X−広島県高校野球史
1.西条農業高校
平成二年度春季広島県大会において、広島商業高校卒業生の小田浩君が監督を務める県立西条農業高校が優勝し、春季中国大会への出場権を獲得した。
西農の優勝を予測し、その通り現実となった。高校野球の予想は難しいが、この春は予測した通りであった。監督として徐々に成長しているし、また指導した選手も堅実な守備と思いきった走塁、振り切って打撃力を有し、真面目に取り組む姿勢も魅力的であるし、優勝一番手を予測していた。
しかし、決勝戦の最終回8対2で6点リードしていた西農が、この回広島工業高校に猛反撃にあい4点を奪われ、二死走者二・三塁となり、あと一本安打が出ていれば同点という状況であった。二ゴロで試合は終了、西農の8対6の勝ちで終わった。
最終回の広工は連続安打で一挙に逆転するのではないかという勢いがあった。その時高野連の役員が期せずして「堀投手のスピードが無くなった」「疲れたのだろう」という言葉が発せられたのである。
この日は準決勝二試合、決勝一試合とスケジュールが組まれており、本高野連では通常日程通りだった。第一試合西農は崇徳高校と対戦した。堀投手は三回からリリーフして、上手にボールを振らせ九三振を奪い7対1で快勝、決勝に駒を進めた。
決勝は、福山工業高校を敗った広島工業と西農の対戦となった。初回から西農は堅実な試合運びで8点を奪い、二点は余りのある失点であった。七回からエース堀投手の登板もあり,前の試合に続いて三振を奪う快投を演じ、「絶対優勝する」の意気込みは凄いものがあった。
前途のように、別人の如く西農堀投手は突然崩れた様想を呈したのである。連盟の役員諸氏が言うように「疲れたのである」「スピードが無くなったのであろう」か・・・。
「目に見えないものを見抜く力を育てねばならない」と私は日頃から力説してきたがこの場合目に見える状態なのに・・・である。目の前で堀投手が連続安打をうけているのである。この状態をどう観るかという問題である。
私は、「勝ちを急いでストライクばかり投げているので、バットを振れば全てヒットになっている。前のイニングのように、もう少しボールを投げないといけない。」と説明したのである。
目の前のプレイをこのように観察したのである。小田浩君も監督暦1年目ということであり、未経験で知らない場面だったのだろう。
選手と監督とでは、異質の体験と経験、研究と研修がいるものである。