地球帝国の興亡・番外編


    「お見舞い」


    1

 「中隊長に終礼の挨さーつ、敬礼っ!」
 2中隊の先任である三浦曹長の号令と同時に各小隊長達が敬礼を行なった、そして小隊長の彼らの号令と同時に各小隊の隊員達は一斉に中隊長に頭(かしら)をむけ挙手の敬礼を行なった。
 その電子機器により制御されているロボットのようにも見える統制された一糸乱れぬ動きは、彼らの練度の高さを端的に表しているかのようだった。
 「ご苦労さん!」
 「オッス!」
 こうして彼らの一日は終わる。


 「さて・・・・」
 明日の訓練を確認した神内士長はぼそりとつぶやき、傍にいた上高一士へ言った。
 「上高、悪いが今日も飯風呂は他の部屋と行ってくれ」
 「わかりました、でも最近、神内士長はいつも夕方どこかへ行きますね?」
 神内は内心どきっとしながら上高に答えた。
 「いや、別にたいした事じゃないよ」
 そこで先任が割り込んできた。
 「そうとも上高!まったくたいした事じゃねぇさ、なあ神内!毎日毎日入院中の本管の天宮士長の見舞いに行ってるだけのことだよなあ!」
 にやにやとやたら楽しそうに大声でふたりに言ったのだった。
 「い、いや先任!、自分は同期として毎日見舞いに行っているだけですよ!、何も、べ、別に他意は!」
 神内は大慌てで弁解したけれども『いや、誰が見ても他意はありまくりだろう・・・』
 三浦曹長、上高一士のみならず、その場にいる誰もがそうつっこみたかったところだったのが。
 「そ、それではお疲れ様でした!、し、失礼します!」当の神内は言うが早いか、あっという間に隊舎の外へ駆け出していってしまった。
 隊舎前を突撃するかのごとき勢いで爆走していく直上の上官の姿をみながら、上高一士は、もしこれを絵で表現するのならば砂煙は必須だなと思った。
 「・・・まったく幸せな奴だ・・・」
 三浦曹長は駆け抜けていく神内を見送りながらぽつりとつぶやいた。


    2

 PX(売店)まで全力疾走を行なった神内はそこで息を整えながら『いや、先任は鋭いな、もしかしてばれてしまったのかも・・・』と思った。
 神内は先任のみならず、その場にいた全員にばれてしまっているということにはまったく気が付いていないようだった。
 手ぶらで行くのもなんだし・・・神内は天宮の見舞いの品を買うためPXに入っていった。
 5分後、かごの中には、カリカリ梅、ミルクセーキ(1.5l)、ナタデココヨーグルト・・・・そうだ、あと本でも買っていってあげようと考えた。
 本棚の新刊コーナーに、天宮が大喜びしそうな本があった。タイトルは、『異形大全集・スクリーンを闊歩する異形のモノたち』とある・・・
 むう、なんかもの凄いタイトルだ、普通の女の子はこういった本を読むものなのだろうか?趣味は人それぞれというのは分かってはいるんだけれども・・・
 ここまで天宮が熱狂できる理由はなんなんだろうか?・・・そんなことを考えながら神内はレジで支払いをすませた。
 PXの外で声をかけられた。
 「あら神内士長じゃない」
 声のする方を振り向くと焔(ほむら)3曹がいた。
 「あっ、焔3曹お疲れ様です」 上官の上に他中隊の人だけど顔見知りの人間なので、気軽に話せる人だった。
 彼女は俺の姿と手に持ったビニール袋を見ると、くすりと笑いながら言った。
 「迷彩服に半長靴のままってことは、部屋にも帰らず可愛い彼女ところへお見舞いにいくところね」
 「は、はいそのとうりです・・・」
 彼女は微笑しながら神内に尋ねた。
 「お見舞いの品は何?」
 その時神内にはビニール袋の中身を見た彼女が一瞬硬直したように思えた。
 「ま、まあ、彼女の趣味は知ってはいるんだけれどね・・・・」
 彼女の笑いが硬直しているかのように感じたのは俺の気のせいではないような気がする。
 そうだ、そろそろ行かないと。
 「焔3曹、自分そろそろ行きます」
 そう言って彼女に背中を向けて病院へ歩こうとしたところ呼び止められた。
 「ちょっと待って、神内士長」
 彼女はなにかひっかかることがあるような顔をして言った。
 「彼女、喘息を患っているのは知ってるわよね?実は一昨日の夜に発作をおこしてしまったのよ・・・・」
 「そ、そんなだって昨日行った時は、あいつ熱も下がったし、もうすぐ退院できそうって言ってたんですよ!そんな事ただの一言も・・・なんで・・・」
 そこまで言ってようやく俺は気が付いた。俺に心配をかけたくなかったからだ、発作が起きたと俺が知ったら迷惑をかけると思ったんだ。
 ・・・そういえば昨日、話している時もたまに咳きをしていたじゃないか、あいつは熱のせいと言っていた、なぜ気づいてやれなかったのか・・・
 「神内士長、そんなそんな険しい顔しないで、そんな怖い顔でいったら彼女泣いちゃうかもよ?」
 そう言われて俺は自分が今どんな表情しているかに気がついた。
 「なにも気にすることはないわ、君はいつものように彼女のそばにいてあげればいいの、彼女は君がそばにいてくれることがなによりも嬉しいはずだから・・・」
 彼女は静かにそう言った。
 「そうなんでしょうか・・・分かりました!」
 神内の答えを聞くと彼女は笑顔で笑い答えた。
 「分かればよろしい!、じゃあ笑顔で彼女のもとにいってあげなさい」
 「焔3曹ありがとうございます、それでは失礼します!」
 俺は焔3曹に敬礼をすると天宮の待つ病室へと駆け出した。


