グリーンマイル
死刑制度をテーマにした感動の人間ドラマ。この映画の斬新なところは、今まで国家の殺人マシンとしか描かれなかった死刑執行人にスポットを当て、なおかつ彼らの苦悩を描いて見せたところで、人権尊重の立場から死刑囚の苦悩を描いてきた今までの映画とは一線を画す。監督は「ショーシャンクの空に」のフランク・ダラボンで、前作に引き続いての刑務所ものである。しかも草原にそびえ立つ大木に代表されるような前作での神話的イメージが、この作品ではさらに前面に押し出されている。重い内容をねずみを使ってうまくカバー。3時間という長い時間を感じさせない秀作だ。

sample

タイムアクセル12:01
ドジな男性社員が巻き込まれる陰謀と同僚の女性研究員とのラブ・ロマンスを描いた一種のタイムスリップもの。一風変わっているのはタイムスリップによって一日が何度も繰り返されると言う点で、ドジな男性社員が学習効果でどんどん立派なヒーローになっていくところが面白い。監督は「ヒドゥン」で有名になったジャック・ショルダー。この映画は日本未公開に終わったとはいえ、彼のそつのない演出で、コミカルな要素とスリリングな要素とのバランスがとれた楽しい娯楽作品になっている。

01/03/11/66

どもー(^^)/。前回の「タイムアクセル12:01」はどうだったでしょうか?これからも前回のような知名度の薄い作品から超有名作まで幅広く取り上げていきたいと思っています。

反撥
性的嫌悪の発展から殺人を犯すことになる一人の美少女の狂気を描いたイギリスのサイコ・サスペンス映画。監督は人間の暗い内面を神経質に描くことに定評のあるロマン・ポランスキー。現代の内向的な性格の若者が、突然キレて人を殺す姿を30年以上も前に予見しているところが面白い。ひび割れる壁や突然突起する人の手などのホラー的描写もさることながら、さりげない日常の中に主人公を精神的に追いつめていくような細かい描写の数々があることも見逃せない。

01/03/18/115

メールマガジンを購読していていつも思うのは、すぐに休刊になったり廃刊になるメルマガが非常に多いこと。読む方とすればせっかく登録したのだから長く続けて欲しいと思うのが人情・・・。てなわけでこのメルマガは最低3年は続けようかと思っている。ところでアニメの世界では3年どころか6年も続けてやっと完結になった労作もあったりする。

ジャイアント・ロボ
OVAとしては破格の予算と膨大な製作時間を費やして製作されたSFアニメーション。横山光輝の原作をベースに全くオリジナルの物語を構築。ストーリーはアニメーションの表現力を最大限に生かした荒唐無稽なもので、しかも後半は物語の全容があきらかになるにつれて十二分に泣けるものになっている。この作品はOVAという宿命からか一般の人の間ではほとんど知られてないが、スケールの大きな感動作として是非多くの方におすすめしたい。

01/03/25/118

今年は2001年・・・。と言うことで、劇場公開しないのかなあと思ってたらやっぱりするみたいですね。去年は「エクソシスト」も大ヒットしたし、けっこう劇場に足を運ぶ人が多いのではないかな?

2001年宇宙の旅
SF映画の金字塔として今も燦然と輝く不滅の傑作。監督は奇才スタンリー・キューブリックで、宇宙という超空間を背景とした未知の知的生物との接近遭遇を壮大なスケールと前衛的な映像表現によって描いたもの。語り草となったBGMにクラシック音楽を使った驚異的センス。NASAの全面協力によって可能となったリアリズム。ロゼッタ石風の石板を使った宗教的イメージなど。SFという枠を超えたディープな表現の数々が圧倒的!生命体の知的進化と破壊本能(殺戮本能)との因果関係を猿人による殺人とコンピューターによる殺人によって表現。サイケ調のスターゲイト。マグリット風の対面シーン・・・。もはや映像が可能にした新たな《言語》の誕生と言うほかない。

01/04/01/120

21世紀のキーワードのひとつに《環境》がある。環境というと「自然を大切にしよう」「自然をきれいにしよう」といった自然保護運動と勘違いしている人が多い。要は「自分の身の回りにある自然や自然物を効率良く利用して無駄のない生活を送りましょう」ということなのである。自然は人間に大切にされるほどヤワなものではないし、過去の人間の生活は厳しい自然との戦いの連続だったと言ってもよい。そんなことを再認識させられる映画もある。

アラン
アイルランドの西岸に位置するアラン諸島を舞台にしたイギリスのセミ・ドキュメンタリー映画。監督は「極北の怪異」などで知られるロバート・J・フラハティ。映画は島民の過酷な日常生活を映像交響詩風に綴ったもので、固い岩盤を切り開いて作られるジャガイモ畑や、ウバザメ漁、壮絶な冬の嵐などが、生々しいカメラワークによって鮮烈に収められている。およそ美しい自然とは縁もゆかりもない苛烈な土地柄で、自然の厳しさをここまで描き出した映画は数少ないのではないか?長年にわたって培われてきた辺境の土地に暮らす人々の生活は社会史や民俗学的な資料としても価値が高く、人間の環境適応能力の高さに改めて驚かされる作品でもある。

01/04/08/123

むかしむかし、ミニシアター系の映画公開というと、ぶ厚い眼鏡をかけた学生や評論家くずれが、狭苦しい映画館の中で眉間にしわを寄せて気難しい映画を見たものである。時代は変わって今や「ミニシアター」というと、スタイリッシュな映像を売りにしたエンタテインメントが花盛り。もともと芸術は「情報伝達の記号」→「宗教のアクセサリー」→「一部エリートの娯楽」として発展した経緯があり、ミニシアターのエンタテインメント化も当然の流れといえる。

ムトゥ踊るマハラジャ
ミニシアター系で公開され若者を中心にヒットしたインドのマサラ・ムービー。一見古風なスタイルの映画作りが観客に受けたのは、リアリティを無視した馬鹿馬鹿しさが新鮮にうつったからだろう。突然何の脈略もなく始まる歌と踊り!タオルをヌンチャク代わりに振り回して大立ち回りを演じるムトゥ!!!あまりにも見え透いたストレートなギャグなど。今の映画が失った《何か》があることは確かだ。なお映画の技術面では編集と効果音のつけ方が秀逸。

01/04/15/125

ちまたではクレイ・アニメが大人気!アードマン製作の長編アニメがついに全国公開。NHKでも「ニャッキ」という番組を放送しているし、主婦の間でも粘土づくりがひそかなブームになっている。火付け役はイギリスの「ウォレスとグルミット」らしいが、クレイ・アニメというとやはり本場はチェコ。中でも有名なのはヤン。

アリス
ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」をもとに、鬼才ヤン・シュワンクマイエルがお得意のクレイ・アニメを使って完成させた長編デビュー作。短編映画で培った独自のグロテスクかつシュールなイマジネーションを集大成させたような作品で、特に時間と空間を無視したメタモルフォーゼは一驚に値する。オープニングに出てくるアリスの子供部屋に幻想世界に登場する数々の小道具を集約。ラスト近くの理不尽な裁判はチェコの悲しい歴史を物語っている。なお映画はスイスなどの《西側》で製作され、共産圏崩壊後ヤンはこの作品と共に世界的に認知される。

01/04/22/120

たまには新作でも紹介しようかと思って、石岡瑛子のデザインで話題になった「ザ・セル」を見に行った。内容は「ミクロの決死圏」を肉体から精神に置きかえて猟奇ネタでまぶしたといった感じで、売りになっていた映像も安っぽいCMを見るようで興ざめ。これだと同じ精神世界を映像化したものでも、かの有名なロボット・アニメの方が数段上だと思う。

新世紀エヴァンゲリオン
終末的大災害を生き延びた人類に迫り来る謎の生物「使徒」と、三人の少年少女を乗せた新型ロボット「エヴァンゲリオン」との壮絶な戦いを描いたSFアニメーション。タイポグラフィ、科学専門用語、キリスト教の記号化といったマニア好みのディープな表現に加え、後半経費節約でやむなく使用された数々の心理描写が圧倒的!その類まれなアニメーション・センスを誇る庵野秀明の才能が爆発する作品でもある。賛否両論となった禅問答風の暗示的なラストは、蛇足とも言える劇場公開版がなければ伝説になったはず・・・。ティーン向け、マニア向けの内容だが幅広い年齢層に支持されたことでも記憶される。

01/04/29/118

大ヒットしたマンガ「ベルセルク」を読んでみると、随分いろんな映画を見て参考にしているんだなあと思ってしまう。中でもグリフィスというキャラクターがかぶっている兜に、映画ファンなら思わずニヤリとしたはず。そう言わずと知れたあのデ・パルマの傑作ですね。

ファントム・オブ・パラダイス
何度となくリメイクされている「オペラ座の怪人」。その古典を1970年代ロックの舞台裏を背景にサイケ調の毒々しいタッチでアレンジしたカルト映画。監督はサスペンス映画の奇才ブライアン・デ・パルマ。この作品は彼がまだメジャー監督としての地位を築く前に撮ったもので、若い才能を爆発させるようなエネルギッシュな内容になっている。なお彼はヒッチコックの信奉者でもあるため「サイコ」や「知りすぎていた男」などのパロディも出てくる。映像が凄いわりに音楽がチープなのが玉に瑕。

01/05/06/120

先週北朝鮮から金正男がお忍びで訪日!?それにしても本人だとはっきり分かっているのにも関わらず、「金正男氏とみられる男」「金正男氏?」といった見出しを付けるのはどんなものか?以前にも北朝鮮のスパイ船を「不審船」とか言ってたし、さわらぬ神にたたりなしもほどほどにしないとね〜。ところでこの話題と映画との間に何の関係があるのかというと、金正男の親父と北朝鮮の映画に密接な関係があるのだ!

プルガサリ
北朝鮮の伝説的怪獣「プルガサリ」の活躍を描いた怪獣映画。製作総指揮は(クレジットにはないが)映画マニアとしても知られる金正日総書記らしい。内容は李朝の圧制に苦しむ農民が、プルガサリと共に立ち上がり国王を倒すという典型的な共産圏好みのストーリー。この映画の真の面白さは、現実に北朝鮮で独裁政治を行い国民を苦しめている金正日が、このような映画を真面目に作ってしまうところで、見方によっては巨費を投じた壮大なブラックユーモアともとれる。怪獣映画としては特に新鮮味もなく特撮も安っぽいが、見た目以上に(政治的な意味で)奥の深い映画であり、映画史に残る可能性もある。

01/05/13/121

今年のアカデミー賞は「グラディエーター」が受賞。往年のスペクタクル史劇の復活?ともとれるが昔と今では作品の印象が随分違う。そのひとつに宗教色が薄くなったことが挙げられる。昔の史劇の代表格である「ベン・ハー」も個人の復讐劇ではあるが、主題は背景となっているキリスト教であり、映画はキリスト教のCMだったと言えなくもない。古代から近世に至るまで人間の生活は宗教が第一義であり、享楽のためとされているコロセウムの死闘も宗教的な儀式としての色彩が強かったのではないかと思われる。宗教がもつ破壊的、創造的なエネルギーの物凄さは享楽の比ではないのである。

クォ・ヴァディス
ノーベル賞作家ヘンリック・シェンキヴィッチの原作を途方もない物量と人海戦術で映画化したスペクタクル史劇。古代ローマ、皇帝ネロの時代を背景に、ローマ軍の凱旋式、火の海となった古代都市、キリスト教徒の処刑といった大スペクタクルを展開。イタリアのチネチッタ・スタジオで作られた巨大セットを筆頭に、細部まで行き届いた衣装やインテリア、泰西名画風の宗教場面が観る者を圧倒する!!!人物描写はやや即物的だが、ネロに扮するピーター・ユスティノフとペトロニウス扮するレオ・ゲンの漫才が面白い。なお皇帝ネロがローマの大火をバックに歌う歌曲は古代ギリシャの名曲「セイキロスの墓碑銘」。

01/05/20/121

手塚治虫原作の新作アニメ「メトロポリス」が劇場公開された。一時期この原作のもとになったのが無声映画時代に作られた同名のSF映画だとの指摘がされてきたが、手塚氏曰く「共通点はタイトルと女性ロボットの登場だけで、内容そのものは何の関係もない」と言明していた。

メトロポリス
巨匠フリッツ・ラングによるドイツ無声映画のSF超大作。内容は科学技術が高度に発達した未来の管理社会を舞台に、資本家VS労働者の図式的対立を描いたもの。ただ労働者階級の衆愚性も十二分に描かれているので、共産圏の映画と比べるともうひとつ踏み込んだ内容になっている。この映画の見所は人間に変身するアンドロイドやモロク神殿と重なる地下工場内の巨大セットなど。各々に見られるバウハウスの工業デザインを生かした未来社会の造形で、その巨費を投じた斬新な映像は今見ても一驚に値する!!!新作発表会で展開される夢幻的カットバック。後半の破壊活動、地下浸水のスペクタクルも見事。

01/05/27/125

前回紹介した「メトロポリス」もそうだったが、前世紀のSFで描かれた未来社会像は中央集権的な管理社会が主流だった。ジョージ・オーウェルが戦後すぐに発表したSF小説「1984年」などはその代表格だろう。これは当時の社会主義国家ソ連の影響が大きかった。今やソ連が崩壊して10年経つが、人類の未来社会はSFの予見とはまるで正反対の方向に進んでいるように見える。

2300年未来への旅
今から300年後の遠い未来・・・。管理社会からの人類の開放をテーマにしたSF超大作。ストーリーが凡庸なため、SF映画特集などでもほとんど取り上げられることのない映画だが、スペクタクルな映像という点においては今見ても第一級!豪華でカラフルなデザインの未来都市のセットは圧倒的で、《未来》という設定を取ってしまえばほとんど古代ローマのスペクタクル映画になる(^^)。時代を先取りした薄型モニターの対話式パソコンや、地下都市を走るリニアモーター・カーも楽しい。

01/06/03/124

雨の多い季節になってきた。何気に梅雨空を眺めてふと思うのは、映画の中で雨を効果的に使ったシーンが非常に多いということ。「七人の侍」の雨の中のクライマックスなどはその代表格だろう。アメリカのミュージカルにも雨を使った大変有名なシーンがある。何でも画面上で雨をはっきり見せるために、水の中に牛乳を混ぜたとかいう逸話まである。

雨に唄えば
MGMミュージカルの最高傑作!サイレントからトーキーに時代が移っていくさなかでの《映画界の舞台裏》といった設定の妙もさることながら、テクニカラーのカラフルな映像で綴られる往年のスター達の至芸が大きな見所だ。雨の中代表曲を歌いまくるジーン・ケリーを筆頭に、豪快なアクロバットを見せるドナルド・オコナー、妖艶かつ幻想的な踊りを披露するシド・チャリシー、キテレツな奇声を発して笑いを誘うジーン・ヘイゲン、そしてラストの桧舞台に上がるデビー・レイノルズの姿が感動的だ!映画と共に楽しいひとときを過ごしたいと思っている方には自信を持ってすすめられる作品である。

01/06/10/122

タイトルを「この映画を見ろ!」から「シネマ名作駄作一刀両断!」に変えたっス。理由は似たようなタイトルのメルマガがあるので、もちっと独自性を出したいとの本人の欲求から。ただ内容は今まで同様変わらないので読者の方はご安心を・・・。いやタイトルより内容を変えろとの意見の方が多かったりして(笑)。ところでタイトルの「一刀両断」だが、映画における「一刀両断」となるとやはり時代劇!しかも決定版はこれだ!

椿三十郎
巨匠黒澤明による「三十郎」シリーズの第2弾。お家騒動にからむ黒幕と若侍を連れた三十郎との権謀術数的対決を描いたもの。前作「用心棒」のような斬新さはないが、映画としての完成度は前作よりも高く娯楽性は第一級!敵役の仲代達也との知恵比べに加え、ユニークな配役で展開されるコメディ調の描写が面白い(^^)。特に終盤で御城代として登場する伊藤雄之助の飄々としたキャラクターが抜群!静と動のコントラスト、凄絶さを誇張した血しぶきで有名になったラストの果し合いはまさに一見の価値あり。

01/06/17/121

読者がメルマガを選ぶ時に最もポイントにするのはタイトルだそうである。だから発行者はタイトルをつけるのに随分と気を使う。同様に映画の場合もできるだけたくさんのお客さんに観てもらおうと、タイトルをつける時には相当四苦八苦するらしい。日本語タイトルは何かと批判の対象にさらされるが、どのタイトルも商品を売り込むための苦心の労作だと言えるかもしれない。この映画のタイトルも営業マンの苦労のあとが感じられる。

この森で、天使はバスを降りた
刑期を終えて出所してきた一人の少女が、新天地での生活を求めて新たなスタートを切るが・・・。片田舎の小さなレストランを舞台に母と子の絆が悲しくも美しく語られる珠玉の佳編。ミステリー風の味付けをした意外性のあるストーリー展開と風光明媚なギリアドの自然が大きな見所で、無人の教会、斧、タバコ、風景写真などを使った小道具の妙味。インディアン伝説と絡めた語り口のうまさが特筆ものだ。今流行りの《癒し系》とも言える作風。俊英リー・デビッド・ズロトフ監督の長編デビュー作でもある。

01/06/24/121

今年の夏休み作品は例年になく大作が集中。その中のひとつに30数年ぶりにリメイクされる「猿の惑星」がある。オリジナル作品が公開された当時、奇抜な設定と猿のメーキャップが話題を呼んでSF映画としては異例の大ヒットを記録。その後柳の下のどじょうを狙って第5作までシリーズ化された。世評では第1作が歴史的名作。残り4作は駄作となっているが、こういった世評にだまされて意外な拾い物を見逃してしまうこともある。

新・猿の惑星
映画「猿の惑星」シリーズの第3作。人間を支配する猿の世界を描いた第1作を逆転させた内容で、遠い未来から現代の地球に降り立った三匹の猿のサバイバル・アドベンチャーを描いたもの。面白いのは猿の視点から見る人間社会の姿で、ちょうど生物学者が人間という生物の生態や行動を客観的に観察する感じに似ている。ラストのオチも意外性があり、独立した作品としても高く評価できる。第1作を一般人向けの娯楽作品とするならば、第3作は映画マニア向けのカルト作品と言えるかもしれない。

01/07/01/120

夏公開映画の関連作品を続けて紹介しようと思ったのだが、アメリカ映画の大物俳優の死去にともない急遽取り上げる作品を変更。特に好きな俳優ではなかったが、いい映画に出演していたことだけは確かだ。

アパートの鍵貸します
大企業に勤めるサラリーマンの出世や恋をとおして、企業社会における矛盾と宮仕えの悲哀を描き出した傑作ラブ・コメディ。監督は職人ビリー・ワイルダーで脚本、演出共ほぼ完璧!!!突っ込みの入れようがない。ジャック・レモンのオーバー・アクションに加えて、シャーリー・マクレーンが陽気でおちゃめな(それでいて影のある)エレベーター・ガールを好演(^^)。割れた鏡、シャンパン、トランプといった小道具の使い方もうまい。企業に対する依存度が高い日本人にとっては特に共感を呼ぶ作品。アカデミー賞作品賞を含む5部門を独占。

01/07/08/121

手塚治虫と宮崎駿。片やマンガ、片やアニメとジャンルは違うが、日本を代表する作家の東西横綱といった感はある。その二人だが活躍した年代はややずれるものの、作風は共に生物学の影響を受けているところが共通している。ただアプローチの仕方は異なり、手塚が生態学的な観察眼でもって作品を作っていたのに対し、宮崎は生物学を宗教と深く結び付けて作品を作っているところに大きな特色がある。したがって手塚作品がおしなべてクールな印象をもつのとは対照的に、宮崎作品が神話的な感動を得るのはそのためなのである。今回は「千と千尋の神隠し」の公開に際して出血大サービス!代表作を3本まとめて紹介する。

未来少年コナン
宮崎駿の名を一躍世に知らしめたSFアニメーション。世界を巻き込んだ終末戦争の生き残りである少年コナンと少女ラナの活躍を描いたもの。面白いのはコナンの物理学を無視した自由奔放、変幻自在な動きで、これはアニメーションならでは。コアブロックに代表されるアナクロ感覚の未来設定や、津波などの天変地異を取り入れたスケールの大きなストーリー展開が特筆ものだ。なおクライマックスに登場する最終兵器「ギガンド」は、旧日本軍が設計段階で建造を中止した巨大飛行艇「富嶽」をモデルにしたものである。

風の谷のナウシカ
日本アニメ界の巨匠宮崎駿の最高傑作。終末戦争に生き残った人類を救うために立ち上がる少女ナウシカの活躍を描いたもの。生物学を基本にすえた「腐海」という設定や、神秘性をたたえた宗教的ラストもさることながら、子供だましのない緻密な描写力と雄大なスケールが観る者を圧倒する!民族音楽風の映画音楽、中世ヨーロッパ的な衣装やインテリアがエキゾティックなムードをかもし出す。なお巨神兵復活のスペクタクル・シーンを担当したのは「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明。

天空の城ラピュタ
傑作「ナウシカ」に続く宮崎駿の超大作アニメ。内容は20世紀初頭のヨーロッパを思い起こさせるアナクロな時代設定を背景に、往年の連続冒険活劇を想起させるもの。浮遊島ラピュタの元ネタはスウィフトの「ガリバー旅行記」に由来する。圧巻なのは物語中盤でロボットが軍の根城をバックに大立ち回りを演じるシーンで、クライマックスのラピュタ島での攻防がかすむ程である。なお劇中ドーラ一族のことを「海賊」と呼んでいるが、空を飛び回っている違法集団に対して「海賊」と呼ぶのは実に妙。本来なら「空賊」と呼ぶべきところだが、雲海を股にかけるという意味では問題なし?

01/07/15/122

連日猛暑、猛暑でうんざりしてくるが、これだけ毎年猛暑が続くとこれが平年並みなのかなあと思ってしまう。なれは恐ろしい。ところで前回まで夏公開映画の関連作品を紹介してきたのだが、今回から夏という季節に関連した作品を紹介していこうと思う。最初は夏バテも吹っ飛ぶ元気印100%の映画から。

真夏のビタミン
兵庫県の伊丹市が出資した自主制作映画の第5弾。競泳を題材にした異色のスポ根コメディで、60年代スポ根ドラマと関西のお笑いをドッキングさせたような内容。その余りのベタな笑いは、日本のメジャーなコメディ映画では絶対に見ることのできないもの。ひとつひとつのギャグは幼稚とも言えるあざとさだが、連射砲のようにつるべ打ちにすると否が応でも笑ってしまう(^^)。監督は三原光尋で、この映画のあとメジャー・デビューして同種のスポ根コメディを多数手がけることになる。映画マニアには推奨品。

01/07/22/121

最近は都会を中心に熱帯夜の続く日が多くなってきたので、何気に夕涼みを楽しむというわけにもいかなくなってきた。道路のアスファルトが日中に浴びた熱を放熱できないことが原因だそうで、雨後の筍のように道路を作り続けたツケが回ってきたようだ。政府は地下交通網を作って生活空間の緑地化を推進、温暖化防止および熱帯夜の緩和に努めるそうだが、それが実現するまでに一体何年かかることやらと思ってしまう。とりあえず夕涼みができるという恵まれた方にこの映画をすすめてみたい。

真夏の夜のジャズ
第5回ニューポート・ジャズ・フェスティバルを洗練された映像とスナップを交えてとらえた音楽ドキュメンタリー。監督バート・スターンはもともと写真家で、この映画の成功も写真家としての彼のセンスに負うところが多い。抽象画(実は水面に映るヨット)を思わせるオープニングを筆頭に、ラテンのリズムが心地良いジョージ・シアリング・クインテット、歯切れの良いサウンドを聴かせるジェリ−・マリガン・カルテット、コンテンポラリー風の演奏が渋いチコ・ハミルトン・クインテット、さらにタバコをくわえながら「バッハ無伴奏チェロ」を演奏するネイサン・ガーシュマンが素晴らしい。ジャズ・ファンはもとよりジャンルを超えた全ての音楽ファンにすすめられる。

01/07/29/123

未来を設定した物語はその設定した時期を過ぎてしまうと過去の物語になってしまい、最先端を行っていたものが妙に古臭く感じられるものである。これは時間経過が持つ宿命みたいなものだが、極稀に設定時期が過ぎても十分鑑賞に耐えられる作品もある。

1999年の夏休み
少女を美しく撮ることでも知られる金子修介監督の出世作。この作品は4人の少年の同性愛を全て少女に演じさせるという前代未聞の企画がユニーク。男装の麗人というと「宝塚」を思い出させるがこれは全くの別物。どちらかというとアンドロギュロス(両性具有)の世界に近い。観る人によってはかなり評価が分かれそうな作品で、性倒錯的雰囲気が妙な違和感を与えるものの、光を誇張した独特の撮影や寮を取り巻く自然の美しさなど、ファンタジーを演出する技量はなかなかのものである。奇妙なルックスのパソコンが出てくるのも面白い。

01/08/05/122

いよいよお盆の季節。やぴ兄もずいぶんいろんな映画を見てきたけれど、お盆を題材にした映画というのは見たことがない。お盆は世界にも余り例のない短期集中型の民族大移動なのだから、ひとつやふたつあっても良さそうなものだがどんなものだろう。タイトルだけだと「盆踊り」とついた映画がひとつある。これが何と日本映画ではなくアメリカ映画なのである。

死霊の盆踊り
ティム・バートンの「エド・ウッド」で一躍有名になった史上最低の映画監督エドワード・D・ウッド・Jrが製作、原案、脚本を担当したホラー・コメディ。内容は駄作といった次元をはるかに超えるもので、夜な夜な女死霊たちが出没してきて終始一貫裸踊りをするというもの。はっきり言ってホラーを冠したストリップ映画以外の何ものでもない!!!ここまで呆気にとられる内容だと別の意味での値打ちが出てくるが、正直映画マニア以外の人には絶対すすめられない!滅多に見ることのできない珍作というだけで取り上げた。

01/08/12/122

最近「リユース」という言葉を耳にする。「リユース」は「リサイクル」と良く混同されるが、意味は「リユース」→再使用、「リサイクル」→最利用。要するに中古品をもう一回手直しして商品として流通させようということ。最近は映画業界でもリユース作品が花盛り。「猿の惑星」を筆頭に「グロリア」「ロリータ」「コレクター」「サブリナ」ときりもなく作られている。ふつうリユース作品はオリジナルを超えることはないなのだが、やはり例外もある。

ユー・ガット・メール
インターネットで知り合った男女の恋愛を描いたラブ・コメディ。面白いのはインターネットの匿名性を利用した男女関係と商売敵としてのシビアな利害関係を比較したストーリー構成で、トム・ハンクスとメグ・ライアンの奇妙な関係がコミカルかつ感動的に描かれている。今を反映したタイムリーなネタで、この映画をきっかけにパソコンを始めた人も多いようである。ただパソコンという小道具をのぞくと内容はずいぶん古典的。それもそのはずこの映画はエルンスト・ルビッチの「街角/桃色の店」(男女の情報交換の手段は文通)のリメイクなのである。

01/08/19/123

前回「ユー・ガット・メール」を紹介したが、実はパソコンを通した男女関係を描いた映画は日本にもある。しかも「ユー・ガット・メール」よりも3年も前に公開され映画の出来も数段上なのである。またこの3年の間にネット環境が「パソコン通信」から「インターネット」に変化したことも見逃せない。映画とはまさに時代を映す鏡だということを痛感させられる。

(ハル)
パソコン通信で知り合った男女の恋愛を描いたラブ・ストーリー。映画は製作当時まだ身近でなかった情報化時代の人間関係をスタイリッシュな感覚で綴ったもので、特にチャットやメールなどのウェブ上の文字を使った斬新な心理描写が抜群!字幕と映像が交互に出てくる単調な画面構成はやや退屈するものの、映画表現の新たな試みとして高く評価したい。森田節とも言える繊細かつ美しい映像のマジックは健在!ラスト近くの物語のヒネリに思わず顔がほころぶ(^^)。インターネットという言葉がまだ使われてないところにすでに《時代》を感じさせる。

01/08/26/123

映画大国というと、世界的なマーケットをもつアメリカと世界一の生産量を誇るインドが知られているが、質の面では最近イランが急速に伸びてきている。イランは政治的、宗教的な規制が厳しく、必然的に映画表現も抽象性、寓意性が高くなるのだが、それがかえって世界的な高評価につながっているようだ。一時期のチェコ映画みたいなものである。当然日本でも評価が高いのだが、日本では諸外国とはまた違った意味での人気がある。それは《親近感》があるからである。文化も宗教も大きく違うイラン映画になぜ日本人が親近感を持つのか?と思われる方はまずこの映画から見て欲しい。

友だちのうちはどこ?
イラン映画の巨匠アッバス・キアロスタミによる「ジグザグ道三部作」の序章。友達のノートを間違えて家に持ち帰ってしまった少年が友達の家までノートを返しに出かけるが・・・。驚くほどのシンプルなストーリー。計算され尽くした緻密な描写(絵作り、環境音など)。まさにイラン映画を世に知らしめた珠玉の一編!一昔前の日本の片田舎を思い起こさせるイラン人の生活ぶりや、年功序列的な道徳観がさらなる日本人の共感を呼ぶ!イランの民族音楽にのって疾走する少年。花のしおりを使った圧巻のラストも印象深い。

そして人生はつづく
キアロスタミ「ジグザグ道三部作」の二作目。1990年イラン北部大地震の被災地。その混乱の中、キアロスタミ親子が「友だちのうちはどこ?」で主演した子役の無事を確認しに行くが・・・。虚構と現実との交錯。実際の被災地にカメラを入れてロケーションを敢行するという前代未聞の映画作りが抜群!やぴ兄自身も阪神大震災が起こった4日後に被災地を訪れているので、映画を見ると長蛇の行列をつくる救援物資の運送車や飲料水の確保に苦労したことなどが思い起こされる。ロングショットで描き出されるイラン高原のダイナミックな映像。デザイナーの経歴を生かした細かい絵作りも見事。

オリーブの林をぬけて
キアロスタミ「ジグザグ道三部作」の完結編。「そして人生はつづく」で新婚夫婦の役を演じた男女。現実には夫役の男性の求婚を女性が断っていた事実に着目したキアロスタミが、その挿話を丸まる一本の映画としてフィルムに収めた虚実混交のラブ・ストーリー。車のバックミラー、オリーブの林をうまく使った映像に加え、ラストの超ロングショットで使用されるチマローザの「オーボエのための協奏曲」が抜群!三部作を通して見ると、全体が複雑な入れ子構造によって構築された壮大な物語であることが分かる。

01/09/02/123

日本の不景気が深刻になっている。その大きな理由の一つに銀行の不良債権の問題がある。不良債権とは貸したお金の担保に取った土地などが、地価下落のために売ろうにも売れない状態になっていることで、不動産担保に固執する銀行の古い事業融資のあり方がこのような現状を招いているとも言える。ところで映画という虚構の世界では、現実ではありえないようなものにお金を貸すこともある。

テキサスの五人の仲間
テキサスのポーカー仲間五人と有り金をパアにした主人の代役として出てきた妻との軽妙なやり取りを描いたウエスタン・コメディ。面白いのはポーカーの真剣勝負をしているにもかかわらず出演者の喜怒哀楽が激しいこと。ポーカー・フェイス(無表情)とは一切無縁である(^^)。映画のクライマックスで銀行から借金をするためにポーカーの手札を担保にするくだりがユニーク。オープニングのテクニカラーによる美しい映像や、アッと驚くラストのどんでん返しも印象深い。タイトルの「五人の仲間」がポーカー仲間五人を指すだけではないことにも注意!知名度が薄いわりに映画としての面白さは抜群だ!

