-ゴスドラマ過去ログ:15601-15700-
北山陽一「…負けました…。」
ト書き「眼鏡をかけなおし、酒井の方にそっと視線を置いた。」
酒井雄二「勝ちました…話してください。私は平気ですから…。」
ナレーション「うつむき加減ではゆっくり深呼吸をする北山。」
北山陽一「なんだかちょっと緊張します・・・」
酒井雄二「さあ男・酒井雄二、覚悟を決めましたぞ!話して下さい。」
北山陽一「では・・意を決して。」
ト書き「北山は深く深呼吸をした。」
北山陽一「実はてっちゃんがこんなに早く退院したのには理由があるんだ…。」
酒井雄二「理由?」
北山陽一「うん。倒れた時、あの苦しみ方はハンパじゃなかっただろう?」
酒井雄二「ああ、ひどい苦しみ様だった。」
ト書き「酒井は静かにうなずいた。」
北山陽一「あんなに早く手術したのにも理由があるんだ…。」
酒井雄二「だからそれは何なの?」
北山陽一「…手遅れになっていたら危なかったんだって…滅多にないモノらしいんだけど…。」
酒井雄二「で、手術も緊急に?でもそれなら退院は1番危ないのでは?」
北山陽一「…うん…今度また発作が出て、手遅れになったらもう…。」
ト書き「言葉を詰まらせる北山、無言で北山の肩を叩く酒井。」
北山陽一「…2週間発作が出なかったら完治らしいんだ。だから、2週間が勝負だって…。」
酒井雄二「だから空気が綺麗な所に?」
北山陽一「あぁ…できることなら2週間ココに居させたい。けどそれはこっちの環境に慣れさせてしまうことになる…。」
酒井雄二「…普段住んでいる東京に戻ったときがそれは怖いな…。」
北山陽一「ともかく先生に言われたのは、『吸入器を手放さない、なるべく誰かと一緒に居させる、2日に1回病院に通う』…。」
酒井雄二「…2週間ですか…私たちの戦いでもありますな、これは。」
ト書き「顔の前で手を組んだ北山は」
ナレーション「少し楽になったかのようにホッと息をついた。」
北山陽一「4日間だけで良いんです、雄二さん…。」
酒井雄二「…わかってるよ…他のみんなには秘密。」
北山陽一「ありがとうございます。」
酒井雄二「さっ、みんながもっと怪しがるから部屋に戻ろうではないか、陽一君!!」
北山陽一「…そうですね。」
ナレーション「一方、部屋の中では…。」
佐々木真理「大丈夫よ、北山くんは心配してくれてるのよ!」
村上てつや「あぁ…心配…なぁ…。」
黒沢カオル「あ、そうだ。てっちゃん!吸入器って1日1回しか使えないの知ってた?」
村上てつや「え?あ?いや…そうなのか??」
黒沢カオル「うん。強い薬だから心臓に負担がかかるんだ。気を付けてね。」
村上てつや「と言うか…お前いつ帰ってきたんだよ??!早くないか?」
安岡優「今さっきだよ、すぐそこにスーパーがあったんだよねぇ。」
田辺恵二「北山と酒井見なかった??」
黒沢カオル「そう言えば居ないね…」
安岡優「玄関付近には居なかったよ、何かあったの?」
村上てつや「イヤ、なんでもねぇ。…それより早くなんか作ってくれよ、腹減った!」
黒沢カオル「はいはい、わかったよ。待ってろって、すぐ作るから。」
佐々木真理「何処まで行っちゃったのかしら、2人して…。」
村上てつや「……あいつ等…。」
酒井雄二「ただいま戻りましたっ!っと…安岡も黒沢さんも帰ってきたんですか、ご苦労さん。」
ト書き「扉を開けると威勢良く酒井が入ってきた。」
北山陽一「…村上さん、すみません…つい感情が抑えきれなくなって…。」
村上てつや「おっ…おう…体の事大切に思わなかった俺がいけないんだ、ありがとな北山…。」
北山陽一「いえ…俺は別に…無理しないで下さい。」
