-ゴスドラマ過去ログ:13101-13200-
ト書き「柔らかい笑みで、黒澤は北山を見つめた。」
酒井雄二「……。何かあやしい雰囲気が漂ってるんですが…。陽一兄貴?どうしたの?」
北山陽一「えぇっ?!い、いや別に…。(ちっ、雄二の奴俺と母さんのスイートタイムを邪魔しやがって!)」
ナレーション「心の中でとんでもないことを呟く北山だった…。」
黒沢カオル「優は?寝ちゃった?」
酒井雄二「ヤ。何時もなら寝てる時間ですからな。」
北山陽一「そういえば、じっちゃんは?」
酒井雄二「確か…モジュラーから、電話線抜いて、寝る。とか仰ってましたが。」
北山陽一「うーん……。」
ト書き「空に近くなったカップへ珈琲を再び注ぎ、北山は曖昧な笑みを浮かべる。」
黒沢カオル「カオルちゃん、私は優と一緒に寝るよ。くれぐれも、奴が来ても玄関を空けちゃダメだゾ!陽一も雄二もおやすみ!」
小林社長「黒沢、それは俺のセリフだ!」
黒沢カオル「え?!あ、すいません社長…。(反省)」
小林社長「ま、かわいい黒沢だからしょうがないな…。」
ナレーション「気を取り直して…。はいっ、北山さんからどうぞ!」
北山陽一「おやすみなさい、じっちゃん。」
酒井雄二「おやすみ、じい様。」
黒沢カオル「おやすみなさい、お父様。」
ト書き「笑顔で見送る3人。」
北山陽一「で、なんで急に家なんか出たりしたの?聞かせてよ…。」
酒井雄二「それは俺も聞きたい…」
ト書き「雄二はカップにコーヒーを注ぐと陽一の側に座った。」
黒沢カオル「確かめたいのよ…てっちゃんの気持ち…ただそれだけ…。」
北山陽一「だからって…いくらなんでも、感情的になり過ぎじゃないかな…。」
酒井雄二「優の口から”離婚”だもんな…、いくらマセてる優でもあんな事言うなんてなぁ…。」
黒沢カオル「わかってるわ…けどね、そうするしかなくて…私もどうして良いのか分からないのよ本当は…。」
ト書き「ため息をつくと、カオルはカップの中のコーヒーを飲み干した。」
黒沢カオル「まだみんなに言ってなかったわよね?…確か…。」
北山陽一「何をですか?」
黒沢カオル「実はね……。」
ト書き「飲み終わったカップを両手で強く持つと、カオルは黙り込んでしまった。」
黒沢カオル「実は・・・優は・・・」
ト書き「今にも泣きそうな顔になり、俯く黒沢。」
北山陽一「優が・・・何なんですか?」
黒沢カオル「・・・やっぱりだめっ!優が、てっちゃんとの間の子じゃないかもしれないなんて、とても陽一達には言えないわっ!!!」
ナレーション「・・・・・・・・・・・・・「言えない」とか言っときながら、思いっきり言ってますね。」
黒沢カオル「さすがの天然っぷりと言うか、なんと言うか…。」
北山陽一「自分で言わないでくださいよ。ちなみにそれは俺のセリフね。」
酒井雄二「はぁ…お袋…。」
ト書き「椅子を引き出して、酒井は北山の隣に座った。」
酒井雄二「安直で済まないけど、この場合『じゃあ誰の子?』って事になるんだけど。」
北山陽一「…身に憶えが…ある、の?」
黒沢カオル「………。」
北山陽一「母さん?」
黒沢カオル「分からないの…。」
北山陽一「分からないって…。そんな事はないでしょ。だって、男ならともかく…。」
酒井雄二「そうそう、いくら天然の母さんだって、子供を産んだかどうかはわかるでしょーが!」
黒沢カオル「…あのね。私、優を産んだ前後1年間の記憶が無いの…。」
酒井雄二「は?」
北山陽一「記憶喪失…ってやつですか?!」
ト書き「こくんと頷く黒沢。」
酒井雄二「どうして記憶喪失になんてなったんですか?」
小林社長「それは、私から説明しよう。いいね、カオルちゃん?」