01/09/09/125

日本のアニメというと、劇場用やOVAなどよりもTVアニメに対する思い入れが強い。TVアニメ全盛時代と幼少期が重なった面もあるが、やはり質的な面においてもかなり高度だったと言わざるをえない。技術的にはディズニー・アニメの方が遥かに優れているが、それをディテールの細かさとストーリーの深さでカバーしたと言ってよい。今回紹介するのはそういったアニメの代表格。近日中にDVDーBOXも出る。

海のトリトン
海の覇権をめぐる民族闘争と、その悲壮な戦いに巻き込まれる少年トリトンの活躍を描いた海洋アニメーション。予算と時間の制約からくる限界からか技術的には稚拙な部分が目立つものの、ストーリーは意外としっかりしており、当時の製作状況を考慮すると作品は優秀。オリハルコンの短剣を狂言回しに善なる破壊行為とそれに伴う悲劇を描いたもので、特にラストのどんでん返しは余りにも有名。勧善懲悪型のアニメーションが多かった中でまさに特異な作品と言える。伝令役を務めるタツノオトシゴ、モールス信号を打つクラゲと言った脇を固めるキャラクターがユニーク。「機動戦士ガンダム」で有名になった富野喜幸のデビュー作でもある。

01/09/16/123

「太平洋戦争」と「湾岸戦争」。この二つの戦争には大きな共通点がある。それは「アメリカの不景気」→「宗教色の強い国からの奇襲攻撃」→「物量を投じたアメリカの大勝利」→「終戦後の長期間にわたるアメリカの好景気」といった流れである。今度のアメリカの同時多発テロ事件も同じような流れになりそう。現在の大統領以下主要ポストに湾岸戦争のメンバーが多数いることも、そういった《疑念》を増幅させる。ところで今回の事件で連想する映画と言うとやはりこの2本をおいて他にない。

タワーリング・インフェルノ
サンフランシスコの最新型超高層ビル「グラス・タワー」の大火災を扱ったパニック映画の最高傑作。オール・スターを揃えた物量投入型の大作で、災害にまつわる熱い人間ドラマと手に汗握る見せ場のつるべ打ちが大きな見所になっている。スティーブ・マックィーン、ポール・ニューマンといった主役級の活躍以上に 重責を担う建設会社社長を演じるウィリアム・ホールデン、猫を抱きかかえる詐欺師役が泣かせるフレッド・アステア、様々なレスキュー作戦を敢行する名もなき消防士たちの存在が光る。終盤の貯水槽大爆破の自暴自棄な発想はアメリカ映画ならでは。奥行きのある映像は大画面向きだ!

ダイ・ハード
ロサンゼルスのハイテク高層ビルに人質を取って立てこもったテロリストとニューヨーク市警の警察官との壮絶な戦いを描いたアクション映画。この映画の斬新なところは高層ビルを背景にした縦移動のアクションを貫いたところで、カー・アクションなどの横移動のアクションと比較すると、その空間のダイナミズムにおいて他を圧倒するものがある。語り草となったストーリーの伏線の妙や消防ホースを使ったバンジー・ジャンプ(笑)も面白い。なおハードなカメラワークを担当したのは後に「スピード」「ツイスター」を監督するヤン・デ・ボン。

01/09/23/121

マイカル事実上倒産のニュースはネット上でも随分話題になった。面白いことにスーパーそのもより併設してある映画館の閉鎖を心配する声が多かった(笑)。マイカルの映画館はシネコンと呼ばれ、地方の映画館離れを食い止めた功績があるだけに存続を求める声が強くなったのだろう。シネコンの特色はいろいろとあるが、そのひとつにサラウンド効果による音の臨場感が挙げられる。特にこの作品はシネコンで見て圧倒された記憶がある。

プライベート・ライアン
連合軍の反抗のきっかけとなったノルマンディ上陸作戦後、兄弟が戦死したライアン二等兵を探索するために8人の部隊が編成されたが・・・。ハリウッド屈指の人気監督スティーブン・スピルバーグが放つ戦争映画の傑作。この映画の話題を独占したのが冒頭30分におよぶオマハ・ビーチでの戦闘シーン。ハンディ・カメラによる撮影とサラウンド効果による臨場感は抜群!!!四方八方から飛んでくる銃弾の雨あられは観る者を圧倒した!!!実話とされる二等兵一人のための救出作戦も、旧日本軍が太平洋戦争で消耗戦を繰り広げた事実と比較するとその余りの国情の違いに驚かされる。

01/09/30/121

先週長嶋茂雄が巨人軍監督を勇退。これによりひとつの時代が終わったと見る向きもある。長嶋は一野球人と言うだけでなく高度経済成長時代のシンボル的な存在でもあった。デビュー(1958)から引退(1974)に至るまでの16年間は、まさに岩戸景気からオイルショックまでの日本の栄枯盛衰と重なり合う。ただこの時期日本映画界だけが例外で、長嶋デビュー時を最盛期に斜陽の一途を辿ることになる。今回はその「1958年」と「巨人」を掛けてこんな映画を紹介してみよう。

巨人と玩具
三つの製菓会社のキャラメル販売合戦を通して、大量消費社会、マスコミ、企業競争を痛烈に皮肉った巨匠増村保造の社会風刺劇。映画は当時の社会風俗をもろに出しているので、今見るとはっきり言ってダサい(>_<)。 しかし高度経済成長の勢いそのままの超絶ハイテンションで迫るエネルギッシュな表現は、半世紀近く経った今見ても新鮮で、特にハイスピードでしゃべりまくるセリフや、出演者のオーバー・アクション、絶妙なカメラアングルなど、先駆者増村のモダニズムが爆発する作品でもある。映画を見ると日本企業の体質は今も昔も余り変わってないことも分かる。

01/10/07/122

狂牛病の問題が深刻になっている。正確にいうと狂牛病による風評被害の問題が深刻になっている。政治家の牛肉パーティーのパフォーマンスを見ていると、数年前のOー157(あの時はカイワレ大根だった)を思い出す。個人的にはどう見ても神経質になりすぎているとしか思えない。ところで狂牛病ならぬ未知の病原体に対する恐怖は映画の中でも度々取り上げられている。最高傑作はこれだ!

アンドロメダ・・・
人工衛星墜落にともなう不気味な怪死事件を発端に、未知の細菌生物による人類滅亡のカウントダウンが始まる・・・。近未来サスペンスを得意とする作家マイケル・クライトンとリアリズムの巨匠ロバート・ワイズが組んだ異色ハードSF。荒唐無稽な内容を感じさせないディテールの緻密さと、ドキュメント・タッチが生み出すリアルな緊迫感が大きな特色で、特に結晶体の細菌生物というケミカル的なアイデアが抜群!地味な内容とキャスティング、古色蒼然としたセットと衣装の欠点をのぞけば、ド派手なCG映画とは対極の位置にある秀作と言える。

01/10/14/119

昔はこの時期になるとTV番組改変スペシャルとかで、延々2時間使ってのドミノ倒しスペシャルが放映されていたのだが、最近はやらないようである。面白いのはドミノ倒しのゲーム性や世界記録更新と言ったものよりも、汗と涙とど根性に番組作りの主眼が置かれているところで、それがいかにも日本人のメンタリティを良く表現しているように思う。というわけで今回はドミノ倒しの映画バージョンを紹介してみよう。

事の次第
前衛アートの分野で話題になったスイスの短編映画。製作者はこの分野で有名なフィッシュリ&ヴァイス。驚くのは固体、液体、気体などのそれぞれの物理的運動を利用した一種のドミノ倒しで、単純な内容のわりに恐ろしいほどの複雑さと手間隙がかかっている。各々の物体がまるで生きてるような動きをするのと連鎖反応におけるスリリングさがこの映画の見所だ。実験映画というとこけおどしのつまらない作品が多いのだが、この作品は文句なく面白い。モダンアートや物理学に興味のある方は必見!

01/10/21/120

TV番組改変スペシャルのネタでもうひとつ忘れられないのが「徳川埋蔵金スペシャル」。視覚的な説得力を持たせるために、でかいパワーショベルを使って大げさな発掘作業をしていたが、埋蔵金の性格からしてあんなに深いところに埋めるはずがないと思うのだがどんなものか。徳川埋蔵金そのものは後世に残った夢のある遺産のひとつだが、これも(焼失してしまったとはいえ)そんな遺産のひとつ。

信長の夢/安土城発掘
NHK制作による歴史ミステリーを扱ったドキュメンタリー。火災による焼失で幻の城となった安土城の全貌とそれによって判明する信長の新たな一面を垣間見せるもの。圧巻はCGによって再現される安土城の天主閣内部で、仏教の宝塔、教会風の吹きぬけ、道教や儒教といった古代中国の思想を描いた宗教画廊など、戦争の防壁として建造されてきた数多くの日本の城に対して、安土城はあらゆる宗教が統合された異次元空間だったことが分かる。無神論者とされてきた信長の宗教に対する超越的な未来思考が窺い知れる驚異の一編でもある。

01/10/28/122

11月に入って晩秋も深まってきたが、最近の大事件オンパレードで秋にちなんだ映画を取り上げるのを忘れていた。だがふと記憶をたどってみても秋に関連した映画はなかなか思いつかない。ちなみに「全洋画オンライン」で秋とついているタイトルを検索すると22件しか出てこなかった。四季の中で一番少ないのである。てなわけで秋の花といえば菊。菊といえば「ひなぎく」ということで、強引にこの映画を取り上げることにした。

ひなぎく
二人の姉妹の破天荒なドタバタぶりをおシャレでポップに描いた鬼才ヴェラ・ヒティロヴァーの代表作。新しい才能が続出した60年代の映画の中でもひときわ独創性が光る作品。驚くのはその時代を先取りしたような先鋭的センスと、色フィルター、色ズレ、奇妙な効果音を使った斬新な映像テクニックで、特にはさみを使った奇天烈な画面切断シーンは圧倒的!一見単なるシュールなドタバタ劇に見えるが、見た目以上に政治的色彩が強く、チェコ政府から映画活動の停止をさせられたのもうなずける。なお「ひなぎく」はチェコの花言葉で「貞淑」の意味。マニア必見だが若い女性にも十分すすめられる。

01/11/04/122

「東京モーターショー」で発表された新車で目立つのが居住空間を演出した車だそうだ。これは近い将来、車上生活をするユーザーが多数出現することを意味する。現にアメリカでは車で居場所を転々とするライフスタイルが確立されている。日本でも夏は北海道、冬は沖縄で車上生活をするといったライフスタイルが定着するかもしれない。というわけで今回は場所を転々と移動する映画としてロード・ムービーを紹介する。

ペーパー・ムーン
聖書を売りつける詐欺師と詐欺師の上前をはねる愛人の娘。二人の《漫才》を中心に描かれる異色のロード・ムービー。この作品のユニークなところは、冒頭の主題歌の歌詞が映画の内容を暗示しているように、愛人を介してできた真偽不明の父娘関係が、長い旅を通して本物の父娘のようになっていく過程を、実の父娘(ライアン・オニール、テイタム・オニール)が演じている点で、虚実入り混じったアイロニカルな作品になっている。1930年代の雰囲気を再現するためにモノクロ映像を採用。世界恐慌や禁酒法時代といった時代背景も臭わせている。

01/11/11/122

アフガン戦争もそろそろ終結。あとはこの戦争の反戦映画を作るだけと思いきや、どうもベトナム戦争の時みたいに反戦映画ラッシュというわけにはいかないようだ。それだけ戦争がハイテク化したということだろう。人間ドラマの入る余地がない。ところでベトナム戦争の頃はアメリカ中に厭戦気分が蔓延。先週紹介した「ペーパー・ムーン」のような懐古趣味映画ラッシュも起きた。今週もそういった映画の代表格。近日中にDVDーBOXも出る。

ゴッドファーザー
センセーショナルな話題を呼んだマリオ・プーゾの原作を、巨匠フランシス・コッポラが重厚なフィルムに収めたマフィア映画の最高傑作。この映画の斬新なところは、マフィアの血生臭い抗争や彼らの忠誠心を核とした「家族の絆」をリアルに描いたことで、それまでの勧善懲悪型のギャング映画とは一線を画す。またこの映画の登場により凡百の類型作品が多数登場したが、今だこの作品を超えるものは現れていない。マフィアの光と影を演出するオープニングの結婚式。幕間の役割を果たすシシリー島のロケーション。クライマックスの洗礼と殺戮の凄惨なカットバック。映像も演技も全てが本物!圧倒的秀作だ!

01/11/18/122

近年ずーっと肩透かしをくらわせてきた「しし座流星群」が、今年はどうやら当たり年だったようで、過去200年の間では最大級の天文ショーになったらしい。らしいということは、そう、やぴ兄は観ておりません。観た方はさぞかし首が痛くなったことでしょう。お疲れさま。というわけで今回は「しし座流星群」大量飛来を記念して星(スター)にちなんだ映画を紹介しよう。

スターマン
地球に降り立った異星人が、死んだ夫になりすまして未亡人との愛の逃避行を敢行する異色のSF映画。監督はジョン・カーペンターでホラー映画の傑作「遊星からの物体X」とは180度違う作風に変貌。面白いのは逃避行をしている過程で、異星人が人間の生活習慣や感情といったものを習得していくところで、最後に未亡人との愛が成就するシーンは感動的。アクションやSFXも水準以上の出来ばえで、なかなかあなどれない作品である。SFファンよりも恋愛映画の好きな方におすすめできる。

01/11/25/121

今年の12月はディズニーの生誕100周年。個人的にはあまり好きな作家ではないのだが、それでもアニメの巨匠ということで代表作はあらかた見た。彼の代表作となると「ファンタジア」や「白雪姫」あたりに落ち着いてしまうが、今さらそういった超有名作を紹介するのもなんなので、今回はこのメルマガならではの知られざる傑作を紹介しよう。

花と木
アニメ界の巨匠ウォルト・ディズニーによる「シリー・シンフォニー・シリーズ」テクニカラー第1弾。このシリーズの特色は抽象的な表現である音楽を映像によって具象化する意欲的な試みで、のちにこのシリーズで得られたノウハウが、名作「ファンタジア」を生むことになる。特にこの「花と木」は10分にも満たない短い内容の中に、古さを感じさせない動画技術の高さとアニメならではのメタモルフォーゼの豊かさを集約させていて、技術的な完成度ではマルチプレーンを採用した「風車小屋のシンフォニー」に一歩譲るものの、トータルでは明かにシリーズの最高傑作と言える。

01/12/02/121

12月も半ばになるといよいよ忠臣蔵の季節。歴史上あまりにも有名な事件だけに、劇映画はおろかドラマやアニメなど様々なバリエーションで映像化されている。これだけ作られていると中にはかなりの変り種もあるわけで、今回紹介するものはそういったものの極めつけ!映画マニアの間では通称「ベル忠」の名で親しまれている。

ベルリン忠臣蔵
大石蔵之介を名乗る和製ドイツ人!彼は日本の柔道を身につけ、名刀村正を盗んだ実業家たちに復讐を始める!良くある外国人から見た《曲解された日本人像》を描いたドイツのカルト映画。タイトルは忠臣蔵とついているが、劇中四十七士の名前が登場するだけで内容そのものは実際の忠臣蔵と何の関係もない。ポイントはこの手の映画にありがちなチープな一面を残しながらも、映画作りは極めて真面目で映像は芸術的ですらあるところ。クライマックスの片言の日本語は意味不明なうえに、余りに唐突なので見ている方は呆気にとられてしまう(゚o゚)。 正直面白い映画とは言い難いが話のネタにはなる。

01/12/09/120

いよいよ年末最大のイベント「クリスマス」がやってくる。クリスマスというと昔はキリストの生誕を祝う厳格な宗教行事だったはずだが、近年はすっかり様変わりして、カップルがデートする日(またはおもちゃ屋の稼ぎ時)と化してしまった。というわけで今回は「クリスマス」と「恋愛」とをかけた映画を二週にわたって紹介する。まずはお隣、韓国の映画から。

八月のクリスマス
難病に冒された青年が抱く短い恋。そのカゲロウのような人生を細かいエピソードとさりげない表現で綴った恋愛ドラマ。エピソードの中で実父にビデオの操作方法を教えるくだりがあるが、自身の実父にも同じようなことがあるので思わず笑ってしまう。クライマックスでガラス越しに彼女を慈しむ青年の姿が特に印象深く、原色を基調にしたカラフルな映像や屈託のない青年の笑顔が、この映画の感動をさらに盛り上げる。似たような内容の映画に「つきせぬ想い」というのもあり。「シュリ」と共に韓国映画の実力を知らしめた傑作でもある。

01/12/15/116

今年は例年にない寒波が押し寄せてきて、珍しく冬らしい冬になっている。気象庁ではクリスマス・イブに降雪の予測をしており、ひょっとして今年は「ホワイト・クリスマス」になるのではないかとの期待もある。もっとも地域によっては毎年「ホワイト・クリスマス」を迎えているところもあるわけで、毎度のことながら日本の地域差は大きいなということを感じてしまう。というわけで今週もクリスマス映画。

未来の想い出
マンガ家藤子・F・不二雄の原作を才人監督森田芳光が映画化した傑作SFファンタジー。内容は10年前の過去に逆戻りした二人の女性のサクセス・ストーリーを描いたもので、タイム・スリップを使った一種の寓話になっている。1980年代を演出する往時のヒット曲や小道具、ファンタジーを彩る繊細な映像が抜群!有名マンガ家や異色の出演者が大挙登場するのも楽しい。知名度の薄い作品だが、カップルがクリスマスに見る映画としては最高の仕上がりになっている。

01/12/23/115

12月は師走。年末ともなるとその師走のスピードも加速されるようだ。個人的には12月どころか1年を通じて師走状態。HP開設、メールマガジン発行、株式投資、オーディオ再開、音楽ソフトのネット売却、自宅の引越し、パソコンの買い換え、ADSLとまさに息つく暇もなく走りまくったという感じだ。そんなわけで今年最後の作品は最初から最後まで走りまくる映画。

ラン・ローラ・ラン
10万マルクの資金調達に追われた恋人を救うため疾走するローラ!残された時間は20分!果たして彼らの運命は!・・・とここまでは普通の映画だが、悲劇的な結末を迎えてからも二度もローラが走りまくるという奇抜な展開が面白い。監督はドイツの俊英トム・ティクヴァ(脚本、音楽も担当)。バックに流れるテンポの良いテクノ・ミュージックや映画技術(アニメーション、コマ落としなど)を駆使したハイセンスな演出は、ドイツ映画の新しい流れを感じさせる。映画マニア向きの内容だが、非常に単純明快な作品なので一般の方にもおすすめできる。

01/12/30/115

今年はうま年である。去年はゲートウェイ撤退、狂牛病騒動と何かと牛絡みの話題が多かったような気がするが、今年は干支にちなんで馬絡みの話題が多くなるかもしれない。早速今年からネットでの馬券購入ができるようになるなどの馬絡みの話題がちらほらと。そんなわけで今年最初のネタは馬を使った名シーンを持つ映画から。

隠し砦の三悪人
テレビが台頭してきた頃のいわゆる大作路線の一環として製作された黒澤明によるシネマスコープ第1弾。時は戦国、戦に敗れた侍大将と姫、野良百姓二人を連れた四人が、敵国の包囲網をくぐり抜け同盟国へと脱出しようと計るが・・・。映画はハリウッドさながらの人海戦術を駆使したスペクタクルと難関を次々と突破する機知機略が大きな見所で、水墨画を思わせる隠し砦、野性的迫カに満ちた火祭り、馬上での一刀両断、様式美を感じさせる槍を使った一騎打ちなど、静と動をうまく使いわけたメリハリのある見せ場作りが面白い。夜叉面をした豪姫を不器用に演じる新人の上原美佐。大作には珍しいコミカルな演出も豊富。

02/01/06/115

私事ではあるが、去年の11月に木造から鉄骨の家に移り住んだため寒さを余り感じない快適な生活が続いている。しかし一歩外に出ると、これがシャレにならないぐらい寒い。自身の周辺はともかく日本海側となるとさらに寒さが厳しいようである。経済の方でも今年は1月末から2月にかけて史上空前とも言える大倒産が予想されており、まさに名実ともに「冬の嵐」の様相を呈している。というわけで今週から冬に関係する映画。一発目はズバリ。

冬の嵐
姉妹に似ていることから遺産相続のトラブルに巻き込まれるしがない女優の恐怖を描いたサスペンス映画。監督は「奇跡の人」などで知られる巨匠アーサー・ペン。舞台劇風のストーリーを細部までこだわりぬいた緻密で丁寧な映画作りで見せる。メアリー・スティーンバーゲンの一人三役をはじめ、冬山の山荘、女優という設定が実に効果的に使われている。「猿の惑星」のコーネリアス役で有名なロディ・マクドウォ一ルが味のある使用人役で登場。知名度も薄く地味な作品だが、玄人好みの内容に好感が持てる。

02/01/13/116

子供の頃に住んでいたところを大人になってから再び訪ねてみると、子供の頃に記憶していた建物であるとか遊び場所が随分と小さく見える。この現象について諸説あるが、やはり視点の位置の高低が大きな理由だと言われている。すなわち子供の視点から物を見ると必要以上に周りが大きく見えるのだそうだ。この現象をうまく映像に取り入れた映画もある。冬に関係する映画二発目がそれ。

シャイニング
スティーヴン・キングの原作を大幅に改変して物議をかもした奇才スタンリー・キューブリックによるホラー映画。真冬の豪雪に閉ざされたリゾートホテルでの怪奇現象を扱ったもの。地を這うようなローアングルを実現したステディカム、ホテルの空間や小道具を目いっぱい使った緻密な映画演出、恐怖感をあおるおどろおどろしい現代音楽など。高度な映画技術の集大成はさすがと言わざるをえないが、それがかえってホラー映画特有の恐怖感を削ぐことになるのは皮肉。グロテスクな美術館巡りをする感じで観賞するのがベストだ。

02/01/20/118

アメリカ映画「フランダースの犬」は主人公が死ぬ悲劇的ラストと死んだあとで生き返るハッピーエンドの2バージョンが作られたが、前者を採用したのは世界でも日本だけだったそうだ。それほどまでに日本人はウェットな作品を好む。その背景には降水量の多い気候と無縁ではないと思う。雨がしとしと降る環境が日本人の涙腺をゆるませる大きな原因になっているようだ。こうした気候と文化の密接な関係はカナダにも言える。カナダは降雪量が多く長い冬の間室内に閉じ込められるので、閉塞感や寂寥感を感じさせる作品が多い。というわけで冬に関する映画三発目はカナダ映画。

デッドゾーン
交通事故から5年、長い眠りから目覚めた元教師が他人の未来を予知できる能力を身につけてしまうが・・・。カナダの鬼才デビッド・クローネンバーグの最高傑作。超能力者の悲劇を扱ったSF映画は数限りなくあるが、この映画では主人公が運命を受け入れる様を実に渋いタッチで描いたことが成功の要因。冬景色に佇むクリストファー・ウォーケンの姿が何とも言えない。大統領候補との三度の握手(最初は未遂)とクライマックスの暗殺シーンのど素人ぶりが面白い。オープニングのタイトル・ロゴも秀逸。

02/01/27/118

先日我HPのトップページで不特定多数の方に「痔」であることを告白したが、これはネットならではの匿名性があって初めてできること。顔と顔とをつき合わせていたのではなかなか告白できない。マンガ「けっこう仮面」では顔に覆面をしただけのスッポンポンの女性ヒーローが出てくるが、作者の永井豪曰く「人間が恥ずかしいのは裸ではなく顔だ」とのこと。なるほど言いえて妙である。てなわけで今週は「顔」をテーマにした映画。

顔のない眼
交通事故で顔に大火傷を負った娘のために、美女をさらってきては顔面の皮を剥いで移植する鬼子母神(鬼子父神?)的な医者の狂気を描いたホラー映画。ホラーとしては年代的にも古典の部類に入るものだが、皮を剥ぐ手術シーンをはじめとしたグロテスクな描写や、人間が直面する美と醜、移植医療の限界など、今見ても十分通用する内容になっている。ラストの実父を殺して森の中に消えていく娘の姿は、人間の業を哀感をもって見つめるフランス映画ならでは。モノクロ画像に浮かび上がる白塗りのマスクが印象深い。

02/02/03/119

ここ当分はソルトレークシティーの冬季オリンピックの話題で盛り上がるだろうが、それは北半球でのお話。南半球ではオリンピックよりもやはり「リオのカーニバル」と言うことになるだろう。というわけで今回はこの地上最大のイベントを題材にした傑作映画のご紹介。最近ではリメイク版も公開された。

黒いオルフェ
ギリシャ神話の古典「オルフェとユーリディス」を現代のリオのカーニバルに甦らせたフランス=ブラジルの合作映画。強烈なサンバのリズムとミステリアスなムードが溶け合う実にエネルギッシュな映画で、哀愁を帯びた主題歌(アントニオ・カルロス・ジョビン&ルイス・ボンファ)と共に普遍的な魅力を持つ。映像の情報量はドキュメンタリー映画並に広大で、思わず画面の端々まで見入ってしまう。リオのロケーションが絶大な効果を発揮!1959年度アカデミー、カンヌの二大映画賞に輝く掛け値なしの名作である。

02/02/10/118

このメールマガジンもおかげさまで50回を迎えました。当初は週一回の短い文章を配信するだけだから、無理なくやれるだろうと高をくくっていたのだが、やってみるとこれがなかなか大変。一番苦労するのはネタ探しだ。ネタになるような映画にぶち当たるまで10本以上見るなんてことはザラ(ただしほとんど早回し鑑賞)。このメールマガジンの存続もネタになるような映画をいくつ見れるかにかかっている。というわけで今週は50回を記念して50という数字に関係した映画。

ザッツ・エンタテインメント
MGM創立50周年記念として作られたMGMミュージカルの豪華なハイライト集。当時のセットを背景に当事者の思い出話なども挿入される。映画はジーン・ケリー、フレッド・アステアなどの往年のスターたちの至芸と物量投入型の華麗な映像が大きな見所で、付加価値としてはMGMミュージカルの代表曲「雨に唄えば」の4ヴァージョン。ケーリー・グラント、ジェームズ・スチュワート、クラーク・ゲーブルの大スターたちの迷唱(笑)。さらにモノクロ時代の映像やセットの凝りようが、カラー映画と並べて見ると際立ってしまうのが面白い。ハリウッド黄金時代を知らない若い映画ファンにおすすめ。

02/02/17/116

3月から公開される映画「ロード・オブ・ザ・リング」が大評判だ。全米で大ヒットというだけでなくアカデミー賞でも多数の部門にノミネート。評論家も絶賛している。この映画のポイントは監督に当たっているピーター・ジャクソンだろう。彼はホラーを得意とするニュージーランド出身の変り種。主に映画マニアの間でじわじわと評価が高まり、ハリウッドに渡ってメジャー・デビュー。今回のような大作を任されるようになった。デビュー当時から彼を追いかけていた人は感慨深いものがあるだろう。逆にアク抜きされてがっかりしている人も多いかもしれない。というわけで今回は彼のデビュー作と最高傑作のご紹介。

バッド・テイスト
人間に変身した人食いエイリアンと政府から派遺された秘密工作員がスクリーン狭しと大暴れ!ニュージーランドの鬼才ピーター・ジャクソンの監督デビュー作。限られた予算の中で知恵を絞りぬいて描かれる死闘の数々は抱腹絶倒の雨あられ。監督自身も映画の中で、マシンガン、チェーンソー片手に狂喜乱舞の殺戮ショー!家ごと宇宙の彼方へ飛んで行ってしまうラストは呆気に取られることうけ合い(゚o゚)。 インディーズなではのハチャメチャさ爆発!映画マニア必見作だ!なお技術的にはカメラの移動感が秀逸。

