同角沢


まだ同角沢を知らない頃、遺言棚(登るには遺言を書いてから登れということから付いた名)、 という珍しい名の滝にひかれ三年前の秋(平成10年11月上旬) 玄倉林道に入る。
地図を見てどこから一番早く簡単に行けるか検討してみると、西丹沢県民の森から破線の 登山道が東沢乗越まであり、乗越からすぐ近くと判断して行った。
地図上破線の登山道はやや困難でわかりにくいコース、とあったが滝を一つ見に行くだけだから なんとかなるだろうという軽い気持ちで行った。
県民の森の駐車場に車を止め、小川谷(このころは小川谷廊下も知らない)沿い の登山道に入る。

道は以外と踏まれていて高低差もなく、歩きやすい。 時々崩れているところや、ザレているが気をつけていけば大丈夫。
いくつか沢を渡り、広葉樹のなかの道を気持ちよく登って行ったが、 沢沿いになって目指す東沢の出会いはどこだろう、と周りの地形と合流点などを見ながら進む。
沢沿いをしばらく進み、それらしき沢が本流とおぼしき沢に合流していたので、躊躇なく左岸の沢に入る。 沢には水があまりなく、本流も上部へガレ沢となっていてほとんど水がない。
東沢とおぼしき沢をしばらく行き、適当にあがれる尾根方向に登っていく、とかすかな踏跡が 出てきた。
さすがあまり人が入らないところでも丹沢には道があるな、と思いながら目指す東沢乗越はどっちだ、 と地形と地図をたよりにどんどん登る。3時間くらい歩いたがなかなか峠的な雰囲気にならない。

西をみると富士山が見えてきてかなり上に来た感じでいるのだが。
さらに尾根を登っていくと、谷をはさんだ前方になにやら梯子のようなものが見える。
地図と同定してみると、どうやら大石山先のキレットらしい。
しまった。道を間違えた。時間を見るともう1時。秋の日は早い。迷った以上無理だから来た道 を戻ろう、暗くならないうちに早めに降りよう、と思ったが尾根へ 登って来た道がよくわからない。
尾根上を行ったり来たりしながら 登ってきた沢への降り口はどこだろうかさがすが、似たような地形 でここだというところがわからない。

しょうがない、沢をめざして降りて行けば同じところにでるだろうと思い、適当なところを 急な立木と藪を頼りに降りる。
しかし、降りるとすぐに急なザレになりだめ、何回かちょっとおりてはガケ、また登り横にトラバース、 というのをくりかえし、あせりながらやっと登ってきた沢床に降り立った。
時間を見ると3時半、今頃の日没は5時前なので急ぐ。

4時半頃本流との合流点に戻ったが、沢から上がる場所が暗くてよくわからない。
林のなかはもうほとんど真っ暗でライトがないとあの暗さとザレのあるところの道は明かり をもたない自分にとってはもう無理、しかたがない、少しでも明かりがあるうちにビバーク の場所を確保しよう、と判断し沢沿いの木の下に少し枯れ葉を集め、ビバークする。
日帰りのつもりだったので、ライト、着替え、雨具、食料もなし。
幸、天気は晴れ時々曇りで夜空には星が見える。しかし、この時期になると丹沢でも結構 冷えるだろう、しかも朝までとなるとまだ12時間もある。
とりあえずもうあわててもしょうがないからカッターシャツのうえに薄いビニールのヤッケ を着、軍手をしてざっくを枕にし、横になる。
しかし寒くて寝ようにも眠られない。
地面も冷えてきて体を右にし、左にし、と寒さで交互にかえながら朝まで一睡も出来ないでいた。
長い時間をどう過ごそうと思いながら歌を歌い、星座をみて考え、鹿の鳴き声を聞き、一時間 ごとに時計を見ながらあと何時間と計算しながらやっと朝を迎えた。
寝ていないわりには体もふらふらしないし、以外と体調もよい。

6頃出発。
夕方あれほど見つからなかった道はすぐわかった。
沢沿いをしばらく下ると東沢へ分岐して降りるところに、テープが巻いてあった。 そこにはテープがあるだけで道標はない。
気をつけていないと見過ごし、真っ直ぐ行ってしまう(何回かくるとわかるのだが)。 あとは沢沿いの山道を真っ直ぐ一本道だ。
駐車場まで1時間、あっというまに着いてしまった。
反省はと思うと日帰りでも最低防寒用にセーター、雨具、予備の食料、それにライトはもって行かないと いけないなと反省。
目的の滝も見えず、おまけに道を間違え、ビバークとは(初めての経験でした)、それにしても寒かった、 気温は零度近くに下がったんじゃないかな。

