二日目

共同墓地は意外に遠く、着いたのは次の日、太陽が随分高くなった頃だった。

それまでに野ネズミと木の実で朝ご飯にしたのだけど、ヂラーチもカラカラも何も食べなかった。

もうそろそろ昼だというのに、墓地は薄暗く、気味が悪かった。

ぼくらが受付のムウマに骨を埋めたいのだと言うと、彼女は案内してくれると言った。

「全員、ご遺族の方ですか?」

うう、なんだか彼女の笑顔も気味悪い。

「いえ、僕だけです」

カラカラがそう言うと、ムウマはニヤニヤ笑いながら

「それは残念ですね。ご遺族の方しかご案内できないことになっております」

と言った。

するとヂラーチもにやりと笑って答える。

「ああ、結構だ。そいつと俺様らとは何の関係も無い。」

ぼくは彼に向かってしかめ面をしてみせた。

それからカラカラには笑顔を作って言った。

「ここでお別れだ。元気でね」

カラカラは悲しそうな顔をしていたけれど、二度と涙は見せなかった。

「うん。短い間だったけど、ありがとう」

とたんに、カラカラの体の輪郭がぼやけて淡く光りだした。

ムウマは未だにニヤニヤしながら、カラカラの魂とガラガラの骨を案内していった。

「彼ももう、死んでいたんだね。

 …これからどうする?ぼく、あまりここにいたくないんだけど」

「そうか?お前の母親もいるかもしれねェぞ。」

「ヂラーチ!」

冗談じゃない!

だがヂラーチはやれやれと言った様子だ。

もしかしてぼくはからかわれたのか?

「これからどうするなんて、この星は俺様は千年ぶりだぜ。知るかよ。

 確かシ=オンの共同墓地にはツヴァイクがいたはずだ。あいつに聞いてみよう。」

「誰、それ?ドイツ人?」

「いや、ツヴァイクは仮名だ。

 名付けたのは確か、当時の同居者のゲンガーじゃなかったかと…いた、あいつだ。」

ぼくは歩みを止めてヂラーチの視線の先を追った。

そこにいたのは――



「みみみ、ミュウツー!?」

紫がかった白。

すらりとしているけれど素晴らしく均衡の取れた体。

彼(彼もまた性別は無いだろうが、便宜上)は何か、不思議な模様の入った白い陶器を持っていた。

「あれ、ヂラーチ?久しぶりィー元気だった?」

なんだかミュウツーにしては親しげだ。

と言うより妙に明るい。

…墓場なのに。

「何だ、ツヴァイク、まだラーメンなんか食ってやがんのか。

 とっくに(すた)れてんだろ?」

「そうなんだよ、だから自分で作ってんだ。俺もうプロだぜぇ。

 そっちは?」

ミュウツーがいきなりこっちを向いたので、ぼくは飛び上がってしまった。

「は、はい、ぼくは、」

「こいつは見た通りただのヒトカゲだ。

 とりあえず一緒に旅をしてる。」

「そ、そうなんです。ぼくのお母さんを探してるんです。

 でも、手がかりが全然無くて…何かご存知ありませんか?」

すると彼は「ふーん」とか「えーと」とか言いながら、

(ぼくが思っていたより)大きい目を自分の記憶と思考とに向けた。

それからそれをぼくの方に向け、

「じゃ、火竜の谷(リザフィック・バレー)に行ってみたらどうだ?」

と言った。

「リザ…?」

「そっか、そりゃ古い呼び方だったな。

 今はハン・イギスと呼ばれてるとこだ。」

ハン・イギスなら聞いたことがあった。

炎ポケモン、特にリザードンが多く居る修行の場所だ。

なるほど、あそこならリザードンであるお母さんの事が何か分かるかもしれない。

「そうか、行ってみることにします。ありがとうございました!」

ツヴァイクさんはにっこり笑って(先ほどのムウマのに比べればなんと気持ちの良い笑みであることか!)

「ああ、気を付けろよ。」

と言った。

その時ぼくはそれを道中気を付けろ、という単なる社交礼司だとしか思っていなかった。

それを今更悔やみなどしないけれど。




ぼくがツヴァイクさんと話し終わった頃には、ヂラーチはどこかに行ってしまっていた。

集中力が無くてじっとしていられないと言うより、飽きるのが早いらしい。

彼を探すと、誰かの墓を足で突付いていた。

ぼくが止めろよと言うと、彼は嫌味だとか皮肉だとかいうことをぶつぶつと言っていた。

「ヂラーチ、ハン・イギスに行こう!

 ちょっと遠いけど、何か見つかるよ」

「お前、いっつも極度のプラス思考なのな。『空元気』って知ってるか?」

「え、特殊状態で強くなるってやつ?」

「技の名前じゃねェ…。」

ヂラーチはなんだか機嫌が悪い。

さっきの古びた、というかほとんど朽ちたあの墓に何かあるのだろうか。

「でも、マイナス思考よりは明るいこと考えた方が気分が良くない?」

「…まあな。」

そう言うとヂラーチは薄笑いを口に浮かべた。

ぼくは息が詰まった。

喜怒哀楽、どれにも当てはまらない不可思議な笑みで、何を考えているのか、

いや何で笑ったかさえ何が何も何に?

ほんの一瞬の微笑だったけれど、ぼくの息は詰まってしまった。




共同墓地を出ると、随分時間が経っていたようで辺りは真っ暗だった。

気の急いていたぼくは、それでもハン・イギスに向かって長いこと歩いた。

(何しろ月明かり以外にも灯りはあるのだから)

それからヂラーチが程よい洞窟を見つけたのでそこで寝ることにした。

ツヴァイクさんから貰った糸豆のような「らあめん」とやらを食べてみる。

陶器は無かったので、凹んだ岩に水をためてらあめんを入れ、火であぶった。

糸豆と違って伸びる伸びる。

味も全然違った。

はっきり言ってぼくの口には合わなかったけれど、ミュウツーが食べるものはそれだけ高尚だと言うことだろう。

ヂラーチは「インスタントじゃなくても嫌いだ。」と言って食べなかった。

…いんすてんとって何だろう。

口直しにイモムシを数匹食べて、その日は眠ることにした――。


落下までに去る