    3

 俺は、静かにドアをノックした。
 「はい」
 天宮の声が聞こえた。
 「神内だけど入るよ?」
 部屋の中では天宮が体を起こし俺の方を見ていた。
 「やっぱり神内君だった。」
 天宮はうれしそうにそう言った。
 「実は、さっき神内君がここへ向かっているような感じがしたの、そしたらやっぱり神内君だった」
 天宮は本当に良く笑う、ちょっとでも楽しいことあったりすると子供のように無邪気に笑うのだ、そんな天宮の姿を見ていると俺も幸せな気分になってくる。
 「実は暇だろうと思って、天宮が好きそうな本を買ってきたんだ、その名も『異形大全集』だ!どうだ面白そうだろう?」
 天宮は、子供のように笑顔をうかべ喜んだ。
 「わーい!、神内君ありがとう!あとでゆっくり読むねっ!」
 「そんなに喜んでくれるとは、買ってよかったよ」
 子供のように喜ぶ天宮の姿に俺は満足した。
 「そうだ!なにか神内君にお礼をしなくちゃ、うーん、なにがいいかなぁ?」
 天宮はわざとらしく腕組みをしながらうーん、うーんと実に可愛らしい唸り声をあげながら考えていた。
 「そうだっ!」
 右手で左手をポンと叩くと俺に背中をむけて私のそばにすわってと言った。
 『?』と思いながらも俺は言われたとおり、天宮に背をむけすわった。
 「じゃあ、目をつぶって・・・」
 俺は言われたとおりに目をつぶった。
 「えへへ〜、じゃあいくよ神内君・・・」
 なにか天宮は企んでいるかのようなことを言った。『なんだ、この感覚は!』、背後から、天宮の暖かい吐息が近づいてくるのを感じる。、そして天宮は衝撃的な発言をした。
 「えへへ〜、神内君、最近結構たまってるんでしょぅ〜?」
 
 
    4

 ドックン!今、俺の心臓がものすごい音をたてた、な、なにを言うんだよ!あ、天宮!、そりゃ最近溜まってると言われれば溜まってるけど・・・
 「な、なにを言ってるんだ、そ、そ、そんなわけないだろ・・・」
 俺の顔は今完熟トマトのように真っ赤になっているに違いない。
 「ごまかしたってわかりますよーだ、私が今たまったものをスッキリさせてあげるからねー、とても気持ちいいよ〜」
 まるで子悪魔のような口調で天宮は俺に言ってくる。
 ドグォンドグォン!今俺の心臓は120mm砲の発砲音のような音をだしている。やばい、マジでやばすぎるって!今にも本能が理性を駆逐完了してしまいそうだ。
 ・・・まさか、まさか・・・二人の初体験は病院のベットで・・・それもドラマチックで良いかもしれない。
 ハッ!なにを考えているんだ、俺は!冷静になれ、冷静になるんだ・・・残り少ない理性を総動員するものの、天宮はとどめとばかりに最後の一言を言い放った。
 「神内君、じゃあいくよ・・・せーのっ!」
 ちょ・・・ちょっと待ってくれ!、そんな事されたらお・俺の最後のり、理性がぁぁ!


