「徒然虫」 11号

里山だより09冬尺

「哀しみ」

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 厳冬の昨年から暖冬の今年。めまぐるしく変わる季節感に惑わされているのは、私たち以上に自然界の生き物たちでしょう。春の花が開き始めてしまったり麦が青々と伸び上がってしまったりと、気候に合わせて動くことのできない植物たちもおかしくなっていますが、我が家のミツバチたちもクリスマス頃まで花粉を集めて子育てをしていました。(例年と一ヶ月近くずれていました。冬が越せるか心配です。)それでも雪のたよりが聞こえてくる頃になると楽しみなことがあります。冬にだけ成虫が現れる「フユシャク(冬尺)」という蛾(ガ)の仲間に会えることです。

 冬の雪の降る夕暮れ、外灯や家の窓辺でひらひらと舞う、透き通った羽の蛾を見たことはありませんか。明かりに照らされた雪と羽と微かな音とが幻想的に調和し、寒さも忘れてしばし見入ってしまうものです。もしフラッシュをたいて写真をとることができたら、思いがけない収穫にびっくりすることでしょう。(雪の結晶面が光を反射して、目で見ているのと違う不思議な世界が写るはずです。)

 このフユシャク、飛んでいるのは雄ばかり、雌はというと写真のように羽がないか、あっても小さくて飛ぶことはできません。冬にはエサもないので、食べものも口にしないそうです。(口も役に立たないつくりだそうですが・・・)フユシャクたちは、春に幼虫(尺取り虫)になり、初夏には土の中でさなぎになります。土の中で夏の暑さをしのぐようです。(20℃以上の状態では長く生きられないという実験結果もあります。)羽化して成虫になった後も温度変化が苦手で、0℃前後の風のない時にだけ活動するようです。それにしても、変温動物の小さな蛾が、どうしてこんな寒い中で飲まず食わずで飛べるのか、きっと血液や筋肉などに独創的な仕組みが隠されているのでしょう。

 手入れの行き届いた明るい里山は、フユシャクにとって大切な生活場所になっています。私たちにとって意味のないように見える小さな林にも、その場所がなくては生きられない生命がいることを思い、大切にしたいものです。

 冬の里山活動は、こんな話をしながら子ども達と一緒に里山のシノ刈りや竹切りを行い、皆で作った小麦や蕎麦、モチ米を使って、手打ちうどんや蕎麦、餅つきで楽しみます。

2006. 12. 29 斎藤 靖明(abusaito)

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