富士見ファンタジア文庫 <卵王子>カイルロッドの苦難 E 悲しみは黄昏とともに

著:冴木 忍 挿絵イラスト:田中 久仁彦

 あらすじ 

  「タジェナ山脈だ……」
  数々の苦難を乗り越えて、カイルロッドは遂にタジェナに辿り着いた。
  出会った人々の面影がカイルロッドの脳裏をよぎる。いよいよムルトを倒し、ルナンの都を救うのだ!

  雪に覆われたタジェナを登って行くカイルロッドたち。彼らを、化物たちは執拗に攻撃してくる。
  そんな化物を蹴散らしたカイルロッドの前に、途中の街で出会ったヴァランチーヌが現われた。
  「どうしてもムルトを倒すというのね」
  その声にあるのは敵意や殺意ではなく、深い悲しみだった……。

 登場人物 

               

      フェルハーン大神殿前神官長。引退後は神殿の離れで
     静かに暮らしており、神殿の干渉を嫌っている。
     茶目っ気漂う好々爺ではあるが、人の好き嫌いがハッキリ
     しており気に入った者以外にはかなりそっけない。
       アクディス・レヴィ
    フェルハーン大神殿の若き現神官長。と言っても正式に
   実力を認められてのものではなく、本人もそれを自覚し、
   苦悩している。
   感情的になりやすいものの非道は好まず、懸命に責務を
   果たそうと勤める。

       … … …
       グリュウは苦痛と闘いながら、力を振り絞ってカイルロッドを助けてくれたのだ。
       「グリュウ、ありがとう」
       短剣を拾いあげてカイルロッドが礼を言うと、グリュウはニコッと笑った。
       あどけない笑顔だった。

「さようなら」

    「死なないでくれ!」
    祈るように叫びながら走ってくるカイルロッドの姿を、両腕のなくなっているミランシャの目が
    映していた。
    それは恐ろしいほど澄んだ、殉教者の目だった。
    これから自分の身に起こることを、受け入れた目だ。

    哀切に満ちた眼差しをカイルロッドに向けたまま、ミランシャの唇が動いた。

5巻・ 野望は暗闇の奥で ヘ                            7巻・ 微笑みはかろやかに ヘ

 卵王子の入り口へ

6巻「悲しみは黄昏とともに」より抜粋させて頂きました。
ものすごい重要な場面で、なかなかどう描くか決められませんでした…。

この場面でミランシャについての全てが判明するけれど、それすらもどうでもよくなってしまうような一つの結末。
しかし私の場合、実際ここでは驚くばかりでこの結末を疑いながら読み進めたものです。
6巻終盤でイルダーナフによって王子が現実に戻ってきた時に、私もやっとそれを受け入れたのですが。
イルダーナフの言葉の一つ一つがすごく染みました。

特異とされるイルダーナフと王子には、この飾りのない少女の存在が本当に安心できる存在なんだろうと思います。
当たり前に、大切なものをずっと注ぎ続けてくれた彼女は読み手たる私にとっても「
ありがとう」の存在です。