宮よりも俺の方が食べたくてしょうがなかったのかもしれない。
 「うん、じゃあ半分ずつ食べようね、これなら神内くんも食べられるね」
 天宮はさっそくたこ焼きを口に運び出した。なんだやっぱり本当は食べたくてしょうがなかったんじゃないか、でも俺のために我慢してたんだな。
 俺と天宮はおしゃべりをしながらたこ焼きを食べた。天宮も俺と同じことを思っていたようで、やっぱり神内くん本当は食べたかったんだと言った。俺もさすがに反論できなかった。
 返答に困ってる俺を見て、さも可笑しそうに天宮はくすっと笑った。
 「でも、私がたこ焼きが好きだから遠慮してくれたんだね、ありがとうやっぱり優しいね神内くんは」
 天宮は気恥ずかしくて俺じゃなかなか言えないような事をさらっと言ってしまう。そのたびに俺は照れてしまって顔が赤くなる。俺も少しは天宮のように思った事をさらっとい言えるようになりたいものだ。
 「あれ・・・・・神内くん一個だけ残っちゃった」
 見ると、最後の一つが残っている、そういえば珍しく買ったたこ焼きの数が奇数だった気がする。俺達は残った一つのたこ焼きをどうしようか考えた。
 「神内くん、これも半分ずつにしようよ」
 一つのたこ焼きを半分にするとは、思わなかったがこの際またどちらが最後の一個を食べるかで不毛な譲り合いをするよりはいいなと思った。
 「じゃあ、半分にわけよう」
 俺が半分に切ろうと串を駆使してうまく分けようとすると、いきなり天宮が最後のたこ焼きを突き刺したと思ったら食べてしまった。
 「はい、残り半分は神内くんの分だよ」
 天宮、まさか口で半分だけかじって分けるとは想像もできなかったぞ、これはもの凄い発想だ。俺は感心半分、呆れ半分といった感じで思った。
 「・・・ありがとう頂くよ、見事に半分だな、想像できなかったよ」
 俺は少し意地悪な言い方をしてしまった。
 「えへへ、どうもいたしままして、じゃあ神内くん、はいあーんして」
 ・・・またか、俺は正直かなり恥ずかしいのだけど天宮は全然平気らしく気にするそぶりも全くといっていいほどない。俺は近くを通っていく人達の視線が痛いほど感じられてたまらない。
 ・・・まあ、だからといって恥ずかしいからやめろとも言えない俺は結局、天宮にたこ焼きを食べさせてもらった。まあ俺自身が恥ずかしいながらもこういうひとときが好きなのから仕方ないか。
 「おいしかったね、神内くん」
 お腹いっぱいになって天宮も満足そうだ。
 「殿、ご満足でしょうか?」
 俺が冗談でそう言うと天宮はたこ焼きがつまったお腹を軽く叩きおどけながら俺に答えた。
 「うむ、神内よ、余はもう満足じゃ!」


