-ゴスドラマ過去ログ:10701-10800-
ト書き「室内にあった椅子をさして、酒井は黒沢に座るよう促すと黒沢はそれに従った。」
黒沢カオル「あの…。」
酒井雄二「で…?」
ト書き「二人は同時に言い合い、顔を見合わせる。」
黒沢カオル「ふふふふふ。あのね・・・」
酒井雄二「なに?嬉しそうだけど。」
黒沢カオル「酒井さんが助かって…死ななくて、良かったなって…思ったから。」
ト書き「上目遣いで酒井を見つめると、黒沢ははにかんだ笑みを浮かべた。」
黒沢カオル「てつ兄ちゃんのことと、…良かったって思った事、伝えたかったの。」
酒井雄二「…そうですか。」
ト書き「前髪を除けて、酒井はそう呟いた。」
酒井雄二「(…護れなくなる…かもしれないのに。」
ト書き「酒井は、自分を抱くように両肩を掴んで俯いてしまった。」
黒沢カオル「さ、酒井さん…どうしたの?傷、痛むの?」
酒井雄二「…はっ……あ、ぅん…大、丈夫だから。」
黒沢カオル「北山さんと優くん呼んで来るねっ!?」
酒井雄二「いや、大丈夫だよ。それより、今は……カオル君に、いて欲しい。」
黒沢カオル「え?でもわたし、何もできないよ?」
酒井雄二「…良いんだ。」
ト書き「酒井はベッドの上で、呟いた。」
黒沢カオル「・・・そ・・う?私でいいなら・・・。」
ト書き「黒沢は、遠慮がちにベッドへ椅子を引き寄せた。」
酒井雄二「見てよ、コレ。」
ト書き「酒井が、黒沢に右手を差し出した。」
黒沢カオル「どう…っ。」
ト書き「酒井の手が、僅かに震えている。」
黒沢カオル「どうしたの…大丈夫?」
酒井雄二「チョットばかし緊張してる証拠。」
ト書き「酒井はそう言うと笑った。」
黒沢カオル「私も少し緊張してるよ…。」
ト書き「黒沢は顔を赤くして酒井を見た。」
黒沢カオル「酒井さん…1人ぼっちって…好き?」
酒井雄二「う〜ん、難しい問題だなぁ〜。」
黒沢カオル「私ね…大嫌い…だから今凄く嬉しいの…今までずっと1人だったから…。」
酒井雄二「そっか…。」
ト書き「酒井は黒沢の頭のポンポンと軽く叩いた。」
黒沢カオル「1人じゃ恐いよ…1人にはもうなりたくない…。」
酒井雄二「カオル君はもう1人なんかじゃない。心にだって人は居るんだ。」
黒沢カオル「こ・こ・ろ?」
酒井雄二「どんな時も、どこに居ても側に居る人は必ず居るんだ。それは自分の事を1番に思ってくれてる人なんだよ。」
黒沢カオル「思ってくれている人…。」
酒井雄二「心って何処へでも繋がってるんだ。人が居る限り、カオル君が居る限りずっとね…。」
黒沢カオル「でも分らないよ…心は姿が見えないもん…1人と同じだよ。」
ト書き「黒沢は下を向いてしまった。」
酒井雄二「じゃ〜いつかカオル君は俺のことも忘れるのかな??」
黒沢カオル「えっ…??!」
ト書き「黒沢は驚いた眼差しで酒井を見た。」
酒井雄二「カオル君さっき部屋に居た時、俺のこと忘れてた?」
ト書き「黒沢は顔を横に振った。」
酒井雄二「俺はずっとカオル君のこと思ってたんだけどなぁ…。」
黒沢カオル「私の…こと…?」
酒井雄二「『村上さんに怒られてないかなぁ』『もう身体は大丈夫かなぁ』『これから先、どういう風に成長していくのかなぁ』…ってね。」
ト書き「酒井は髪の毛をワシワシと掴み笑った。」
酒井雄二「…まだ難しいか。大きくなったらわかるよ、カオル君にも。」
ト書き「酒井は黒沢の頭を撫でて寝転がった。」
酒井雄二「……ねえ。」
ト書き「口元に笑みを浮かべ、柔らかい感情を含ませた視線で酒井は黒沢を見遣る」