乙女の祈り
ニュージーランドの鬼才ピーター・ジャクソンによるサイコ・サスペンス映画。妄想好きの少女たちの間で芽生える同性愛と二人だけの世界を実現するために母殺しを実行するまでの経緯を描いたもの。CGを使ったグリム童話風の幻想的なイメージや、ホラー映画で培ったブラックなタッチ&カメラの移動感が生むエキセントリックなムードが大きな見所で、実話の映画化という枠にとらわれない自由奔放な表現が面白い。1950年代を背景にした事件だが、近年の少年事件と共通する部分も多く、普遍的な題材と言える。

02/02/24/116

たくさんある映画の中から自分の好みに合う映画を選ぶコツは人それぞれだと思うが、レンタルビデオ店で俳優別に商品が並んでいるところを見ると出演している俳優を基準に映画を観る人が多いのだろう。個人的には映画監督を基準に、それもデビュー作、あるいはデビューする以前の短編映画を中心に映画を観ることがある。なぜならデビュー作、短編映画は知られざる傑作の宝庫だからだ。今週はそんな映画の中からの一本。

あこがれ
フランス・ヌーヴェル・ヴァーグを代表する作家、フランソワ・トリュフォーによる習作的短編。少年時代に体験する年上の女性への淡い恋とそれにともなうほろ苦い想い出をみずみずしいタッチで綴ったもので、自転車のサドルを使ったフェティシズム、ベルナデット・ラフォンのはじけるような健康なお色気と、露骨な性描写が全盛の現代の恋愛映画には見られないオブラートに包まれた官能的描写が楽しめる。モノクロ映像とロケーションの効果を生かした木漏れ日の斜光も絶品。

02/03/03/117

デビュー作、デビューする以前の短編映画に面白い映画が集中する理由は予算にあるように思う。予算の規模がでかいメジャー映画は作品を面白くすることよりも予算回収が大きな目的になる。そうなると最大公約数に受ける無難な映画しか作られない。逆にデビュー作は金がないぶん頭を使うってな感じで、アングラ感覚のぶっ飛び映画や繊細な工芸品のような映画が多く作られる。というわけで今週はハリウッド・デビューする以前のキューブリックを取り上げる。

非情の罠
奇才スタンリー・キューブリックが放つ長編第2弾。美女、ボクサー、情夫の三角関係をクールに描いた犯罪ドラマ。監督自身も駄作と認める凡庸なB級作品・・・がしかしカメラマンの経歴を生かした緻密でシャープな映像は今見ても余り古さを感じさせない見事なもので、特にクライマックスのマネキン倉庫の格闘シーンとネオン街のタイトな夜間撮影はモノクロ画像の効果もあって鮮烈!向かい合った裏窓を使った劇的効果など、偉大な映像作家は若い頃から只者ではないことを立証する作品でもある。

02/03/10/120

3月も中旬になって世はすっかり春。このメールマガジンも発行を開始してから1年をこえた。四季にちなんだ映画も夏、秋、冬と来て最後は春。まずは「プラハの春」で有名なチェコスロバキアから。それも春の芽生えを感じさせるポルノ映画を取り上げる。

春の調べ
性の解放をテーマにしたチェコスロバキアのポルノ映画。ポルノ映画そのものは無声映画時代から地下でたくさん作られていた(ドイツ映画「ブルーレトロ1930」参照)ものの、一般公開作では初めて女性の全裸が出てきたことで記憶される。当時まだ性描写に厳しい時代だったため賛否両論が分かれた衝撃作だったようであるが、今見ると性描写そのものは大人しいくらい。むしろ今となっては現代でも通用するヘディ・キースラーのルックスと、無声映画時代の技法を踏襲した光と影の繊細な映像に価値がある。当時の性風俗を知る上での貴重な資料としてだけでなく、珍しさにおいても一級品と言える。

02/03/17/122

今年も早3ヶ月が過ぎるが、この間話題を独占したのが鈴木宗男だろう。政治腐敗云々より宗男の特異なキャラクターと「宗男ハウス」「疑惑の総合商社」などの数々のキャッチコピー(?)が国民の耳目を集めたものと思われる。腐敗そのものは太古の昔から、どのような業界にも存在することであり、それほど目新しいものではない。反体制を唱える映画人が多い映画業界では何度となく取り上げられている題材だが、最高傑作はこれだろう。

白い巨塔
医学界の政治的腐敗を描いた日本映画屈指の名作。山崎豊子のベストセラー小説を名匠山本薩夫が完全映画化。教授の椅子をめぐる政治的陰謀や誤診問題によるスリリングな裁判シーンも見応えがあるが、やはり財前助教授を演じる田宮二郎のニヒルでドライな役作りが秀逸。悪が栄えるピカレスク的結末や大名行列の様な回診シーン(実際に存在する)も面白い。映画は大ヒットし、後にテレビでシリーズ化。医学界に権威主義的な体質が続く限り、この映画の普遍的価値が衰えることはない。

02/03/24/118

パシフィコ横浜で「ロボデックス2002」が開催された。いわゆる産業用ロボットではなく、人間共存型ロボットの見本市である。21世紀の日本の基幹産業として注目度は大きいが、ロボットはもともとボヘミア語で「労働者」という意味で、イメージとしては産業用ロボットに近い。それを人間と共存させようというのは世界でも日本独自の発想と言える。というわけで今週は本来の「労働(レイバー)者」という意味でのロボット・アニメのご紹介。

機動警察パトレイバー
OVAで人気を博したシリーズの劇場版第1弾。東京の都市開発に絡む破壊的陰謀とそれを阻止しようとする機動警察との攻防を描いたもの。細部まで描き込まれた高密度な作画、旧約聖書の記号化、工学的なディテールの緻密さといったマニアックな表現に加え、未来都市と日本の古い町並みが混在する押井ワールド。当時の最先端のハイテク情報が集約されたリアリズムが圧倒的!押井アニメは気難しい作品が多いのだが、この作品はサスペンスやアクションも充実しており、エンタテインメントとしても一級品だ。

02/03/31/122

先週、ハリウッド黄金時代の巨匠ビリー・ワイルダーが亡くなった。ここ20年ほど映画界から遠ざかっていたので、どうなのかなあと思っていたら、マスメディアの方ではそこそこ訃報に紙面を割いてくれた。若い人にとってビリー・ワイルダーと言うと、オードリー絡みで彼の作品に接する機会が多かったのではないだろうか。というわけで今週は二本立て。

麗しのサブリナ
資産家の長男で仕事一筋の策士家ライナス(ハンフリー・ボガート)、政略結婚に巻き込まれるプレイボーイのデイビッド(ウィリアム・ホールデン)、そしてお抱え運転手の娘サブリナ(オードリー・ヘップバーン)が繰り広げる玉の輿風ロマンティック・コメディ。職人ビリー・ワイルダーの十八番とも言える内容で、脚本、演出、BGMとも申し分ない。エディス・ヘッドによるスタイリッシュな衣装デザイン(ただし有名になったサブリナパンツは別の人が担当)やパリが良く似合う女優オードリーに加えて、車内用携帯電話、プラスチック製のハンモックなどの珍しい小道具の使い方がニクイ。

昼下がりの情事
不倫調査をする私立探偵の娘と大富豪のプレイボーイ。彼らの恋愛を恋の都パリを舞台に描いたロマンティック・コメディ。不倫ネタというとドロドロした映画が多いのだが、この映画は一流の料理人ビリー・ワイルダーによって実におしゃれな味付けがされている。練りに練られた巧妙な脚本に加え、美しく繊細なモノクロ映像。そして大ヒットとなったBGMの「魅惑のワルツ」などなど。例えて言うなら当時の職人達が織り成す最高級のワインをぜいたくに飲み干す感じ。そのうえでオードリー・ヘップバーンというキュートなデザートがついてくるのだからたまらない。古き良き時代の極上の逸品をご賞味あれ。

02/04/07/124

識者へのアンケートで2005年以降に有力となるネット・コンテンツは何か?との問いに、ほとんどが「映画以外の動画」と答えたと言う。ひとつはテレビ局が所有する膨大なアーカイブ。もうひとつは素人が作る映画、フラッシュ・ムービーなどだ。やぴ兄は最近そのフラッシュにはまっている。正直下手な映画を見るより素人が作ったフラッシュの方が面白い場合がある。てなわけで今週の映画はズバリ。

フラッシュ
ニューヨーク・インディペンデント・フィルム・フェスティバルのオープニングを飾った話題作。全編トイレを舞台にした異色のセミ・ドキュメンタリー映画で、誰もが考えつきそうなネタなのに今までなかった《コロンブスの卵》的作品と言える。映画は男女のトイレの中が交互に映し出され、いかにもトイレで交わされそうな卑俗な会話が延々と綴られる。余り面白い映画とは思えないが珍しさで買える!なお「フラッシュ」とは劇中「水洗」の意味で使われている。

02/04/14/125

「シンプル・イズ・ベスト」という言葉がある。パソコンを使っているとそれを痛感する。なぜなら機能がシンプルなソフトほど使いやすいからだ。やぴ兄が文書を打ち込むときはほとんど「メモ帳」である。「ワード」は使ったことがない。余りにも無駄な機能が多すぎる。多機能は複雑化する現代においてデメリットにはなってもメリットにはならない。映画でもそうだ。凝った映像、込み入ったストーリー。昔はそんな映画が優れていると思っていた。今は違う。てなわけで今週はこれ以上ないと言うぐらいシンプルな映画。

CUBE
奇妙な正立方体の中に閉じ込められた6人の男女。彼らのサバイバルをゲーム感覚で綴ったカナダ映画。監督はこれがデビュー作となるヴィンチェンゾ・ナタリ。長い冬に閉ざされるカナダ特有の寂寥感や閉塞感をそのままビュジュアライズしたような作品で、SF、ホラー、サスペンス、不条理、サイコと、あらゆる要素を取り揃えたジャンル分け不可能な作品になっている。とりわけ面白いのは不安感を増幅させる5W1Hを省いた演出と、低予算を逆手に取った幾何学的なセットで、そのスケール感は巨費を投じたハリウッドの大作と比較しても何ら遜色はない。ただ観賞後の爽快感はないので好みは分かれそうだ。

02/04/21/128

あとひと月ほどで、ワールドカップ・サッカーが開催される。大昔の「東京オリンピック」「大阪万博」のような国をあげてのお祭り騒ぎになるかと思いきや、今のところ思ったほどの盛り上がりになっていない。これはいかんというわけで、やぴ兄もささやかながら盛り上げ役をかって出ようと、しばらく日韓共同開催記念・韓国映画特集を組むことにした。まず一発目は韓国映画が日本で最初に大ヒットした記念碑的作品から。

シュリ
南北朝鮮の分断を背景にした韓国の熱情的アクション大作。北の女性スナイパーと韓国情報部員との悲恋を軸に、北の精鋭部隊による液体爆弾を使った大掛かりな陰謀が展開される。映画そのものは荒唐無稽なストーリーながら、現実に南北が対峙した緊張状態にある中で制作されているだけに極めて説得力のある内容になっている。特に筋肉細胞を硬直化させたような出演者の大熱演と、カメラを左右に振り回して撮影されたアクション・シーンは目が血走る物凄さだ!なお「シュリ」とは朝鮮に生息する魚の名前で、劇中でも魚や水槽といった小道具が効果的に使われている。

02/04/28/132

韓国映画が面白い理由のひとつに北朝鮮という敵がいることが挙げられる(映画によっては日本が敵になっている場合もある)。かつてアメリカにもソ連という敵がいて、ソ連を悪者にした映画を随分作ってきた。ソ連崩壊後は明確な敵がいなくなって、アメリカ映画も悪者探しに四苦八苦。今ならさしずめイスラムが敵といえるかもしれないが、イスラムは力が弱すぎて悪者にならない。敵が強大であればあるほど話は盛り上がると思うのだがどんなものか。てなわけで今週も韓国映画。「シュリ」と同じく南北分断もの。

JSA
韓国と北朝鮮の軍事境界線、38度線にある共同警備区域(JSA)。その緊張状態の中、突如原因不明の射殺事件が発生した!映画は真相が証言者によって食い違う「藪の中」風の展開に、男同士による「ロミオとジュリエット」を付け加えたもので、骨太な中にもほろりとさせられる味わい深い内容になっている。ストーリーの運びはやや難があるが、敵の反射光にまどろむ韓国兵の描写やラストのスチール写真のカメラ移動など、随所に映画ファンをうならせる映画演出の目白押しである。

02/05/05/131

韓国映画は色遣いに特徴がある。それは赤、青、黄の原色を多用することだ。これは個々の監督の作家性をこえて韓国映画に共通して見られる。一種の民族性だと言ってもいい。日本映画は色に共通した特徴はないが音声に特徴がある。それは音を歪ませたり、はっきりした口調でしゃべらないことによって、セリフを聞き取りにくくさせていることだ。これは録音技術が悪いのではなく、演出としてわざとやっているのだそうだ。さすがに世界に冠たる聴覚民族だけのことはある。てなわけで今週も韓国映画。

イルマーレ
海辺に建てられた「イルマーレ」の郵便ポストを通じて、2年の時を隔てた男女の愛の交流が始まる。映画は「(ハル)」「ユー・ガット・メール」などの流れをくむ、遠隔双方向ドラマのタイムパラドックス・バージョンで、男女のやりとりがインターネットではなく手紙であるところが逆に新鮮。淡いトーンの中で映える韓国映画特有の赤・青・黄の原色、海上に浮き上がる「イルマーレ」の幻想的な映像はまるで印象派絵画のよう。音楽も印象派を思わせるような曲が随所に使われ、これはさしずめ印象派映画とでも言うか。

02/05/12/127

先週、ネット界を席巻した話題は何と言っても「2ちゃんねる」で起こった猫虐殺の実況だろう。今後無線LAN、高速回線が普及してくると、この手の「残酷ショー」が増えてくるものと思われる。こういった事件が起こるたびに出てくるのが「だからネットは危険」という短絡的な意見。個人的にはネットが危険なのではなく「人間」が危険なのだと言いたい。映画もそうだが、映画を真似た残虐事件が起こると、すぐ映画が悪いと言われる。これも映画が悪いのでなく「人間」が悪いのだ。

テシス
映像学科の女子大生が、教授殺害事件をきっかけに猟奇趣味の殺人鬼に命を狙われる・・・。映像が持つ危うさと人間の残酷性をスタイリッシュな感覚で綴ったサスペンス映画の佳編。監督はスペインの俊英アレハンドロ・アメナバール。スペイン映画というと最大公約数を無視したローカル色の強い作品が多いのだが、この映画は明らかにハリウッドを意識した作り。劇中でも俳優のセリフを借りて、ハリウッド的なエンタテインメントの重要性を力説している。名子役アナ・トレントが美しい大人の女性となって登場。意外性のないオチが返って意外とも言える。

02/05/19/129

「スター・ウォーズ/エピソード2」がサマー・シーズンをにらんで全米で一斉公開。早くもお祭り騒ぎになっている。映画では「007」シリーズや「寅さん」シリーズといった人気シリーズが他にもあるものの、「スター・ウォーズ」はそのスケールにおいて桁違いである。当然亜流映画も数多く作られ、中には本家もびっくりの珍作もあったりする。

未来忍者
ゲーム会社ナムコの映画製作第1弾にして雨宮慶太監督デビュー作でもある奇想天外なSF時代劇。作風は「スター・ウォーズ」や日本特撮映画をシェイクして時代劇の器にてんこ盛りにしたような感じ。面白いのは黒澤明の時代劇に影響を受けた「スター・ウォーズ」をさらに時代劇風に焼き直しているところで、日米文化交流が意外なところで密接なのだと認識させられる。光学処理された手裏剣や奇妙なルックスの銃器、火砲が面白い。ナムコに気を使ったせいか、気合を数値で表すようなゲーム感覚の演出が散見される。

02/05/26/129

先日、便秘を患ったため食生活を大幅変更。お菓子やジュースをやめ、食物繊維(穀物、果物、野菜)を多くとるようになった。その結果体調が大幅改善。便秘が治っただけでなく、贅肉がとれて、お肌にも艶がでてきた。快食快便。いい事尽くめなようだがおならが良く出るのが玉に瑕。今まで「食」に気を使ったことがなかったので新しい発見がいっぱいある。というわけで今週は「食」を題材にした映画。

料理長(シェフ)殿、ご用心
料理雑誌に取り上げられた名シェフたちが次々と謎の死を遂げる!料理界を舞台にしたミステリー仕立ての異色コメディ。製作国はアメリカなのだが、主要舞台がロンドンでしかもキューブリック御用達カメラマン、ジョン・オルコットが撮影を担当しているので、一瞬イギリス映画かと思ってしまう。笑いもイギリス風のブラックなタッチで、そのあたりがこの映画のユニークさを十二分に際立たせている。映画音楽の巨匠ヘンリー・マンシーニによる軽妙酒脱な音楽。画面に登場する数々の料理(ポール・ボキューズ担当)も豪華!映画ファンの間での隠れた人気作でもある。

02/06/02/130

ついにマイHPの掲示板に「荒らし」が来訪。これにより名実ともに「やぴ兄・どっと・こむ」も人気サイトの仲間入り。有名サイトの掲示板では必ず一度や二度見かけるネットの名物だが、まさか自分の掲示板で「荒らし」を拝めるとは思わなんだ。というわけで「荒らし」来訪記念。「嵐」をクライマックスにした映画。

ナポレオン
フランス無声映画界の巨匠アベル・ガンスの歴史的超大作。ナポレオンの血気盛んな少年期からイタリア遠征までの一代記を描いたもの。上映時間4時間に及ぶ長尺ながら、全編捨てるところのない映像の一大パノラマが大きな見所で、技術的にはハイスピードな編集を駆使するラピッド・カッティング、多層的な描写を可能にした画面分割、モノクロ映像に着色をほどこした色彩効果など、時代を先取りしたような数々の斬新な映像テクニックが凄い。特にナポレオンのコルシカ島脱出と恐怖政治に揺れるフランス国会を重ね合わせた有名な《二つの嵐》、シネラマの先駆とも言える三面スクリーン(ポリビジョン)による効果は絶大で、もはや言葉による賛辞など光彩を失ってしまう。

02/06/09/128

何だまだ出てなかったのかと思ってしまうが、黒澤映画のDVD化がついに決定。黒澤映画というと重厚長大でシリアスといったイメージが強いが、意外なほど笑いの要素が多いのが特色。監督本人もかなりのお笑い好きだったようで、「エノケン」「所ジョージ」といったコメディアンを好んで起用していた。黒澤映画の「笑い」については作家論でも余り指摘されてないので、そういった視点から作品を見直すと面白いかもしれない。

用心棒
ヤクザの抗争で荒れる宿場町を背景に凄腕の用心棒として雇われた素浪人「三十郎」が大活躍!巨匠黒澤明が放つ時代劇の代表的傑作!ジャズのイディオムを取り入れた冒頭の音楽(佐藤勝)を筆頭に、ピストル、大砂塵、ゴースト・タウンなどの西部劇的表現。リアリティを極限にまで追求した殺陣など、それまでの大衆演劇をそのまま受け継いだような浪花節的な時代劇とは一線を画す。黒澤一流のダイナミックなモノクロ映像に加え、東野英治郎が経営する宿屋を拠点に宿場町の全容がわかるユニークな演出も面白い。

02/06/16/128

ADSLによって常時接続、高速回線が当たり前になってきてからネット界にも変化が出てきた。出会い系サイトの利用者激減、メルマガ発行サイトの淘汰。要するにメール系コンテンツが縮小してきたのだ。メールマガジンが威力を発揮するのは、電話代節約のためにオフラインでも情報収集ができるということであり、常時接続が当たり前になればその必要性はほとんどなくなる。まぐまぐが「お買い物まぐまぐ」を始めるのも経営の苦しさのあらわれと見てよい。というわけで今週は「お買い物」にちなんだ映画。

ショッピング
鉄鋼不況のあおりで将来に希望を持てなくなった若者たち。彼らの刹那的享楽と権力闘争を暗いタッチで描いたイギリスの青春映画。監督はポール・アンダーソンでこれが監督デビュー作。スタイリッシュな映像を売りにしている監督だけに、この映画も相当に凝りまくった未来派感覚の映像が存分に楽しめる。雑然とした落書きや廃墟と化した鉄工所がポップ・アートやモダンなオブジェに見えてしまうから不思議。キャラクターは紋切り型、ストーリーも平凡だが、眺めている分には飽きずに観賞できる。

02/06/23/126

マンガのダウンロード・サービスが好調だ。面白いのは男性が少女マンガを、女性が少年マンガを注文するケースが多いのだそうだ。理由は店頭で買うのが恥ずかしいからだとか。それにしてもこれだけはっきりと性別を分けて商売するソフトも珍しい。映画はもとより、ゲーム、音楽などではほとんど見られない。またマンガは世界中にあるが、少女マンガというジャンルがあるのは日本だけだそうだ。というわけで今週は少女マンガに関係する映画。

寄宿舎
神学校における未成年の同性愛を描いたフランス映画。天使のような美しさを体現した美少年ディディエ・オードパンの存在が話題となったが、それ以上に驚くのは文学趣味に彩られた映画全体の格調の高さ。神学校の厳粛な雰囲気をとらえた重厚なモノクロ映像や血の契り、シンメトリー構図などの宗教的表現によって、禁断の愛と言った世俗的な枠を超えた一種の殉教(愛の神エロスに魂を捧げたような)ドラマになっている。なおこの映画は竹宮恵子、萩尾望都などの日本の少女マンガ家に多大な影響を与えた作品としても知られている。

02/06/30/126

今日は七夕である。七夕はロマンスの古典といってもいいほどの題材だから、随分映画になってるのではないかと思ってしまうがあまり思い当たらない。個人的に見た中ではたった1本しかない。その1本も一般にはほとんど知られてない作品だ。だがその作品が多くの映画ファンに愛され、「幻の映画」として語り継がれ、伝説になった。七夕伝説が生んだもうひとつの伝説。それは。

薄れゆく記憶のなかで
七夕伝説を下敷きにした異色の青春ラブ・ストーリー。映画は前後半の二部構成になっていて、前半岐阜の自然をバックにした静かな恋愛描写が続くものの、後半一転してドラマティックになり、ラストはその余りのほろ苦い結末に観る者の胸を締めつけることとなる。本のタイトルを使った軽妙な心理描写、悲劇を暗示する風船、天の川に見立てた長良川など、細部まで神経が行き届いた映像や演出はまるで繊細なガラス工芸品を見る趣。最低でも二度は見たくなる映画だ。なおこの作品は一部の映画ファンに熱狂的に支持されていることでも知られている。

02/07/07/126

先日TUTAYAに行ったら、「シックス・センス」のレンタルDVDがずらりと並んでいた。この映画のDVDレンタルはTUTAYAと映画会社との間で随分もめていただけに、DVDレンタル解禁の試金石と目されていた。事実上解禁になったことで、今年からDVDレンタルがかなり本格化するものと思われる。読者の方には安いDVDプレーヤーを買っておくことをおすすめする。ただしDVDレコーダーの方は待ったほうが良い。値段が高いうえに、方式が乱立していてどっちの方向へ傾くか分からないからだ。

シックス・センス
死者を見る能カ「第6感」を持つ少年と、患者の治療に失敗して狙撃された精神科医との不思議な交流を描いたホラー映画。ポイントはやはりラストのどんでん返しで、予備知識なしで見るのとラストが分かった後で見るのとでは、映画に対する印象が随分違うところが面白い。幽霊への恐怖を克服する少年の物語が一転、さまよえる精神科医の悔恨の物語に変貌する様は、さしずめ「ルビンの盃」(図と地の反転図形)を見るようである。音響、白い息、影を使った細かい恐怖演出。ヘイリー・J・オズメントの名子役ぶりも特筆ものだ。

02/07/14/126

先週、フランスで起こったシラク大統領暗殺未遂事件は、革命記念日パレードの最中に起こったことから、まるで映画「ジャッカルの日」みたいと報道された。ただ暗殺というのは、暗殺したというのがわからないように事故や自殺にみせかけて行うのが一般的で、このように大衆の見ている前で露骨にやるのは、暗殺というよりパフォーマンスに近いと言える。

ジャッカルの日
フレデリック・フォーサイスのベストセラー小説を完全映画化。内容はドゴール大統領の命を狙う謎のスナイパー「ジャッカル」と、それを阻止しようとするパリ警察の攻防を描いたもの。監督はドキュメンタリー出身の名匠フレッド・ジンネマン。この映画でも軽量ライフルの装備や偽造パスポート作成などの、緻密なプロットを用いてハードなリアリズムを徹底。時計を使った刻一刻と迫る緊迫感の演出や、精密機械のようなスナイパーを演じたエドワード・フォックスの存在が印象的。クライマックスの解放記念日パレードの暗殺シーンは手に汗握る物凄さ!スイカを人間の頭部に見立てた死のリハーサルも出色。

02/07/21/126

つい先日、DVDの売上げでミリオンセラーを記録した「千と千尋の神隠し」に画像が赤味がかっているとの苦情が殺到。販売元は仕様であることを理由に苦情を受け付けない方針で、ネットを中心にさらなる物議をかもしている。やぴ兄が店頭で見た限りでは、確かに全体に赤っぽく、これじゃあ苦情が殺到するのも無理ないなあという感じ。映画では無声映画時代の頃に火事などの場面に赤い色を使う色彩演出が良くあったが、このケースの場合、画面を赤くすることにほとんど意味がない。というわけで今週は赤い画面を効果的に使った映画。

ちぎれた愛の殺人
「人魚伝説」でカルト的な人気を得た池田敏春が、異才石井隆を脚本に迎えて放つ異色のサイコ・サスペンス映画。内容は連続バラバラ殺人事件の捜査線上に浮かび上がった美大助教授とその妻に立ち向かう女刑事の奮闘ぶりを描いたもの。赤と青の色フィルターを交互に使い分けた鮮烈な映像と、三次元的に展開されるアート感覚の構図が大きな見所で、出雲の海洋伝説とサイコ・サスペンスを絡めたイタコ風の味付けが一風変わった雰囲気を醸し出している。佐野史郎の怪演もあって全体的な印象はほとんどホラー。職人的な映画作りを好む向きには推奨品だ。

02/07/28/127

明日いよいよマクドナルドが59円になる。59円という値段は高いのか安いのか。マクドナルドに縁のない人には余りピンとこないかもしれないが、先日30年前のTVアニメ「エースをねらえ!」を見てびっくり!主人公が食べに行くハンバーガー屋の値段が1個100円なのである。30年前のものより今の値段の方が41円も安いのだ!

エースをねらえ!
出崎統=杉野昭夫コンビによるTVアニメ・シリーズの一作目。テニスを題材にした汗と涙のシンデレラ・ストーリー。テニスコートで展開される激しいバトル以上に、オシログラフのように乱高下する主人公の心理描写が大きな見所。モノローグを多用することによって、観る者とアニメの主人公とが一体となって喜びや悲しみを共有できるところが面白い。家庭描写の排除。エキストラ、背景をラフに描くことによる情報量の削減。全編にわたって使用される少女マンガの記号(目のキラキラ、花、蝶など)が効果的。後半絵のリアリズムが増すごとにアニメがつまらなくなってくるのは残念。トータルでは力作である。

02/08/04/128

お札のデザインが変わる。野口英世、樋口一葉。相変わらず明治時代の人物だ。年号も平成になったのだから、そろそろ昭和の人物を使ってもいいのではないか。となると映画&アニメ関係者、黒澤明、手塚治虫、宮崎駿あたりが有力。さらに時代が進むとネット関係者、孫正義、西村博之あたりが有力。まあその頃になるとお札は消滅して、電子マネーオンリーになっている可能性が高いが。というわけで今週はお札を効果的に使った映画。

現金に体を張れ
奇才スタンリー・キューブリックのハリウッド・デビュー作。競馬場を舞台にした大掛かりな現金強奪事件を扱ったもの。面白いのは事件の概要を様々な角度から時間を繰り返して描いたところで、数学的構造を持った極めて珍しい犯罪ドラマになっている。キューブリック独自のライトや鏡を使った光のマジックや、カメラの移動感をうまく使ったシャープな演出が見事。ラストの現金が風に乗って宙に舞い上がるシーンは、主人公の運命を突き放したように見つめるキューブリック・アイならでは。ジェラルド・フリードの管と打楽器を前面に押し出したスリリングな音楽も面白い。

02/08/11/128

現在ハリウッドではデスマッチ映画の企画が続々と進行中である。「バットマンVSスーパーマン」「プレデターVSエイリアン」。さらに「エルム街の悪夢」のフレディと「13日の金曜日」のジェイソンの対決も企画されている。こういった夢の対決は確かに話題性はあるものの、いかにもネタ不足に陥っているようで余り感心しない。日本でも「用心棒と座頭市」のようなデスマッチ映画が何本かあるが、いずれも駄作。ただしアニメに一本だけ良作がある。

ルパンVS複製人間
人気TVシリーズ「ルパン三世」の劇場用第1弾。世界支配を狙う不老不死の怪人「マモー」と死刑にされたはずの「ルパン」との対決を描いたもの。物語は当時まだ一般になじみのなかったクローン技術をテーマに、太古の昔から現代、世界的規模から宇宙空間まで展開し、歯切れの良い奇想天外なアクションがテンポ良く乱打される。劇中に挟まれる映画や絵画のパロディ、小道具の使い方の妙やエンディングを飾る三波春夫の「ルパン音頭」も楽しい。後の劇場用第2弾「カリオストロの城」と見比べると面白いと思う。

02/08/18/128

レニ・リーフェンシュタールの名が久しぶりにマスコミに登場した。1902年生まれ。舞踏家から女優へ、さらに映画監督へと転進して、ベルリン・オリンピックのドキュメンタリー映画「民族の祭典」「美の祭典」で名声を得る。のちにナチスとの関わりで糾弾され、不遇の時を過ごした後、今年百歳を迎えたのを期に新作映画を発表する。まさに映画史に残る伝説の人であり、その波乱の人生は「レニ」という映画にもなった。というわけで今週はレニが主演した山岳映画の傑作を取り上げる。

聖山
ドイツ山岳映画の父と呼ばれるアーノルド・ファンクによる映画史上初の長編山岳劇映画。アルプスの雄大な自然をバックに、愛、友情、三角関係、そして死が描かれる。1年半を費やしたと言われるロケーションの効果もさることながら、見せ場の豊富さも大きな特色。スローモーションで撮影されるスキー・ジャンプ、スピード感あふれる冬山の滑走、サント北壁の登頂、猛烈な吹雪、レニ・リーフェンシュタールの舞踏、かがり火を使った《光と闇》の救出劇、さらにドイツ表現主義風の幻想シーンが観る者を釘付けにする。本物にこだわった配役、撮影だからこそ成し得たとてつもないド迫力!映画的興奮の全てがここにある!