    3

 俺と天宮はお互いの顔を見合って笑った、馬鹿笑いとでもいえるほど二人で笑いあった。こんなどうでもいい会話に笑いあうことが最近あまり無かった気がする。
 無言で天宮の体に腕をまわしそっと引き寄せると、天宮の髪の匂いをかぐように自分の頬を彼女の顔によせた。
 天宮もその細い腕を俺の体にまわしつけ、体を俺にあずけてきた、その顔を見ると気持ちよさそうに目を閉じて、まるで楽しい夢を見ているかのような微笑みを浮かべている。
 俺も天宮もどちらも一言もしゃべらず、ただお互いのからだのぬくもりを感じつづけた。天宮の髪の毛の甘いようなにおい、胸の鼓動、すこし力をいれると柔らかくへこむ天宮のからだの感触に俺はしばし時間がたつのを忘れた。
 静かでゆったりとした時間が流れていく。思うと天宮とこんなに長い時間外出して二人だけですごしたのはいつ以来だろうか。
 思い出してみると大抵、相馬や上高がいたり、二人ともいない時に限って子供達につきまとわれたりしていた。
 駐屯地の中なら休日に二人で運動したり俺の居室で話オながら映画を見たりもできる。確かにそれでも充分充実しているけどやはり人の目があるし、それに自分自身、駐屯地の中では気を引き締めなくてはならないと思い自然と少し二人の距離を開けてしまう。
 とても、今みたいに抱き合っているかのようなことはできない、もちろん駐屯地の外に出たからといって自衛官でなくなるわけではないけどやはり気分的には解放される。
 二十歳になってこれくらいのことでお互いに満足できるカップルなんざそうはいないだろうと思う。出会ってからもう二年近くになるのにキスした回数も片手で足りるくらいしかした事がない。
 俺はふとこれから先のことを考え、訓練表の予定を思い出した。来週は後半週、当直勤務だ、そしてその次の週の土日は中隊訓練だった。
 この土日がすぎたら二人でまたゆったりとすごせるのはもう3週間後までないんだな・・・
 俺の隣でまるで眠っているかのように目をつぶっている天宮の姿を見ているとそんな寂しさのような思いがわきでてくる。
 なら今日は駐屯地に帰りたくない、天宮と二人で夜を過ごしたい。別にずっと話をしてるだけとかでも全然構わない、そう思いながら俺は天宮に言った。
 「なあ、天宮・・・」
 しかし天宮の反応がない・・・・・まさか『眠ってるよう』じゃなくて本当に『眠ってる』のかもしれないぞ。
 「天宮・・・おーい天宮」
 またもや反応がない、天宮の顔の前で上下に手を振ってみる・・・まったく反応しないな。俺は人差し指で天宮の頬をそっとつついてみる、指を押し返そうとする弾力が気持ちいい。マシュマロみたいなほっぺとはきっとこういう感じなのだろう。
 「おきろーほれほれ天宮おきろー」
 調子に乗った俺は、ふんわりとした天宮の頬を何回もつついた。六回ほどつついてようやく天宮は起きてくれた。
 「うぅ・・・・・あれ神内くん・・・どうしたの?」
 天宮は俺がなぜか笑いを堪えているような顔をしているのを見て目をこすりながら聞いてきた。
 「いや、別に」
 全く覚えていないようだ、まさか天宮のほっぺの感触があまりにも気持ちよくて何度もつついて楽しんでました、とは言えない。
 そうだ、ほっぺの感触に大事なことを言うのを忘れるところだった。俺はまだ寝ぼけまなこの天宮の顔をじっと見ながら言った。
 「天宮・・・・・今日は駐屯地に帰らないでどこかで一緒にすごさないか」
 ・・・・・しかし、こう言うとなにか下心があるみたいにも聞こえるかもしれない、俺はただ一緒にすごせればそれでいいのに。天宮は俺の顔を見ながら答えた。
 「うん・・・・・・いいよ神内くん、そうだわたしの家にこない?」
 天宮はいきなり実家に来るように言ってきた。いきなり予想もしていなかった展開だ、俺はどこかの飲み屋で軽く酒を飲んだりしてすごそうと思ったのに。
 「大丈夫だよ、すぐ近くだし」
 たしかに、天宮の家は近い、ここから歩いて10分くらいの位置だ。でも天宮の両親はなんと言うか。彼女の両親とは話したこともあるし二人が付き合っていることも知ってるし、むしろ喜んでくれてさえいるように思う。
 「でも・・・天宮の家族に迷惑がかかるんじゃないか」
 「大丈夫だよ、お父さんとお母さんは今週旅行に出かけてるし、妹は今日は友達の家に泊まるって言ってたからお家には誰もいないよ」
 天宮は俺を誰もいない家に連れ込んで平気なのだろうか、俺は立派な男子なんだけれども、天宮は少しも俺を疑っていないのだろうか。
 ・・・・・・それとも俺とならなるようになってもいいと思っていたりするのだろうか。
 「本当にいいのか、天宮」
 「うん、全然だいじょうぶだよっ」
 きっと天宮は純粋に楽しくお話ができると考えているのだろう。天宮は家に遊びに来るようにさそっているだけなんだろう。子供が家に遊びにおいでよと友達に言ってるのと同じ感覚なんだろうな。
 「わかりました、天宮、あなたのご好意におあずかりいたします」
 そう言うと、俺は天宮の手をとって立ち上がった。そして天宮の手を引いて立ち上がらせてあげた。
 「じゃあいこうか、神内くん」
 「ああ」
 俺と天宮はお互いの手をとって歩き出した。


