地球帝国の興亡・番外編


    「お祭り」・後編


    1

 「お・お邪魔します」
 思わず、緊張してしまう。天宮の家に上がるのは今日が初めてだ。先に中に入った天宮が、ちょこんと正座して俺に頭を下げてくる。
 「いらっしゃいませっ、神内くん。そんな緊張しないでよう。さ、あがってよ」
 「お、おう」
 俺が靴を脱いであがると、天宮が靴を直してくれた。天宮は口笛まじりでとても楽しそうだ。
 「神内くん、ちょっとそこに座っててね。お湯張ってくるから」
 俺は、居間のイスに座って待った。そういえばさっき天宮がお湯張ってくるっていったけど・・・・・ひょっとして。
 俺の考えを肯定するかのように、居間の奥のドアのむこうから勢い良くお湯が注がれる音がした。
 こんどは天宮が足取りも軽く階段を上っていく音が聞こえる。とても気分が良さそうだ。俺は緊張してしまってしょうがない、情けないな。
 「おまたせ神内くん、準備できたよっ」
 天宮は手に青いジャージと桜色のパジャマにパスタオルを持っている。
 「お風呂もお湯張り終わったから、神内くんからお先にどうぞ」
 「い・いいのか?」
 天宮は俺にジャージとタオルを差し出すと私も用意するからとまた2階に上がっていった。・・・・・じゃあ、入らせてもらおうかな。俺は風呂場へ向かった。
 脱衣所のかごのそばの洗濯機の上に俺は着ていた服を脱いだ、風呂上りに使用済みのトランクスをまたはくのは、少し嫌だったがさすがにトランクスを貸してとまでは言えないので我慢した。
 浴室の中に入って俺はシャワーで体を流した。綺麗な浴室だな、やっぱり駐屯地の浴場とは大違いだな。イスや床も毎日洗っているからだろうカビやシミ一つない。
 ソープ類も沢山ある、俺の風呂セットのようにボディソープにリンス入りシャンプー、洗顔料の3つだけというのとは大違いだ。
 リンス類だけで3種類もある。やっぱり家族の好みで使い分けてるのかな・・・・・俺はいつも値段と量だけで決めてるのに、どうせ銘柄なんて俺には全くわからないし・・・・・なにか天宮との育ちの差を感じるな。
 俺がとりあえず体を洗おうとした時、脱衣所のドアが開く音が聞こえた。なにか受け取らなかったものでもあったかな。
 そう俺が思って、天宮に聞こうと思ったら天宮は着ている浴衣を脱ぎだした。脱いだ服をかごの中にそっと入れていく。
 「神内くん・・・・・わたしもはいるね」
 そう言うと、天宮は扉のハンドルに手をかけた。