02/08/25/128

今何かと話題のUSJ(ユニヴァーサル・スタジオ・ジャパン)に行ってきた。目玉のアトラクションはほとんどがお客を驚かす「びっくり・どっきりショー」で、それぞれに面白さはあるが、二度三度繰り返して見たいとは思わない。アトラクションの売りが《驚き》にあるため、ネタがわかってしまうと面白さが半減してしまうからだ。リピーターが少ないのはそのせいだろう。リピーターを増やそうと思ったらもっと別のアプローチが必要だ。というわけで今週はテーマパークを題材にした映画。

ウエストワールド
アメリカ西部、中世ヨーロッパ、古代ローマを再現したハイテク・テーマパークで突如ロボットが反乱!人類の英知を凝縮した享楽の宴が血の海と化す!SFらしい卓抜なアイデア、ディテールの細かさもさることながら、「荒野の七人」で黒ずくめのガンマンを演じたユル・ブリンナーを《殺人マシンと化したロボット》として登場させるユニークなキャスティングが抜群!ロボット修理工房がまるで病院の手術台になっているところなどはメディカル出身のマイケル・クライトンならでは。手なれた映画演出は監督デビュー作とは思えないほどだ。

02/09/01/128

USJの人気アトラクションの中に「ターミネーター3D」がある。三次元的な立体映像による究極のバーチャルリアリティが売り。古くは「肉の蝋人形」。最近ではアイマックス・シアターなどでも体感できる。これがもう少し進むと、視覚を通さずに直接脳に情報を送り込む「スーパー・バーチャルリアリティ」が実現される。そうなると現実と虚構との区別は全くつかなくなる。それがいいことなのか悪いことなのかは分からないが、時代の流れは着実にそういう方向へ進んでいると言える。

ターミネーター
ロボットが支配する近未来。人類の反乱軍のリーダーを抹殺するため、ロボットが立てた計略は、過去に戻って産みの母親であるサラを殺すことだった。低予算ながら奇抜なアイデアと執拗なアクションで大ヒットになったSF映画。面白いのは未来から送られてきた無表情な殺人マシン「ターミネーター」にアーノルド・シュワルツネッガーを起用したことで、鍛え上げられた肉体を持て余していた彼にとってまさに当たり役。少年によって撮影されたサラの写真が、後に反乱軍の兵士カイルを現代に呼ぶきっかけになるなどの細かい芸の数々も魅力的。

02/09/08/127

消息不明になっていたあざらしの「タマちゃん」が再び姿を現した。まさに神出鬼没。いろんな意味で話題にはこと欠かないが、「タマちゃん」が来訪して改めて分かったことは日本の河川は相変わらず汚いということ。水質汚染が問題になって随分になるが、一向に改善されていない。日本の産業構造が全く変化していない証拠だろう。日本の中心産業が工業から観光産業にシフトすれば、河川はあっという間に美しくなるぞ。というわけで今週は汚れた河に関係する映画。

汚濁された河で死体役を演じた青年が、それをきっかけに首が曲がらなくる奇病に取り憑かれる。青年は同性愛の性癖がある父親、アダルトビデオ屋と不倫する母親と共に奇病を治すための治療行脚に奔走する。主演俳優が体験した実話を元に、家族の崩壊と都会の孤独感をドライなタッチで描いた台湾の俊英ツァイ・ミンリャンの傑作。長回しによる淡々とした表現、説明的なセリフや映画音楽の省略、コミカルな描写、引いた視線によって、悲惨極まりない物語を実にあっけらかんと語っていく。細かい絵作りもさることながら効果音の使い方も絶妙だ。

02/09/15/128

DVDショップを訪れると、新作と並んでマリリン・モンローの出演作がずらりと並んでいた。彼女の出演作をまとめたDVD−BOXを中心にキャンペーンをやっているのだそうだ。セックス・シンボルとしての華やかな面が前面に出がちだが、彼女の私生活は不幸の連続で、精神的にもかなり屈折した面があったようだ。大量の睡眠薬を服用して死に至った最後などは、彼女が精神的にかなり参っていた証拠だろう。普通そういった影の面は押し殺して演技に没頭するのが普通だが、彼女の場合それが画面上にもろに出てくる。演技ではなく地でやっていたのではないかと思えるほどだ。それがまた彼女の魅力を一層際立たせるから不思議である。ハリウッドが生んだ稀代の女優たる所以だろう。というわけで今週はモンロー出演作の中から最高傑作と遺作の二本を紹介する。

お熱いのがお好き
ジャック・レモン、トニー・カーティス、マリリン・モンローが禁酒法時代のシカゴ→フロリダを舞台に繰り広げる艶笑コメディ。監督ビリー・ワイルダーが最も脂が乗り切った頃の作品で、連射砲のようなギャグの連発はさしずめ笑いのエッセンスの集大成ともとれる。女装するレモン、カーティスも面白いがやはり主役はモンロー。船上でのディープ・キッスはセックス・シンボルとしての面目躍如。またそれ以上に魅力的なのは、彼女の私生活での不幸と映画での役柄がダブるところで、けなげに明るく振舞う姿は実にキュート。モンローの出演作ではまぎれもなくベストだろう。

荒馬と女
クラーク・ゲーブル、マリリン・モンロー。二大スターの遺作として知られる現代西部劇。映画は近代化によって衰退するカウボーイ文化の現状を辛辣なタッチで綴ったもの。そういった意味での映画的完成度の高さもさることながら、やはり映画の役柄と自らの人生がダブるマリリン・モンローの圧倒的存在感が特筆に値する。複数の男性遍歴、真の愛に飢えた孤独な人生、そして死を予感させる意味深なセリフ。今見ると彼女の死を想定して作られたとしか思えないような仕上がりに驚きを隠せない。鬼気迫る演出、透明感あふれるモノクロ映像。大スターの死と共に、古き良き時代のアメリカ文化が終焉をむかえる様を象徴的に捉えた作品として、永く映画ファンの間で語り継がれるだろう。

02/09/22/127

9月もあと1日で終わりだが、今月の大きな話題はなんと言っても小泉訪朝。北朝鮮に拉致された人々は残念な結果になったが、これも共産主義を標榜する宗教国家のなせる業。運が悪かったとしか言いようがない。昔はこのような拉致、行方不明事件を「神隠し」と呼んだ。事件の背景に宗教が絡むことが多かったからだろう。宗教の恐ろしさは今も昔も変わりがない。さわらぬ神に祟りなしだ。というわけで今週は行方不明事件を扱った映画。

ピクニックatハンギング・ロック
1900年のヴィクトリア州女子学生失踪事件を扱ったオーストラリア映画。実話に基づく映画ながらトータルでは伝説や御伽噺に通じるようなものがあり、泰西名画風の幻想的な映像美とミステリアスなムードが溶け合う実に不思議な映画になっている。20世紀初頭の清楚なファッションに包まれた少女ミランダの息を飲む美しさ。不気味な造形に彩られたマセドンの岩山や哀愁を帯びたパン・フルートの音色が印象深い。知名度はやや薄いが、名匠ピーター・ウィアーの作品の中では一、二を争う人気作でもある。

02/09/29/127

今話題の「真珠夫人」を拝見。見たのはダイジェスト版だがそれでも面白さは十分伝わる。突っ込みどころ満載のベタなドラマというだけでなく、ストーリーも良く出来ている。純潔、退廃といったアナクロを散りばめた大時代的な不倫ドラマに加え、度を超したわざとらしさが観る者を圧倒する(笑かす)。なるほどこれは奥様方に受けるわけだ。というわけで今週は大時代的な不倫ドラマのドイツ・ヴァージョンを取り上げる。

ヴァリエテ
ドイツ無声映画を代表する監督E・A・デュポンの最高傑作。華麗なサーカスの舞台裏で起こる曲芸師ハラー夫妻と大スター、アルティネリとのドロドロとした三角関係を描いたもの。単純なストーリー以上に美術的評価の高い作品で、花火、サーチライトを使ったファンタジックな映像や劇的な効果を生み出す様々な撮影テクニック、奥行き感のある三次元的構図が見事。アルティネリ殺害シーンから洗面所の鏡を見て我に返るまでの鬼気迫る心理描写も面白い。無声映画時代の名優エミール・ヤニングスの怪演も見もの。

02/10/06/126

ノーベル賞ラッシュである。日本人の受賞が3年連続、しかも年内2人目というのは今までなかったこと。受賞ラッシュを目標にしていた政府にとっては願ったり叶ったりだが、余りにも受賞者が多くなると希少性がなくなり、かえって有り難味がなくなるというマイナス面も。ところでノーベル賞というと創始者はアルフレッド・ベルナルド・ノーベル。彼はダイナマイトの発明者としても有名な人だ。というわけで今週はノーベル賞受賞記念、ダイナマイトに関係する映画。

真昼の死闘
メキシコで暴虐非道の限りを尽くすフランス軍を敵に回してクリント・イーストウッドがダイナマイト片手に大暴れ!アメリカ映画がお得意とするロード・ムービーと連続冒険活劇を組み合わせた異色の西部劇。この映画が成功した要因は無骨なガンマンを演じるイーストウッドの相手役(シスター)にシャーリー・マクレーンを選んだことで、性格が大きく違う二者間のズレは観る者を大いに楽しませてくれる。ロバを使ったコミカルなキャラ立ちや、「聖職者」と「性職者」の落差。マカロニ・ウエスタンでおなじみのエンニオ・モリコーネの音楽も痛快だ。

02/10/13/123

自宅近くにある駅が、古くなったことを理由に立て替え工事を始めた。何でも今現在の平屋建てから二階建てにするそうだ。この駅に限らず古い駅の立て替えはほとんど二階建てである。どーしてかなあといろいろ推理してみた結果、どうやらフェンス越えの無賃乗車に対する対応策なのではないかとの結論に達した。どうですかJRさん。当たっているかな?というわけで今週は駅に関する映画。

殺意のサン・マルコ駅
イタリアでロングランを続けた舞台劇の映画化。サン・マルコ駅を舞台に駅長と美女、それを襲う情夫が繰り広げる恐怖の一夜を描いたもの。映画の大半は駅という限定された場所で展開されていて、つくりはいかにも舞台劇。しかし緻密な映像や降りしきる雨の効果などに映画らしさがある。通俗的な後半のサスペンスより、前半の美女と駅長の軽妙なやり取りにこの映画の味がある。マルゲリータ・ブイのソフトなエロティシズム。壊れた戸棚を使った伏線も面白い。

02/10/20/125

連続無差別射殺事件に揺れるアメリカ。こんな状況下で過去にあったこれと同じような事件「ゾディアック事件」の映画化が決定した。映画と現実のシンクロ。殺人映画が作られるから殺人が起こるのか。現実に殺人があるから映画が作られるのか。鶏か卵かどっちが先かの話になるが、映画が誕生する以前から殺人があったことを考えると、やはり現実に殺人があるから映画が作られるのだろう。ところで過去にもこの「ゾディアック事件」をモデルにした有名な映画がある。

ダーティハリー
クリント・イーストウッドにとっては「荒野の用心棒」に次ぐ当たり役となった刑事アクション・シリーズの一作目。イーストウッド演じるキャラハン刑事のかっこ良さがやたらに目立つが、この作品の底流にあるのは60年代以降にクローズアップされた人権運動や人権問題。その矛盾だ。人権で守られる極悪非道な犯罪者、救われぬ被害者、割に合わぬと言って離職する刑事。そういった《苛立ち》にキャラハンは暴力によって鉄槌を下す。だからこそ観客は溜飲を下げ、痛快に思うのだ。なお映画はサンフランシスコの建造物を使った緻密な映像演出も秀逸。

02/10/27/122

日本のホラー映画をリメイクした「ザ・リング」が全米で大ヒット!日本のホラーが世界水準にあることが認められた!と思ったら、もう10年以上も前に(マニアの間とはいえ)世界に認められた和製ホラーがある。日本映画はつまらないという論調が評論家、映画ファンを問わず多いが、探せば掘り出し物はいくらでもある。

鉄男
海外のファンタスティック映画祭で高い評価を受けた日本のホラー・アクション。内容は金属に侵食されたサラリーマンの恐怖をバイオレンス・タッチで描いたもの。昔のATGのような前衛的作風に加え、ハリウッドのホラー映画の要素を融合させたユニークな表現が大きな見所だ。モノクロ画像に描き出されるグロテスクかつ強烈な映像は《映像のヘヴィ・メタル》と呼ぶにふさわしい。なお後につくられた「パート2」はテンションはそのままだが、カラーになったせいか迫力は若干落ちる。鬼才塚本晋也が七役をこなしたまさに究極のプライベート・フィルム。

02/11/03/123

自治体が映画のロケの誘致に本腰を入れ始めている。観光産業のCMを狙ったものだが、それ以上に規制緩和と地方分権の流れが大きい。先日トム・クルーズが来日して姫路城ロケを敢行したのはそのいい例だ。これから日本にある建造物、自然物を効果的に使った傑作が数多く排出されることだろう。というわけで今週は日本を代表する現代建造物「福岡ドーム」を効果的に使った映画。

ガメラ/大怪獣空中決戦
俗に「平成版ガメラ・シリーズ」と呼ばれるシリーズ第1弾。このシリーズの大きな特色は怪獣映画にありがちな子供だましを徹頭徹尾排除し、ハードなリアリズムを妥協なく貫徹させたことで、映画としての完成度も圧倒的に高く、怪獣マニア以外にも十二分に推奨できる内容になっている。テレビ局や自衛隊の全面協カによる迫真の映像、古代史へのリンク、生物学的裏付けに加え、円谷二世とも言うべき樋口真嗣の洗練された特撮場面が見事。特に開閉式の福岡ドームを怪獣の捕獲作戦で使うアイデアが抜群!コメディを得意とする金子修介が新境地を開いた傑作でもある。

02/11/10/124

イギリスで「この25年間で最高の映画は」というアンケートの1位に「地獄の黙示録」が選ばれた。戦争の狂気を観念的に描いた芸術大作なのだそうだ。個人的には大山鳴動して鼠一匹という感じがするのだがどんなものか。戦争の狂気を描くなら妙に深刻ぶらず笑いで勝負。その方がはるかに芸術性が高い。

まぼろしの市街戦
第一次世界大戦のさなか、無人と化したフランスの小さな町で突如精神異常者のカーニバルが始まった!カルト的傑作として名高い戦争風刺劇。人間のダークな面を突いたアイロニカルな作品にもかかわらず、映画全体の印象は夢見るような楽しいファンタジーになっているところが面白い。一見馬鹿馬鹿しく見える演出も映画表現としては大変高度。ラストで戦争の悲惨さから逃れるために自ら精神病院へ入るくだりなどは、《戦争の狂気》について改めて考えさせられる。日本ではタブーが多すぎてこんな映画は作れない。映画マニア必見作。

02/11/17/123

18日、60〜70年代に活躍した個性派俳優ジェームズ・コバーンが亡くなった。というわけで今週は彼の追悼特集。コバーン主演の代表作2本を取り上げる。ちなみに当メルマガでは何を基準に映画監督、俳優の追悼を行うのかというと、ストックしてあるネタと死亡した映画監督、俳優の代表作とがたまたま合致するかどうかだけであって、発行者の好き嫌いで追悼の選別が行われるわけではないのである。

電撃フリントGO!GO作戦
007シリーズの大ヒットによって数多く登場した亜流スパイ映画(サイレンサー、ナポレオンソロなど)の中でもとりわけカルト的な人気がある一本。007でもセールス・ポイントになっていた美女や小道具が、この映画では惜しげもなく全編にわたって登場!!!スパイ・アクションと言うよりほとんどコメディに近く、ジェームズ・コバーンの伊達男ぶりとジェリー・ゴールドスミスによるノリノリの音楽が痛快!徹底的に娯楽に徹した作りはサービス満点ととらえるか知能指数が低いととらえるか、評価は分かれそうだ。

黄金の指
アメリカの集団スリの実態を描いた犯罪映画。といってもドキュメントタッチのリアルな映画ではなく、お色気、キャラ立ち、三角関係、若者の成長ドラマといったエンタテインメントの定番を楽しむ映画である。見せ場となっているスリのシーンはまるで曲芸。電子マネーを予見するかのようなセリフ、日本のやくざのような厳しい戒律と義理人情で成り立つスリ世界も面白い。風格十分のジェームズ・コバーン、ラロ・シフリンの音楽、ダイナミックなカメラアングルもかっこいい(・∀・)。

02/11/24/118

道路公団の問題が表面化してから、日本の道路に対していろいろな意見が寄せられるようになった。識者のコメントの中で面白いなと思ったのは塩野七生。「ローマ人の物語」などの著作で有名な人だ。彼女が言うには、古代ローマ時代に作られた道路はいくら歩いても疲れないのだそうだ。理由は限りなく平坦だから。古代ローマの道路は軍事目的で作られ、大量の物資や兵器を運搬するのに適した道路が作られたのだそうだ。だからこそ2千年も長持ちしたのだろう。そういった機能性ではるかに劣る日本の道路は2千年持つのかな?というわけで今週は古代ローマの映画。

カビリア
無声映画時代に作られたイタリアのスペクタクル史劇。内容はローマとカルタゴが戦ったポエニ戦争を背景に数奇な運命を辿った女性カビリアの半生をドラマティックに描いたもの。驚くのは1914年という古い時代につくられたとは思えない映像の完成度の高さで、今見ても迫カは十分。特にモロク神殿のグロテスクなセットは圧倒的で、これを見るだけでもこの映画を見る価値は十分にある。映画の父と呼ばれているD・W・グリフィスがこの映画を見て「イントレランス」を作ったというのは有名な話。映画創世記に築かれた巨大なモニュメントのような作品と言える。

02/12/01/120

先月イランで起こった「透明人間になったと思い込んだ男の銀行強盗未遂事件」で、つくづく透明人間とは何なのかを考えさせられる。自分が透明であるということは他人から自分の姿が見えないということである。そのことによってやりたいことがやれる。逆に考えれば普段は社会の目にさらされてやりたいことがやれないのである。しかし最近は違ってきた。ネットの世界では相手に自分の姿が見えない。だからやりたいことがある程度やれる。犯罪もやれる。ネットは現代の透明人間か?メルマガを発行しているやぴ兄も透明人間の仲間入り???

透明人間
東宝変形人間シリーズの記念すべき第1弾。特殊部隊として編成された透明人間の生き残りを語って大都会を舞台に次々と凶悪事件が発生する。映画はウェルズの原作をもとにしたアメリカ映画「透明人間」を日本流の特撮作品としてアレンジしたもので、特に目の見えない少女と透明人間との交流に日本的な特色を感じさせる。年齢層を高く設定した映画作りやレギュラーで登場する土屋嘉男の出演など、第一作にしてシリーズの骨格ができている。円谷英二の特技監督としての技量は、透明人間の特撮よりコンビナートの爆発シーンなどで発揮されている。

02/12/08/119

DVDレンタルサイト「DVDZOO」が2ちゃんにバナーを張るなどの攻勢をかけてきた。DVDのショッピングサイトは数あれど、レンタルサイトは珍しいということで以前から注目していた。ビジネスの目の付けどころは良いと思うが、来年ヤフーが映像配信を展開するのとタイトル数の少なさが気になるところ。ビジネスとしてブレイクするにはもう少しひねらないと駄目だろう。というわけで今週は「DVDZOO」で、邦画、アクション、サスペンスの3ジャンルでおすすめされている映画。

太陽を盗んだ男
寡作で知られる長谷川和彦の最高傑作。プルトニウムを盗み出した中学校の理科教師が、それをもとに手製小型原子爆弾を製造。国家を相手に次々と無謀な要求を突きつけるが・・・。冒頭のバス・ジャックに始まり、ディテールの細かい原爆製造、カーチェイス、屋上の格闘など、緊張感あふれる描写と時に挟まれるコミカルなタッチが緩急自在な見せ場を形成している。当時人気絶頂の沢田研二を起用した他、ユニークな端役が随所に登場。スタイリッシュな映像の中に描かれる茫洋とした厭世観は、政治的にも経済的にも目標を失いつつあった当時の日本の世相をよく反映している。

02/12/15/120

今年も残すところあと10日。いろいろあった2002年ともお別れである。去り行く年に名残を惜しんで、今週は来週との二週にわたってタイトルに別れのあいさつがつく映画を紹介する。まずは英語の「グッバイ」。映画の製作国はマケドニア。かの有名なアレクサンダー大王の生まれ故郷である。時節柄サンタクロースなども登場する。

グッバイ20世紀
マケドニア政府の補助金で作られた意味不明のカルト映画。映画は前後半の二部構成になっていて、前半「マッドマックス」か「エルトポ」かといった未来世界で、聖女と交わった不死身の男のめでたく死を迎える話が一転、後半葬儀の参列者にリンチを受けたサンタクロースが銃を片手に流血のリベンジを展開するというもの。正直何のために、誰のために作られた映画なのかはさっぱり分からないが、ミュージック・ビデオ風の映像の中に散りばめられた意味深な宗教的イメージとマケドニアの異様な光景は鮮烈!面白くはないがインパクトはあるというやつだ。映画マニアのみ推奨品。

02/12/22/120

さて年の瀬である。タイトルに別れのあいさつがつく映画。二週目は「さようなら」である。個人的には日本語の「さようなら」よりも中国語の「再会(サイチェン)」の方が好きである。「さようなら」は別れのあいさつとしては二度と会えなくなってしまうような感じがして淋しい。その点「再会」にはもう一度お会いしましょうという《希望》が込められている。というわけで読者の皆様方「再会!」。来年またメールマガジン上でお会いしましょう。

さようならCP
「ゆきゆきて神軍」でセンセーショナルなドキュメンタリーを撮った鬼才原一男のデビュー作。CPとは脳性小児麻痺のことで、この映画はCP者の生活実態や自己主張を赤裸々に綴ったもの。驚くのはタブーをものともしないその過激な映像で、ねむの木学園のような福祉目的でつくられた映画とは明らかに一線を画すもの。現在ではとても映画化できない作品のひとつだ。CP者の聞き取りにくい発言に字幕を付けなかったのも効果的。アンダーグラウンド的な色彩の強い作品だが、映画マニア以外の方にも見て欲しい一編。

02/12/29/118

年が明けた。2003年である。羊年である。というわけで羊に関系した映画。まず思い出されるのは「羊たちの沈黙」。今年はシリーズ最終作「レッド・ドラゴン」も公開されるので、新年のトップは「羊たちの沈黙」ではないかと予想した読者も多いのではないか?残念ながらハズレ。ひねくれ者のやぴぴの兄は羊年にちなんで羊飼いが主人公のアニメを紹介してしまうのである。

やぶにらみの暴君
暴君として知られるタキカルディ王国のシャルル16世。その肖像画が突如二次元の世界から三次元の現実世界へと飛び出し、煙突掃除の少年と共に逃げた羊飼いの娘を追うために本物の国王に成り代って独裁政治を始めてしまう。奇想天外な政治風刺劇としてあまねく世界中を魅了したフランス・アニメーションの巨匠ポール・グリモオの最高傑作。王城のハイセンスな造形、登場人物の細かい動き、さらに全編にわたって漂う権力に対する毒は革命によって王政を倒したフランスならではの表現。中盤の王城の最上階から地下に至るまでの逃避行がスリリング。埴輪風のロボットが暴れ回るクライマックスはやや不発。卜一タルでは文句なしの一級品だ。

03/01/05/119

明日は成人の日である。子供のころは成人の日を星人、つまり宇宙人の日と勘違いしていた。これは当時流行っていた「ウルトラマン」の影響が大きかった。「ウルトラマン」には、バルタン星人以下○○星人といった宇宙人が毎週のように登場。頭の中に「せいじん」=「星人」と刷り込まれてしまった。というわけで今週は宇宙人の映画。

ゼイラム
日本特撮映画界の俊英雨宮慶太の代表作。謎の宇宙人「ゼイラム」と女賞金稼ぎ「イリア」との対決を描いたもの。面白いのは映画の全編にわたって登場する日米特撮映画のパロディの数々で、自身がわかるものだけでも「エイリアン」「ターミネーター」「遊星からの物体X」「ジャイアント・ロボ」「仮面ライダー」「ワンダーウーマン」とある。志穂美悦子ばりの森山祐子の体を張ったアクションや水準以上のSFXの迫カもなかなかのものだ。東洋風の妖怪を思わせる「ゼイラム」のデザイン。読経を使った映画音楽も面白い。

03/01/12/119

DVDの普及にともなってホームシアターが大人気。電機メーカー、家電量販店がパソコンに代わる目玉商品として大いに力を入れている。ホームシアターはプラズマディスプレイの大画面にスピーカー6個を円形状に並べたスタイルが主流。となると必然的に見たくなるのは大画面の効果を生かした大作。ところが最近の大作はCGでごまかした似非大作が主流になってしまって、せっかくのホームシアターも宝の持ち腐れになっている。やはり本物の大作は大掛かりなセットに人海戦術を駆使したエキストラがないと駄目である。

砲艦サンパブロ
1926年の中国国民党の反乱を背景に、米中の人種的軋轢を一匹狼の機関士の目を通して描いた戦争映画。香港、台湾に大掛かりなロケーションを敢行した物量投入型の大作で、パナヴィジョンによる奥行き感のある映像や砲艦内での細かい人物描写が大きな見所になっている。監督は「ウエストサイド物語」「サウンド・オブ・ミュージック」などのミュージカル作品で知られる名匠ロバート・ワイズ。本来はディテールにこだわったリアリズムの作家で、本作はその路線においての集大成的な意味を持つ。ジェリー・ゴールドスミスによる美しいサウンド・トラック。アメリカの覇権主義に対する痛烈な批判も見事。

03/01/19/118

大作映画に必要なものは大掛かりなセットにエキストラ。と先週書いたが、もうひとつ必要なものにカメラのマジックがある。いわゆる広角レンズというやつだ。広角レンズはかなり遠いところまでピントが合うので、映像的には肉眼で見るときよりも、三次元的に奥行きの深い空間表現が可能になる。この広角レンズを効果的に使った作家にスタンリー・キューブリックがいる。そのスケールの大きな映像は代表作「2001年宇宙の旅」でも楽しめるが、それ以上に大掛かりな大作がある。ホームシアターの映像再現能力のテストにも使えるのではないか。

スパルタカス
ハリウッド・スペクタクル史劇の代表作。単純な内容に反して、この映画の製作された背景はかなり複雑。巨費を投じた超大作として売り込みたい映画会社、反権カの政治メッセージをストレートに出したい脚本家ダルトン・トランボ、独自の映像表現を大スクリーンで展開したいスタンリー・キューブリック。それぞれの狙いがバラバラで、全体的には随分とまとまりのない作品なのだが、それでいて個々の映像や演技には見るべきものが多いと言う実に不思議な映画になっている。特にローレンス・オリビエとトニー・カーティスによる同性愛シーンが出色!ローアングルの妙、三次元的に奥行きの深い戦闘シーンも圧巻だ!

