昨夜は眠らなかった。
僕は狂ったように果物を食べ水を飲み、小動物を狩っては食べた。
ヂラーチはずっと僕を見ていた。
もう空を見てはいなかった。
朝日が昇った時も、僕はがばがばと水を飲んでいた。
僕はヂラーチを引き止めなどしなかったけれど、僕は生きるつもりでいた。
たった十世紀だ、とヂラーチは笑う。
そうだ、たった10世紀だ。
古くは竜も不死の命を持っていたという。
僕は生きるつもりだ。
今日の朝日は不思議に澄んでいた。
がさりという音を聞きつけて、僕は顔を上げた。
野ネズミのようだ。
体は小さいが電撃を受けたら厄介なので、僕は慎重に身を構えた。
と、
風が止んだ。
青い空、白い雲、澄んだ空気、
耳が痛いほどに。
ふいに、
目の前が真っ白になった。
一瞬、自分が気絶でもしたのかと思ったがそうではなくて、何か大きな光のようなものが落ちてきたようだった。
僕はそれに非常に近かったので気付きさえしなかったけれど、
それは耳障りな音を伴っていた。
ピチューはいなくなっていた。
ヂラーチはニヤニヤと、まだ僕を見ながら千年彗星に乗り込んだ、
ガクリ
僕の爪はヂラーチと出合った頃よりずっと大きくなっていたから、咄嗟に淵を掴むことが出来た。
が、自分の足元にあるはずの無いものがあるのが分かった。
と言うより、あるはずのものが突然無くなったのだ。
下など見なくてもすぐに分かった、そこに残っているのは奈落の暗闇だけだ。
だが――だが、僕に向かってぱっくりと口を開けているその崖は、
身の毛もよだつほどの深さ(何しろ実在しない崖なのだから底そのものが無いのだ)にもかかわらず、
僕の身の毛はよだちなどしなかった。
例えあの闇に落ちたとしても、良いことも悪いことも起こらないだろう。
僕がいなくなるだけで。
だが、僕は――生きるつもりでいたのだ。
落ちていこうとする力に必死で抗う。
その力は重力ではなくて、包み込むような母の愛にさえ似たものだ。
腕がぎしぎしと軋んだ。
重力よりずっと大きな力が、身体的にも精神的にもかかっている。
落ちていきさえすれば、落ちていったら、ああなんと素晴らしいだろうに。
僕はヂラーチを見た。
彼はニヤニヤ笑いを止めていた。
彼は小さく微笑んでいた。
あらゆる感情を示すと同時に、どんな感情も全く見られない笑みだ。
僕には分かっていた、彼は助けてなど(だが助けるって一体何だろう?)くれはしない。
なぜなら僕が彼を信用しているからだ。
僕が彼を信用しているので、彼は僕を裏切ることになるのだ。
そう言えば僕は彼の名前を知っていた気がする。
何だったか、今はああ思い出せないけれど。
彼の薄笑いはいつだって無表情で、とても静かだったけれど、
その時だけ彼はそのままの表情で、小さな音を立てて くすり とひとつだけ笑い、
そして彗星に乗って行ってしまった。
ああ、ぼくに
・ ・ ズ
翼があれば!
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