    2

 ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は大慌てでタオルをつかんで股間を隠した。
 「・・・・・いっしょに入ってもいい、神内くん?・・・・・」
 天宮の声が少し不安そうに聞こえる。俺は驚きと期待と興奮にどきどきしながら天宮に言った。
 「あ・ああ、いいよ」
 ゆっくりとドアが開けられて、天宮がゆっくりと入ってくる。俺は思わず唾を飲み込んだ。心臓が一気に高鳴る。
 「えへへ、ごめんねわがまま言って、体洗ってあげようと思って」
 天宮はバスタオルを体に巻いている、照れてほんのり頬を染めている様子がとても可愛らしい。
 天宮はタオルにソープをつけると俺の背中をこすり始めた。決して強い力ではないがそんな事は気にもならない。天宮が俺の背中を洗ってくれているということだけで、この上ない幸せを感じる。
 「どう気持ちいい、神内くん?」
 「ああ、とてもいいよ天宮」
 天宮に体を流してもらうと俺は湯船に体を沈めた。天宮はシャワーで体をさっと流すと俺の前に入ってくる。さすがに大人が二人で入るときつい。
 そこで俺は湯船の端に体をよせると、天宮をその前に座らせて俺に寄りかかるような姿勢をとらせた。これならなんとか二人入ることができる。
 「神内くんきつくない、だいじょうぶ?」
 確かに天宮と湯船の壁に挟まれて少し窮屈だけど、そんな事はまったく気にならない。天宮の体の感触が薄いタオルごしに伝わってくる。そっと腕を天宮の腕の下から腰に回して俺に引き寄せた。
 「・・・・・大丈夫だよ、天宮」
 天宮の顔を横からそっとのぞきこむと目をつぶって気持ちよさに穏やかな呼吸をしている。
 その表情にいやがおうにも俺は興奮してきてしまい、さらに腰に回した腕に力をこめ、俺の体に引き寄せると、細い首筋に顔を近づけそっと吐息を吐きかけた。
 「うんっ・・だ・だめだよう・・じ・神内くんっ・・・・」
 ひょっとして感じているのか、気持ちいいのか?その声を聞いてるだけで俺の理性ははるか彼方に放逐されてしまいそうになる。
 俺は首筋の下までたどり着くと、今度は反対の耳たぶからまたそっと焦らすようにゆっくりと息を吹きかけていった。またもや理性をとろかすような天宮のなまめかしい喘ぎ声が浴室の中に静かに響く。
 「や・やあぁ・・・・く・くすぐったいよぅ・・・・あ・あうぅぅぅ・・・・・」
 天宮は身をよじって俺から離れようとするが、そのくらいでは俺の腕はほどけない。むしろその快楽に悶えるような反応に俺の心はさらに興奮してくる。もう自分でもこの衝動を止められそうにない。
 「やあんっ!も・もう・・・・・きゃはははははっ!もう降参っ」
 突然、天宮は笑い出しくるっと俺の方に体をむけると俺の脇の下に有無を言わさず手を突っ込んでくすぐってきた。
 「よくもさんざんやってくれたねっ、お返しだよっ、神内くん!」
 お・俺脇脇の下が急所なんだよッ!俺は天宮の激しいこすぐり攻撃に風呂のお湯を盛大に浴場の中に撒き散らした。天宮はあまりのくすぐったさにもがき苦しむ俺の姿を見ながら意地悪そうに笑っている。
 「どう?神内くん、ギブアップする?」
 「だ、誰がするかッ!
 「ふぅーん、じゃあスピードアーップ!」
 天宮は本気を出した。先ほどまでよりもさらに強烈なくすぐったさが体を襲う。俺は身悶えするあまり浴槽に後頭部を直撃し風呂のお湯を空にするかのように暴れたあげく、ついに降参した。
 「ま、参ったッ!」
 しかし、天宮はいままで俺が見た事のない、背筋に悪寒が走るような笑みを浮かべると俺の耳のそばで囁いた。
 「神内くん、それが負けたひとの言い方かなぁ・・・・・・そんなんじゃあ、やっぱりまだ・・・・おしおきが」
 脇の下でまた天宮の指がさわさわと動き始めるのを感じた俺はもう意地も完全にかなぐり捨てることになった。
 「わっわかりましたッ、もっ申し訳ありません、わっ私が悪かったです!許してくださいっ!」
 そう言うとやっと天宮は満足したのだろうか俺の脇の下から手を引き抜いてくれた。俺は力が体から抜けお湯が半分ほど減ってしまった浴槽にへたり込んだ。
 「ふふっ、神内くんのまーけっ!」
 情けない俺の姿に天宮はいつものはしゃぐような可愛い笑みを浮かべた。・・・・・でも天宮もさっきみたいに思わず背筋に冷たいものが走るような笑いもするんだ・・・・・気をつけよう・・・・・
 「・・・・・完敗です」
 「じゃあ、そろそろわたしあがるね。実はお酒があるから用意しとくね」
 天宮が浴場から出たあとに俺はそっと腰のタオルを取ってみた、そこには先ほどまでの俺の興奮の度合いを示すバロメータが見事頂点を示していた・・・・・・なあ天宮、俺一体これどうすればいいんだ?


