「徒然虫」
14号
里山だより12「里山のいのち」
「里山へ」
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里山から飛んできたチョウとトンボが、小野小のとちの木と話しています。「奥山にすんでいたクマさんが、里山にも出てきたって話、聞きました?」「聞いた聞いた。こないだなんか、里山のミツバチ一家がおそわれたって、そりゃ大変だったんだ。」「わしゃ、ここで100年以上生きてきたとちの木じゃが、この頃の里山は荒れ放題で心配しておった。しばらく前からイノシシも見られるようになり、次はクマさんの番かと・・・。」「今までいなかった南のチョウが見られるようになってきて、地球温暖化も心配です。」「俺たちのエサになる蚊が増えるからうれしいけど、仲間のトンボがすめなくなるのはさみしいなあ。」「わしも、もともと涼しいところが好きなんで、この頃の暑さはこたえるわい。そうそう、お二人さん、里山のコナラどんのところへ行って、クマさんの様子を聞いてもらえないかのう。」「いいですよ。コナラさんのところへ行ってみましょう。」
里山では、コナラとそのドングリ、クワガタが話していました。「この里山も荒れてきたなあ。竹やぶやシノがのび放題。すっかり暗い林になってしまった。向こうの山はクズにおおわれ、クヌギどんも死んでしまったよ。」そこへタヌキとサルが、次にイノシシとクマがやってきました。「ぼくたちは、かくれるところができて、うれしいけどね。」「そうそう、人間たちが里山に来なくなったんで、安心して暮らせるよ、ウキー!」「ぼくらも、のび放題のシノの中で隠れ家を作って、子育てが楽になった。」「なにのんきなこと言ってるんだい。暗くなった里山は好都合だけど、人間に出会ったら殺されてしまうじゃないか。」「ウキー、鉄砲でズドンとね。」「クマさんは、いろいろ誤解されているからね・・・」「クマさんだけじゃないさ、畑のごちそうを食べるぼくらだって、わなをしかけられたり、追いかけられたりたいへんだよ。」「それなら奥山へ帰ればいいのに!」「それがね。奥山では食べものが減って困っているんだよ。」「奥山も気候が変わって、仲間のドングリたちも苦労しているみたいだよ。」「人間たちのぜいたくで気候まで変わってきたというのに、困ったものだねー。」「町が海の底に沈むまで、気づかないんだよ。さあさあ、ご飯にしょう!」
動物たちが去る時、イヌと子どもたちが走ってきました。やがて父母と祖父母もやってきます。「シロ、待てー!」「早く!何かいる!ワン。」「あの黒い動物は、クマじゃないの。追いかけちゃだめだよ。」「お父さん、大変だよ!クマがいたよ!」「最近見かけたという話は、本当だったんだね。家に帰って鉄砲をとってくるよ。」「里山にクマが出るなんて、困ったもんだね。」「奥山の木の実が少なくなったんで、里山まで出てくるらしいわよ。」「学校で習ったけど、里山が荒れてしまったので、クマやイノシシが隠れやすくなったんだって。」「わしが若い頃は、里山はきれいだったものなあ。」「そうそう。春になると、あちこちに「じいとばあ」の花が咲いたねえ。」「じいとばあ?」「本当は、シュンランて言うんだけど、この頃は見ないなあ。」「里山に山菜採りにも行ったわよ。遊び道具も自分たちで作ったし。」「ぼくたちも、学校の授業で里山に行って、虫取りやシノ鉄砲作りをしたよ。」
突然「ズダーン」という鉄砲の音がしたので、みんなは音のした方に走っていきました。かわりに動物たちが震えながら集まってきました。「こわかったねえ。」「ウキー、キー。」「クマさん、殺されちゃったなあ。」「だから、奥山へ帰ればって言ったのに・・・」「ぼくたちに、できることはなかったのかなあ。」「私たちにできることは、仲間をたくさん増やすことだけ。」「人間じゃないんだから、自然や環境を変えるなんて無理だよ。」「せめて、明るい里山になってくれればなあ。」
動物たちが去り、かわりにさきほどの親子がきてシノを刈り始めました。祖父母もやってきました。「ずいぶん明るくなってきたなあ。」「まあ、「じいとばあ」だよ!まだ残っていたんだねえ。」「もうなくなったと思ってたけど、明るい里山にすると生えてくるんだなあ。」刈り終えた親子も話しに加わりました。「明るくなって、気持ちがいいねえ。」「クマさんには、申し訳なかったけど、あの後ずいぶん里山がきれいになってきたなあ。」「あたしたち、考えたんだ。どうしてクマは死んじゃったのかって・・・。あたしたちにできることはないかって・・・。」「それで、里山をきれいにすることから始めようって話し合ったんだ。」「昔は、生活のために里山をきれいにしていたけどね。」「生きるために、里山を使っていたわけだよ。」「そうやって里山を使うことで、里山のいのちを守っていたんだね。」「人が里山を守り、里山が人を守る。人が里山を育て、里山が人を育てるか。」「里山って、日本の文化なんだね。ずっと昔から大切に使われ、守られてきたんだよ。」「そうそう。ふるさとや里山をうたった歌もいっぱいあるしね。」「そうなんだね。でも、ちょっと違うよ。あたしたちは、里山だけじゃなくて、この地球のことを考えていかないと生きていけないと思うの。」「それでね。今のぼくたちにできることは、ふるさとのこの里山を明るくすることだと思うんだ。」「生きるために里山をきれいにするわけね。」「よしわかった。次は、向こうの里山でクヌギを育てよう!」
チョウとトンボが、とちの木のところに戻ってきました。「とちの木さん、だいたいこんな話です。」「そうかそうか、クマさん、気の毒だったな。」「里山のいのちを生かすのも殺すのも人間なのね。」「小野小の子どもたちが、里山をきれいにするようになったら、地域の大人たちも里山にはいるようになったし、これからが楽しみだね。」「とちの木さん、これからも里山を見守っていてね。」
※この「里山のいのち」は、小野小学校の6年生が総合学習発表会で演じた小さな劇です。今回は、子ども達と作った台本からの抜粋を掲載させていただきました。
2007. 3. 25 斎藤 靖明(abusaito)
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