X−広島県高校野球史
2.広島商業高校
第70回全国高校野球選手権大会は、監督、部長、選手を中心とした絶大なるチームワークで全国優勝を果たした。
決勝は福岡第一高校とであった。初回から8回まで両軍0対0で延長戦の雰囲気さえ漂っていた。ご承知の如く岡田の安打、山本のとき空振りで二盗成功、二死で重広の右翼線二塁打で貴重な一点を挙げた。
その後、上の投手と尾崎捕手がどのような配球であったかこれを説明したい。
最終回、福岡第一の攻撃は三番の山口からである。初球スライダーでボール。しかし、山口はストライクゾーンを通過したボールが故に振ってきた。ミットに入ったときは明かにボールゾーンなのに彼は空振りをしたのである。ボールゾーンからのボールなら彼はふらなかったろうが、ストライクゾーンからのボールであったから振ってきたのである。第二球も同じボールだった。彼はこのボールも空振りして2ストライクとなる。
心の動揺を感じ、落ち着かねばと思ったに違いない。山口主将は打席の足場を均しはじめた。次の三球目のスライダーでストライク。これで山口は三球三振で1アウトとなった。
四番の山之内は九州のバースと異名され、初戦の法政二高との対戦で連続本塁打を放ち、このように別名をつけられていた。当然、打撃の中心選手だった。二球続けてボールとなった。得点は1対0九回で四番の山之内は何を考えたのだろうか。当然ストライクを予想し、俺が打たねば誰が打つ、絶対振り切ろうと思っていたに違いない。上野投手はボールツーからスライダーで膝元をついた。ボールゾーンであった。山之内はこれを強振して一塁へ強いゴロとなった。これで二死、五番の前田は左打者で好打者だった。初球ボール、二球目ボールを強引に打ちに出てファウル、これでワンエンドワン、三球目のスライダーの低目のボールを打って一塁と二塁の間の強い打球、井上二塁手の攻守もあってチェンジ、ゲームセットになった。
私が言いたいのは、この最終回広商バッテリーが投げたストライクゾーン通過のストライクは打者山口のときの三球目のストライクだけなのである。
目に見えない打者の心理をみぬいての投球なのであった。指導者の忠告を信じ、指示通りやり切った広商バッテリーの勇気と英断、ここに目に見えないところを見抜く力が必要となったのである。力量が多少劣っていようとも、身体が小さくとも、頭脳を生かし,創造し、工夫する心が存在する以上立派に広商野球は継続すると思っている。