    3

 「あっ、神内くんあがったんだね、ちょっと遅かったからのぼせちゃったのかなって思っちゃったよ」
 「久し振りに大浴場じゃなくて一人風呂だからな、思わず長湯しちやったんだ」
 ・・・・・俺は嘘をついた。まさか、下半身が静まるのを待ってたとはさすがに言えないな。
 でも実際はどうだったんだろう?天宮も気持ちよさそうに見えたし、本当に嫌がってるようには全然見えなかったんだけどなぁ・・・・・・
 「神内くん・・・・・・そんなに見つめられるとわたし・・・・・うー恥ずかしいよぅ」
 天宮はキッチンの冷蔵庫から冷やしたグラスとお酒を取り出すと俺に見つめられているのに気がついて照れていた。
 「わたしね、本当はパジャマ派なんだ、駐屯地じゃあジャージなんだけど家だとやっぱりパジャマがいいの」
 思えば駐屯地の中では基本的に皆課業外は下ジャージ上作業服だ。たしかにパジャマ姿というのは今まで見た事がなく新鮮だった。
 桜色のパジャマが一層天宮の可愛らしさを引き立てている。
 「うん、天宮に似合ってるよ。とっても可愛いよ」
 「えへっ、ありがとう、あっ神内くん冷凍庫の中から氷だしてくれないかな」
 「お安い御用だ」
 天宮が冷蔵庫から、チーズやハムといったつまみになりそうな食べ物を用意している間に俺は冷凍庫から氷をとりだして天宮のだしてくれた容器に入れた。
 あっという間に簡単な二人だけの宴席が居間のテーブルの上に完成した。なにも用意していなかった割にはなかなか豪華だ。
 レタスとトマトのサラダ、クラッカーの上にチーズをのせたもの、スナック菓子。
 主役の酒は350ml缶の桃やライチのサワーが2本ずつ。相馬だったら軽く一人で4本飲んでしまうだろうが、俺と天宮だったら充分すぎる量だ。
 天宮が入浴する前に冷やしておいてくれたグラスに氷をいれてサワーを注いで準備はできた。
 「かんぱーい!」
 「乾杯!」
 俺も天宮も一口だけ飲んだ、酒に弱い者どうしだからそんな飲み方でも全然大丈夫だ。やはり俺にはちびちびと飲む方が合っている。中隊での宴会の時だったらこうはいかないが。
 「やっぱりお風呂上りのお酒はおいしいね」
 「ああ、やっぱり飲み屋や山(演習場の意)で飲むのとは全然ちがうよな」
 「そういえば神内くん、もうどのくらい戦車の走行距離いったの?」
 「うーん、確か1150キロくらいは走ったはずだ。俺の計算があってればね」
 俺は日記に訓練時の走行距離を記録している。少しずつ数値が伸びていくのが嬉しくて、貯金していくような感覚だ。
 「もうそんなにいったんだ、すごいね・・・・・いいなあ、わたしも神内くんや神楽坂三曹みたいに90式戦車の乗員になりたいなぁ・・・・・」
 俺は天宮が神楽坂三曹のように戦闘訓練を行なっている姿を想像するがまったく似合わない。それにあの人は代々戦車乗員という家柄に加えて戦車射撃で周囲に有無を言わさぬ凄まじい点数を毎回たたき出してるから女性でも戦車乗員として勤務してるんだろう。
 「神楽坂三曹かっこいいもん」
 「確かにな、本当に凄い人だよ。俺は教えられることばかりだ」
 「・・・・・わたしも神内くんみたいに戦車操縦手になりたい」
 「きっとなれるさ、ただやっぱり大変だぞ。訓練中に神保一曹は怒鳴らないことの方が少ないし、その反面神楽坂三曹は冷たい目で睨んでくるしで、胃潰瘍になるんじゃないかとまで思ったことが何度も俺はあるな」
 確かに、乗員は颯爽としているように見えるのかもしれないがそれは一面でしかない。
 天宮の性格だと『馬鹿野郎ッ!』や『下手糞が!』しまいには『いらんッ!』といった言葉の連発には耐えられないんじゃないかと思ってしまう。
 「それでも、やっぱりなりたい」
 天宮は真剣な表情で俺の顔を見ながら答えた。
 「なら装甲車で沢山走って走行距離かせいで俺とか相馬に負けないくらい操縦できますって示せばなれるんじゃないか。神楽坂三曹の例があるんだから天宮だって戦車乗員になれるはずさ」
 そう言って俺は天宮の髪の毛を左手でかるく撫でてやった。天宮の表情にみるみるうちに笑顔が戻ってくる。
 「うんっ、わたし頑張るよ!」
 「よし!じゃあもう一度乾杯しよう、天宮の夢がかなうことを願って」
 俺たちはまた酒をグラス一杯に注ぐとお互いのグラスを軽く打ち鳴らした。