    4

 「離せ、離さないか、桐生ぅーっ!」
 神内と天宮が静かな時間をすごしていた噴水のそばの光の当たらない低木の茂みの影で桐生は今にも二人の前に飛び出していきそうな陣の体を後ろから必死に抑えていた。
 「だから、今日ぐらい我慢しなって!」
 桐生はもの凄い力で前進しようとする陣を説得しながら後ろから抑えつづけた。
 「言うに事欠いて今夜は一緒にだと!しかも俺の家にだと、わかってんのか沙紀はこの状況がっ!」
 前進しようとする力と引ォ留めようとする力によって二人の体は汗だくになっていた。なんで僕はこんな事をしているんだっ、それもこれもすべてこのシスコンな相棒のせいだ。
 しかし、桐生は少しずつ引きずられていく、もの凄い力だ、引っ張る力が前へ進む力に負けだしている、地面がえぐれている。
 ダメだ、もう抑えられそうにない、邪悪な怒りのパワーはこれほどの力を生むのか。桐生は自分の体力がもう限界に近いことを感じてきた。
 「ぬおおおおおおおっ!」
 陣が獣のような唸り声をあげて最後の力をかけた、その時桐生は二人に対して心の中で謝罪の言葉を述べた。
 だがその時陣の力が一気に抜けなんとか釣合っていた力の片方が消滅したその結果、桐生と陣は、後方の茂みのなかに背中から吹き飛んだ。


    5

 「ど、どうしたんだよ陣」
 桐生は陣の下から這い出ると陣の顔を見た、まるで魂の抜けたようにぽかんと口をあけ桐生の顔を見上げている。
 「桐生・・・全然力がはいらねぇ・・・・・」
 桐生は陣の背中に腕を回して起き上がらせてあげた、陣は自分の力で立つ事すら難渋そうだった。桐生は陣に肩を貸してあげた。いまだに力が入らないようで一人で歩くのはきつそうだった。
 「大丈夫ですかっ」
 その時桐生の耳に聞き覚えのある声が入ってきた。見ると去年の春に前期教育で鍛えた部下、上高が駆けてきた。
 「あっ上高、わるいけどこいつをベンチまで連れてくのを手伝ってくれないか」
 上高は桐生の反対側に回ると二人で陣の肩を支えながら噴水のそばのベンチに連れて行った。そっと陣をベンチに座らせると桐生は上高を礼を言った。
 「ありがとう上高、偶然近くにいてくれて助かったよ」
 「聞き覚えのある声がすると思ったら桐生三曹が天宮三曹と組み合ってるのが見えまして、それで駆けつけたんです」
 そう言うと上高と桐生は陣の様子を見た。一見もの凄く疲れているかのように見えるが、息が荒かったりしてはいない。
 「ねえ大丈夫・・・陣・・」
 桐生は陣のとなりに腰掛けると両肘を膝の上にのせて前かがみになり下を向いている陣の顔を心配そうに覗き込んだ。桐生はズボンのポケットから財布を取り出し上高に小銭を渡した。
 「上高・・・悪いけどそれで何か飲み物を買ってきてくれ」
 「そんな気にしないで下さい、桐生三曹。じゃあ二人分買ってきます」
 上高は心配そうに陣の様子を見ている桐生の姿を見ながら言い、二人から背を向け自販機へ歩き出した時、桐生から声がかけられた。
 「僕の分はいいよ、上高が使ってくれ・・・すまないね、迷惑かけて」
 陣は大きくため息をつくとゆっくりと顔をあげ桐生の顔を見た。桐生はやはり顔を曇らせ不安げな表情を浮かべている。
 「・・・すまねえな桐生よ、休みだというのに馬鹿やっちまったな・・・・・」
 陣は先ほどまでの我を忘れた行為を思い出し、さらに桐生にまで迷惑をかけた事を情けなく思い素直に謝った。
 「気にしないでよ、それよりも大丈夫か、陣?」
 「・・・・・ああ・・・・・そうだ二人は行ったのか?・・・・」
 陣は忘れてはいなかったようだった。桐生は思わず軽くため息をついた。
 「そのことはもう忘れなよ。今、上高が飲み物を買いに行ってくれてるから飲んだら今日はもう帰ろう?」
 そう言って陣の顔を見た、陣は納得できないように気難しい表情を浮かべていたが、やがて拗ねたようにそっぽを向いて同意した。
 「・・・・・勝手にしろ・・・ところで俺を運んだ上高ってお前の知り合いか?」
 桐生が説明しようとすると、ちょうど上高が帰ってきた。3本のジュースを手に持っている。上高はベンチの上にジュースを置いた。
 「上高、2本でよかったのに」
 桐生は自分以外の二人の分のお金しか渡していなかったのに自分のお金をだして全員分買ってきたのだろう。追加分のお金を払おうと財布を取り出すと上高は気にしないで下さいと断った。
 「いいのか上高?」
 「ええ、3ヶ月間ずっとお世話になっていたんですからこんな時ぐらいおごらせてください」
 上高は冗談でも口だけでもなく本気でそう思っていた。自衛隊のことなど右も左もわからない新隊員の時には散々お世話になった。これくらい当然のことだ。
 桐生は教え子の言葉に胸から喜びがこみ上げるものを感じ、思わず笑顔がこぼれた。
 「・・・・・そうかありがとう、いただくよ」


