モンマルトルから人形町へ
第二次大戦後、ロランスの父母、アンドレとルシエンヌは、ルシエンヌの両親が経営していたモンマルトルのカフェ"AU VRAI CIDRE"を引き継ぎます。二人はさらに店を拡大し、店名も"SELF DE SACRE-COEUR"と改めました。この店は、サクレクール寺院にやってくる観光客や地元の人々に親しまれ、いつも繁盛していました。
しかし1980年代後半、二人は後継者について悩むようになりました。ロランスはまだ学生で日本に留学中、12歳上の姉はすでに結婚して、父アンドレの出身地、アヴェロン地方で生活していました。ついに1986年、二人は店を売却し、引退してしまいました。
1998年、東京、日本橋で外資系企業に勤務していたロランスは、友人の紹介で蕎麦店『人形町松竹庵』を訪れ、その店の若旦那、益川良雄と知り合います。大のフランス好きであった良雄の父の仲介もあり、二人は交際を始め、一年後の1999年には結婚しました。
結婚後、蕎麦屋の嫁として店を手伝うようになったロランスは、初めの内こそ珍しがられましたが、持ち前の明るさや流暢な日本語もあって、自然に受け入れられるようになりました。また、人形町で暮らし始めたロランスは、古い歴史のある大都市の下町である点や、サクレクール寺院、水天宮といった有名な寺社の門前町である点など、生まれ育ったモンマルトルとの共通点にも気付いて行きます。
2000年代後半、良雄、ロランスの二人は『人形町松竹庵』の近くに新たに店を開く計画を始めます。当初は蕎麦店の予定でしたが、この時二人の気掛かりだったことが、ロランスの両親のカフェについてでした。特に父親のアンドレは、店を閉めてしまったことを今でも残念に思っているようでした。二人は予定を大きく変更、人形町で、かつてモンマルトルにあった両親の店を再現しようと、フランス料理、カフェ、ケーキなどについて、勉強を始めます。
そして2008年4月、ついに"CHEZ ANDRE DU SACRE-COEUR"がオープンしました。両親の思いを受け継ぐべく、"ANDRE"を店名に入れました。「サクレクールのアンドレの家」といった意味です。
こうして始まった"CHEZ ANDRE DU SACRE-COEUR"は、下町の気軽なフレンチカフェとして、人形町に暮らす人々やお勤めの方々、また人形町に観光で訪れた方々に親しまれています。 |