03/01/26/116

このメールマガジンもおかげさまで100回を迎えました。50回記念のときは、ネタになるような映画がなかなか見つからないと書いたが、その傾向はますます強まっている。何しろ21世紀に入ってから、世評で評判の傑作、話題作がのきなみ沈没。たまには新作でも取り上げたいと思っているが、なかなか思うような映画が見つからない。今年はロマポラの「戦場のピアニスト」が良さそうなので期待したいところだ。というわけで今週はロマポラの代表作。

チャイナタウン
1937年のロサンゼルス。私立探偵の不倫疑惑調査が進む中、突如大掛かりなダム建設に絡む疑惑が浮上する・・・。鬼才ロマン・ポランスキーがハードボイルド・タッチで描く極上のミステリー・ロマン。ポランスキーお得意の「水」を使った演出や脚本、撮影、音楽に一流どころを揃えたスタッフ起用、クラクションを使った無常感あふれるラスト・シーンが見事。運命に弄ばれる女性の悲劇を「娘」「妹」の二つのキーワードで表現。ハードボイルドの大物監督ジョン・ヒューストンやポランスキー自身も画面に登場する。ミドルクラスのミステリー・ファンにおすすめ。

03/02/02/115

スペースシャトルの事故が大々的に報道された。滅多に事故を起こさないものなので、その希少性ゆえ騒ぎが大きくなったと思われる。飛行機事故、鉄道事故、自動車事故と事故の頻度が多くなるにしたがって、マスコミの扱われ方も小さくなる。事件として重要であるかどうかは二の次であることが良く分かる事例といっていいだろう。というわけで今週は宇宙事故を扱った映画。

宇宙からの脱出
地球に帰還途中の宇宙船が機能停止。残された酸素はごくわずか。救出に向かうスペースシャトルは台風に阻まれて万事休す。果たして大宇宙に取り残された3人の宇宙飛行士の運命は?宇宙開発競争華やかし頃に作られたドキュメンタリー・タッチのSF映画。この映画には2つの驚きがある。ひとつは1970年のアポロ13号事件を予見するかのような設定。もうひとつは米ソ協調の時代を予見するかのようなラスト。地味ながら、渋い役者を揃えての手間隙かけた映画作りも好感。世評では駄作扱いだが、意外な拾い物と言える。

03/02/09/114

今ハリウッドでは、実在の人物を主人公にした実話の映画化が複数進行中である。事実は小説よりも奇なり。下手なフィクションよりはるかに面白いというのが映画会社の言い分。個人的には続編の乱発、安易なリメイク、外国映画からのネタ流用といった一連のネタ不足解消のための苦肉の策のひとつにしか見えないのだがどんなものか。こんな調子じゃあハリウッド帝国滅亡も時間の問題かな。というわけで今週は実話ネタの代表作。

奇跡の人
おなじみ三重苦を乗り越えたヘレン・ケラーの物語。自らも目が不自由で幼少時にトラウマを持つサリバン先生と甘やかされた環境の中で野獣と化したヘレンとの人間性を取り戻すための凄まじい格闘を描いたもの。圧巻はアン・バンクロフト、パティ・デュークによるセリフなしで展開される食事のしつけシーンで、その鬼気迫る演技は観る者を絶句させる。素朴なエネルギーを感じさせるモノクロ映像。触覚を中心としたコミュニケーションの取り方も面白い。映画を見ると「奇跡の人」誕生の背景には経済的に恵まれたしっかりした家庭環境があったこともわかる。

03/02/16/112

今週の韓国地下鉄大火災の一報が届いたとき、とっさにこれは北朝鮮の工作員の仕業ではないかと思った。もし北朝鮮の関与が表面化したらただでは済まないだけに、多少の緊張が走った。結果は自殺未遂の巻き添えということで戦争は回避されたが、これから朝鮮半島の大きなニュースが飛び込んでくるたびに、戦争という言葉が脳裏をよぎるかと思われる。というわけで今週は地下鉄のパニックを扱った映画。

サブウェイ・パニック
4人の男が地下鉄をハイジャック。1時間以内に現金100万ドルを要求。警官隊に取り囲まれた犯人の行方は?猛スピードで走る地下鉄に閉じ込められた人質の運命は?ニューヨークの地下鉄を舞台にしたパニック映画の傑作。緊迫したサスペンスの中に時折挟まれる風刺のきいた人物描写が大きな見所。公安部を演じるウォルター・マッソーは別に彼でなくてもいい役と思ってしまうが、ラストのワンシーンを見てなっとく。TVドラマ風の絵作りはやや興ざめ。のちの「ダイ・ハード」「スピード」などのアクション映画に与えた影響も見られる。

03/02/23/111

明日は桃の節句。女の子の日である。といわけで今日は女性監督の作品を取り上げる。といっても女性監督の作品と聞いてピンとくるものはほとんどない。なぜなら女性監督の数そのものが極端に少ないからだ。その傾向はアニメ作家ともなるとますます強まり、邦画ともなると皆無に等しくなる。ただ最近は女性の社会進出がめざましいので、映画業界でもぼちぼち才能のある人が出始めている。

萌の朱雀
カンヌ映画祭で新人賞を受賞して話題となったセミ・ドキュメンタリー映画。過疎化が進む奈良県の寒村を背景に家族の離散を静かに見つめた作品で、自然光を取り入れた美しい山間部の光景や、日本の原風景をとどめた地元住民の生活空間が大きな見所になっている。監督はドキュメンタリー出身の河瀬直美で女性監督らしい繊細な仕上がり。セリフ、音楽を極カ排した表現や素人を起用した演出に非凡な才能を感じさせる。なお彼女はこの作品以降も奈良を拠点にした同傾向の映画を発表している。

03/03/02/111

先週は映画の日ということで、なんと1年半ぶりに映画館へ行った。こんなに長い間劇場に行かない映画メルマガ発行者もいないのではないかと思うが、諸般の事情でなかなか行く機会がないので、ご勘弁願いたい。ところでお目当てだった「戦場のピアニスト」は満員札止めで結局見れずじまい。仕方なしに席が空いている「猟奇的な彼女」を見ることにした。意外なことにこれが大当たり。やっぱ韓国映画は勢いがあるね。

猟奇的な彼女
韓国で大ヒットしたラブコメディ。タイトルの猟奇的というのは「個性的」という意味で使われ、実際個性的という範疇をはるかに超えた強烈な女性キャラが登場。この映画の魅力はまさに儒教国家韓国がもつ男尊女卑のイメージを逆手にとった男女関係に負うところが多い。通俗的ともいえるストーリー展開を良い意味での使い古された笑いと数々の名シーンがサポート。人の歩行と共に燈る電灯、ピアノ演奏をバックに届けられる一輪の花、エスカレーターのすれ違い、山頂の独白。鋭い人間観察に裏打ちされた小気味良いセンスが、この映画をいとおしく忘れ難いものにしている。

03/03/09/112

卒業シーズンである。卒業は年度末の節目であり、人生の節目でもある。仰げば尊しわが師の恩、蛍の光窓の雪。映画でも卒業を題材にした作品がいくつかある。今年も邦画で内山理名主演「卒業」が公開される。がやはり本命はこれだ。

卒業
この映画は感動を呼ぶ青春映画の名作となっているが、私見では「青春」と言う名のオブラートに包まれた一種の寓話、あるいは当時の世相を辛辣に表現した社会風刺劇に見える。なぜなら彼女を教会からかっさらう有名なラスト。その保守の象徴とも思える教会に保守的な大人達を閉じ込めて、そのドアに何と十字架の鍵を掛けるのである。映画が作られた当時は学生運動や社会運動が最も激しかった時代であり、保守的な社会の在り方が過激なまでに否定された時代である。この映画はそういった当時の社会的雰囲気、若者達の心の叫びを、箱入り息子と母娘との三角関係によって芽生える自立心、大人への脱皮の中で鮮烈に表現している。これは現代史を象徴的に捉えた歴史的傑作として再評価すべき映画と言える。

03/03/16/112

戦争が始まった。戦争になる理由はいろいろあるが、第一の理由はやはり宗教。聖地エルサレムを挟んだ、ユダヤ、キリスト、イスラムの三大宗教の因縁バトル。これは避けられそうもない。宗教は異教徒よりも異端に厳しいと言われている。聖地が同じということは、もとはひとつの宗教。アメリカにとってイラクは異端ということになるのだろう。戦争の第二の理由は石油。アメリカの21世紀エネルギー政策の一環だ。ただ一方では21世紀のエネルギーはガスだとも言われている。イラク戦争後は石油とガスのエネルギー・バトルが勃発するか???というわけで今週は石油とガスの映画。

ジェネシスを追え
ナチスドイツの極秘プロジェクト「ジェネシス」に絡んだ殺人事件が次々と発生。事件の謎を追う刑事は、背後に石油会社の陰謀があることを突き止める。日本では劇場未公開、アメリカでは最低映画賞にノミネートなど散々な評価だが、二転三転する凝ったストーリー展開に加え、ナチスが開発した人造燃料の技術と、需給バランスによって価格変動が著しかった当時の原油情勢とを結び付けたアイデアが抜群!ジョージ・C・スコット、マーロン・ブランドといった意外な顔合わせに、監督が「ロッキー」のジョン・G・アヴィルドセンというのも奇妙。傑作ではないが、埋もれた珍作として高く評価できる。

ガス人間第1号
東宝変形人間シリーズの最高傑作。内容は家元としての地位が揺らいでいる藤干代と彼女のために犯罪を重ねるガス人間との悲恋を描いたもの。この映画のセールス・ポイントは円谷英二による人間が気体化する特撮シーンだが、それ以上に魅カ的なのは、SFとしてはミスマッチともとれる日本の古い文化を映画の中に違和感なく融和させているところで、クライマックスの鬼気迫る日本舞踊のシーンや、心中物を思わせるラストのガス爆発など。日本人の琴線に触れる数々の描写は観る者の涙を誘う。悲劇的な死を遂げる藤干代を演じた八干草薫もハマリ役だ。

03/03/23/112

今やっている戦争は大阪冬の陣、夏の陣に似ている。前回の湾岸戦争が冬の陣、今回のイラク戦争が夏の陣にあたる。家康は大阪城の外堀、内堀を埋めて、大阪城の防衛力を骨抜きにした。ブッシュの場合も度重なる査察、査察でイラクの戦力を骨抜きにした。大阪冬の陣は方広寺の一件という極めて難癖に近い形で戦争が始まった。イラク戦争もあるのかないのかわからない大量破壊兵器保有というほとんど難癖に近い形で戦争が始まっている。違うのは大阪冬の陣、夏の陣は家康ひとりでやったところを、イラク戦争はブッシュ親子2代でやるところか。というわけで今回は大阪の映画。タイトルも実に好戦的。あと戦争のメカニズムを描いた傑作をもう一本。

どついたるねん
「浪花のロッキー」と呼ばれた元プロボクサー、赤井英和を起用して話題となったボクシング映画。面白いのは実際に脳挫傷で引退に追い込まれた赤井自身と映画の内容が見事にシンクロするところで、うそ臭さのない本格的な作りがこの映画の魅カだ。職人的なプロの技を駆使した正攻法なドラマ作りに加えて、映画全体を彩る浪花の風景や闊達な大阪弁。呆気にとられるどっちつかずのラスト・シーンが見事。安直なスポーツ・ドラマとは異なる玄人好みの作品。大阪出身の俊英、阪本順治の監督デビュー作でもある。

フルメタルジャケット
鬼軍曹のしごきによって量産される若き殺人マシンたち。ベトナム戦争の狂気をアイロニックなタッチで描いた戦争映画の傑作。監督は奇才スタンリー・キューブリックで、人間の業を冷徹な視点で見せる圧倒的な表現カは相変わらず。広角レンズによる誇張された遠近感、敵に向かって前進する兵隊をとらえたカメラの移動感も面白い。人間らしい感情を一切排した演出は、まるで殺人行為そのものが人間の脳の中にプログラムされているかのような印象を与える。同じ時期にべトナム戦争を描いた「プラトーン」と比較して見ると面白いと思う。

03/03/30/112

「千と千尋」で話題になった今年のアカデミー賞。もうひとつの注目株は最多部門を獲得した「シカゴ」。ミュージカルがアカデミー賞を総なめにしたのは、いったい何年ぶりのことか。昔は「巴里のアメリカ人」「恋の手ほどき」「サウンド・オブ・ミュージック」「ウエストサイド物語」「マイ・フェア・レディ」「オリバー!」「キャバレー」とアカデミー賞を独占していたのはミュージカルだった。今ではミュージカルそのものがほとんど作られていない。そういった中での「シカゴ」の受賞は快挙といえるだろう。

巴里のアメリカ人
クライマックスの約20分近くに及ぶモダンダンス・シーンで知られるMGMミュージカルの代表作。ジーン・ケリー、レスリー・キャロンの新旧入り混じった二大スターの顔合わせ。驚くのは古さを感じさせない映画全体のリズムやテンポの良さで、歯切れの良さは抜群!アメリカの国民的作曲家ガーシュインの代表曲や毎度おなじみのタップ・ダンスも素晴らしく、唯一の欠点は画家に扮するジーン・ケリーが画家に全く見えないことぐらい(笑)。アカデミー賞作品賞他6部門を制した折り紙つきの名作!

マイ・フェア・レディ
ブロードウェイでロング・ランを続けた超人気作品をワーナー・ブラザーズが巨費を投じて映画化したミュージカル大作。虚飾と偏見に満ちた高慢な英国人気質を皮肉混じりに描いたもので、ロンドンの町並みを再現した豪華なセット、オードリー・ヘップバーンを中心とした超一流のスタッフ、キャスト、そしてパナヴィジョン&テクニカラーによって実現した高画質など、ハリウッド・エンタテインメントのノウハウを集大成したような贅沢な作りが圧巻だ!!!イライザの父を演じるスタンリー・ハロウェイのユニークな歌(運がよけりゃ)と自堕落なキャラクター作り。セシル・ビートンによる華麗な衣装デザインも秀逸。

03/04/06/113

春である。春は新生活が始まる時期。変化の時期でもある。今年の春はやぴ兄の生活にもかなりの影響が出そうである。やぴ兄の生活に影響が出るということは、このメールマガジンにも影響が出るということである。そのことは後日、改めて告知しようと思っている。というわけで今週は春の映画二題。

春の日は過ぎゆく
「八月のクリスマス」で注目を集めた韓国恋愛映画の才人ホ・ジノの長編2作目。痴呆の母を抱える録音技師と才色兼備のDJとの恋愛、すれ違い、静かな別れを描いた好編。映画は抑制されたわびさび風の映画演出が大きな見所。役者の細かい表情やしぐさのひとつひとつが登場人物の心の動きを雄弁に物語る。まさに映像で見せる映画表現そのまま。家系を大切にするお国柄らしく、縦の系譜に関係したエピソードが、若い男女の恋愛に微妙に絡まるところが面白い。

春にして君を想う
農村を捨て、都会に身を寄せようとする老人。しかし冷たい人間関係が支配する都会に老人の安住の地はなかった。彼は老人ホームで出会った幼なじみと共に昔懐かしい故郷への逃避行を試みる。映画は一見、先進国が共通して抱える老人問題や都市問題を描いた社会派映画、あるいはお年寄りを主人公にしたロードムービーに見えるが違う。これは現代のお年寄りを狂言回しにしたアイスランドに住む人々の魂や精神を幻想的に描いた映画である。火山国アイスランドの溶岩で形成された異様な光景と忽然と消える車や人などの奇蹟が見事に融和。抑制されたセリフ、黄泉の国と見まごうスケールの大きな撮影も素晴らしい。

03/04/13/113

今年に入ってからやたらと雨が降っているような感覚がある。年間を通じて約7割は晴れのはずだが、今年は2日に1度は雨が降っている感じだ。去年の水不足の反動か、貯水率が気になるダム関係者には良いと思うが、体はだるくなってくるし外に出るのもおっくうになってくるので、個人的には余り歓迎しない。というわけで今週は雨後の情景には欠かせない「水玉」と「虹」の映画。

水玉の幻想
チェコ合成アニメーションの巨匠カレル・ゼーマンの習作的短編。チェコの伝統工芸であるボヘミアのガラス細工と、これまたチェコのお家芸である人形アニメーションとを融合させた斬新な映像表現が大きな見所で、氷の壁で阻まれる男と女の姿を通してチェコの抑圧された歴史を物語っていく。めくるめく万華鏡のような詩的世界は映画が光の芸術であることを再認識。映画表現そのものにも驚かされるが、この作品が終戦間もない1948年に製作されたとは二重の驚きだ。正味10分という時間は短すぎる感もあるが、長編映画2時間分の手間隙がかかっているのでやむをえない。

虹男
日本初のカラー映画として知られる特撮映画。「カルメン故郷に帰る」は初の総天然色映画として有名だが、パートカラーを含めると「虹男」が最初になる。カラー映像による色彩表現と虹を結びつける発想はかなり安直。映画も不気味な屋敷に奇怪な住人、次々に起こる怪死事件と、ミステリーの定石を判で押したような内容。東宝変形人間シリーズのような「虹男」なる変形人間も出てこないので、期待して見ると肩透かしを食らう。付加価値としてはパートカラーの他に、グロテスクな美術と伊福部昭のおどろおどろしい音楽が貴重。傑作ではないが珍しさでは一級品だ。

03/04/20/111

来月から、まぐまぐ発行の全メールマガジンに強制的に広告が入るそうである。このメールマガジンは、コラム、映画の解説、登録解除のURLしかないシンプル構成がウリ。それが損なわれる可能性がある。個人的にも仕事や家庭、身体的な変化、あるいはネット上の変化などから、これを機会にメールマガジンをお開きにしようかと思っている。

ただ、今まで一生懸命集めた映画ネタが、まだ100ぐらい残っている。それをそのまま埋もれさすのはもったいないので、5月1日より映画解説のみ(コラムはなし)のメールマガジンを毎日発刊することに決めた。メールマガジンの配信は二週間先まで予約可能なので、毎日配信と言ってもストックさえあれば、それほど苦にならない。むしろ読み手の方が大変かも。

というわけで、よろしければ最後までお付き合い下さい。

03/04/27/110

燃えよドラゴン
ブルース・リーを一躍世界的スターにしたカンフー映画の傑作。麻薬密売にからむ悪の組織に乗り込んで、スパイ活動をするリーの活躍を描いたもの。スパイのわりにやたらと行動が目立つのには笑ってしまうが、独創的かつ想像力にあふれたリーの技の数々は今見ても見事!特にヌンチャクで敵を倒す場面や、鏡の間での決闘はほとんど芸術的。映画的な感覚に優れ、格闘家としても一流だったリーならではの見せ場と言える。模倣者が続出した独特の奇声(怪鳥音)や、ラロ・シフリンの拍子木を使った東洋風の音楽も面白い。

03/05/01/109

ジークフリード
巨匠フリッツ・ラングによるドイツの超大作無声映画。内容はドイツの叙事詩ニーベルンゲンの歌をもとにしたヨーロッパ中世の剣と魔法の世界。ウォーデンの森やギュンター王の宮殿のセットも見応えがあるが、それ以上に驚くのは王侯貴族の斬新なコスチュームの数々で、今見ても十分通用するようなデザインと言える。前半に出てくる「ゴジラ」もびっくりの等身大の火を吹くドラゴンがご愛嬌(^_^;)。ドラゴンの血で不死身となったはずのジークフリードが木の葉の落ちた背中だけが弱点となるくだりは、ギリシャ神話のアキレスの物語に影響を受けたのかもしれない。

03/05/02/110

クジョー
スティーブン・キング原作によるホラー映画。狂犬と化した大型セントバーナード犬「クジョー」が次から次へと人間を襲うと言うストーリー。少年が未知の恐怖を予見するくだりは「シャイニング」と同じ。凄いのは後半車に閉じ込められた母子がクジョーに襲われるシーンで、特に脱水症状で呼吸困難になる少年の迫真の演技はなかなかのもの。地味ながらヤン・デ・ボンの撮影もうまい。世評では駄作扱いだが意外な拾い物と言える。ただし幼少時代に犬に襲われたトラウマを持つ方にはおすすめできない。

03/05/03/110

女優マルキーズ
17世紀フランスを舞台に活躍した実在の女優「マルキーズ」の生涯を描いたフランス映画。「カストラート」の製作者ヴェラ・ベルモンが監督した作品で、前作の退屈さから一転、実に楽しい作品に仕上がっている。全編17世紀の猥雑で華やかな雰囲気を見事再現。当時の人々の性のおおらかさや宮殿の豪華さにも驚かされる。ドラマ性はやや希薄だが、その分当時の社会風俗の面白さに目を奪われる。エスプリにあふれたテンポのいいストーリー。ソフィ・マルソーの達者な踊りも楽しさに花を添える。

03/05/04/110

コーマ
臓器移植にからむ大病院の陰謀を描いた近未来サスペンス。タイトルの「コーマ」は昏睡と言う意味。現代の臓器医療の問題を先取りしたかのような先見性、ジェファーソン研究所内の異様なセットなどを目玉に、定石どおりのサスペンスが展開。医療現場の権威主義的な体質や専門分野における閉鎖性などは、日本でもアメリカでも余り変わりがないようである。なお監督は医学博士号を持つマイケル・クライトンで、専門知識を生かしたリアルな演出が効果的だ。

03/05/05/109

薔薇の葬列
日本のアンダーグラウンド・シネマATGの代表作。監督は前衛映画の分野で活躍する松本俊夫。内容はエディプス神話に基づく父と子の性倒錯を描いたもの。驚くのは30年以上も前の映画とは思えない斬新な映像の数々で、カットバック、コマ落とし、ハイスピード撮影などの映像テクニックの数々を駆使。出演者のインタビューなども織り交ぜて凝った映画作りをしている。テクニックが先走りする感が無きにしもあらずだが、現代のユニセックス時代を予見したかのような先見性は貴重。まずは映画マニア必見作だ。長いつけまつげを付けた妖艶なピーターの姿が無気味だ。

03/05/06/109

つきせぬ想い
芸術家肌の音楽家と長屋に住む娘。二人の短い恋と難病による別れを描いた香港メロドラマの好編。この映画の魅力は何と言っても下町育ちで飾り気の無い娘を演じるアニタ・ユンの存在で、ほとんど彼女の独壇場と言って良い。NHKの朝ドラに出てくるような明るく前向きなヒロインを実に自然体で演じている。前半の幸福なシーンと後半の悲劇的シーンとの対比が素晴らしく、観る者の目に自然な涙をあふれさす条件としては十分過ぎて余りある。かつて日本にも存在した貧乏長屋の独特の雰囲気や、さりげない描写を積み重ねたきめ細かい演出も見逃せない。

03/05/07/110

アマデウス
クラシック音楽最大の作曲家モーツァルトに対する、宮廷作曲家サリエリの心の葛藤を描いた舞台劇の映画化。歴史的人物の聖人化をあえて避け、大作曲家の品行を下品に描いたところがこの映画の最大の特色。モーツァルトの死を予感させる伏線として影のようにつきまとう父レオポルドの役回りが秀逸。天才作曲家の才能に羨望と憎悪を抱くサリエリの妙や、語り草となった音楽の使い方のうまさも特筆ものだ。特にオペラ「ドンジョバンニ」「レクイエム」、ラストの「ピアノ協奏曲20番」と言ったところが印象的。アカデミー作品賞他8部門を独占。

03/05/08/110

遊星からの物体X
南極観測隊員を次々と襲っては増殖する謎の宇宙生物の恐怖を描いたSFホラー。監督はジョン・カーペンターで、この作品は彼の代表作のひとつ。この映画のポイントは次々と変態を繰り返す宇宙生物のSFX(ロブ・ボッティン担当)の物凄さで、南極の地という閉ざされた空間での疑心暗鬼と閉塞感は、観る者に息詰まるような緊張感を与える。特に宇宙生物を見分けるために行われる血液検査のサバイバル・シーンが出色!炎に包まれる終末感漂うラストも印象深い。

03/05/09/111

イエロ−・サブマリン
当時の人気アイドルグループ、ビートルズのメンバー4人が潜水艦「イエロー・サブマリン」に乗って大冒険。イギリス製アニメーションのユニークな逸品。監督はカナダのアニメ作家ジョージ・ダニング。驚くのは30年以上も前に作られたとは思えない独創的で斬新な映像の数々で、サイケ調のカラフルな色彩に彩られた平面構造の映像は今見ても圧巻!ちょうど日本の浮世絵の感じに似ている。ビートルズ・ファン以上にアニメ・ファンに対して推奨できる作品で、特に現在のCGによるアニメーションと比較すると面白いと思う。

03/05/10/111

恋の掟
貴族社会の退廃を描いたラクロの禁断の書「危険な関係」を忠実に再現した名匠ミロス・フォアマンの快心作。本作の英語タイトルはプレイボーイの子爵の名「ヴァルモン」。しかし物語全体を見ればアネット・ベニング扮するメルトゥイユ夫人の悪女ぶりの方が目立つ。内容は当時の貴族社会の風俗や、ゲーム感覚の不倫合戦を戯画調に描いたもので、特に物語中盤で4人の女性のキャラクターを際立たせたヴァルモンとのダンス・シーンが出色。映画「アマデウス」で培われたきめ細かい演出はまさに職人芸。同時期につくられたグレン・クローズ主演の「危険な関係」とは雲泥の差だ。

03/05/11/110

ディーバ
オペラ歌手シンシア(ディーバ=女神)の隠し録りテープと、売春組織を告発した証拠テープとが、複雑に交錯するサスペンス映画の傑作。監督はフランスの映像派ジャン・ジャック・ベネックス。複雑な人間関係が織り成す入り組んだストーリー展開も面白いが、やはり目を奪われるのは、そのモダンアートの要素を取り入れた独創的な映像美。青を基調にした幻想的な色使いや、オブジェと化した都市空間など、迷宮の扉を開いたような摩訶不思議な映像は居ながらにして観る者を異次元世界へと誘う。クラシックや民族音楽を使った音楽的センスも抜群!芸術の最先端を行くフランスの面目躍如!

03/05/12/110

ヒドゥン
地球上に飛来してきた善と悪の宇宙生物。彼らの対決をB級のノリで描ききる痛快SF。この映画のユニークなところは、宇宙生物が次から次へと寄生体を乗り換えて移動するところで、これにより奇妙なスリルと味わい深い人間ドラマが展開されることになるのだ。もの憂げなFBIを演じるカイル・マクラクランを筆頭にキャラクターの特徴をうまく描き分けた監督ジャック・ショルダーの職人的演出が抜群!瀕死の刑事が宇宙生物によって救済されるラストも感動的!アヴォリアッツ映画祭グランプリ受賞作品。

03/05/13/109

アタック・オブ・ザ・キラートマト
突然変異で巨大化したトマトが次から次へと人間を襲う異色コメディ。面白いのは低予算の限界を逆手にとった笑いで、張りぼての巨大トマトをいかにも張りぼてで作ったと強調して見せたり、スタッフが投げたトマトで人間が襲われるシーンをつくったりと、楽屋オチとくだらないギャグのオンパレードで、映画の全編を埋めつくしている。この映画は一躍カルト映画の代表作に祭り上げられ、後に続編や完全版がつくられることになる。一部の映画マニアのみ推奨品。

03/05/14/109

博士の異常な愛情
米ソ核戦争の脅威を背景にした奇才スタンリー・キューブリックのブラック・コメディ。発狂した米司令官が発動する核攻撃R作戦によって露呈された核管理の脆弱ぶりを描いたもの。驚くのは切迫する人類の危機を突き放したように見つめるキューブリック独特のクールな表現で、政治家や軍人、マッド・サイエンティストの愚人ぶりを鮮明にあぶり出している。一人三役を演じたピーター・セラーズの怪演や、ジョージ・C・スコットの偏執狂的なタカ派ぶりが特筆もの。1962年のキューバ危機直後に作られた作品だが、扱っているテーマは現在でも通用する。

03/05/15/110

美女と液体人間
「透明人間」に続く東宝変形人間シリーズの第2弾。核実験の放射能汚染によって肉体が液状化した液体人間の恐怖を、シネマスコープの大画面で描いたSF大作。前半刑事ドラマ風のスリリングな展開から一転、後半はパニック映画さながらのスペクタクルな盛り上がりを見せ、なかなかドラマティック。40年以上前とは思えない円谷英二による精巧な液体人間の特撮や、華やかなキャバレーで歌い踊る白川由美のお色気ぶりが見所。なお劇中登場する死の灰を浴びた第二竜神丸は、1954年の第五福竜丸事件をモデルにしたものである。

03/05/16/109

ゆきゆきて神軍
天皇ポルノ・ビラ事件などで知られる反体制活動家、奥崎謙三の足跡を追った衝撃のドキュメンタリー。太平洋戦争中のニューギニア戦線で起こった人肉事件の真相を追って、旧日本陸軍の上官に対して脅しすかし、監禁、暴カなどの過激な行動によって事実を暴き出そうと言うもの。人間の業を生々しく描き出したカメラの物凄さと、映画史上空前とも思える奥崎謙三の壮絶キャラクターが出色!政治思想における保守、革新双方に波紋を投げかけたばかりでなく、映画表現の極限に挑んだ作品としても高く評価できる。とにかくこの映画の物凄さを言葉で表現するのは難しく、まずは見ていただくしかない。

03/05/17/109

全身小説家
ガンに冒された小説家、井上光春の死に至るまでの活動を5年がかりで追ったドキュメンタリー。よくある著名人の闘病日記とは全く異なる内容で、彼の特異なキャラクターと、現実と虚構が入り混じったユニークな経歴がメインになっている。数多くの女性ファンに囲まれた教祖的な一面や、ミステリー調に展開する井上光春の謎に包まれた過去。瀬戸内寂聴、野間宏、埴谷雄高などの著名人も数多く登場する。「ゆきゆきて神軍」で一躍脚光を浴びた原一男による生々しいカメラワークはもとより、文学者の変人性を改めて認識する一編でもある。

03/05/18/110

アエリータ
愛する女性の不倫によって妄想にとりつかれる宇宙ロケット開発者の苦悩を描いた旧ソ連の無声映画。初期のソ連映画にありがちな人民による革命、資本家と労働者の図式的な対立がここでも描かれているが、この映画の真の魅カは妄想シーンに出てくる火星人の衣装や王宮のセットなどの斬新な造形で、ロシア構成主義に基づいた抽象的なデザインは今見ても圧巻!特に火星人の女王「アエリータ」の日本髪風の髪型が秀逸。鏡や影をうまく使った映像表現も見事。暗く重苦しいソ連映画のイメージを一変させる内容。モダンアートやデザインに関心のある方は必見だ。

03/05/19/110

ガンヒルの決斗
ジョン・スタージェスによる決闘三部作の中の一本。大牧場主のドラ息子が、保安官の妻を惨殺したことから始まる孤独な復讐劇を描いたもの。講談調に展開される異色の西部劇で、カーク・ダグラス、アンソニー・クインの二大スターがそれぞれ男と男の意地の張り合いを好演。クライマックスの炎に包まれたホテルからの脱出劇から、出発を待つ列車の前で行われる決闘までの展開がスリリング。ヴィスタ・ヴィジョンによるスケールの大きな映像や、迫力あるガンプレイもなかなかのものだ。知名度が薄いわりに良くできた西部劇である。

03/05/20/110

4番目の男
「ロボコップ」で一躍有名になったポール・バーホーベンのオランダ時代の作品。内容はホモの人気作家の身辺で起こる淫靡な悪夢を描いたもの。この時点ですでにバーホーベン独自のグロテスクかつエロティックな作風が確立されている。金がかかってない分小技で勝負と言ったような感じで、光を誇張した映像や、随所に見られる言葉遊びなど、芸の細かい不思議感覚の演出がなんとも言えない。この映画のヒットによりバーホーベンはハリウッドへ。同じくいぶし銀の撮影を担当したヤン・デ・ボンもハリウッドへ渡った。