北山陽一「うわっ!!びっくりした…。脅かさないでヨ、じっちゃん。」
小林社長「おお、すまんすまん。」
酒井雄二「寝たんじゃなかったの?」
小林社長「まあ細かいことは言うな、雄二。」
黒沢カオル「…お父様…私…。」
小林社長「すべてはいつか話さなくてはいけない事だったんだよ…カオル。その時が来たんだ。」
ト書き「カオルはコクンと頷くと下を向いてしまった。」
北山陽一「…言われてみれば優が生まれる時って俺ら…」
酒井雄二「そうだよな、2年間ぐらい親父の実家の方に居たよな俺ら…。」
ト書き「雄二と陽一は顔を見合わせた。」
北山陽一「確かに初めて会ったのって…優が1歳になった時だよなぁ…?」
酒井雄二「何があったんですか?教えてください。」
ト書き「二人は、今の年令を忘れて、そう社長に訊ねた。」
小林社長「あれは…そうだなぁ、カオルが友人達と一緒に旅行に行った時の事だ。」
ト書き「遠い目をして社長は話し始めた。」
北山陽一「…旅行?父さんは一緒じゃなかった?」
小林社長「まぁ、話を進めよう、質問はそれからでも良いだろう?そこで…まぁ、儂も内容はよく知らないんだが…事故に逢ったんだ。」
酒井雄二「事故?…何で、うちに連絡が…来なかったんだ?」
北山陽一「雄二、質問は後で…」
ト書き「黙るのを見計らい、社長は更に続けた。」
小林社長「怪我自体はたいした事はなかったらしい、実際、怪我だけなら入院は検査も含めて3日程で終わった…だが。」
ト書き「其処で、黙り込んでしまった社長に、3人は身を乗り出した。」
小林社長「喉が乾いたな…どれ、水を一杯。」
酒井雄二「こらぁ!!さっさと話やがれ!」
小林社長「あ〜、これこれ!自分の祖父に、何ちゅー口の効き方だ!」
北山陽一「そんな事は、どうでもいいです。話を進めて下さい。」
小林社長「(そ・・・そんな事だってさ・・・)あー、それで・・・だ。カオルが・・・一時期、行方不明になったんじゃ。」
酒井雄二「ゆ…行方不明?」
小林社長「流石に、この事はてつやの方にも話しておいた方が良いと思って、連絡を入れた。そうしたら…」
北山陽一「…探しに、行ったんですか…?」
小林社長「あぁ。有給休暇、年休、…色々手を回して時間を作った挙げ句、孫の面倒を見ずにそのままカオルを探しに出て行った…陽一、記憶にあるだろう?」
北山陽一「あ…、でもあの時は地方に短期出向という形と聴いてたんだけど。」
小林社長「まあ、当然じゃな。」
ト書き「黒澤は無言のまま、社長へ珈琲を出した。」
小林社長「で、半年後…てつやはカオルを見つけて、戻って来た。」
酒井雄二「親父が…?」
小林社長「何処に居たのかも、どうしたのかも何も言わなかった。…ただ、その時からカオルは記憶を失い、てつやはそれに付き添って一年間病院にいたんだ。」
黒沢カオル「全然…憶えてないよ。ただ、病院のベットの横で…てっちゃんが『俺の事判るか』って言った時の…安堵した顔から始まってるの2年前の記憶からぶっつり途切れてるの」
ト書き「息もつかず、句読点を付ける事を忘れたように黒澤は言った。」
黒沢カオル「(一息はつらい……)」
ナレーション「ふ〜…」
効果音「どんどんどんっ。」
村上てつや「その時、玄関の扉を叩く音が聴こえた。」
酒井雄二「…今何時?」
ト書き「勢い良く拳を突き出して引き寄せる動作の後、北山は腕時計の文字盤に目を落とした。」
ナレーション「村上さん…扉とか無視しちゃ駄目ですよぅ。」
村上てつや「あ…う。」
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