酒井雄二「俺が、軍隊を抜けた理由、前に自分の場所が見つからなかったって、言ったよね。」
黒沢カオル「…え、あ…はい。」
ト書き「唐突な言葉に黒沢は驚いた表情をとった。」
酒井雄二「俺がね、居場所を見失った理由も…護衛の時でさ。」
黒沢カオル「その人も…王女だった?」
酒井雄二「いいえ、普通の女の人でした。」
黒沢カオル「そう…。」
酒井雄二「彼女を庇った時に腕と背中に被弾しちゃいまして、仲間に彼女を託して死のうかと思ってました。」
黒沢カオル「でも。」
酒井雄二「…助かっちゃったんですよねぇ。ええ、まぁ生死の境を彷徨ってましたが。彼女の方は…死んじゃいましたけど。」
ト書き「黒沢はその言葉に息を呑んだ。」
酒井雄二「正直、村上さんを庇った時怖くなかった、って言ったら嘘になりますよ?人並みに痛覚あるんですから。でも、それを上回って…貴方の泣き顔は見たくないなって…思いました。」
黒沢カオル「わ・・わたしの泣き顔・・・?」
酒井雄二「悲しいでしょう、村上さんが死んじゃったら。」
黒沢カオル「え・・・」
酒井雄二「人が死んでしまったら悲しいのは誰でもそうです…それがどんな人であろうとも…。」
黒沢カオル「……。」
酒井雄二「私が死んでも代わりは居ます…けど…あなたにとっての村上さんの代わりは居ません…。」
黒沢カオル「私にとって…てつ兄ちゃんの代わり…?」
酒井雄二「いつでもどんな時でも、あなたの味方になって助けてくけて、1番良くしてくれる人…村上さんなんですよ。」
ト書き「酒井は静かに目を閉じた。」
酒井雄二「私には村上さんの代わりは出来ません。たとえどんな事が出来たとしても…。」
黒沢カオル「私…私、酒井さんが死んだら悲しいよ…優しいし、面白いし、色んな事知ってるし、私を色々励ましてくれたし…。」
酒井雄二「……。」
黒沢カオル「確かにてつ兄ちゃんとは違うよ…でもね、普通の人でこんなに私に普通の子として接してくれたのは酒井さんと北山さんだけだから…。」
ト書き「黒沢の目には涙が溜まり、しかしそれを必死に堪えようと頑張っていた。」
酒井雄二「…さっき話した女の人の話…その人は僕の大切な人でした。」
ト書き「酒井は目を閉じたまま話し始めた。」
酒井雄二「命よりも大切な人で、自分がどんなになっても守ろうと…彼女も『生きたい』って言ってました。」
黒沢カオル「…生きたい…?」
酒井雄二「それに答えようと…彼女は知っていたんですよ、自分が近いうち死んでしまう事を…怖かったんですね。」
黒沢カオル「酒井の目にうっすらと光るものがあった。」
酒井雄二「私が撃たれた時、彼女は私を必死に助けようとしてくれました。」
ト書き「(私のセリフがぁ…黒沢さん…)黒沢気付かず演技をする。」
黒沢カオル「その人の気持ち…分るよ、私にも…。」
酒井雄二「彼女の涙で濡れた顔…今でも焼き付いて離れません…、好きな人の泣く顔は…もう見たくないんですよ…。」
黒沢カオル「…酒井…さん…泣いてるの…?」
酒井雄二「…私の心には…彼女が居ます…仲間も居ます…北山さんも、ヤスくんも村上さんも…勿論カオルくん、あなたも…。」
黒沢カオル「心に…居る…ひと…。」
酒井雄二「彼女の心の中にも私が居るでしょう、大切な仲間の中にも…居て欲しいものです…1人は私も嫌ですから…。」
ト書き「酒井は目を閉じたまま泣いていたが、それを隠そうとも、拭こうともしなかった。」
効果音「コンコン!!」
北山陽一「失礼します、そろそろ輸血も終わったでしょう。」
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