安岡優「北山さ〜ん!!見てよ、これスゴイでしょ!?」
北山陽一「はいはい、何、ヤス?」
ト書き「小走りでキッチンに向かう北山、その後姿を見つめる村上。」
酒井雄二「どうかしましたか?」
村上てつや「…別に…それより”吸入器”って1日1回しか使えないって知ってたか?酒井。」「いいえ…誰からの伝えで?」
村上てつや「黒沢…あいつが誰から聞いたかは知らねぇけど…。心臓に負担がかかるんだとよ。」
ト書き「心配そうな顔をする村上。」
酒井雄二「…大丈夫ですよ!治ってるんですから、大人しくしていれば”吸入器”のお世話になる事なんか無いですって!」
村上てつや「だよな…大丈夫だよな…(そうだ、大丈夫だ…大丈夫…)。」
黒沢カオル「村上ぃ、これ味見してみる?」
村上てつや「ん??なんだ?」
黒沢カオル「ビーフシチュー。体温まるかなぁと思って…。どお?」
村上てつや「……美味い!お前ってホント料理上手いよなぁ。」
黒沢カオル「あははは!進む道間違えたかなぁ?」
村上てつや「ば〜か!何言ってんだよ、一番の歌馬鹿のくせに!」
黒沢カオル「まぁね。じゃあ、もうすぐ出来るから。バリさん達と遊んでなよ!」
村上てつや「おう!」
ナレーション「村上は軽く手を上げて黒沢に答えると、バリさん達がいるリビングに向かった。」
北山陽一「…さすが黒沢さんだよね。ちょっとした会話なのにてっちゃんの気持ちが浮上してる…。」
酒井雄二「そりゃ、だてに10数年付き合ってる訳じゃないでしょ。…って、いつの間に隣に?」
北山陽一「今きたとこ。黒沢さん、実は気がついてるんじゃないかな。」
酒井雄二「あれで、意外に鋭かったりしますからな…。」
ナレーション「2人はキッチンで忙しそうに動き回る黒沢の背中を見つめた。」
佐々木真理「酒井君、北山君何してるの?こっちいらっしゃいよ!」
酒井雄二「え?あ、はいはい。じゃ、行きますか。」
北山陽一「…そうだね。悩んでたってしょうがないし。」
佐々木真理「ほら、早く早く!」
ナレーション「酒井達は真理さんに背中を押され、リビングに移動した。」
安岡優「黒ぽん、なんか他に手伝うことある?」
ナレーション「キッチンでは手伝いをしていた安岡が、手持ち無沙汰になって黒沢にまとわりついていた。」
黒沢カオル「う〜ん、後は煮込んだりするだけだから大丈夫。ヤスも向こうに行っておいでよ。」
安岡優「うん、でも…。」
黒沢カオル「ホント、大丈夫だよ。ここにいてもすること無いし。ね?」
安岡優「そう?じゃあ、行ってくるね。出来あがったら呼んでね、運ぶの手伝うし!」
黒沢カオル「うん、ありがと。」
ナレーション「安岡が去ったのを確認して、黒沢は大きくため息をついた。」
黒沢カオル「はぁ〜…。」
小林社長「黒沢、大丈夫か?ため息なんてついて…。」
黒沢カオル「え?社長?!何で…。留守番じゃなかったんですか?」
小林社長「あぁ、村上のことが気になってな。それに、お前のことも心配だし…。」
黒沢カオル「俺…ですか?」
小林社長「村上の病気の事、お前だけにはと話しておいたのが裏目に出て、気を使いすぎて参ってないかと思ってな。」
黒沢カオル「ありがとうございます。気を使ってもらって…。」
小林社長「いや、俺のほうこそ。本当なら俺1人の胸にしまっとくべき事なんだろうが…。重過ぎてな…。」
黒沢カオル「いえ、話してもらえて感謝してます。俺は大丈夫ですから…。」
小林社長「そうか?あまり、無理するなよ。お前まで倒れたら大変だからな。」
ナレーション「社長は黒沢の肩をやさしくたたいて笑った。」
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