-ゴスドラマ過去ログ:13401-13500-
安岡優「ふわぁ〜〜。おはよぉ〜、陽一にぃちゃん。」
ト書き「両手を高く上げ大きく口を開けてあくびをしながら、優は椅子に座った。」
北山陽一「、」
安岡優「ぅん…?どうかしたの?」
北山陽一「おっ、優。おはよー。」
安岡優「ママ、おはよぉ♪」
黒沢カオル「おはよう。早いわね、遅くに寝たのに。」
安岡優「うん、だって今日はまたパパとずっと一緒に居られるんだもん!」
北山陽一「…パパ…かぁ…(いつから俺は親父を特別な目で見ているんだろう…ただの親と子なのに)」
ト書き「北山は優をボーっと見ながらふと思った。」
村上てつや「おはよう…。」
黒沢カオル「あらっ、てっちゃん珍しい1人で起きて…まだ寝てても良いのに。」
村上てつや「いや…なんか目が冴えちまってて…コーヒーくれ。」
北山陽一「……親父、もしかして一睡もしてないの?」
村上てつや「…まぁな…。」
小林社長「みんな、おはよう!!いやぁやっぱり家族が大勢いる朝というのはいいもんだな!」
ト書き「社長一人のみ、異常に元気はつらつで起き出して来た。」
北山陽一「お、おはようございます…じぃ様元気ですね朝なのに。」
安岡優「おはよぉ〜おじいちゃん♪」
酒井雄二「おっはようございますっっ!」
黒沢カオル「おはようございます、お父様。」
村上てつや「…おはようございます……。」
小林社長「うんうん、おはよう!…なんだ、てつやはまだ居たのか…。」
村上てつや「………。」
黒沢カオル「お父様っ!! …てっちゃん、はい、コーヒー…ごめんねお父様ったら…。」
村上てつや「……外出てくる……。」
ト書き「すっと椅子から離れると玄関に向かう村上。」
小林社長「戻ってこなくても良いんだぞ。」
ト書き「背中越しに言われた言葉に、村上はほんの少し腹を立てた」
村上てつや「(とっととくたばりやがれくそじじい……。)」
ト書き「口元を歪めて、玄関のドアを開けた。」
黒沢カオル「…お父様、幾らなんでもあれは…あの態度は…酷いですぅ。」
ト書き「口元を手で覆い、黒澤は泣いた……フリをした。」
北山陽一「かっ、母さん?」
酒井雄二「兄貴…気にするこっちゃないだろ。親父とじぃ様が仲悪ぃのはさ、俺達が母さんはおろか親父の中にも発生してない位前なんだから。」
北山陽一「そうだよな…。なんたって、父さんが結婚する事を了承して貰う為に来た時、喧嘩になって父さん血染めのボールみたいになったって聞いた事あるし。」
安岡優「ちぞめのボール?なんにつかうの?」
酒井雄二「優…使うもんじゃないんだよ。完熟したトマト、知ってるよな?」
安岡優「うん。」
酒井雄二「あれを…バレーボールにぶつけたみたいな…のが、想像するのに一番近い。」
安岡優「……?おじいちゃん凄く強いって事?たいまんはって、ぱちきかましたらさいきょー?」
北山陽一「優…正しい日本語を話さないと、日本語を作った人が泣き嘆くし美しい日本語が穢れるから止めような?」
ナレーション「3兄弟の、爽やかな朝には相応しく無い会話はこの後も少し続いた…のです。」
ト書き「広い黒澤家の庭の一角、携帯灰皿とロングピースの煙草を取り出して村上は立ち止まった。」
村上てつや「……ありゃ、ライターが切れた。」
ト書き「火打石を擦っても火が出ない。百円ライター内の気化した油はもう無くなってしまった様だ。」
村上てつや「ったく…ついてにゃいねぇ…。」
黒沢カオル「別に、そんなにも不幸そうには見えないけど?」
村上てつや「カオル…。」
黒沢カオル「はい。これ台所のテーブルに置いてあったから。」
ト書き「黒澤の掌に乗ったシルバーのジッポーライターを受け取り、村上は銜えた煙草を口元からとった。」
黒沢カオル「吸わないの?……てっちゃん、むしゃくしゃしてヤな事あると煙草吸うよね?」
村上てつや「っ…わざわざお前まで巻き込まなくても良いだろ。不健康になるのは俺一人で十分。」
