「徒然虫」 4号

里山だより02「また会えたね!」

「また会えたね!」

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 私の家のすぐ近くに、小川が流れています。幅1mほどの小さな川ですが、川の上流部ということや家が少ないこともあって、まあまあきれいな状態です。夏になるとホタルが舞いますし、オニヤンマやサワガニもたくさんいます。

 5月の連休が終わる頃、この川で春の蜻蛉たちが羽化を始めます。サナエ(早苗)トンボの仲間やカワ(川)トンボです。5月中旬ともなると、目も透明になり体もしっかりした元気な姿を見せてくれるようになります。そんな蜻蛉たちの中に「チャイロンくん」という愛称で呼んでいるカワトンボがいます。

 カワトンボは、鏑川などでもよく見かけるハグロトンボの親戚ですが、ハグロトンボがかなり汚れている川でもすめるのに対して、きれいな川にしかすめない蜻蛉です。30年ほど前までは、甘楽富岡のどこの川にもいましたが、今は川の上流部に生き残っているだけになってしまいました。

 ヤンマや赤トンボなどは、羽を開いて止まりますが、カワトンボの仲間は羽を背中にたたんで留まる種類で、小さくてかわいらしいイトトンボ(糸蜻蛉)とカワトンボの仲間、そして生きた化石といわれるムカシトンボ(昔蜻蛉)の仲間だけがそのようにして留まります。

 「チャイロンくん」は、カワトンボの雄で、羽の前半分くらいが茶色がかっています。雌の羽はどれも無色透明。雄のほとんども無色透明。でも、雄の中の何匹かは羽が茶色くなるのです。このチャイロンくん達は、毎年ほんの数匹だけ、しかし確実に生まれてきます。遺伝の仕組みがそうさせているのでしょうが、自然の不思議さを感じる瞬間です。春になり、山々が新緑に包まれる頃、小川の近くに現れるチャイロンくん達に会うと、「また会えたね!」という言葉が自然に出てきて、とてもなつかしい感情に包まれます。子どもの頃から毎年顔を合わせてきたチャイロンくん達。私はずっと生きていますが、彼らは毎年世代交代を重ねているわけで、会っているのは子どもたちばかりなのに、なぜか「また会えたね!」と感じてしまうのです。その時感じる「よろこび」は、川の環境が保たれている「よろこび」、自分自身が生かされている「よろこび」、何よりも共に生きている友に会えた「よろこび」です。今年もまた会えたね!

2006. 5. 28 斎藤 靖明(abusaito)

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