    5

 桐生は礼を言うとジュースを蓋を開けて陣に渡した。陣はジュースを受け取りそのまま一口すすると上高と桐生の二人を見た。
 「桐生、この上高って言ったっけ、お前が一年前に教えてた奴か?」
 「一等陸士、上高隼人です。桐生三曹には本当にお世話になりました。天宮三曹のことも神内士長から聞いています」
 神内の名がでて陣は思わず尋ねた。
 「神内のことを知っているのか?」
 「はい、神内士長は同じ中隊でさらに自分の部屋の長です。あと相馬士長も同じ中隊です」
 「・・・・神内に付き合ってるやつがいるの知ってるか?」
 上高は躊躇なく答えた。あの二人がいかに幸せな生活を送っているかを天宮三曹に教えてあげなくてはいけない。
 「・・・・・妹の天宮士長ですね、自分どころか戦教隊の人間はほぼ全員知ってるはずです」
 桐生も陣も驚いた、まさかあの二人がそれほど堂々と付き合ってるとは思わなかった。しかも有名なカップルになってるとは。上高は続けた。
 「はっきりと言いますと神内士長は天宮士長をとても大切に思っています」
 はっきりとためらいなく答えた上高に陣はなぜそう思うのかを訊ねた。
 「以前天宮士長が風邪をこじらして入院した時ですが、神内士長はずっとお見舞いに行ってました」
 「陣、神内はいい男だね」
 「訓練が長引いて、十分程しか会えない日でも神内士長は当然のように行きました。普通どうりに5時に課業が終了した時は、部屋に戻るよりも何よりも先に病室へ行きました」
 上高はそこで一旦言葉を切り二人の顔を見た。桐生は僅かに笑みをうかべながら上高を見ている。陣は無表情に上高を見ている。言ってる事が事実か判断しようとしているようだと上高は思った。
 「しかも、面会時間一杯まで彼女の側ですごしてました。天宮士長が入院中に発作を起こした時は点呼の時間に間に合わなくなるとわかっても彼女が安心できるように手を握って支えつづけてあげてたんです」
 桐生も陣もこれほど神内が天宮を慕ってくれているとは思わなかったのだった。仲のいいカップルとは思ったが、二人の関係はそれよりもずっと深いものだったのだ。
 「戦教隊では有名な話ですし、話を聞いた隊長も神内士長を誉めたそうです。まだまだ二人に関する有名な話はまだまだ沢山ありますよ」
 桐生は驚いた、有名な話ってなに、まるで二人とも戦教隊の名物コンビみたいだと思った。聞いてみたいけど陣の前では今の話だけにしておいた方が無難と思った。
 「ま、まだあるの上高?とりあえずいいよ、続きはまた別の機会にでも聞かせて」
 上高も桐生の考えを理解してその話からは離れた。ややこしくなるかもしれない事を言う必要もないだろう。
 「・・・・・そうか、ありがとな上高」
 そう言うと陣は自力でベンチから立ち上がった。そして気だるさを吹き飛ばすように思い切り目を閉じて歯を食いしばり天に向かって背を伸ばして、勢いよく脱力した。
 「今日は帰るぞ、桐生」
 「もう大丈夫なのか、陣?」
 まだ少し不安げに聞く桐生に陣は力強く言った。
 「心配するな、それにこの程度でダウンしてたら第一歩教連隊の名に泥をぬるぜ」
 その言葉を聞いて、桐生は安心したようほっと軽く息を吐いて微笑んだ。
 「そうだね、陣から元気と意地を取ったらどうなるんだろ、変態気味の男が残るだけかもなぁ」
 「・・・・・お前、俺をどういう人間だと思ってる」
 桐生は陣の視線と問いかけをさらりと背中で無視して上高を見ると礼を言った。
 「ありがとう、上高今日はすまなかったね、それじゃあね」
 「はい、桐生三曹また会いましょう」
 二人が挨拶を交わすと、陣は思い出したように上高にむかい言った。後頭部を掻く姿がどこか気恥ずかしいことを言おうとしているかのように上高には見えた。
 「神内と相馬に伝えてくれ、二人とも頑張れと言ってくれ」
 そう言うと陣はくるっと後ろを向いてさっさと歩き始めた。
 「まってよ陣、まったく・・・・・上高も訓練頑張れよ、悩み事があったらいつでも相談にのるから・・・・・じゃあね」
 桐生はそう言って陣のもとに走っていった。そして途中で思い出したように振り向くと上高に手を振った。上高は頭を軽く下げ応じ、二人の背中を見送った。


