富士見ファンタジア文庫 <卵王子>カイルロッドの苦難 B 愁いは花園の中に

著:冴木 忍 挿絵イラスト:田中 久仁彦

 あらすじ 

  大歓声渦巻く競馬場の真っただ中で、カイルロッドは苦悩していた。「どうして俺はここにいるんだろう?」
  イルダーナフがこしらえた借金を返すため、カイルロッドは競馬に出ていた。
  しかも、レースに絶対勝たなければいけないのだ! こんな事やっていて、はたして魔道士ムルトを斃せるのだろうか!? 

  そうこうしている間にも、ムルトの下僕が、そしてフェルハーン大神殿からの追っ手が、カイルロッドに迫る----。
  カイルロッドに降りかかる不幸は、今日も山積みであった……。

 登場人物 

          パ メ ラ (愛称:パム)       
     人懐っこく、子供ながら周りによく気を遣う優しい少女。
    行動力も意外にあったりする。
     祖父ザーダックと二人きりで街から離れた森に住んでおり、
    あまり面に出さないようにはしているものの、今の暮らしを少し
    淋しく感じている。怪我をしたカイルロッドを拾った恩人。
          ザーダック
    パメラの祖父で医者。
    医者としての腕は確かで、パメラが発見したカイルロッドの
   手当てをしてくれる。
   人の命を預かるという職業柄か逆恨みをかってしまい、その
   恨みの矛先はパメラにも向けられてしまっている。
         エル・トパック             
    登場自体は1巻から。
    丁寧でやわらかな物腰の隻腕の青年…しかし実は神殿から
   派遣された王子の監視者である。
   (だからと言って王子にあまり敵意は見せない)
    頭が切れ、護符を使った魔法の腕前・人望もかなりのもの。
          テ ィ フ ァ            
   エル・トパックの忠実なる部下。
  無愛想で仏頂面でトパック一番☆
  女剣士ではあるが、戦闘の他に伝令等の様々な任務をこなす。
   イルダーナフは苦手??


     「とっても恐かった。どうしてあんな夢を見たんだろう。パム、お爺ちゃんのこと大好きなのに」
     「……お爺ちゃんもパムのことが大好きだよ。とってもね……」

      カイルロッドの声に苦いものが含まれていると気づくには、パメラは幼すぎる。
     「俺もパムが大好きだよ。……お爺ちゃんが心配しているから、早くお家に帰ろう」

      泣きじゃくっている少女を見下ろしながら、カイルロッドは短剣を握りしめた。
     早く抜かなくてはと思うのに、凍りついたように手が動かない。

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     フェルハーン大神殿、そして少しずつ動き出したムルトと魔物達----前途は多難だ。
    「しかし、この先、どんなことがあろうと俺は耐えられるだろう」、カイルロッドは自分の両手を見た。

             少女の小さな手の温もりを。

             名も知らぬ少年の与えてくれた椀の温かさを。

             限りない優しさをこの手が覚えている。

             「忘れないよ」

             両手を握りしめ、カイルロッドは空を見上げた。
             青い空を雲雀が横切って飛んで行った。

2巻・出会いは嵐の予感 ヘ                                        4巻・面影は幻の彼方 へ

 卵王子の入り口へ

3巻「愁いは花園の中に」より抜粋させて頂きました。
薄暗い森の中、パメラと、彼女を探しに来たカイルロッドが遭うシーン。
何も知らず、疑わないパメラも痛々しいですが、
真実を知ったカイルロッドもまた、辛い決断をしなければいけません。

下段は3巻のラストシーン。