    4

 俺はまた酒を口に運び一口飲んだ。こうして天宮と二人で飲む酒はもはや俺にとっては最高の美酒だ。
 天宮を見るとまだ半分も酒が減ってないのにもう顔が赤くなってきている。本当に天宮は酒に弱いな。
 「天宮、もうすこし赤くなってきてるぞ、ほんとに弱いなぁ」
 「そういう神内くんだって顔にでてきてるよ」
 そうか、俺も人の事は言えないよな。これでも以前よりは強くなってきたと思うけどな。
 「そうか、でも俺たち本当に酒に弱いよなぁ」
 「ほんとだねっ」
 天宮も可笑しそうに笑っている。俺は天宮の笑顔を見ながら一気に半分ほど飲んだ。天宮はそれを見て負けじと酒を飲むとコップをテーブルの上に置いた。
 「う〜やっぱり神内くん強いよう・・・・」
 そう言うと突然天宮はパジャマの上着のボタンを外し始めた。中ほどまで外すと左右に上着を開いて手で仰いだ。
 「暑いよう、やっぱお酒が効いてきちゃったみたい」
 俺はグラスを口につけた状態で硬直してしまった。天宮の白い柔肌が、ちいさなふくらみを覆う白いブラジャーが俺の両目に飛び込んでくる。
 酔いと風呂上りのせいか肌の表面がしっとりと汗で濡れていてそれがすごく艶かしい。
 目をそらさなくちゃとは頭の片隅では思うものの顔が麻痺したかのように動かせない。俺はいまや完全に天宮のとりことなっていた。
 「あっ、神内くんわたしの胸みてる〜もーエッチだなぁ〜」
 普段の天宮なら直ぐに恥ずかしさのあまり胸を両手で抑えて背を向けるだろうが、今日は酔いが回ってるせいか隠すそぶりも見せてこない。むしろ面白がっているように聞こえる。
 そんなに天宮は酒を飲んだのか?グラスを見るとたしかに空になっている。けど350mlのチューハイを一本開けただけでここまで酔うものか?俺は天宮の酒の弱さを改めて実感した。
 ふと気づくと天宮が俺に体を寄せてくる、俺も天宮の体を引き寄せそっと抱きしめた。静かな二人だけの時が流れていく。だれの目も気にする必要のない空間がある。
 「・・・・・・こうやって側にいられるだけでわたしは幸せ、神内くんは・・・・・」
 「・・・・・・もちろん俺もさ」
 天宮がそっと瞳を閉じる、天宮の唇が俺を誘っているかのように思える。俺は最初にそっとその唇に触れる程度の軽い口づけをして、二回目で唇の形や柔らかさを味わうかのように長く口づけをかわした。
 まるで時が止まったような錯覚すら受け、天宮の心臓の鼓動が抱きしめる俺の腕に伝わってくるように感じさらに力をこめて天宮の体を抱きしめた。
 お互いにゆっくりと唇を離すと天宮が潤んだ瞳で俺を見つめてくる。パジャマの前がはだけ胸が呼吸に合わせてゆっくりと上下するのが見え、俺の興奮はいやがおうにも高まってくる。
 「・・・・・・神内くん、さっきみたいに首筋をふーふーして・・・・・・」
 「やっぱり嫌じゃなかったのか?」
 天宮が小さくこくんと頷くのをみて俺は再び彼女の首筋を筆でそっとなぞるように息をそっと吹きかけた。身をよじって激しく反応する天宮の姿に俺も次第に大胆になる。
 「くうううぅんんッ・・・・・・」
 酒の勢いもあって、というのは言い訳になる。俺はこのままだと自分の行動に歯止めが気かなくなりそうな予感をはっきりと感じながらも、それに逆らう気が起きなかった。
 「・・・・・どうだい、やめようか?」
 耳元でそっと囁くようにつぶやくと今度は開いた胸元の僅かな谷間に顔を近づけ、口が触れるか触れないかのぎりぎりのところで彼女のにおいを嗅ぐように息を吸い込むとまたそっと息を噴きかける。
 「・・・・・あ・あ・あうううう・・・・・」
 糸が切れたかのように天宮の体から力が抜け、俺はそっと天宮の体を床に横たえるとその上にゆっくりと覆い被さった。
 目の前で彼女の動きに合わせて上下する胸に顔をうずめて思う存分その感触を味わい、喘ぐ声を聞きたい、心の奥底から次々と抑えていた欲望がわき起こってくる。
 天宮の純白のブラジャーに手を伸ばした時いきなり玄関から元気のいい声が聞こえた。
 「ただいまーっ、かえったよーっ」
 一瞬で俺たちの興奮とムードははるか彼方に吹っ飛んだ。


