五日目

小道を抜けたところ、小さな洞穴で朝を迎えたぼくらは、その穴の奥に小さな抜け道があることに気が付いた。

太陽が昇る直前、ぼくらはそこを通り、木々に囲まれた小さな草原を見つけた。

そこには小さな打ち捨てられた、しかし荘厳な、昇ったばかりの朝日に静かに照らされる神殿があった。

柱は面影さえ残さず崩れ落ち、屋根もぼろぼろと落ちて転がり、玉石の間には朝露に塗れた背の高い雑草が生えていたけれど、

象牙色の神殿はあくまで神聖だった。

穴を通るとき、ぼくはイバラで体を随分傷つけたけれど、既にそんな痛みなど気にもならなくなっていた。

ヂラーチがゆっくり、まさにゆっくり神殿に近づいていった。

彼は浮いていた。

本当にゆっくりだったので、彼が崩れた、白に近い象牙色の真上に着いた頃には

朝日は充分暖かさを感じさせるほどになっていた。

その神殿の様子は何物にも例えられなかったが、どこかヂラーチのあの静かな笑みに似ていた。

だがここにはあの完全なる無表情の笑顔には無い何かがあった。

それは歴史に潜む神話、掘られた木の根で老婆が語る口伝承の真実だった。

ここはヂラーチ、否ジラーチを(まつ)った神殿ではない。

ヂラーチは神殿の上に浮かび、空を――空の向こうを見上げていた。

朝の澄んだ日差しが彼の星のごとくに堅くつややかな肌に反射して光っていた。

神殿はデザインだけを見ればいたってシンプルで、技巧を凝らした飾り物なんてどこにも見られなかったけれど、

そこには形に見えない大きなものがあった。

古代のポケモンたち、また古代に滅びた他の者たち(だがぼくはなぜそんなの者の存在を知っているのだろう?)が

ここで信仰を誓ったのだろう。

だがここは神のための家では無い。

なぜならヂラーチの笑みは神では無いからだ。

ここは一人の英雄のための家だ。

そしてこの、<名声>が微笑んだ家と、その英雄を偲ぶヂラーチの気高さにぼくはどうしようもなく

泣き出したい衝動に駆られた。

「イ フエェリ ヨゥル マェモルユ。イ リォカ オヌリュ ヨゥエ。」

それがヂラーチの出した声だと気付くのに少しかかった。

それは声と言うよりのようだった。

それは呪文のような言葉だったけれど、実際聞いている方にはただの――そうだ、ただの独り言に聞こえた。



ぼくは神殿とジラーチの神秘を目の当たりにした。



ふと、ヂラーチがこちらを向いた。

彼は、ああ彼はあの笑みを浮かべていた。

ぼくはもう耐えられなくて、声も立てずにぼろぼろ泣いた。





それからぼくらは一言も口を聞かなかった。

日が沈んでからようやく、ぼくは空腹を感じ出した。

狩りも採取もする気は無かったので近くの雑草を口に含んだ。

筋張っている上にちくちくして痛い。

ぼくは思わず吐き出した。

ヂラーチは何も食べなかった。

そう言えば、森で出会ったあの日から彼は何も食べてはいない。

彼は夜空の星達を見ていた。

己の遠い――いや彼にとってはごく近い――親戚達を見ていた。



「…あれはライラリルオンの場所だ。」

真夜中さえ過ぎ、未だに星達を見ながらヂラーチがぽつりと言った。

どれと聞く必要は無かった。

「ライラリルオン、って?」

「<尾巻(おま)き>、だ。」


それからそのまま寝た。


そのまま寝た。


泣き笑いと返る