富士見ファンタジア文庫 <卵王子>カイルロッドの苦難 H 思い出はいつまでも

著:冴木 忍 挿絵イラスト:田中 久仁彦

 あらすじ 

  疲労困憊しながらも、イルダーナフに率いられた人々は≪第二の神殿≫にたどり着いた。
  古代の力が結集されていると口伝にあった≪第二の神殿≫----
  それは地中深くに建設された巨大な地下都市であった!

  「ミランシャの顔を見てこよう」
  神殿の中の一室で、カイルロッドはすっかり幸せな気分に浸っていた。
  そんなささやかな幸せも長くは続かない。カイルロッドは人目を避けるようにして、
  最強の敵との闘いに赴いた……。

世界の行く末は、カイルロッドに委ねられたのだ----。

 登場人物 

       サイード
   カイルロッドの養父にしてルナンの王。いつも飄々としていて
  かなり気さくな人物だが、その政治手腕で確りとルナンを盛り
  立て、周囲の国からは「ルナンの曲物」と呼ばれている。
   王子の出生に関わる秘密を知りながらも、フィリオリを妻と迎え
  王子に惜しみない愛情を注ぐ。得意技は泣き落とし。

         フィリオリ
   王子を産むのと引き換えにこの世を去った若き母。
  実はフェルハーン大神殿でも屈指の力を持つ巫女であった。
  彼女の形見の指輪は幾度となく、王子が道を切り開く為の
  助けとなる。

         ミランシャ
   第二の神殿への移動途中に産まれた赤ちゃんでその名は
  カイルロッドから名付けてもらった。
  母・ジュディが出産してしばらくの後亡くなってしまうが、
  ミランシャは神殿に引き取られて大切に育てられる事となる。

    苦しさに喘ぎながら、カイルロッドはレイブンのことを思った。ジュディやパメラ、シャオロンのことを思った。
    彼らは死を前にして笑っていた。
    こんなにも苦しい思いをしたのだろうか。それなのに笑っていたのだろうか。

    「彼らが耐えた苦しみに、俺が耐えられないはずはない」
    血と冷たい汗が全身を流れていく。力と気力が失われていく。
    懸命に息を整えながら、カイルロッドは地上にいる人々のことを考えていた。

    「……皆に会えてよかった。皆と同じ時代に生まれ、そして出会えたことに心から感謝している」

     魔王になることなく、人間として生きられた。そして人間の美しさと醜さを見、絶望を見、希望を見た。
     抱えきれないほどの楽しい思い出をもらった。大勢の人々に励まされた。


                           「本当に、ありがとう……」

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    風を全身に受け、カイルロッドは最後の力を振り絞って封印を解く言葉を、かつての英雄の名を口にした。

8巻・ やさしさは風の調べ ヘ                                                        FIN .

 卵王子の入り口へ 

9巻「思い出はいつまでも」より抜粋させて頂きました。

9巻表紙と同じにならない様にと思って描いたのですが、やはりこの場面を選んだ時点で
ある程度の要素が似たものとなってしまいました…;でも以前出た人物にリトライしたり
構図を変化させたりしながら、私なりのクライマックスを描いたつもりです。

カイルロッドの多くの苦難を通して感じた感情や、答えの出せない選択は
何年も経った今でも時々自分を振り返らせてくれます。
同じ文章で同じような感じ方をするというのは、良くも悪くも変わっていないという証拠…でしょうか。(笑)
また時々王子と旅し、自分の目線が変わったかを確かめるのもこの作品の一つの楽しみ方かもしれません。
末長く読んでいきたい本に会えて本当に良かった。

このページを楽しみにして下さった方や興味を持って下さった方もいて、それも大きな喜びです。
お陰様で最終巻までこぎつけられ、勝手なファンアートながら一つ肩の荷が降りた心地です。
また描く機会はあるとは思いますが「卵王子」、ひとまず終了です。
長らくお付き合い頂きまして ありがとうございました!