    6

 「いやー、間一髪だったねェ、隼人!」
 先ほどまで、陣達が腰をかけていたいたベンチにショートカットの髪をして浴衣に身を包んだ上高と同世代の女の子が水風船ヨーヨーを投げては戻ってくるのをキャッチしてを繰り返している。
 「・・・・・宮月ぃ天宮三曹に魔法使ったろ・・・」
 上高は後ろを向くと彼女を見ながら呆れるようにため息を吐いた。
 「はて、一体何の事でしょうか?私はなーんにも知りません」
 こ、こいつは・・・・・人が心配して言ってるのに。上高は宮月の人をからかうような言い方にはもう慣れてはいたェ、こいつの周囲への無頓着さには一言言わずにはいられなかった。
 「俺はお前を心配して言ってるんだぞ!もし誰かに知られたら大変なことになるかもしれないだろ!もし・・・・魔」
 そこで上高の声は宮月にさえぎられた。
 「隼人声がでかいって、皆見てるじゃない」
 そう言われて上高は慌てて声を静かにした。周りの人が何事かと見ている。宮月は上目遣いでじっと上高の顔を睨んでいる。
 宮月は額を右手で抑えるとため息をついた。
 「・・・・・ハァ、私は遂にばれるかと覚悟したわよ・・・・ほかならぬアンタの口でねぇ」
 「す、すまない・・・・・」
 上高は申し訳なさそうに力なくうつむくと宮月に謝った。宮月はベンチから立ち上がると笑いながら上高の肩を叩いた。
 「まあ、気にするな隼人。じゃあ私たちも天宮士長と神内士長と同じことをヤリますか?」
 「・・・・・お前ねぇ、あの二人がそんなことをするかと・・・・」
 「なに言ってんの、二十歳の若い男女がだれも居ない家で二人っきりで一晩すごして何もないワケがないでしょ・・・・多分今ごろはねぇ二人仲良く・・・」
 やましい考え丸出しで、にやにやと笑う宮月の姿に上高はまたもやため息をついた。こいつは天宮士長よりも本当に年下なのか?
 「わかったよ、じゃあ行くか宮月」
 宮月は歩きながら上高の耳の側に顔を近づけると実に意地悪な一言を言った。
 「たまには隼人も我慢してよ、いつも私より先に昇天しちゃうんだからねぇ、たまには意地をみせて欲しいネェ?」
 なんと失礼なことを言うんだ、そんな事を言われると俺は男としての自信がなくなりそうだぞ。上高は意地になって宮月に言った。
 「・・・・・言ったな宮月、お前その言葉あとで必ず後悔させてやる」
 「そういう上高こそ今の一言をけーっしてけーっして忘れないようにねぇ、とおーっても楽しみにしてるから」
 宮月は凄い邪念のこもった笑みを浮かべながら上高に返答してきた・・・・・俺なんか大変なことを言ってしまったのだろうか、上高は内心後悔したがさすがに顔には出さなかった。
 「ま、そこまで言った以上、1回で終了ということはないでしょうから」
 その時の彼の肩を叩きながら宮月の投げかけた言葉は上高にとっては悪魔の一言のようにしか思えなかった。


    あとがき


 どうも、夏祭り中篇アップしました。ちなみにここに出てきた人物は全員本編にも出てきます。
 しかし、うまく最後がまとめられませんね、特に神内と天宮の二人が去っていったところからがイカンと思います。
 後編は天宮の家に行った所から始まります。流れとしては

    風呂→酒→寝る

 大まかにはこういう流れですかね。
 それでは、失礼します。