03/05/21/110

天国と地獄
巨匠黒澤明による児童誘拐を題材にした犯罪ドラマ。映画は前後半の二部構成になっていて、前半誘拐犯の執拗な電話に振り回される被害者を、後半リアリティあふれる警察の犯罪捜査を、それぞれに趣向を凝らしたダイナミックな演出で描き出す。余りにも有名な新幹線の窓を使った身代金受け渡しシーンを筆頭に、モノクロ映像の中にワンポイント的に使用されるカラー映像、神奈川県の地域的特性を生かした巧妙な筋立てが秀逸。「罪と罰」を思わせる屈折した誘拐犯を山崎努が好演。高度経済成長の影の部分を映し出した社会派ドラマ風の作りが、作品をより重厚なものにしている。

03/05/22/110

汚れなき悪戯
名主題歌「マルセリーノの歌」で知られるスペイン映画史上屈指の名作。戦後ヨーロッパを中心に貧しい生活の中で、けなげに生きる子供の姿を描いた作品が流行したが、この映画はその中でも特に宗教的色彩が強く、同時期の類画を一蹴する内容を持つ。素朴なエネルギーを感じさせる生命カあふれる描写と、来世的思想に裏打ちされた死生観とのせめぎあいが感動的で、特にスペインの画家ムリリョの宗教画を思わせるラストの奇蹟(殉教?)のシーンが圧倒的!空想の中の娘マヌエルとの対話を通して、亡き母が居る天国へと導かれるマルセリーノ。その子役を演じたパブリート・カルヴォの神懸り的演技も秀逸。

03/05/23/110

カルパテ城の謎
ジュール・ヴェルヌの原作をコミカルなタッチで映像化したチェコ映画。監督はチェコ映画界の巨人オルドリッチ・リプスキー。内容はテノール歌手でもあるテルケ伯爵が、婚約者サルザを追って悪魔の城と呼ばれる「カルパテ城」に潜入すると言うもの。稚拙ともシュールともとれる馬鹿馬鹿しいギャグ以上に、映画の全編にわたって登場する奇妙なルックスの小道具やオブジェ、インテリアが抜群!特にサイクロプス風のハンディ・カメラ(?)が出色。からくり屋敷を思わせる「カルパテ城」の様々な仕掛けも面白い。傑作か駄作か判別不可能だが、珍しさという点では第一級。

03/05/24/111

サブウェイ
重要書類を盗み出した男と、地下鉄構内で出会った奇妙な住人との不思議な交流を描いたカルト映画。監督はフランスの俊英リュック・ベッソンで、ストーリーよりも視覚的センスを売り物にした作風。サイバー感覚にあふれたシャープな映像に加え、華麗な七変化が楽しいイザベル・アジャー二、個性的なキャラクターをそろえたエキセントリックな演出。そして何よりも、SFの地下壕を思わせるフランス地下鉄構内のアバンギャルドな異空間が最高だ!エリック・セラのパンクな音楽もフィット。

03/05/25/111

彗星に乗って
実写とアニメーションの合成で知られるチェコ映画の巨匠カレル・ゼーマンの代表作。内容は海に溺れたフランス軍中尉の夢想をもとに、前世紀の彗星を舞台にした奇想天外なアドベンチャーが展開される。凄いのは細密画をコラージュした平面構造の映像で、セピア調のフィルターに彩られた独創的な世界観は一驚に値する。チェコ映画特有のとぼけた味わいや、オープニングに貼り付けられた絵葉書風のカットが面白い。同じ実写とアニメーションの合成で有名なレイ・ハリーハウゼンの作品とは全く異質な内容。アニメ&映画マニアには推奨品。

03/05/26/113

リストマニア
クラシックの作曲家フランツ・リストとリヒャルト・ワグナーの実話をもとに、サイケ調の映像と音楽で徹底的にパロった異色作。監督はイギリスの奇才ケン・ラッセルで、この作品は彼の「作曲家ものシリーズ」の中でもそのハチャメチャぶりは圧倒的!性的シンボルや奇想天外なオブジェ、数々の映画のパロディに加え、果てはワーグナーに心酔したヒトラーまで登場する。「ザ・フー」のヴォーカリスト、ロジャー・ダルトリーの多彩な芸。シンセサイザー奏者リック・ウェイクマンのチープな音楽が面白い。ただ残念なことにクラシック音楽通でないと笑えないようなギャグ。ぼかしが入りまくりの超ゲテモノなので日本での劇場公開は見送られてしまった(T_T)

03/05/27/114

トミー
「ザ・フー」のロック・オペラ「トミー」の完全映画化。三重苦に見舞われた「トミー」の半生を激しいロック・サウンドと奇想天外な映像で綴ったサイケデリックな作品。エルトン・ジョン、エリック・クラプトン、ティナ・ターナーといったロック界の大物が続々登場!イギリスの奇才ケン・ラッセルが最も脂が乗り切った頃の作品で、壮絶ハイテンションで迫る過激な演出はまさに空前にして絶後!特に劇中の有名なナンバー「ピンボールの魔術師」は圧倒的で、ラッセル独自の映像マジックが縦横無尽に炸裂する!なおこの映画は当時の最新型音響システムであるQSクインタフォニック方式(サラウンドの元祖)で上映された。

03/05/28/115

時計じかけのオレンジ
若者の暴力、セックスが支配する暗澹たる近未来。不良グループのボスが警察に捕らえられ暴力を拒絶するような洗脳を受けるが・・・。次々と新しいジャンルを開拓するスタンリー・キューブリックが今度は暴力を通した社会と個人の二元論に挑戦した話題作。驚くのはその先見性に富んだ世界観とアバンギャルドに満ちた独創的な映像美で、無機的な性を形作るモダンなオブジェ、隠微な未来用語、ウォルター・カーロスによるシンセサイザーなど、30年以上前とは思えない比類無き映画表現の数々が圧倒的!キューブリックのお家芸でもあるシンメトリー構図、クールなライト・アートも健在。

03/05/29/115

うる星やつら2
人気テレビ・シリーズ「うる星やつら」の劇場版第2弾。監督押井守の作家性を初めて前面に押し出した作品で、シリーズ最高傑作という呼び声も高い。内容は学園祭前日に起こったデ・ジャブを発端に、妖怪の作り出した夢の中で起こる数々の不条理を描いたもの。監督が好む廃墟、魚、屋台などのイメージ、宇宙空間を漂う巨大な亀に代表されるような不思議感覚の映像が何とも言えない。映画公開当初、原作のイメージとは余りにかけ離れた内容に、ファンの間では賛否両論、議論百出となった。

03/05/30/114

素晴らしき日曜日
戦後間もない焼け野原の東京を舞台に、貧しい男女の日曜日のデートを追った恋愛ドラマ。ダイナミックな映像を得意とする黒澤映画としては極めて珍しい内容で、映画は厳しい現実や、将来への希望がみずみずしいタッチで綴られる。映画は恋愛ドラマとしても秀逸だが、それ以上に驚くのはクライマックスに仕掛けられた《スクリーンから観客に語りかける》実験手法で、見方によってはクサい演出ともとれるものの、当時の作り手の野心や映画環境の熱気が感じられて実に興味深い。映画的才能のみならず、画才にも恵まれた黒澤明による細かい絵作りも見事なものだ。

03/05/31/114

僕の村は戦場だった
旧ソ連の巨匠アンドレイ・タルコフスキーによる耽美的反戦映画。ドイツ軍のソ連侵攻によって孤児となった少年が、強い復讐心にかられ自ら斥候となることを志願するが・・・。まるで名人の工芸品を思わせるような洗練された映像は、これが長編デビュー作かと思うほどの見事なもので、時間と空間によって形成された詩的イメージの中に観客が沈み込むような錯覚すら覚える。悲劇性をさらに盛り上げるニコライ・ブルリャーエフの美少年ぶり。リリシズムあふれる美しい回想シーンも秀逸。

03/06/01/114

ワーロック
リチャード・ウィドマーク、ヘンリー・フォンダ、アンソニー・クインの三大スターが競演する傑作西部劇。無法者の暴カが支配する町「ワーロック」を舞台に、外部から雇われた「マーシャル」と、合法的に選ばれた「シェリフ」との一騎打ちを描いたもの。用心棒的性格を持つ「マーシャル」、警察官の役割を果たす「シェリフ」。同じ治安の維持を目的とした両者の違いを浮き彫りにすることによって、治安のあり方や、真の民主性を問いかける。監督エドワード・ドミトリクによる洞察カの高い演出。ラストの思わず唸ってしまう決闘シーンも見事。

03/06/02/114

ドクトル・マブゼ
ドイツ無声映画の巨匠フリッツ・ラングによる犯罪ドラマ。精神科医と犯罪王の二重の顔を持つ悪の怪人マブゼ博士による数々の犯罪(株価操作、偽札作り、殺人、誘拐など)と、恋焦がれる伯爵夫人への略奪愛を描いたもの。ピカレスク的な悪のヒーローの原点とも言える作品で、退廃的ムードと怪奇趣味が織り成す光と闇のぺージェントや、ドイツ表現主義による前衛的な装飾が大きな見所になっている。往時のトレンドを感じさせる博士のニヒルなキャラクター作り、タイポグラフィを使った斬新な映像テクニックに加え、第一部に登場する賭博場に仕掛けられたユニークなセキュリティ・システムも面白い。

03/06/03/114

パーフェクト・ブルー
芸能界の舞台裏で起こる連続殺人事件を描いたサイコ・サスペンス・アニメ。スタッフの中には大友克洋、江口寿史などのビッグネームもある。虚構と現実が入り混じる複雑な入れ子構造を持った作品で、編集の妙、高度な作画レベルなどが大きな見所になっている。観る者をミスリードする巧妙な筋立て、意外性のある犯人など、サスペンスの定石をきっちり踏まえているので安心して見れる。ただ実写向きの内容をアニメーションにした効果の程は疑問。むしろマイナスかもしれない。トータルでは秀作である。

03/06/04/114

刑事ジョン・ブック/目撃者
名匠ピーター・ウィアーのハリウッド渡航第1弾。映画は警察内部の腐敗を知った刑事が、口封じのために組織に命を狙われるといったもので、ストーリーそのものは良くある話・・・。ポイントは刑事の隠れ家となる宗教集団アーミッシュの俗世間から離れた質素な生活ぶりと、暴カを否定した道徳観をミステリアスに扱ったところで、時代をタイムスリップした様な異空間や、世界の違う男女の結ばれぬ愛が幻想的に描かれている。ミレーやレンブラントを思わせる渋い絵作りに加え、田園風景のバックに流れるシンセサイザー(音楽:モーリス・ジャール)のミスマッチぶりも面白い。

03/06/05/114

パンドラの箱
妖艶なエロティシズムによって数々の男達を誘惑し、その悪女ぶりから法廷の場で《パンドラの箱》と命名された踊り子「ルル」。その数奇な運命と往時の退廃的ムード描き出したG・W・パプスト督督によるドイツ無声映画の傑作。驚くのは陰影を誇張したスタイリッシュな映像と、古さを感じさせないヘアスタイルやファッションの数々で、特に主人公の「ルル」を演じたルイーズ・ブルックスは現代にも通用するようなルックスとキャラクターをそなえていると言える。愛人、誘惑、結婚、不倫、殺人、逃亡、賭博、売春、猟奇と全編エピソードには事欠かない・・・推奨品(^^)b

03/06/06/113

邪眼
フランスのアナーキーな芸術家集団「ル・デルニエ・クリ」によるハイパー・アニメーション。ハイスピードなコマ撮り撮影を中心とした手作り感覚のアニメで、13人のアーティストがそれぞれ1〜3分間の作品をリレー形式で提供。ローテクで表現したとはとても思えない機銃掃射されるCG顔負けのぶっ飛び映像が大きな見所で、支離滅裂、百鬼夜行、奇怪破廉恥としか形容できない。岡本太郎もビックリの爆発ぶりは一見の価値有りだが、全ての人にすすめられるわけではない。バックに流れるノイズ系ミュージックが画面の不協和音ぶりをさらに増幅させている。

03/06/07/114

幕間
劇場の幕間に上映されたフランスの前衛的短編映画。「幕間」と言うタイトルからは想像もできないような豪華なスタッフ、フランス映画創世期の巨匠ルネ・クレール、ソラリゼーション手法の写真家マン・レイ、ダダの画家フランシス・ピカビア、マルセル・デュシャン、前衛作曲家エリック・サティ等で製作されたこの作品は、当時の最先端の映像を提供することによって、実験工房としての役割を十二分に果していたと言える。特にクライマックスのチェイス・シーンで使われた、ハイスピードなカットバックは今見ても圧巻!映画は無声映画時代からそれほど進歩していないこともわかる。

03/06/08/114

スピオーネ
巨匠フリッツ・ラングによるドイツ無声映画の佳編。英国、ロシア、日本の各国が繰り広げる三つ巴のスパイ戦と、美男美女のスパイ同士による激しい恋愛を描いたもの。スパイの首領、銀行の頭取、あるいは道化師といった多重の顔を持つ悪役を演じるルドルフ・クライン=ロッゲは、ほとんど怪人マブゼ博士のノリ。映画自体も「ドクトル・マブゼ」のスパイ版と言ったところだ。面白いのは切腹する日本のスパイ(松本博士)のキャラクターで、情にもろく義理堅い日本人の特徴を良く表現している。ラストの舞台上での幕引きもシャレている。

03/06/09/114

ケイン号の叛乱
輝かしい戦歴を持って赴任してきたケイン号の新艦長。しかし長い海戦生活からくるストレスから精神が錯乱!!!無茶苦茶な命令を出して乗務員の生命を危険にさらしてしまう。軍の硬直した組織のあり方と、危機に直面した人間の脆さを鮮やかに描き出したエドワード・ドミトリク&スタンリー・クレイマーによる戦争風刺劇。ピラミッド構造の組織社会が幅を利かす現代においても十二分に通用する内容で、特にビー玉を使ったハンフリー・ボガートの特異なキャラクター作りと、終盤の軍事法廷で展開される綿密な脚本が圧倒的!善対悪の単純な二元論に終始するアメリカ映画にとっては大変珍しい内容になっている。

03/06/10/114

ファウスト
おなじみドイツ中世のファウスト伝説を大胆に脚色した、チェコの鬼才ヤン・シュワンクマイエルの代表作。もともとが奇想天外かつ怪奇趣味の強い物語なので、シュールでグロテスクな持ち味を得意とするヤンにとってはぴったりの題材と言える。チェコの伝統的な人形劇や、それから派生したクレイ・アニメのノウハウを生かした独創的な映像美が大きな特色で、無声映画初期を思わせるセットのローテクぶりや、フェティッシュ&キッチュな飲食シーンが印象深い。アート系映画マニアには特に推奨品だ。

03/06/11/114

死の接吻
職人監督ヘンリー・ハサウェイによる犯罪ドラマ。密告を強要する検事、組織を裏切る前科物、冷酷非情な殺人狂をドキュメントタッチで綴った凡庸な映画だが、冒頭ニューヨーク・ロケの断り書きがあるように、スタジオ撮影全盛時代に作られたロケ映画であるところが貴重。セリフに混じって頻繁に入ってくる暗騒音や生々しく映し出された当時の社会風俗など、戦後の米国社会を知る上で資料的価値の高い作品になっている。主役を演じた巨漢ヴィクター・マチュアがかすむ、新人リチャード・ウィドマークの悪役ぶりも鮮烈!

03/06/12/113

拳銃王
流れ者となった早撃ちのガンマン、ジミー・リンゴ。数々の死闘に疲れ果て、妻子とよりを戻すために懐かしの我町に帰ってくるが・・・。早撃ちガンマンの逃れられない宿命を描いた傑作西部劇。「真昼の決闘」と似た刻一刻と迫り来るスリリングなデュエル・ストーリーがセールス・ポイントだが、むしろアウトローを取り巻く町衆の複雑な反応にこの映画の普遍的な面白さがある。紳士役のイメージが強いグレゴリー・ペックが口髭を生やしてならず者を演じているのも珍しい。

03/06/13/113

ロビンソンの庭
猥雑な都会生活を送ってきたクミが突如都会の真中に緑のオアシスを発見!畑作りに精を出す。鬼才山本政志が放つインディーズ・ムービーの代表作。クミをはじめとする奇人変人たちの百鬼夜行ぶりと、次に何が飛び出すか分からない意外性の連続が大きな見所で、アナーキーな映画演出と洗練された映像が溶け合う、実に不思議な映画になっている。全体的にミステリアスなムードが漂っており、現代における土俗的神話の再現を狙ったのかもしれない。なおタイトルの由来は有名な「ロビンソン・クルーソー」から。海外の観客を意識してか英語の字幕が付いている。

03/06/14/113

無頼の群
ヘンリー・キング&グレゴリー・ペックによるサスペンス・タッチの異色西部劇。死刑執行を目前にひかえた4人の悪党共が集団脱走。妻を惨殺されたハンターが復讐に燃え、悪党共を一人また一人と片付けるが・・・。映画は趣向を凝らしたスリリングな追跡シーンが大きな見所だが、それ以上に印象的なのはキリスト教の道徳観を背景にしたラストの苦々しいどんでん返しで、単細胞的な西部劇では味わえない深い魅カがある。シネマスコープを生かした大峡谷の景観。主役のグレゴリー・ペックも大熱演だ。

03/06/15/113

ミツバチのささやき
スペインの片田舎に住む少女アナは、映画「フランケンシュタイン」に描かれた《死》に疑問を抱き、一人怪物が住むと言われる廃屋を訪れる。そこで見たものはスペイン内戦で傷ついた一人の負傷兵だった。映画製作は10年に1度と言われるスペインの寡作家ヴィクトル・エリセの長編デビュー作。生と死の暗喩的イメージを散りばめた詩的映像が大きな見所で、その悠揚せまらぬ独自の映像表現はもはや孤高と呼ぶにふさわしい。風光明媚な南欧の光景、アナ・トレントの無垢な瞳。蜂の巣を思わせる六角格子の窓が特に印象深く、スペイン現代音楽の重鎮、ルイス・デ・パブロによる素朴な映画音楽も摩訶不思議な魅カがある。

03/06/16/113

地獄への道
大陸横断鉄道の土地買収にからむトラブルから、無法者へと転落したジェシー・ジェームズの半生を描いた伝記映画。主役のジェシー・ジェームズには当時の二枚目スター、タイロン・パワーが扮している。日本の成田闘争を思わせるような善対悪の図式的ストーリーながら、アウトローに転じなければならなくなった経緯が説得力を持って描かれており、人間の業を正面から見据える巨匠ヘンリー・キングならではの手腕が光る。ガンファイト、スタント・アクションもなかなかの迫力で、三原色を使ったテクニカラーの鮮やかさも色褪せない。

03/06/17/113

盲獣
異様な彫刻のアトリエで繰り広げられる、盲目のマザコン男と美人モデルとのマゾヒズムを描いた異常心理劇。原作江戸川乱歩&監督増村保造が放つ狂気の世界だから、さぞかし凄いものになるのではと期待すると肩透かしを食らう。映画は異常な状況下に置かれた人の生態を観察するような趣があり、出演者の大熱演のわりにカメラはいたって冷静。ドイツ表現主義を思わせる女性の部位をかたどった巨大なオブジェ、盲目の人間が触覚を中心とした快楽を突き詰めていくという、タブーの領域に踏み込んだ意欲的な企画が抜群!珍しい内容だがカルト度は意外と低い。

03/06/18/112

屋根の上のバイオリン弾き
ブロードウェイでロングランを続けたミュージカルの完全映画化。タイトルは、屋根の上の不安定な場所でバランスをとりながら必死になって演奏をするバイオリン弾きに、ユダヤ民族の不安定な生活ぶりを重ね合わせたもので、映画も悲しい民族の歴史を正面から捉えた大変なカ作になっている。時代はロシア革命前夜、ウクライナ地方アナテフカ村を舞台に、近代化によって崩壊する家父長制とロシア政府によるユダヤ人迫害の悲劇を綴ったもので、特に涙を誘うのはシェルダン・ハーニック&ジェリー・ボック作詞作曲によるユダヤ、ロシア民謡をべ一スにした数々の歌曲。中でも婚礼歌「サンライズ・サンセット」は余りにも有名。名手アイザック・スターンによるバイオリン・ソロも見事。

03/06/19/112

イルカの日
大統領暗殺計画に利用される言葉を話すイルカ達の悲しい運命を描いた異色のサスペンス映画。人間のエゴによって虐げられる無垢な動物達といった図式性に加え、後半に展開されるサスペンスも明かに不発(>_<)。 そう言った点において著しく評価の低い作品だが、この映画はむしろ前半の動物学者とイルカ達との交流に魅力がある。ジョルジュ・ドルリュー作曲による素朴で美しい映画音楽。水彩画を思わせる淡い色彩のマリンブルーが特に印象深く、イルカ達の飛んだり跳ねたりの大熱演(?)もご愛嬌。ていねいな映画作りにも好感が持てる。

03/06/20/112

人魚伝説
原発建設にからむ陰謀によって愛する夫を殺された海女。その鮮烈なる復讐を描いたカルト映画。原発→加害者、漁民→被害者といった図式性や、マンガを原作にした無理のあるストーリー展開が気になるものの、それらの欠点を吹き飛ばすだけの説得力のある映像表現がこの映画の持ち味で、特に海女が返り血を浴びながら原発関係者を次々と殺しまくる凄絶なクライマックスは、これぞカルト映画だ!といわんばかりの暴れぶり。殺伐とした内容のわりに映像は美しく幻想的ですらある。本田俊之のサックスをバックにした水中撮影も見事。

03/06/21/111

ラ・ジュテ
第三次世界大戦後のフランス、戦勝国の捕虜となった男は人類存亡の可否を賭けたタイムトラベルの実験台になるが・・・。キューバ危機やべトナム戦争など、東西冷戦による第三次世界大戦勃発の危機が最も生々しい頃につくられた異色のSF映画で、今も伝説的名作として語り継がれている。タイムトラベルを使ったSF映画としても秀逸だが、それ以上に驚くのはスチール写真のみを使った斬新な映画演出で、映画がかつて「活動写真」と呼ばれ英語でも「モーション・ピクチャー」と呼ばれていることから考えると、静止画像のみのこの作品は果して映画なのか?役者も画面には登場するがこれは演技なのか?映画の定義を根底から揺るがしかねない作品!マニア超必見!

03/06/22/111

酔いどれ天使
監督黒澤明、主演三船敏郎、音楽早坂文雄の黄金トリオが初めて顔を合わせた黒澤映画初期の傑作。戦後の闇市を舞台に結核を患った若いヤクザと、飲んだくれの老医師との交流を通して、戦後復興の光と影をモノクロ画像の中に鮮烈に描き出している。特にギターやオルゴールを使った音楽の使い方が抜群!ギラギラしたヤクザを演じる三船敏郎を圧倒する山本礼三郎の存在感も凄い!クライマックスの有名な白ペンキの中の格闘シーンをはじめ、全編エネルギッシュなオーラに満ち溢れている。

03/06/23/111

アグネス
修道院内部で起こった不可解な嬰児殺害事件を通して、宗教の閉鎖性や性的なフェミニズムをミステリアスなムードで描いたサスペンス映画の佳編。当時はアカデミー賞候補にもなった話題作だが、地味な内容に加え、消化不良のラストが災いしてか、映画ファンの間でもほとんど忘れ去られた作品になっている。私的には特異な題材や手堅い映画演出などに目を見張るものがあり、特に事件の真相に迫る催眠療法のシーンなどは異様な緊張感があって生々しい。ジョルジュ・ドルリューによる厳粛な映画音楽も貴重。

03/06/24/111

オーディション
にせのポルノ俳優募集広告を餌にして集められた明日のスターを夢見る俳優の卵たち。その2日間にわたるオーディション風景をどっきりカメラ風に撮影した異色のポルノ映画。内容は中世の拷問室とベッドルームのセットをバックに、画面に映らない審査員と奇行ぶりを披露する応募者達との卑俗な会話や痴態パフォーマンスが延々と綴られる。映像や内容に特に目新しさはないが、奇抜な企画力の面白さで最後まで引っ張る!映像産業の底辺を垣間見るアングラ感覚が何とも言えない。

03/06/25/110

クラック!
カナダのアニメ作家フレデリック・バックの代表作「木を植えた男」に先駆けて作られた習作的短編。バックの作品は「木を植えた男」をはじめとして、自然保護や文明批判をあざとく描いたプロバガンダと言ったイメージが強いのだが、この作品はカナダのケベック州の伝統や文化に対する郷愁が前面に出ていて、その独自の色鉛筆の手法とあいまってストレートに感動できる作品に仕上がっている。特にロッキングチェアのメタモルフォーゼ。全編にわたって見られる光と影の描写力は、色鉛筆にまだこの様な可能性があるのかと感嘆させられる。説明的なナレーションが一切ないのも効果的だ。

03/06/26/110

クライヴ・バーガーのサロメ
映画監督であり、怪奇作家としても有名な鬼才クライヴ・バーガーのイギリス時代の実験作。後の大ヒット作となる「ヘルレイザー」のスタッフと共に、オスカー・ワイルドの「サロメ」をモノクロ、サイレントとして大胆に映像化(ただし音楽は付いている)。ドイツ表現主義を意識した怪奇趣味にあふれた映像で、意図的に降らされたフィルムの雨、狭い地下室の中を広く見せる演劇的効果など、エロティシズムとグロテスクが交錯するバーガー独自の光と闇の異次元世界が観る者を圧倒する!ホラーと言うより無声映画の可能性を知らしめた作品。マニア超必見!!!

03/06/27/111

山田長政/王者の剣
江戸時代、シャム王国で活躍した日本の英雄、山田長政の一代記を描いたタイ=日本合作の歴史映画。長谷川一夫、市川雷蔵の二大大映スターを擁したハリウッド顔負けの物量投入型の大作で、当時の日本人町やシャム王宮を細部まで再現した絢爛たるセット、世界遺産の数々が映し出されるタイのロケーションなど、総天然色&シネスコ画面で展開される日本映画らしからぬ壮大なパノラマは今見ても圧巻!珍しい歴史人物を扱った作品としても貴重で、ストーリーが優れていれば名作になったと思う。

03/06/28/111

野良犬
巨匠黒澤明による戦後復興もの第3弾。ピストルをすられ、それによって連続強盗殺人事件起こされた新人刑事が、ベテラン刑事と一緒になって執拗に犯人を追うが・・・。そのシンプルなストーリーの中に、様々な人間模様や当時の社会風俗が克明に描かれる。映画は刑事ドラマということもあって、他ではあまり目にすることのできない戦後間もない頃の警察内部の描写が目を引く。画面からほとばしる熱気。ピアノと童謡をうまく使った哀感あふれるラスト。すでに作風は巨匠たる風格十分!万人に推奨品だ!