    5

 「お、お帰り美紀」
 「や、やあ、お邪魔してます。美紀ちゃん」
 俺たちはさっきまで酒を飲んでいた振りをしているが、美紀ちゃんの目はなぜか冷ややかだ。まるで以前、天宮三曹が新教時代の月曜日の朝に俺や相馬の服装点検をしている時の目にそっくりだった。
 「姉さん・・・・・ボタン掛け違えてるよ」
 「ご、ごめんなさい」
 天宮、いや沙紀がいそいでパジャマのボタンをかけなおすのを見ながら美紀ちゃんは意地悪極まりない一言をさらっと言う。
 「まるで、私が帰ってきたから急いでボタンを閉めなおしたみたいですね、姉さん」
 「そ、そんなことないよ、美紀ったら」
 ・・・・・こ、怖い。間違いなく美紀ちゃんは俺たちが何をここでしようとしていたかわかってる。
 「神内さん」
 「はい?」
 俺は思わずとぼけた返事を返してしまう。これじゃあ、俺たちとどちらが年上なのかわからない。美紀ちゃんは俺の下半身をじっと見ている。・・・・・ま、まさか。
 「お酒を飲んでいただけでどうしてズボンの前がそんなに不自然に膨らんでるんですか?」
 慌てて股間を脱いであったジャージの上着で隠すと引きつった笑いを彼女に向けた。
 「・・・・・へえ、男の人が酒を飲むとそんな風になるとは始めて知りましたよ。こんど兄さんにも話してみようかな」
 俺は全身の血の気が一気に引く思いがした。天宮三曹がこのことを知ったら俺はもう二度と沙紀には会えなくなるかもしれない。
 いや、五体満足ですまないかもしれない。半殺しですめば御の字だろうか・・・・・・
 「そ、それだけは勘弁して下さい・・・・・こ、殺されてしまいます」
 「み、美紀、どうか兄さんには言わないで。神内くんと会えなくなったら、わたし・・・・・もう」
 俺はもう恥も外聞も捨てて17才の少女に向かって額を床にすりつけて土下座までしてこの事を許してもらえるように頼んだ。
 沙紀も自分の兄があまり俺と付き合ってることを喜んでいないのを知っているのだろう。妹に向ける目に涙が浮かんできている。
 「・・・・・・冗談だよ、もー二人とも、ほんとにお熱いんだからぁ、ただでさえ暑い夜がさらに気温上昇しちゃうよ、超熱帯夜だよっ!」
 彼女はおおげさに浴衣に挟んでいた団扇で顔を扇いだ。さっきまでの心の奥底を覗き込むような目ではなく、女子高生らしい明るい輝くようないつもの目に戻っている。
 「・・・・・もう、美紀ったら。そういえば今日は神保さんの家に泊まるんじゃなかったっけ?」
 「うーん、霙(みぞれ)がね、体調が悪いっていうからお開きにして家に帰ってきたの。そしたら『その時衝撃の事態がッ!』って二人がなってるのを見ちゃったワケ」
 そこまで言うと彼女は軽くため息をついて俺と沙紀を見ると、さらに深くため息を吐いた。呆れてるのだろうか。
 「二人とも大人なんだからダメとは言いませんから、そういうことは自室か外でやってください。神内さんケダモノみたいにならないで下さい」
 「以後気をつけます・・・・・」
 俺は言い返す言葉もなく、力なく謝ることしかできない。酔いがさめてみると正直、まさにケダモノ同然になっていた自分自身が恥ずかしい。
 沙紀も同じく顔を赤らめている。やはり酒の勢いとはいえあそこまで乱れてしまったことが俺と同じように恥ずかしくてしょうがないのだろう。
 「まっ、二人の関係がそこまで進んだと喜ぶべきかな。じゃあ二人とも宴会の続きをしましょうか」
 彼女はそう言うと冷蔵庫から飲み物の缶をとりだしてきた。
 「だ、ダメだよっ、美紀は未成年なんだからお酒飲んじゃ」
 沙紀はやはり姉らしく妹に注意する。
 「大丈夫わかってますって、私はジュースにするから。それに飢えた猛獣の監視もしなくちゃならないから」
 ・・・・・飢えた猛獣かよ俺は・・・・・きつい一言だなぁ。そう思ってると彼女は俺にウインクしてきた。
 「じゃあ、私が音頭とるから、グラスを持ってね」
 俺の隣に沙紀と美紀ちゃんの二人が座ってる。両手に花とはこういう状況なんだろうな。俺はふとそんな事を思った。
 「じゃあ、えーと・・・・・神内さんと姉さんの二人の仲にかんぱーい!」
 それから俺たち三人は夜がふけるまで楽しく笑いながら飲みつづけた。