車に乗り、玄倉のバス停から心配している家族にまず一報。
「日没で道がわからなくなったから山ん中で寝たよ、けがもなにもないから連絡なしでわりー」 と電話を入れたら、「何も連絡がないのは初めてだから、どうしたのだと心配してた」、 「わりーわりー、これからは翌日の夕方までに連絡がなかったら遭難したかもしれないと思って 警察に連絡してくれ、それまでは待ってて」、といって電話を切る。 幸、今日は日曜日、会社は大丈夫だし、電話連絡もしたし、ほっとした。
帰って地図を見るとどうやら東沢と間違えたのは長ザレの沢だ、もう同角の頭がすぐ近くだった。

後日再トライして目的の遺言棚まで行って来た。 どこでどう間違えたのかを確認しながら行って来たが、登りと下りでは覚えていても景色が違う のでわかりにくい。おまけに東沢沿いの道は藪が深く覆い、少し歩いただけで進めない。
仕方なく沢に降り登ると、大きな滝もなく快適に登れる。
この日も東沢乗越付近がわからず尾根を行ったり来たり、それにしても この尾根上は似たようなところが多く、わかりにくい。
ややモチコシ沢の頭よりに上がったため、 東沢乗越を見つけるのに苦労した。
見つけると古い道標もあり、簡単なのだが、 東沢乗越がわかるとすぐ下が同角沢で、遺言棚への降り口も簡単にわかった。
逆に沢を遡行してくると巻き道はわかりにくいだろう。

三度め、平成11年夏、遺言棚までの滝を確認に同角沢に入る。 玄倉林道ゲート前に駐車し、林道を歩く。
玄倉ダムを過ぎ、全部で6つの隧道を越えると対岸にF1の滝を落とした同角沢出会い が見える。
玄倉川に降り、渓流シュウズに履き替え、いざ出発となるが本流の水量が多い。
徒渉場所がなかなかない。
たまたま釣り人がいたため、腰まで入り、F1の滝(15M)下流を渡り、滝下を横断、F1の右から登る。 ここしかないという登りで感心する。三重の滝(25M)は鎖を使い、滝右のややきつい草つきの壁をよじのぼる。 続いて不動の滝(25M)
とりあえずきょうはここまで、時間の都合で帰る。

四度めは平成11年秋、丹澤記に大杉沢に大きな滝があるとあったのでもう少し先までとチャレンジ。 前回よりは少し、本流は少なめ。飛び石つたいに簡単に渡れた。
F2三重の滝は鎖を使い、そこから巻き道を登る。
前回登った滝右横を見下ろすと、よくこんなところを登ったな、
すべれば下までずりおちるのにと思う。丹沢は必ず巻き道があるから なるべく安全に、安全に、と行くべし。
F2三重の滝。F3不動の滝と順調に巻く。
無名沢の滝を左岸に見て、少し行くとダルマ石。沢の真ん中にドデンと大きな10Mの岩がある。 左右からは小滝が落ちる。
この大きさならどんな大水が出ても流れないな。 しばらくして左岸に今回の目的の大杉沢の滝(25M)
水量は少ないが断崖絶壁から落ちている、丹沢の滝では珍しい景色だ。 しばらく滝下で写真を撮り、さらに進む。
次は行水の滝(5M・濡れて水を浴びる用にして登ることからついたらしい)、 どうみても流心は登れない。左を巻いて登る。
続いて無名の滝(無名の滝という滝名)20M、この滝は立っていてこの沢では一番 滝らしい。
これから先は小滝と遺言棚しかないのでまたここから戻る。

平成13年6月、もう一度友人と3人で出会いから東沢乗越経由県民の森へ下る。 このときはさらに水量が少なく、遺言棚の上で水が途切れていた。 何回か迷った経験から順調に遡行でき、快適に東沢をおりた。
なお、過去の記録時間はだいたいの時間である。記事にまとめるとこんなにも行っていたのかと思う。

一回目  駐車場―――長ザレ出会―――尾根――――長ザレ出会―――駐車場

     10:00 11:30  14:00  16:30   7:30

二回目  駐車場―――東沢出会―――遺言棚――――東沢出会―――駐車場

     9:00 10:00  12:30  14:00   15:00

三回目  駐車場―――同角出会―――不動の滝――――同角出会―――駐車場

     8:00  9:10  11:00  13:00   14:20

四回目  駐車場―――同角出会―――無名の滝――――同角出会―――駐車場

     7:00  8:10  12:00  14:00   15:10

五回目  駐車場―――同角出会―――東沢乗越――――県民の森―――駐車場

     7:50  9:00  12:00  14:00  15:00

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