03/06/29/111

悪魔の毒々モンスター
イジメに遭った清掃作業員が、産業廃棄物を浴びたことをきっかけに怪力を持ったモンスター・ヒーローに変身する!!!80年代にカルト的人気を得てシリーズ化されたホラー・コメディの第1弾。作り手の怨念がストレートに出た残酷描写と、チャップリンの「街の灯」を思わせる盲目の美女との交流が大きな見所で、お約束とも言えるB級映画ファン向けのチープな笑いも満載。悪趣味に走った下品な映画ととらえるか、ハングリー精神にあふれたエネルギッシュな映画ととらえるかは評価が分かれそうだが、世の中に対して鬱積がたまっている人にとっては特に痛快な作品と言える。

03/06/30/111

白い肌の異常な夜
ドン・シーゲル&クリント・イーストウッドのコンビが「ダーティハリー」と同時期に手掛けた話題作。南北戦争のさなか負傷した北軍兵が女性ばかりの女学院にかくまわれて傷の手当てを受けるが・・・。男の桃源郷が一転して淫靡な悪夢に変わるという恐いお話。映画は有名な脚部切断シーンをクライマックスに、人間のドロドロとした内面がじわりじわりと伝わってくる。B級映画出身の監督が演出したとは思えないような緻密で芸術的な描写。べトナム戦争や公民権運動など、当時の社会問題もそれとなく臭わせている。

03/07/01/111

再起戦に仕組まれた黒い陰謀を知らずにリングに上がるベテラン・プロボクサー。その孤独な戦いをリアルに描いたボクシング映画の佳編。監督はこれが出世作となるロバート・ワイズ。後のリアリズムに徹した作風を確立したような作品で、特に「真昼の決闘」の3年も前に試みられた映画と現実との時間進行の一致、映画音楽の排除、無力感漂うヒロイズムなど。各々の非ハリウッド的な映画演出が、甘さのないシビアな現実社会を映し出す。ワイズのボクシング映画と言うと「傷だらけの栄光」が有名だが、映画の完成度はこちらの方が高い。

03/07/02/110

君も出世ができる
高度経済成長華やかし頃に製作された和製ミュージカルの傑作。ハッスル社員とノンビリ社員を対比させた典型的なサラリーマン・コメディは今見ると白けるが、ダサいセンスを吹っ飛ばすような「ウエストサイド物語」風のダイナミックかつエネルギッシュなミュージカル・シーンが凄い。通常の映画作りの2倍の制作費を注ぎ込んだにぎやかなセットとアート風の美術。作詞谷川俊太郎、作曲黛敏郎他と言った豪華な顔ぶれを揃えられるのもこの時代ならでは。公開当初は不評だったようだが今となっては貴重な作品。日本に勢いがあった頃を知らない若い世代に特に推奨品。

03/07/03/110

ロボコップ
オランダの鬼才ポール・バーホーベンのハリウッド・デビュー作にして最高傑作。近未来のデトロイトを舞台にしたバイオレンス・アクションで、見所の多彩さが大きな特色。バーホーベン独自のグロテスクな描写、ロブ・ボッティンの特殊メイク、全くダレ場のないストーリー展開など、この作品の成功は公開される前から約束されていたと言っても過言ではない。警察官のストライキ、警察業務への民間参入、セキュリティのハイテク化など未来設定に対するリアリティも完璧!サイボーグと化した主人公が自分自身を取り戻すラストも感動的!文句無しの一級品だ。

03/07/04/111

ザ・フライ
物質転送機によって蝿と融合した科学者の悲惨な末路を描いたSFホラー。前回人間の体に大きな蝿の頭をのせて失笑を買った「蝿男の恐怖」のリメイクで、今回は遺伝子レベルでの融合と言った設定に変更されている。世評では悲劇を超えた感動の恋愛ドラマとなっているが、やはり高度に発達した科学技術の影を描いた作品として評価したい。その余りの無常感あふれるラストは、普遍的な科学を謳歌するために築かれた累々たるあまたの屍と重なり合う。クリス・ウェイラスの芸の細かい特殊メイク。ハワード・ショアの葬送行進曲風の音楽も効果を上げている。

03/07/05/110

ハンネの昇天
滝壷に身を投げた天女が、実は20年前に同じ場所で身を投げた母親と瓜二つであったことから因縁めいた悲劇が繰り返される。土俗的な輪廻転生譚を通して、当時の社会状況を暗喩的に表現した韓国映画の力作。製作者の政治的意図はともかくとして、全体的に漂うシャーマニスティックかつミステリアスなムードは他の映画では余り見ることのできない貴重なもの。韓国の民族音楽、舞踊、祭礼がふんだんに入っており、民俗学的な資料としても価値が高い。ストーリーはシンプルで難解さがなく、洗練された映像センスも楽しめる。

03/07/06/110

黄金の七人
コミカルなタッチで綴られるイタリアの犯罪映画。前半の奇想天外なスイス銀行襲撃から後半の二転三転するストーリー展開まで、歯切れの良い編集とカメラアングルの妙、イタリア風の粋な演出が炸裂。小道具として登場する当時のハイテク機器や紅一点のロッサナ・ポデスタが魅せる七変化も見所。アルマンド・トロヴァヨーリのスキャットを使った有名な映画音楽も面白い。映画は世界的にヒットしてのちにシリーズ化。日本のアニメ「ルパン三世」への影響も見られる。

03/07/07/111

あしたのジョー
大ヒットとなった同名タイトルのマンガをもとに1年以上にわたってテレビ放映されたボクシング・アニメの傑作。もともと水と油とも言えるちばてつや&梶原一騎のコラボレーションによって傑作となった原作に、これがデビュー作となる出崎統&杉野昭夫コンビによるリリシズムが加わって、日本のTVアニメとしても最高峰に位置する作品に仕上がっている。特にリミテッド・アニメを逆手に取った止め絵。映画「イージー・ライダー」からヒントを得たと言われる透過光の技術が早くも開花。サイケデリックな映像演出、主題歌の作詞が寺山修司と言うのも面白い。原作のスケジュールとの兼ね合いでラストが中途半端に終わるのは残念。その断腸の思いは続編となるパート2に引き継がれる。

03/07/08/111

侠女/チンルー砦の戦い
香港の黒澤明と呼ばれる武侠映画の始祖キン・フーの代表作。中国の古典怪奇談「聊斎志異」をワイヤー・アクションを使った鮮烈な武闘劇としてアレンジしたもので、特に巨岩石や竹林をバックにしたクライマックスはほとんど芸術的。香港映画に見られがちなチープさが全くなく、映像は重厚長大。斜光と白煙のコラボレーションも絶品だ。ヨーロッパでは早くから注目されたこの映画も実は日本未公開。「燃えよドラゴン」の大ヒット以前にこのような凄い映画があったのだ。なお続編となる第二部「最後の法力」はなぜか宗教映画になってしまう。

03/07/09/111

秀子の応援団長
当時のアイドルスター高峰秀子が主演した野球映画。弱小チーム「アトラス」が秀子の応援歌に乗って優勝に導かれるまでを描いたもの。太平洋戦争前年に作られたとは思えない陽気で快活な映画表現が大きな見所で、「打って♪打って♪打って♪勝って♪勝って♪勝って♪」などのテンポの良い主題歌、初々しい秀子のモダンなキャラクター作り、戦時中は禁止された英語やアメリカのジャズなどが頻繁に使用されているのも面白い。この映画をきっかけにスター歌手になった灰田勝彦も登場。ラストの無人の野球場に独り佇む秀子の姿も鮮やか。マニア必見作!

03/07/10/111

マンハッタン無宿
クリント・イーストウッド、ドン・シーゲルの名コンビが初めて顔を合わた刑事アクションの傑作。映画は西部劇の名作「大いなる西部」(東部男=都会人が西部=田舎で文化的ギャップに遭いながらも大活躍)の逆パターンで、西部男がマンハッタンという大都会で文化的ギャップに遭いながらも、犯人を執拗に追いつめていく姿が熱っぽく描かれている。絶妙なセリフ回し、サイケ調の風俗描写とテンガロンハットとのミスマッチに加え、ラストの男と女の別れ際にヘリを使うというのも珍しい。

03/07/11/111

夢を追いかけて
TV用に企画され、のちに劇場公開された小中和哉の習作的短編。夢の中に出てくるもう一人の自分。彼女はその夢を追って一路長崎へ。そこには彼と結ばれたもう一人の自分がいた。ラブレターを分水嶺に人生の成就と後悔を対比的に描いたファンタジー・ドラマ。パズルのようなストーリー展開、クールなモノローグ、映画の全編を彩る繊細な映像が抜群。ヒロインを演じた水沢蛍の物憂げな表情も絶品だ。メジャーな映画では味わえない静かな感動がここにある。映画マニアには推奨品。

03/07/12/111

地下大水脈に挑む
NHKのハイビジョン・カメラによって撮影されたドキュメンタリー。フロリダの地下に張り巡らされた巨大地下水脈の実態とその調査にあたるダイバー達の奮闘ぶりを撮らえたもの。圧巻は50メートル先まで見える透明度の中で水中撮影された巨大洞窟「パワー・ケイブ」の鮮明な映像で、SF映画もはだしで逃げ出すその異様な光景はまさに前代未聞。距離を測るロープ(命綱としても使用される)をクライマックスからラストにかけて感動を呼ぶ小道具として撮らえている点にも要注目。大自然の偉容のみならず、アメリカ人の底知れぬバイタリティに改めて敬服する一編でもある。

03/07/13/110

アンナ・パブロワ
第一次世界大戦、ロシア革命。激動の時代をドラマティックに生きた「伝説のバレリーナ」アンナ・パブロワの伝記映画。ロシアを舞台にしたロシア人による映画だが、世界配給を視野に入れてかセリフは英語になっている。映画はキーロフ、ボリショイ二大バレエ団協力による豪華絢爛たるバレエシーンを目玉に、当時のファッションや小道具を細部まで再現。ロシア、パリ、ロンドン、ニューヨーク、メキシコなどに大掛かりなロケを敢行したことでも話題になった。ストーリーは表面的だが、テンポが良いのでだれずに観賞できる。なお監修にあたっているのは「赤い靴」で有名なマイケル・パウエル。

03/07/14/110

深く静かに潜航せよ
バート・ランカスター、クラーク・ゲーブル。二大スター共演による戦争映画。太平洋戦争、日本海沿岸で展開される米潜水艦と駆逐艦「あきかぜ」との緊迫した戦闘を描いたもの。監督はロバート・ワイズで、例によってリアリズムを駆使したワイズ節がそこかしこに炸裂。モノクロ画像を引き締めるタイトな照明テクニック。細部にまでこだわった潜水艦内部のセット。ひとつひとつの動作までリアルに再現した艦内作業など、軍事マニアもうならすその説得力ある演出は、嫌が上でも映画の緊張感を盛り上げる。リアリズムの中で浮く日本軍描写の杜撰さは玉に瑕。

03/07/15/109

ビッグ
トム・ハンクスがまだコメディ役者として活躍していた頃の代表作。魔法によって大人の体になった13歳の少年が、立身出世と大人の恋を同時に体験する御伽噺。いささか子供っぽい内容だが、ラスト近くでヒロインが子供に戻るのを拒絶するあたりで、ああ、この映画は大人のために作られた映画なのだなあということがわかる。監督は女流監督のペニー・マーシャルで、子供ならこの場面でどういう行動をとるだろうかといった、母性の視点からの演出が効果的で、この荒唐無稽な御伽噺をより説得力あるものにしている。

03/07/16/108

沈黙のリベンジ
誤って死なせた女性患者の死体が忽然と消えた!その瞬間から精神科医は罪の意識にさいなまれ次第に気が狂っていく。カルト的雰囲気をもつ異色のサイコスリラー。内容は明らかにフランス映画「悪魔のような女」のパクリだが、ストーリーが精神病院の中で展開されるところに、この映画のオリジナリティがある。主人公の精神科医に「時計じかけのオレンジ」のマルコム・マクダウェルを起用。映画自体も「時計じかけのオレンジ」に対するオマージュになっている。映画はなかなか面白いのだが、人権問題に触れるせいか日本では未公開に終わった。

03/07/17/108

モンド
南仏の港町、ニースを舞台にしたシュールなタッチのファンタジー。監督はジプシーをテーマにした映画を撮り続けるトニー・ガトリフ。この映画も本物のジプシーを起用して、流浪の民としての悲しい性を暗喩的に綴っている。色彩感豊かな詩的映像、エキゾティックなアラブ音楽に加え、主役を演じたオヴィデュー・バランの美少年ぶりが特筆ものだ。なお彼はルーマニアに強制送還されそうになった本物のホームレスで、その虚実入り混じった存在は、この不思議な物語に奇妙なリアリティを与えている。

03/07/18/108

氷壁の女
1932年のアルプスを舞台に、叔父と姪の近親相姦を軸にした二重の三角関係が描かれる。監督はドキュメンタリストの名匠フレッド・ジンネマン。彼が描き出すアルプスの絶景や、登場人物の細かい心の動き。ここには映像で語る映画本来の感動がある。時計を効果的に使う演出は「真昼の決闘」からのお家芸。映画の途中で出てくる愛し合った男と女の《時間を超えた》再会のエピソードや、オーソドックスなメロディで心を揺さぶるエルマー・バーンスタインの音楽などが、文学的な香り高いこの名画にさらなる深みを与えている。

03/07/19/107

シシリーの黒い霧
有名なポルテッラ・デッレ・ジネストレ虐殺事件を中心に1945年から60年までのイタリア戦後史の暗部をドキュメンタリー・タッチで綴った社会派映画の傑作。監督はイタリアの巨匠フランチェスコ・ロージ。大土地所有制による貧富の差、社会主義勢力の弾圧、政治的混乱の中で暗躍するマフィア。何となく日本の松川、三鷹事件と似てなくもない。事件は日本人にとってなじみのないものであり、ストーリーもある程度知識がないと分かりづらい。そこら辺りが作品の評価を著しく下げていると思われるが、まるでニュースフィルムを見るかのような生々しい映像は貴重。映像を通じて《歴史を体感する》といったスタンスで観賞するのがベストだ。

03/07/20/107

突破口!
アクション映画の職人、ドン・シーゲルが放つ痛快な一編。小さな地方銀行を襲った銀行強盗。彼らが手にしたお金はマフィアの裏金。かくして警察、マフィア双方から追われる羽目になる。演出、ストーリー、キャラ作り。全てにおいてそつがなく安心して映画を楽しめる。特に複葉機と自動車を使ったチェイスシーンは斬新!知能犯を演じるウォルター・マッソー、冷酷な殺し屋を演じるジョー・ドン・ベイカーがそれぞれ顔を見ただけではそれらしくないのに、映画では見事に役にハマっているところが面白い。

03/07/21/107

オー!ラッキーマン
リンゼイ・アンダーソン&マルコム・マクダウェルよるトラビス三部作の二作目。映画は野望に満ちた若者の出世と凋落を描いた古典的ストーリーに加え、ギリシャ神話の吟遊詩人、平家物語の琵琶法師よろしく朗々と奏でられる弾き語り(アラン・プライス)によって物語が進められる。ややもすると凡庸なドラマになりかねない内容ながら、イギリス風のブラック、シュール、シニカル、クールそしてファンタスティックなタッチが映画に特異な印象と哲学的な深みを与えている。東西南北に奔走するロケはさながらイギリス・ツアー。「時計じかけのオレンジ」のパロディが随所に出てくるのも面白い。

03/07/22/107

逃亡地帯
刑務所から逃亡した脱獄囚が、助けを求めに生まれ故郷へ戻ってくる。そこで彼を待っていたものは暴徒と化した町の住人による凄絶なリンチだった。アメリカの社会問題をテキサスの田舎町に集約させて描いた群集劇。監督は巨匠アーサー・ペン。群集心理の恐ろしさが、特に後半にわたって凄まじい緊張感を生むが、襲っている彼らに罪悪感はない。むしろお祭り感覚、いや《祭り》そのものだと言って良いだろう。フランス革命もあれは民衆の《祭り》だったのではないかと言われている。祭りは群舞をともなった宗教的行為であり、すなわちそれは集団的狂気である。映画を見てそんなことを思い出した。豪華な配役と名カメラマン、ロバート・サーティースの撮影も秀逸。

03/07/23/108

赤い影
水の都ベニスを舞台にしたイギリス=イタリア合作のホラー映画。常人にはない予知能力(霊能力)を持った男の悲劇を描いたもの。とくればすぐに思い出すのがクローネンバーグの「デッドゾーン」。しかし「デッドゾーン」は、主人公が自分の予知能力を認識しているがために起こる悲劇なのに対し、この映画は、自分の予知能力を認識してないがために起こる悲劇であるところが異なる。監督は撮影監督出身のニコラス・ローグで、彼独自の映像マジックが観光名所として有名なベニスをお化け屋敷に変貌させる。巧妙に張られた伏線の妙。ピノ・ドナッジオのイタリア風メロディも秀逸。

03/07/24/107

真実の瞬間
この映画はひとつのストーリーの中に二つのドラマが描かれる。ひとつは使い捨てにされる闘牛士の実態を描いた悲劇のドラマ。もうひとつは闘牛場を舞台にした闘牛士と牛との生と死を賭けた真実のドラマ。この映画の本筋は前者のはずだが、後者のドラマのインパクトが強すぎて前者のドラマが霞んでしまう。監督はイタリアの巨匠フランチェスコ・ロージ。本物にこだわった妥協なき映像の数々はまさに鮮烈無比!唯一妥協があるとすれば、ラストの闘牛士が牛にひと突きにされる場面。あそこで本当に人が死ぬ場面を撮れたら映画は完璧だが、さすがにそこまでは無理のようである。

03/07/25/107

バニシング・サブウェイ
地下鉄ペリフェ線で乗客の乗った地下鉄車両が忽然と消えた!謎を追う数学者。無限空間を猛スピードで走る列車。地下鉄を舞台にした異色のSF映画。オリジナルのタイトルは「メビウス」。映画も有名な「メビウスの輪」を中心に数学、哲学を散りばめた意味深な内容になっている。フォーカスの移動を中心にしたアート感覚の映像や、思わせぶりの細かい演出が観る者を摩訶不思議な世界に誘う。製作国はアメリカ=アルゼンチン合作となっているが、セリフは英語ではないので、事実上アルゼンチン映画である。

03/07/26/107

おかしなおかしな大泥棒
頭は切れるが少しドジ。仕事を終えた後にはチェスの駒。社交界を舞台に粋な大泥棒が大活躍。当時の二枚目スター、ライアン・オニールが主演する泥棒コメディ。映画はコメディとしても犯罪映画としても中途半端。そこらあたりが作品の評価を著しく下げていると思われるが、中途半端な内容を脚本ウォルター・ヒル、音楽ヘンリー・マンシーニといった一流どころがカバー。小気味良い映像やこの手の映画には欠かせない小道具なども豊富で、駄作として片付けるのには惜しい、捨てがたい味のある作品と言える。

03/07/27/107

ザ・ヤクザ
ロバート・ミッチャム、高倉健。日米の二大スターが共演するアメリカ映画。義理人情で結ばれる私立探偵と元ヤクザが、銃密輸に絡む陰謀に巻き込まれる。映画は通俗的なストーリー以上に、《アメリカ人の目から見た》日本描写が大きな見所。京都、剣道、虚無僧、花札、新幹線、パチンコ、お茶、入墨、ヤクザの指切り。それぞれに日本にあるものばかりだが、それが不自然な形で画面に登場するところが面白い。日本の大スター高倉健の起用は第二のブルース・リーを狙ったものか。実際その圧倒的存在感は、主役のミッチャムを完全にくってしまう。映画マニアには推奨品。

03/07/28/107

第三の男
米英仏ソの4カ国の統治下で戦後処理をする敗戦国オーストリアで起こった替え玉殺人を中心に、三角関係、友情と裏切り、そしてウィーンのアンダーグラウンドが軽妙なタッチで綴られる。光と影の鮮烈な映像、洗練された名場面の数々などが良く語られるが、意外と語られていないのが、劇中に飛び交う多様な言語。4カ国統治という設定からくるものだが、映画が狙っている混沌とした世界観がこの多様な言語で良く表現されている。特にクライマックスの地下水道で反響する警官達の絶叫は圧巻。言葉の扱いに杜撰な映画が多い中で、この映画は言葉の重要性を再認識させられる傑作でもある。

03/07/29/107

スウィッチ・ブレイド・シスターズ
タランティーノが持ち上げて一躍有名になった70年代アメリカのカルト映画。不良少女グループの内紛と抗争を過激なバイオレンスタッチで描いたもの。といってもそこは70年代。まだまだ暴力描写や性描写に厳しい時代である。当時は過激でも今見ると大人しい。しかしながら規制ぎりぎりまで描ききるという、作り手のエネルギー感は十二分に感じられ、特に中盤の市街戦、ラストの不良少女同士の決闘などにそれが良く表れている。自分勝手な男どもをバッタバッタとなぎ倒す女傑ぶりは、当時の女性解放運動の流れとも合致する。映画マニア必見作!

03/07/30/107

バニシング・ポイント
カーアクション映画の伝説的名作として語り継がれる70年代アメリカ映画の逸品。職を転々とし、今は乗用車の陸送を手掛ける社会の一匹狼が、行く手を阻む警官達を相手に決死の暴走を試みる。麻薬、ベトナム戦争、ヒッピー、ゲイ、黒人、新興宗教。当時の社会問題の描き方は余りにも羅列的で、そこがこの映画の一般的な評価の低さにつながっていると思われるが、芸術的ともいえるカーアクションの数々と一匹狼を演じたバリー・ニューマンの存在感はさすがに鮮烈。死を賭けることや反抗することにこれといった理由が見つからないところも面白い。

03/07/31/108

ロッキー
人間の社会はピラミッド構造になっている。頂点にいる少数の者。底辺にいる大多数の者。この映画は底辺にいる大多数の者を描いた物語だ。だからこそ大多数の観客の共感を得て大ヒットした。スケート場で展開される不器用なデートなどはその端的な例だ。しかしそれに輪をかけて感動的なのは、頂点を極める者が黒人で、底辺を這い回っているのが白人という図式だ。この自虐的ともいえるような設定がこの単純なドラマに深みを与えている。シンデレラ・ストーリーを地で行くシルベスター・スタローン。バックを彩るフィラデルフィアの冬景色も効果的だ。

03/08/01/107

好色一代男
巨匠増村保造が手がけた初の時代劇。江戸元禄を背景にした井原西鶴の原作を大胆に映像化。モダニストらしいスピーディな演出、あっけらかんとした表現。そして何よりもニヒルなイメージが強い市川雷蔵を楽天家の女たらしに変貌させたところが凄い。映画は生活の苦しかった封建時代の世をあざ笑うかのように、欲望のままに生き、享楽を謳歌するどら息子を痛快に描く。その姿は、映画制作当時、高度経済成長の中で生活のために生き、生活のために死す多くのサラリーマンたちをあざ笑うかのようでもある。そういった意味では前作「巨人と玩具」に通じるものがある。享楽にも哲学がある。そんな人間本来の生き方を再認識させられる傑作といえる。

03/08/02/108

真昼の決闘
時間進行の一致、内容を暗示させる主題歌、リアリズムの導入など数々の斬新な演出で知られる西部劇の名作。がしかし映画としては西部劇としても、サスペンスとしても盛り上がらない。映画はただ自己保身に走る大衆から孤立無援になる老保安官の姿を厭世観たっぷりに描くだけである。そんな映画が大ヒットし、今尚印象深いのはなぜか。それはやはり共感だろう。それは主人公に対する共感ではなく、ああ、こういうことってあるよなあといったシチュエーションに対する共感である。すなわちそれは宗教のたがが外れた近代市民社会の影の部分を、映画が作られた当時から現在に至るまで、皆が共有している証拠だろう。だからこそ妻であるグレース・ケリーが援護射撃するシーンでホッとしてしまうのである。

03/08/03/108

レオン
フランスの俊英リュック・ベッソンがアメリカに渡って撮影した第1作。大都会で出会った殺し屋と少女。2人の奇妙な交流が年齢を超えた愛情に変化し、華麗なるバイオレンスと共に悲劇的な結末を迎える。ハッタリを効かせた歯切れの良い演出。過剰なまでに立たせたキャラクター作りはまるでマンガ。この映画のあとにマンガをもとにした「フィフス・エレメント」を作ったのもうなずける。泣けるドラマとしても十分そつのないもので、カルト的な作家の映画としては一般人にも親しめるような内容になっている。

03/08/04/108

タイム・アフター・タイム
SF作家H・G・ウェルズが作ったタイムマシンに乗って「切り裂きジャック」が敵前逃亡。それに気付いたウェルズは彼を追って現代にやってくる。奇想天外なアイデアで観る者を魅了するSF映画の隠れた傑作。時間を超えた文化的ギャップによる笑い、キュートなロマンス、伏線を張り巡らせたサスペンス、バックを彩るサンフランシスコの名所など。全てが一級品。ウェルズを演じるマルコム・マクダウェル、ヒロインを演じるメアリー・スティーンバーゲンも素晴らしい。ユートピアとして語られてきた未来が、実は殺戮と暴力が《進化》した社会になっていた。人間の本質をズバリ言い当てた皮肉が、この一級の娯楽作品にさらなる深みを与えている。

03/08/05/109

モルグ
モルグ(死体安置所)の警備員のバイトをする学生が、猟奇犯の陰謀に巻き込まれ、殺人事件の容疑者にされてしまう。北欧の国デンマークから届けられたサスペンス映画の佳編。この映画の主役は何といっても死体安置所。不気味な雰囲気を出すにはこれ以上ない場所で、今までサスペンス映画の舞台にならなかったのが不思議なぐらい。ニッチ(隙間)産業ならぬ、ニッチ映画と言えるだろう。サスペンスそのものは定石通り展開し安心して楽しめる。ラストの結婚式場での幕引きもシャレている。

03/08/06/111

俺たちに明日はない
1930年代の不況下に実際にあった連続強盗殺人事件を題材にした青春映画。劣等感を持った孤独な若者たちが、貧しい者から搾取する「銀行」、公権力の犬「警察」相手に大暴れ!公道を爆音轟かせて突っ走る暴走族のごとく、はかない青春時代を走って、走って、走りまくる。若者の自己中心的な行動に2時間つき合わされるのは疲れるが、巨匠アーサー・ペンによる高度な映画センスが、映画を最後まで飽きさせずに見せる。乾いたタッチで描かれる人物描写は今尚新鮮。有名になったラストの「死のダンス」をはじめ、情け容赦のない、妥協のないといった言葉がぴったりくるような厳しい映画演出のつるべ打ちである。

03/08/07/111

殺人者たち
《仕事》を終えた殺し屋たち。だが不審な依頼に疑問を持った彼らは黒幕たちのあぶり出しに奔走する。映画のタイトルから殺し屋を主人公にした犯罪ドラマかと思いきや、メインはレーサーとひもつき女の愛憎物語になっている。チープな映画作り、驚きの少ないラストの種明かしなど、B級映画の限界を感じるが、回想映画にありがちなダラダラとした説明的展開がなく、テンポが良いのは好感。歯切れの良い編集、短く切ったセリフなど、アクション映画の教科書を見るようである。悪役のボスをレーガン前大統領が好演しているのも面白い。

03/08/08/111

オテサーネク
チェコ・アニメの鬼才ヤン・シュワンクマイエルの長編4作目。チェコに古くから伝わる民話を元にダークな寓話として現代によみがえらせる。映画は前半不妊症に悩む妻の狂気を、後半は独占欲にかられる少女の狂気を、オテサーネク(木の怪物)に対する母性本能を通して描かれる。フェティッシュな飲食描写はカニバリズムまでエスカレート。お得意のアニメーションの場面はやや少なめ。シュールで難解というイメージも後退。従来からのファンにはやや物足らないかもしれないが、人間の深層部分をときにコミカルに、ときにグロテスクに描き分ける映画演出はさすが!文句なしの傑作と言って良いだろう。

03/08/09/111

ルパン三世
怪盗ルパンの孫が大活躍するTVアニメ・シリーズの1作目。都合2時間分の長編映画を30分弱に凝縮した歯切れの良い演出が見所。視聴率低迷のてこ入れのため、シリーズの前半と後半で雰囲気が違う。前半はプロフェッショナルに生きる男たちの生き様をドラマティックに、後半はゲーム感覚の知恵比べをドタバタコメディ風に、それぞれの持ち味を生かした職人的アニメ作りが面白い。特に殺しの場面が後半全くなくなるのが象徴的。重厚長大から軽薄短小へ。時代が移り変わっていく様をアニメを通して見るようである。

03/08/10/112

情婦
ラブコメディで才人ぶりを発揮するビリー・ワイルダーのもうひとつのお家芸、サスペンスでの最高傑作。ベテラン弁護士に依頼された刑事事件。お金目当ての殺人容疑をかけれた男の単純な冤罪事件と思いきや、事件の背後には二重三重の陰謀が隠されていた。原作のタイトルが「検察側の証人」とあるように、本来弁護側の証人に立つべき妻が、検察側の証人に立つ辺りからおやおやっと思う展開。芸達者な名優たちによる大芝居、緻密な脚本、小道具の妙味。やがてあっと驚くどんでん返しへ。戦争体験によって人間のダークな面を嫌と言うほど味わってきたスタッフ、キャストならではの幕切れに、観客は完璧な体操演技に出されるような10点満点の評価を与えたくなるだろう。

03/08/11/113

華麗なる暗殺
当時のアメリカの人気俳優ジョージ・ペパードを迎えてのイギリス製スパイ映画。イギリスは007シリーズなどこの手のジャンルはお手のもの。映画は国際色豊かに飛び回り、二転三転するストーリー展開、三角四角関係を華麗に演出する美女たちなど、珍しい小道具を使った演出がない以外は、わりと定石をきちんと踏まえている。手の込んだ絵作り、スマートなムード、スパイの非情さを訴えたラストも好感。アクションに迫力がないのと、これといった特徴がないのがマイナスだ。

03/08/12/113

四つの部屋と六人の打楽器奏者のための音楽
日本では「short6」というタイトルで他の短編映画5本と共に同時上映されたスウェーデンの短編映画。映画は10分の上映時間の中、4つのパートに別れ、それぞれ日用品を用いてユニークなセッションを展開。気難しい現代音楽をよりくだけた演奏で聞く感じ。ポイントは映画そのものがちょっとした犯罪映画のパロディになっているところ。そこが単なるミュージック・ビデオと大きく違う点。とぼけた味わいと手なれた編集、セリフやナレーションが一切ないのも好感だ。

03/08/13/113

たそがれの維納(ウィーン)
「未完成交響楽」で一躍有名になったオーストリアの名匠ヴィリ・フォルストの長編2作目。歌に踊りに華やかな社交界。実は男と女の肉欲や嫉妬が渦巻くどろどろとした世界。そんな中、プレイボーイの画家と可憐な乙女との間にピュアな恋が芽生える。映画は男と女の不倫関係をベースにした通俗的な恋愛ドラマ。しかし粋なウィーン情緒、適材適所の配役、語り口のうまさで、最後まで飽きさせずに見せる。観る者の想像力をかきたてる演出、音楽の都ならではの楽曲の豊かさも特筆ものだ。同じドイツ系でも白を基調にした明るいモノクロ撮影。大戦前夜のヨーロッパ文化を今に伝える貴重な好編と言える。

03/08/14/113

西部悪人伝
マカロニウエスタンの大スター、リー・ヴァン・クリーフの当り役となった「サバタ」シリーズの1作目。流れ者「サバタ」がナイフの達人、トランポリン男、バンジョー使いを従え、男爵、判事などの三悪人相手に大暴れ。映画はほとんどマカロニウエスタン版桃太郎といった感じで、続々登場するユニークなキャラクターやアクション、小道具などが大きな見所になっている。特に黒づくめのガンマンを演じるリー・ヴァン・クリーフは「シェーン」のジャック・パランス、「荒野の七人」のユル・ブリンナー以上の印象を残す。バンジョーや鈴の音など、細かい音の使い方も見逃せない。

03/08/15/113

火を噴く惑星
金星に着陸した探査ロケット。そこで見たものは恐竜が闊歩する前世紀の世界だった。旧ソ連が製作したカルトSF。チープな映画作り、スローな展開、迫力のない見せ場。ややもすると超駄作になりかねない内容ながら、ロボット・ジョンなどのユニークなメカデザイン。加えて恐竜や怪植物など、この手の映画には欠かせない必須アイテムが満載。マニアの期待を裏切らない《笑い》も豊富。おまけに進化論や、人間とロボットとの主従関係などを通して、共産圏思想までが語られるサービスぶりだ。ハイスピードなCG映画になれた一般人には不向き。映画マニアのみ推奨品。