    6

 「う〜美紀ぃ神内く〜ん、わたしもう飲めないよう〜」
 沙紀はもう自分で歩く事もおぼつかないようで、うつぶせになって床の上に寝ころがっている。
 「しょうがないな。まってろ今ベットに連れてくからな」
 俺は沙紀を背中に乗せて二階へむかって歩き出した。後ろから美紀ちゃんが沙紀の背中を支えてくれている。
 「すみません、神内さん迷惑をかけてしまって」
 「いや、いいよこれくらいお安いご用さ」
 二階にあがると美紀ちゃんが部屋のドアを開けてくれた。俺はベットの端に腰掛けて沙紀の体を横たえ布団をかけてあげた。
 「じゃあ、私は下を片付けてきます」
 「あっ、俺も手伝うよ」
 「いいんですよ、姉さんのそばにいてあげて下さい。それではおやすみなさい」
 美紀ちゃんはそう言うと部屋の明かりを消して下へ降りていった。
 「神内くん、いっしょに寝よ・・・・・」
 「いいのか・・・・・・」
 「・・・・・うん」
 沙紀は小さくこくんと頷いた。
 俺は静かに沙紀の布団の中に潜り込んだ、沙紀の暖かさが体に伝わってくる。
 「俺調子にのっちゃって、さっきはごめんな・・・・・・」
 俺は数時間前の自分の狂態に今さらながら沙紀へ申しわけなく思った。確かに俺のせいだけじゃないのかもしれないが、男の俺がそこは堪えるべきだったろう。
 「なんであやまるの神内くん・・・・・わたしは全然いやじゃなかったよ。嬉しかったよ・・・・・」
 沙紀が俺の手をそっと握ってやさしい言葉をかけてくれる。その手を握り返すと照れたように微笑んで俺を見つめている。
 「沙紀・・・・・」
 再び沙紀の上に覆い被さろうとすると彼女はゆっくりと首を横にふった。眠いのだろうか、まぶたが半分閉じている。
 「・・・・・ダメだよ神内くん、今日はもう寝ようね・・・・・」
 ・・・・・・さすがにあんな形で中断したらさすがにな、それにいくら美紀ちゃんは気にしないといっても、俺たちは気になるよな。
 「・・・・・ああ、おやすみ」
 「まって・・・・・神内くん」
 ん、俺は沙紀に服の裾を引っ張られてまた眠ろうと閉じた目を開いた。沙紀がこちらを見て何か言いたそうにしている。
 「えっと・・・・・お休み前の・・・・してほしいよぅ・・・・・」
 沙紀は恥ずかしくてはっきりとは言えなかったが、俺には彼女が言いたいがはっきりとわかった。でもこれが本当の沙紀の姿だろう。
 「・・・・・いいよ」
 俺はそっと目を閉じている沙紀の唇にやさしく口づけをした。常夜灯の僅かな明かりでも沙紀の顔がほんのりと染まっているのが見える。
 「おやすみ、神内くん・・・・・明日もいっしょにどこかへ行こうね・・・・・」
 「そうだな、じゃあおやすみ・・・・・」
 天宮が俺に子供が親にするように俺の体にしがみついてくる。
 俺たちはお互いのぬくもりを体に感じながら深い眠りの中に落ちていった。
 どうか明日もよい一日でありますように・・・・・眠りに落ちる直前に俺は祈った。


    あとがき

 神内暴走編(笑)
 今までで一番長かったです。でも書いてて妙に恥ずかしくなってきました。でもやたら楽しかったですね。
 妹の天宮美紀が登場しました。いずれ本編でも登場します。ちなみに設定では天宮家は神保家の近所で美紀と神保の娘の霙は幼馴染となっています
 あと神内と天宮沙紀が戦車の走行距離の話をしていますが、あの走行距離というのは操縦手としての経験を表す一つのパラメータ的なものでもあります。多ければ多いほどそれだけ経験を積んでいるということですから。
 実際には何万キロと言う数値になっている人もいます。そう見ると神内はまだまだですね。でもかなり偉そうに天宮に言ってますが(笑)


 しばらくは本編に集中するでしょう。でもクリスマス編とかも書こうかなと思ったりもしますが。
 それでは、失礼します。