黒沢カオル「それはそれは…。…ごめんね、嫌な思いさせて…。」
村上てつや「それを承知で俺はカオルと結婚した…そうだろ?」
黒沢カオル「どうしてわかってくれないのかなぁ…てっちゃんたくさん良いところあるのに…。」
村上てつや「わかれ!って言ったって無理だろ…お父さんは俺がカオルを監禁したって思ってんだから…。」
黒沢カオル「…監禁…?」
村上てつや「カオルが行方不明になってたのも記憶喪失になったのも…全部俺のせいだって…。」
黒沢カオル「そんな…てっちゃんのせいじゃ…!」
村上てつや「…俺のせいなのかもなっ…お父さんの言うとおりかも知れねぇ…。けど、俺は前よりもカオルの事愛してるから…俺がお前を一生守るって…そう誓ったから…。」
黒沢カオル「…てっちゃん……?」
村上てつや「…まぁ、良いから。ほらっ、あいつ等に飯作ってやれよ、育ち盛りの3人の息子がカオルの美味い料理待ってるんだぞっ!」
黒沢カオル「うん…わかった。」
ト書き「カオルは村上の言う通りに朝食を作りに家へ戻り、村上は吸いそびれたタバコを吸い始めた。」
黒沢カオル「てっちゃん、大好きだよ。」
ト書き「黒沢は、村上には聞こえないように、小さな声で言った。」
安岡優「ねぇ…お兄ちゃん。」
北山陽一「ん?」
酒井雄二「あ?」
ト書き「純真な子供の眼差し。二人は安岡の瞳の奥がぐにゃり、と歪んだように見えた。」
安岡優「赤ちゃんって……何処からくるの?」
酒井雄二「はい?…いやぁ、俺には分かりかねますな。ここは大人な陽一兄貴に聞きなさいね。」
北山陽一「なんでそんな事を聴こうと思ったの。」
安岡優「ママが僕を産んだ時の事憶えてないって言ってたから。僕が生まれたからママが自分の事少し忘れちゃったのかなぁって。」
ト書き「そう言って、優は目を伏せた。」
安岡優「もしも誰かが僕の事をママにギフトしたんだったら…僕はその人に文句言うよ。」
酒井雄二「文句…ねぇ。ついでだから聴いとこう。なんて言うつもり?」
安岡優「一杯…ママの記憶の事とか。」
北山陽一「でも、優が母さんの記憶喪失の原因じゃないから。…お前が其所まで気負う必要は無いんだよ。」
安岡優「でも・・・僕・・・僕ね・・・。」
ト書き「優の声は、どんどん消えていき、後は嗚咽しか聞こえなくなった。」
酒井雄二「あ・・・優。」
北山陽一「優・・・。」
酒井雄二「優・・・なんで泣くの?」
ト書き「酒井は安岡の頬に手をあて、安岡をのぞき込むようにして、優しく言った。」
酒井雄二「優が・・・優が、もしかしたら自分の所為で、母さんの記憶が無くなっちゃったんじゃないかって思う気持ちは・・・よく解る・・・とは言わないよ。俺は、優じゃないもんな。」
安岡優「・・・雄二お兄ちゃん・・・。」
酒井雄二「でもな、もしもそれが本当でも、俺は優が大好きだよ。だって、世界でたった一人の弟だもんな。」
安岡優「雄・・・お兄ちゃん・・・!」
酒井雄二「例え、優が俺の記憶を全部奪っちゃったとしても、それでも俺は、優が好きだよ。」
ト書き「そう言って、酒井は優しく優を抱きしめた。」
酒井雄二「大丈夫・・・心配しなくても、誰も優からは離れていかないよ。俺も、陽一兄も・・・母さんも、父さんも・・な?」
安岡優「僕ッ・・・父さんの子じゃないって・・・聞いたとき・・・怖かったッ・・・!」
ト書き「涙をこらえようとはしない優。」
安岡優「怖かったんだ!もしかしたら、パパに嫌われるかと思って・・・凄く怖かったんだ!!!」
酒井雄二「…優、大丈夫だよ、大丈夫だから。」
安岡優「僕、パパの事…世界で1番カッコイイって…僕の大好きなパパだから…だからっ…!」
北山陽一「わかったよ優、もう良いから…。」
安岡優「ママもパパも…心の中では本当は僕の事嫌いなんだって…ママの記憶奪っちゃったの僕だから、みんな僕のコト…ボクの…コト…。」
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