    5
 
 『もみぃ』
 へっ?こ、これは・・・もしかして・・・もみ、もみ、もみ、天宮の小さな手が俺の肩をやさしく揉みしだいている。
 「ほらぁ?やっぱりこんなに肩がこってるよ、疲れがたまっている証拠だよー今、すっきりさせてあげるからねー」
 天宮はにこにこと楽しそうに言った。
 その声には俺をだまそうとしたような感じはどこにもなかった・・・俺は苦笑した。勝手に一人で妄想を膨らませて暴走する寸前にまでいってしまったんだ。大馬鹿だな俺は・・・
 もみ、もみ、もみ、天宮は鼻歌まじりで楽しそうに俺の肩をもんでくれている。
 「どう?気持ちいい?」
 天宮が聞いてくる。
 「ああ、とてもいい気持ちだよ、ありがとう」
 そう、最近いつも120mm砲弾を担いでいたため、正直肩がこっていたのだ、本当は腰もだけれども。
 「えへへ〜どうもいたしまして」
 天宮もやはり嬉しそうに言う。
 その後、俺達はとりとめもない話を続けた、今日の訓練のこと、怪獣の話、病院の話・・・俺と天宮にとってはとても幸せな時間だった。
 「あっ、もう8時だね・・・」
 天宮が俺に言った、確かにもう遅いな、そろそろ帰らないと、半長靴も磨かなくてはならないし・・・
 正直、もっと二人で話をしたいところだったが、やるべきことはちゃんとやらねばならない、それに周囲の人の目もある。
 「じゃあ、そろそろ帰るよ」
 天宮は俺を上目づかいでみながら言った。 「神内君、もう帰っちゃうんだね・・・」
 ・・・頼むからそんな表情でそんな事言わないでくれ・・・帰りづらくなるから・・・
 「さっき話した映画、今度観にいこうよ、きっとおもしろいよ〜」
 天宮が元気よく言った。
 「ああ、もちろんだとも、早く元気になって一緒に観にいこうな」
 俺も笑顔で答えた。
 「じゃあ、指きりげんましようよ!、指をだして!」
 天宮の提案に対して、俺はこの年になって指きりげんまするのかとも思ったが、急かされるままに天宮の細く繊細な指に俺の指をそっとからませた。
 力を入れたら簡単に折れてしまいそうな天宮の指・・・天宮は少し顔を赤らめていた、やはり少し照れているのだろう、俺はその姿をとても可愛らしく思った。もっとも俺はもっと赤くなっているに違いないだろうが・・・
 「じゃあいくよ」
 「おう」
 「せーのっ、指きりげんま嘘ついたら、針千本のーます、指きった!えへへ、神内君ちゃんと約束守ってね?」
 ちょっと照れたように天宮は言う。
 「ああ、針千本も飲みたくはないからな」
 俺は笑いながら言った。
 「うん、約束やぶったら怖いよ〜」
 天宮もおどけながら言った。
 俺はドアを開けながら言った。
 「じゃあ、天宮おやすみ」
 「おやすみ、明日の訓練、がんばってね」
 天宮も俺に言ってくれた。静かにドアを閉め俺は廊下に出た。その時部屋の中から咳き込むような音が聞こえた、その時になって俺はようやく思い出した。
 焔3曹が『喘息の発作がでたのよ・・・』と言った事を俺は忘れていた。ゴホンと咳き込む声が部屋の中からまた聞こえてきた。天宮!俺は病室に駆け込んだ。
 