03/08/16/113

迷探偵シャーロック・ホームズ/最後の冒険
有名なコナン・ドイルの原作をパロった異色コメディ。ワトソン博士の創作上の人物「シャーロック・ホームズ」を飲んだくれの駄目俳優に演じさせたところから両者の間に亀裂が生じてしまうが・・・。奇想天外なアイデア、マイケル・ケイン、ベン・キングズレー両名優によるボケとツッコミ。イギリス映画だがブラックでシニカルな笑いは少なめ。駄目人間のシャーロック・ホームズが一人の人間として自立していく姿は、分かっていても感動してしまう。知名度は薄いが、十分楽しめる内容。映画音楽は巨匠ヘンリー・マンシーニ。

03/08/17/114

視角の外
木製の人形が、次々と現れる大男たちに怒鳴られて、次々と行く先を変える。その背後には見えない大きな力が働いていた。次々と他国から侵略され、そのたびに政治や社会がころころと変わったチェコならではのクレイ・アニメーション。製作者はパヴェル・コウツキー。上映時間はわずか3分。しかしこの意味深なアニメーションは上映時間の短さにも関わらず、長編映画にも負けない、あっと驚くような印象を残す。一種の楽屋落ちネタだが、さらにもうひとひねりしているところが凄い。チェコのお家事情を風刺した作品だが、同じようなことは日本にも存在する。

03/08/18/113

ブルグ劇場
ウィーンのブルグ劇場を舞台に、孤独な老俳優、仕立て屋の娘、俳優の卵、男爵、男爵夫人による五角関係が描かれる。大戦前夜のオーストリアが放つ、香り高き名編。監督は名匠ヴィリ・フォルスト。若さへの憧景、老いと正面に向き合う老俳優。その苦悩と気高さが観る者の心を打つ。オーバーな演技、やや都合良く展開するストーリーが気になるものの、「ファウスト」をはじめとした演劇からの的確な引用、名優ヴェルナー・クラウスの圧倒的存在感など。そのひとつひとつがウィーン芸術の高さを立証する。ある程度人生経験や年齢を重ねていないと楽しめない内容。年配者向け推奨品。

03/08/19/114

ストーミー・ナイト
雨が降りしきる一軒家。一人留守を守る女。そこに現れた二人の男。彼らは敵か味方か?善人か悪人か?それとも殺人鬼か?疑心暗鬼が生む恐怖を描いたサイコ・サスペンス。監督はインドのカルト作家ラム・ゴパル・ヴァルマ。自身も映画マニアらしく、アメリカのホラー映画からの引用がふんだんに見られる。洗練された構図、カメラの移動感。特にセリフを抑制して恐怖を盛り上げる冒頭の演出はなかなか。主要登場人物3人、一軒家の中だけの展開、歌も踊りもないインド映画ということで、全てが異色尽くめ。ラストのどんでん返しに至っては、人間の業にまで踏み込む奥深さがある。

03/08/20/114

本日でこのメールマガジンも最終回です。2001年3月11日にスタートしてから今日まで2年と5ヶ月と10日。紹介した映画の本数は239本。読者数はついに一度も3桁を割ることなく終了することができました。ありがとうございました。映画のメールマガジンはこれで終わりますが、今後はマンガのメールマガジンの配信を予定しています。

サンプル画像はこちら↓
http://www.bh.wakwak.com/~yapiani/r001.htm

配信は何年後になるかわかりませんが、もし見つけたときは登録して読んでいただけたらと思います。

というわけで「やぴぴの兄のシネマ名作駄作一刀両断」、最後は今まで見てきた映画の中で一番凄い!と思った映画の紹介で締めたいと思います。

鉄路の白薔薇
フランス無声映画時代の巨匠アベル・ガンスの代表作。鉄道事故で機関士に命を救われた少女。少女はやがて大人となり、機関士とその息子、そして資産家を加えた四角関係に巻き込まれる。前半少女を中心とした静かな恋愛ドラマが綴られるが、後半一転して機関士を中心とした悲劇のドラマに変わり、観る者の心を打つ。目の負傷、愛車との別れ、失職、息子の死、失明、そして永遠の眠り。映画は映像によるドラマ表現の集大成といった感じで、短いカットをつなぐフラッシュバックはその代表格。前後半を黒と白に分け、黒は機関車を背景に、白は冬の雪山を背景に、都市と自然、愛と死を対比させた二元論から、宗教的な感動を生むラストに至るまで、随所に見られる象徴主義的表現が、まさにその時代を象徴している。

03/08/21/114

白熱
町を牛耳り、密造酒で荒稼ぎをする悪徳保安官と、殺された弟の仇をうつために、改造車を武器に戦う兄との対決を描いたアクション映画。保守的な権力に立ち向かう孤独なはみだし野郎、泥臭いタッチで展開されるカー・アクション、テンポ良く流れる軽快なチャールズ・バーンスタインの音楽など、全てが70年代。男臭さで人気のバート・レイノルズの魅力全開。それを縦横に引き出すジョセフ・サージェントの職人的映画演出もさすが。レイノルズは余程このキャラが気に入ったせいか、「ゲイター」という続編を自ら監督して作ってしまう。B級映画ファン向け推奨品。

無法の拳銃
わずか20人足らずの寒村に押し入った無法者たち。彼らを殲滅させようと計った牧童は、厳しい冬山に彼らを誘い込む。閉ざされた空間の中で生まれる緊張感、白と黒のコントラストが映えるモノクロ映像。全編雪また雪の中で展開する異色の西部劇。監督は片目の宰相アンドレ・ド・トス。主役はロバート・ライアン、のはずだが、軍人の気高さと、それに相反する悪党の頭といった二面性を演じきったバール・アイヴスの前にかすんでしまう。無常感あふれるクライマックスの山越えシーンも素晴らしい。

剣鬼
大映時代劇の監督、三隅研次の「斬る」「剣」に続く剣三部作の最終作。狂人藩主のもと、公儀隠密の策謀、保革相対するお家騒動の中、市井の人「無足の斑平」が大活躍。獣姦によって生まれた子供、俊足、花造りの名人、居合い抜きの達人といった数々のユニークなキャラ造形が大きな特色で、ニヒルな剣客といったイメージが強い市川雷蔵が新たな一面を垣間見せる。風穴の中の追跡、お花畑の決闘といった見せ場がさらなる特異な印象を与え、明るいトーンで占められるカラー映像とともに網膜に焼きついてしまう。傑作ではないが珍作としての価値あり。マニア推奨品。

人でなしの恋
江戸川乱歩の同名短編小説の映画化。富豪の画家と結婚した京子。彼女は夜な夜な出歩く夫の奇行と、土蔵の奥にひそむ不倫女の声に悩まされる。正直ヒッチコックの「サイコ」などもあって、ラストの種明かしに驚きは少ない。しかし乱歩が原作を書いていた頃にこのような性嗜好があったということは、日本人はあまり変わってないなという感慨はある。監督が女性だからというのもあるのだろう。映画は乱歩原作ものとしては、トップクラスの美しさ。昭和初期の小道具を目一杯揃え、丁寧な映画作りに徹していることもわかる。

ラブストーリー
母と娘。親子2代の恋愛を過去と現代、交互に織り交ぜて綴る、文字通りラブストーリー。監督は「猟奇的な彼女」のクァク・ジェヨン。映画は三角関係に悩む主人公が、偶然見つけた母の日記帳をもとに自分の境遇と重ね合わせるがごとく回想を綴る。やがてその回想は、自分が現在進行している恋愛と思わぬ形で結び付いてくる。親子の《縦の絆》と男女の恋愛を絡める、大昔の少女漫画のようなストーリー展開は韓国映画のお家芸を見せつけられるよう。気恥ずかしい、どこかで見たような映画表現の数々も欠点とはならず味になっている。

未完成交響楽
オーストリアの名匠ヴィリ・フォルストの長編デビュー作にして最高傑作。歌曲王シューベルトの交響曲「未完成」にまつわるエピソードを文字通り《笑いと涙》で綴った恋愛ドラマ。センスの良さが特に光る作品で、伯爵令嬢が手鏡に書かれた「シューベルト」のイニシャルをふっと息を吹いて消すシーンは、数ある鏡を使った古今の映画表現の中でもベスト級。黒板に書かれる五線譜、質札の付いた礼服、踊るランプなど。各々のリアリズムを無視したマンガチックな表現が、おおらかな時代性を良く物語っている。

アデラ/ニック・カーター、プラハの対決
アメリカのヒーロー、探偵ニック・カーターがプラハを舞台に食肉植物「アデラ」、犯罪王クラツマル男爵相手に大暴れ。ドボルザークに代表されるようなチェコ人のアメリカへの憧景を素材に、時にグロテスクに、時にアイロニックに料理した傑作コメディ。ドラえもんもびっくりの「竹コプター」をはじめとしたレトロでユニークな小道具が続々登場。全編からくり仕掛けの映画演出は人形大国、ロボットの語源で知られるチェコならでは。「アデラ」のアニメーションを担当したのは巨匠ヤン・シュワンクマイエル。監督は巨人オルドリッチ・リプスキー。

妖婆・死棺の呪い
文豪ゴーゴリの原作を「石の花」で知られるアレクサンドル・プトゥシコが映像化した旧ソ連のホラー映画。中世ロシアを舞台に、三日三晩の祈祷を捧げる神学生と彼を呪い殺そうとする妖婆との対決を描いたもの。牧歌的な農村風景がメインで、ホラーというよりはほとんど民話。カルト映画らしく特撮は稚拙、笑ってしまうが、不気味さは良く出ている。最後に悪魔が勝ってしまうあたりは宗教を否定する共産圏ならでは。日本のアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」にも影響を与えている。

コンフィデンス/信頼
ナチス占領下のハンガリーを舞台に、抵抗運動の活動家と彼の家に身を寄せた人妻との奇妙な恋愛関係を描いた社会派ドラマ。監督はハンガリーの巨匠イシュトヴァン・サボー。映画は当然ながら当時の社会主義政権下の密告社会を批判したもの。サボーの作品は気難しい作品が多いのだが、この映画はシンプルかつ単純明快。異常な状況下での息詰まるサスペンス、至高の恋愛ドラマとしても楽しめる。渋いトーンで描かれるブダペスト。短く切った編集。スリリングなディスカッション。モルガン学説よろしく一夫一婦制とはなんだろう?といった問いかけにもなっている。

飢餓海峡
貧しさゆえに殺人を繰り返した凶悪犯。しかし物的証拠はない。彼は無実を主張。果たして真相やいかに。ミステリー仕立ての文学的大河ドラマ。折りしも高度経済成長絶頂期に作られた本作は、皮肉にもその影の部分を鮮烈に描いた最高傑作でもある。自らも貧困生活を経験した監督内田吐夢による鋭い人間観察、爪を使ったフェティシズム、冨田勲作曲による荘厳な地蔵和讃、生々しさを演出するブローアップ、レリーフなどの特殊効果。さらに恐山などを背景にした各々の仏教的な運命世界が観る者を圧倒する。重厚、荘重、壮大、悲壮。軽薄短小とは一切無縁の本格派大作である。

野獣狩り
過激派が共産主義の敵である資本家を誘拐。警察との攻防の中で、一般大衆に《革命》のアピールを計るが・・・。ドライなタッチで描かれるポリス・アクション。ウェットな映画を好む日本人には不評だったようだが、今の時代こそ再評価されるべき作品。対象物をどこから撮ればかっこ良く見えるかに徹底的にこだわったカメラ。歩行者天国を使ったモブシーン。ペキンパーばりのスローモーション撮影など。アクション映画のお手本のような映像の集大成は本家アメリカもびっくり。耐えて、耐えて、耐え抜いて。最後にたまったものをすべて吐き出すように暴発するあたりがいかにも日本的。

シュッ・シュッ
カナダの国立映像製作所の作家、コ・ホードマンの代表作。アニメーションの素材としてはもっとも無縁と思われる積み木を使ってのイリュージョンが最大の見所。積み木の固体としての動きにプラス積み木の表面に描かれた模様をこまめに組み替えることによって、複雑なモーション・ピクチャーを示現。衝撃度ではノルシュテインの「切り絵」、バックの「色鉛筆」、ギーメッシュの「油絵」に匹敵。ストーリーは残念ながら幼児向けだが、視覚的インパクトだけで、大人の鑑賞に十分耐えられるレベルになっている。

迎春閣之風波
香港の巨匠キン・フーの武侠劇。時は元朝。所は「迎春閣」。政争を左右する機密文書を巡って、元の支配者と革命軍の精鋭が大暴れ。狭い空間を使っての切れの良いワイヤー・アクション、雑多に行き交うキャラクター、目配せを使っての無言のパフォーマンスなど。前半キン・フーらしからぬ喜劇アクションから、後半真打ち登場とばかりに高揚する異様な緊張感まで。緩急自在。まさに日本の黒澤のような映画作り。欧米の女性アクション映画を一蹴する女傑ぶり。悪玉の圧倒的存在感も秀逸。

蝿男の恐怖
フランスのジョルジュ・ランジュラン原作のホラー映画。日本未公開作だが、シリーズ化、リメイク化で人気に火がつき、一躍有名作に。物質電送機の事故で蝿人間と化した科学者の悲劇。ハリウッドらしく家族愛、ロマンスが前面に出て、ホラー映画特有の恐怖感はやや後退。蝿人間の非物理的な融合の仕方も失笑を買うが、露骨なグロテスク描写を極力避け、タイプライター、ノック、筆談による地味なコミュニケーションが意外と話を盛り上げる。B級SFらしからぬシネスコ画面と奥行きのある映像は往時のアメリカ映画のぜいたくさを感じさせる。神の領域に踏み込む恐ろしさ。科学の進歩には常にサクリファイス(犠牲)が求められるようだ。

ザ・チャイルド
スペインのカルトホラー。冒頭大人たちの戦争によって犠牲になった子供たちの映像が延々流されるが、本編はその逆で子供たちが大人たちを延々と殺しまくる恐怖を描く。「蝿の王」に代表されるように子供たちの残虐性を描いた作品はいくつかあるが、この映画はそれに加えて「子供たちは大人を殺すのに躊躇しないが、大人たちは子供を殺すのに躊躇してしまう」ところがミソ。なぜなら大人には《理性》があるからだ。神と悪魔が共存する生き物《人間》の本質を鋭く描き出した傑作!ホラーの枠を超えて万人に推奨できる。不安感を増幅させる白い壁。ワルド・デ・ロス・リオスによる映画音楽も隠れた名曲だ。

地球の静止する日
カルト的人気を持つ古典的SF。米ソ冷戦によって核戦争の危機に直面する地球。そこに現れた宇宙人は宇宙の秩序を守るため、地球の平和を説く。映画の主人公はクラトゥ(キリスト)。偽名はカーペンター(大工)。そして死んだあと《復活》をとげるということで一応イエスの生涯が下敷きになっている。この時代の宇宙人の映画は宇宙(ソ連)からの侵略に対するアメリカ人の恐怖や不安を代弁したものが多かったが、この映画は宇宙人を通して米ソ冷戦を客観的に見つめているところが貴重。映画音楽に「テルミン」というソ連製の電子楽器を使っているのも面白い。

キャンディ
永らくお蔵入りしていた伝説のカルトムービー。製作は米仏伊の合作に主演はスウェーデン出身のエヴァ・オーリンと国際色豊か。しかし映画はどう見ても60年代イギリス映画。サイケ調の摩訶不思議映像とフリーセックスを思わせるエロさで楽しませてくれる。特にカメラワーク、美術、編集が絶品!ハリウッド映画ではとても見られないリチャード・バートン、ジェームズ・コバーン、マーロン・ブランドの怪演ぶりや音楽デイブ・グルーシン、特撮ダグラス・トランブル、撮影ジュゼッペ・ロトゥンノといったスタッフ陣の豪華さも見所。映画の内容以上に当時の映画界の人材の豊富さに驚くべき作品。マニア必見!

モルギアナ
父の遺産相続に絡む姉妹の愛憎劇。サスペンスドラマの定番とも言うべきありきたりな話だが、チェコ人が料理するとこうもありきたりでなくなるのかと妙な感慨にひたってしまう。「モルギアナ」とは劇中に登場する猫の名前で、実際猫のようにおびえる犯罪者心理を猫の視点で描いている。どぎついファッションに奇妙な映像(撮影は「ひなぎく」「アデラ」のヤロスラフ・クチェラ)。相反する姉妹を一人二役で演じきったイヴァ・ヤンズロワなど。口当たりはどうってことないのに遅効性の毒薬(笑)のように後からじわじわと効いてくる。そんな不思議な映画である。

神秘の海富山湾
NHK製作によるドキュメンタリー。急斜面によって形成されている神秘の海富山湾の全貌に迫る。ハイビジョン撮影による鮮明な映像。その美しさはため息が出るほど。海底林、蜃気楼、ホタルイカ、オオグチボヤなどの不思議映像が続々登場。江戸時代に作られた蜃気楼の変化を捉えた筆絵、正確無比な海底地図の存在にも驚かされる。事象の羅列といった感はなきにしもあらずだが、ドキュメンタリーとしての完成度は高い。日本で最も地味な存在である富山が世界遺産に見えてくる。日本の自然の豊かさの一因が近接する海と山のコラボレーションにあることもわかる。

炎628
ナチスドイツによる白ロシア大虐殺を描いた戦争映画。公開当時クライマックスの凄惨な人間バーベキューが大きな話題を呼んだ。映画は戦争の実態を赤裸々に表現することに最大限注力しており、説明的なセリフを省き、グロテスクな描写を極力避け、本物の武器を使用し、特に役者の鬼気迫る表情で観る者に訴えかける。映画技術、映画センスは最高度に達し、映画の完成度は高い。しかしながらこの映画からは炎の熱さも、人間の焼け焦げる臭いも、煙にまかれてむせることもない。当たり前だ。映画は映像と音による表現だからだ。結果この映画はその圧倒的完成度であるがゆえに、映画表現の限界まで露呈させてしまった作品と言える。

ノー・マンズ・ランド
旧ユーゴのボスニア紛争を舞台にした戦争映画。ふとしたことから両軍の中間線に取り残されたボスニア兵とセルビア兵。しかもボスニア兵の体の下には地雷が埋め込まれ、体を動かすと地雷が爆発する仕掛けになっていた。設定の面白さに加え、自らボスニア兵として従軍した経験を持つ監督らしく臨場感、緊迫感が抜群。一切の無駄を省いたシャープな演出も見事。しかしこれは反戦映画なのだろうか。平和に対する希求が微塵も感じられない。むしろイライラやもどかしさ、どうすることもできない無力感の方が強く出ている。反戦映画というより厭戦映画と言った方がいいかもしれない。

忍風カムイ外伝
封建的な忍者の集団を抜けて、逃亡を続ける忍者カムイと裏切り者の命を執拗なまでに狙う追っ手との死闘。自然科学に裏打ちされた数々の忍法が見所だが、やはり一匹狼カムイの孤独感、猜疑心、そして自由への希求が観る者に訴えかける。カムイがなぜ忍者になり、なぜ忍者を抜けたのかについては劇中あまり語られない(TVの放送コードに引っかかるため)。それゆえストーリーは今ひとつ説得力に欠けるのだが、それでも当時の視聴者の共感を得たのは、高度経済成長で都市化が進み、かつての共同体が崩れ、孤独感が増したためと思われる。アニメには都市のかけらも見られないが、それでいて都市に生きる人間の心象風景が見事に反映されているのである。

時をかける少女
筒井康隆の小説のアニメ化。女子高生がふとしたきっかけで、少し過去に戻るタイムリープという能力を身につけ、自分の犯した失敗を修正して都合のいい人生を計ろうとするが・・・。何度も過去に戻って反芻することが、「経験」となり人生の「糧」となって最後に少女は成長する。考え抜かれた伏線の妙、細部まで描きこまれた映像に加えて、リズムやテンポの良さも特筆もの。これ以上ないほど洗練されたアニメ技術はため息が出るほどだが、逆に優等生的な物足りなさもある。

グッバイ、レーニン!
心臓発作で倒れた母親の昏睡中に東西ドイツが統一される。昏睡から目覚めた母親にショックを与えまいと息子は旧東ドイツの生活を続け、嘘をつき通そうとする。ドイツの冷戦終結をコミカルにかつせつなく描いた社会風刺劇。この映画のポイントは息子が真実を最後まで覆い隠し、嘘をつき通すところだろう。ここに自由と民主主義が必ずしも東ドイツ国民を幸せにしなかった複雑な一面を見せる。名シーンも多く、特にヘリコプターに吊るされたレーニン像が母親に迫るシーンは圧巻!最近の映画には珍しく、リリカルなメロディが印象的な映画音楽があることも特筆もの。

刑務所の中
銃刀法違反で3年間服役したマンガ家の実話の映画化。文字通り刑務所の中の日常が淡々と牧歌的に描かれる。看守による暴力、囚人による脱獄と言ったハードな見せ場はまったくなし。映画の最大の見せ場はおいしそうな食事シーンと言った有様だ。こと細かな規則に縛られた刑務所生活をこと細かに記憶して再現した原作者。それをこと細かに映画化した本作はおよそ日本以外では絶対作ることができない映画だと断言できる。ほとんど民俗学のフィールドワーク。映画的価値より、学術的価値の方が高い。

野のユリ
アリゾナの荒野を放浪する黒人青年がふと立ち寄った修道院で、修道女に教会建設を依頼される。その修道女がベルリンの壁を越えてやってきた東独の亡命者と言うところがミソ。白人視点からの優等生的黒人を演じることによって黒人初のアカデミー賞を手にしたシドニー・ポワチエなど、東西冷戦、公民権運動が頂点に達した60年代前半を良く表している。監督のラルフ・ネルソンは後に騎兵隊によるインディアン虐殺を描いた「ソルジャー・ブルー」で強烈な政治的メッセージを世に叩きつけたが、この映画も多分に政治的である。映画のタイトル通り「野(政治的動乱の中で咲いた)のユリ(美しき人情ドラマ)」。20世紀のアメリカ史の観点から再評価されるべき映画と言える。

カサンドラ・クロス
70年代パニック映画華やかし頃に作られた代表的な一本。伊英合作ということで、アメリカ製パニック映画とは一味違う。細菌に感染したテロリストを乗せた大陸横断列車の悪夢。ソフィア・ローレンを初めとした豪華オールスター。スタッフも超一流。オールスターと言うと大味な映画が多いが、この映画には一切の無駄がない。サスペンス、アクション共に第一級。あまり新鮮味のない話がここまで面白くなるのだから、映画はやはり料理する人間の腕次第と言うことだ。ユダヤ人迫害、ペストの大流行と言ったヨーロッパ暗黒の歴史が色濃く反映されている。

未来警察
作業現場に家庭にとロボットが活躍する近未来。ロボットを改造して犯罪を重ねる悪人を追って、ロボット処理専門の警察官が大活躍。監督はSF作家でもあるマイケル・クライトン。クモ型ロボットや追跡型ロボットなど造りは安っぽいが、映画を楽しく見せる工夫がいっぱい。特に建設現場で展開するスリリングな見せ場は危機また危機のてんこ盛り。主人公が高所恐怖症のくだりはヒッチコックの「めまい」を意識したか。ジェリー・ゴールドスミスによるチープなシンセサイザー・ミュージックが80年代らしくていい。

ビッグ・ウェンズデー
1960年代から70年代にかけて、カリフォルニアを舞台に繰り広げられるサーフィン仲間の友情ドラマ。監督はハリウッドのタカ派で知られるジョン・ミリアス。映画はストーリー、演出共に平凡ながら、ミリアスは1シーン、1シーンを思い入れたっぷりに撮り上げ、サーフィンやアメリカへの愛を物語る。撮影は名手ブルース・サーティースの他、画期的な水中撮影で知られるジョージ・グリノーを招聘。クライマックスの大波「ビッグ・ウェンズデー」はまさに動く造形美。ぞっとするような神々しさがある。バジル・ポールドゥリスの雄大な映画音楽も素晴らしい。

コールガール
サスペンス映画に定評のあるアラン・J・パクラの出世作。ニューヨークで起こった謎の失踪事件を追う探偵とコールガールとの静かな恋愛を描いたもの。ストーリー以上に秘めた感情表現と都会的な雰囲気が大きな見所。アメリカ映画らしからぬ抑制された美しさに満ちた逸品である。アカデミー主演女優賞に輝くジェーン・フォンダの繊細な演技はもとよりゴードン・ウィリスのクールなカメラが全編に冴え渡る。1959年に発表された同名タイトルの精神分析書に大きな影響を受けている模様。

宮廷画家ゴヤは見た
スペインの画家ゴヤの生きた時代に数奇な運命を辿った神父と少女の悲劇を重厚なタッチで描いたもの。ゴヤは脇役であり、彼の生涯を描いた伝記映画ではない。緻密な時代考証や役者の演技、職人肌の映画演出で見せる本格派。特にカトリック教会の異端審問やフランスの自由主義に翻弄されて人民を弾圧するロレンソ神父は狂信の恐ろしさの象徴として描かれて秀逸。監督は「アマデウス」のミロス・フォアマンでチェコ時代からの批判精神は健在。その批判精神や老齢になってから傑作を残すなどゴヤとの共通点が多いのも面白い。

華麗なる一族
原作山崎豊子、監督山本薩夫、出演田宮二郎の黄金トリオによる社会派ドラマ。ただし田宮二郎は今回は主役ではなく脇役である。金融再編に絡む政治的陰謀と財閥一族の中で繰り広げられる骨肉の争いを描いたもの。やや都合良く展開するストーリーやテレビドラマ風の絵作りが気になるものの、オールスターによる演技は風格十分。加えて高度成長時代に金融再編問題があったことや田宮二郎の猟銃自殺にそっくりなシーンが登場するなど興味はつきない。3時間半の長尺ながら、物語が進むにつれて加速度がつき、後半は一気に見せる。

ビクター/ビクトリア
大戦前夜のパリ、ナイトクラブを舞台にしたレトロなミュージカル。女装する男性歌手を女性が演じるアイデアが抜群で、しかも演じるのが中性的なジュリー・アンドリュースとあっては、これほどの適役はいないだろう。「サウンド・オブ・ミュージック」「メリーポピンズ」で手垢にまみれた清純派女優を演じてきた彼女にとってまさに新境地。金のかかった衣装やセット、大画面に耐えうる絵作りも大きな見所になっている。ブレイク・エドワーズの演出は冗長で、上映時間以上の長さを感じさせるが、彼の相棒であるヘンリー・マンシーニの音楽はスタンダード・ナンバーとなった「クレイジーワールド」を含めて絶品。トータルでは傑作と言っていい。

崖の上のポニョ
老境の域に差し掛かった宮崎駿のファンタジー・アニメ。魚の子ポニョが人間の男の子に恋をしたことから、人間になろうと決意。人間になる過程で重力異常が発生、大津波が押し寄せて町は水没してしまう。題材はアンデルセンの「人魚姫」だが似ても似つかぬ内容。これは一般人向けのアニメを装ったカルト映画。評価が賛否両論に分かれるのも無理はない。奇想天外かつ壮大なファンタジーを説得力あるものにしているリアルな人間描写。短い上映時間ながら密度の濃い内容。これは宮崎駿の作家性がストレートに出た傑作と言っていい。

ざくろの色
鬼才セルゲイ・パラジャーノフの代表作。18世紀のアルメニアの詩人サヤト・ノヴァの半生を描く。映画はサイレント風で観念的である。アルメニアの宗教美術、民族衣装が鮮烈な印象を残す。サイレント映画では目を剥く大芝居、オーバーアクションが基本だが、この映画に登場する人物は終始無表情、動きも静的である。そう書くと日本の「能」のように思われるかもしれないが、そのような侘び寂びの世界ではなく、エネルギッシュで摩訶不思議。SFの世界に近い。古式の伝統に従って、一人の役者が複数の人物を演じ分けるのも面白い。これは前衛か!?それとも映像表現の原点回帰か。ソ連崩壊によって初めて白日の下に晒された問題作!映画マニア超必見!

ザナドゥ
オリヴィア・ニュートン=ジョン人気絶頂期につくられたミュージカル・ファンタジー。40〜50年代のミュージカル映画を80年代テイストでまとめたもの。映画はサントラ盤の方は大ヒットしたものの、映画の方は散々。ラジー賞にもノミネートされている。確かにCG以前の特殊効果やローラースケートなど、野暮ったさ全開だが、凝ったミュージカル・シーンや、往年のミュージカル・スター、ジーン・ケリーの最後の輝きなど、見どころは多い。移りゆくアメリカを一本の映画に凝縮した不思議な感動がある。

ラストコンサート
白血病に冒された少女とピアニストとの悲恋もの。イタリア映画だが、日本のリアルタイムで観た世代にのみ、熱く支持されている作品。つれない中年男に天真爛漫な少女が恋をするというくだりは、ファーザー・コンプレックスという設定があっても、無理があるので、芸術家に再起を促すため、天界から天使がやってきたぐらいの解釈でいいと思う。ヒロインを演じたパメラ・ヴィロレッジのルックス、風光明媚なフランス沿岸部、パリ市内、自然光を取り入れた淡いタッチの映像に加えて、全編ハミング(映画音楽のスタンダード・ナンバーとなったステルヴィオ・チプリアーニの名曲を含む)が効果的に使われている。

ブラック・サンデー
テロ組織とイスラエル特殊部隊との攻防を描いたアクション大作。前半はドキュメントタッチの人間ドラマ、後半は飛行船を使ったパニック・スペクタクル。どちからというと玄人受けする前半がいい。職人技とも言えるカメラワーク、編集の妙。「未知との遭遇」「スター・ウォーズ」の映画音楽で人気急上昇したジョン・ウィリアムズが地味にいい仕事をしている。中盤の爆発で穴だらけになった小屋に佇むブルース・ダーンとマルト・ケラーが強い印象を残す。全体にジョン・フランケンハイマーらしい緊張感あり。映画は政治的な理由で日本での公開は見送られた。