 
    6

 「天宮、大丈夫か!」
 天宮は苦しそうに咳き込んでいた、ついさっきまではあれほど元気だったのに、今は口をおさえて咳こんでいる。
 「じ、神内君?」
 えほっ、えほっと咳をしながら天宮は俺の方を向いた。
 「ど、どうしたの忘れもの?」
 俺は少しでも楽になるように天宮の背中をさすりながら左腕で体をささえてあげた、発作が起きた時には横になっているよりも、体を起こしているほうが呼吸が楽だと以前、天宮から聞いたことがある。
 多分、俺がきた時体を起こしていたのはその方が呼吸が楽だったからだろう・・・気がついてやれなくてごめんな・・・俺は、天宮の背中をさすりつづけた。
 10分ほどたっただろうか、喘息もちではない俺には分からないが、そんな酷い発作ではなかったのだろう。呼吸も穏やかになったみたいだった。
 「ありがとう・・・神内君・・・」
 天宮は静かに俺に言った。
 「なに、こんな事ならいくらでもしていてあげるさ、天宮になにかあったら俺は、千里の道いや地雷原だろうが突っ切って駆けつけるから」
 そう言って俺は天宮の顔を見てぎょっとした、涙が瞳に浮かんでいた。
 「どうした!そんなに苦しいのか」
 少しの間をおいて天宮は言った。
 「ううん、ちがうよ神内君、うれしいの」
 「へっ?」
 予想しなかった答えに俺は思わず間の抜けた返事をしてしまった。
 天宮が俺の左手をやさしく両手で包み込んだ。そして静かに話し出した。
 「発作をおこしている時って一人きりのことが多いいの・・・そんな時、だれもそばにいないことが、さみしくて、かなしくて、つらくて・・・」
 「天宮・・・」
 俺は喘息というものがそんなにも辛いものだとは思わなかった。
 「でもね、今はこうして神内君がそばにいてくれる、だからつらくないよ、さみしくないよ、かなしくないよ。だって神内君のぬくもりがつたわってくるから・・・」
 俺は天宮をそっとだきしめた、天宮のことが愛しくて、愛しくて、たまらなかった。
 「もう、今日はお休み、天宮が眠るまでこうしてそばにいてあげるから・・・ゆっくりお休み・・・」
 「うん、ありがとう、神内君・・・」
 天宮は俺の顔をみてにこりと微笑みながらそう言いうと静かに眼を閉じた。
 10分後、すやすやと安らかな寝息をたてている天宮をそっとベットに横たえると俺は静かに部屋を後にした。
 
 
    7

 「で神内、ドラマチックな言い訳はそれまでか?」
 ・・・点呼の時間を完璧に忘れていた・・・しかも当直は鬼の先任だ・・・
 「はい・・・」
 俺は力なく答えた。
 「まあ仕方がないな、だが点呼に遅れたことは事実だ、神内!その場に腕立て伏せの姿勢をとれ!」
 俺は覚悟をきめ腕立ての姿勢をとった、畜生!こうなったら100回でも1000回でもやってやる。これもいい筋トレだ!半ばヤケクソ気味にそう考えた。
 「よし!じゃあ10回だ、さっさとやれ!」
 へ?、俺は先任に言われるがまま一気に腕立てを10回行なった。
 「その場に立て!」
 「1・2!」
 おれは素早く立ち上がり不動の姿勢をとって次の言葉を待った。
 「以上だ、次からは気をつけろよ!」
 そう言うと先任は俺をのこし去っていった、あの厳しい先任が・・・予想外のことに俺は呆けてしまった。
 「神内士長、先任もそこまで鬼じゃないってことですよ、さ部屋に入りましょう」
 俺のそばに来ていた上高一士は去っていく先任の背中を見送りながらそうつぶやいた。
 情けないことに俺はふたりの関係が、周囲の人間すべてに当然のように知られているという事をこの時になってようやく悟ったのだった・・・


    「お見舞い」 終


    あとがき

 本編の地球帝国の興亡ではシリアスな展開が増えると思います、番外編ではこのお話のように彼らの平穏な日常生活を書こうと思います、いやこういう純真で幸せなカップルが存在してもいいんじゃないでしょうか。
 ちなみに神内と天宮は主役級の扱いなので、色んな話にでてくることになります。