-ゴスドラマ過去ログ:21001-21100-
酒井雄二「は?…と云う事は、ボスは次期社長?」
マネージャー竹内「いえ、現行で会社を所有しておられます。欲深い狸オヤジがその運営をしておりますがね。」
酒井雄二「…ってことは。」
マネージャー竹内「ええ、黒沢薫さまが社長です。」
ト書き「ジャムパンの包装を取る手を止めて、酒井は大きく目を開いた」
黒沢カオル「実際は義父が運営してるから、…皆、社長はオヤジだと思ってるよ。」
酒井雄二「常々資金はどこから出ているのかと不思議だったんですが…凄いですね、ボス!」
黒沢カオル「凄くないって。…時々オヤジが処理に困ってるのを俺が肩代わりしてみたりとかはするけどさ。」
マネージャー竹内「それも、貴方の手腕だと云う事です。謙遜する事では有りません」
黒沢カオル「さっき竹内が、『欲深い狸オヤジ』って言ってたけど。それは俺も変わらないよ。」
マネージャー竹内「あの男は…人間性の器が小さすぎます。」
黒沢カオル「…それは。否定しない。…俺が成功した時に、一番にその功績に喰らい付いてきたのはあの男だったんだから。」
酒井雄二「…。」
ト書き「ゆっくりとパンを咀嚼しながら、酒井は二人の会話を聴いていた。」
マネージャー竹内「それでも薫様はその功績をあっさりと手放してしまわれた…。あなたほど欲の無い人は他に居ませんよ!」
黒沢カオル「竹内。…もう帰っても良いよ。あとで、必要な物が有ったら連絡する。」
マネージャー竹内「薫様!私は……!」
ト書き「黒沢が竹内を禁めるように、視線を向けた。ぞっとするほどの冷たい表情だ。」
黒沢カオル「竹内。帰れ。」
マネージャー竹内「!!申し訳ありません。出過ぎた口を利いてしまいました。…では、私はこれで。」
黒沢カオル「……竹内。気をつけて帰れよ。」
マネージャー竹内「(薫様!!)はい!それでは!」
ナレーション「足早に去っていく竹内マネ。」
酒井雄二「……あの人はボスのことを心から尊敬しているようですな。」
黒沢カオル「腹の中じゃ、何を思ってるか……。」
ト書き「座っていた椅子の縁に両足をかけ、椅子の上で体育座りをするような体勢を取る。」
黒沢カオル「(人間不信の発端は…、あいつからだ。」
酒井雄二「…ボス。このような事を言うのは差し出がましいですが。…俺は、俺は…」
黒沢カオル「ん?」
ト書き「黒沢の普段通りの表情に、酒井は安堵した。」
酒井雄二「俺は、貴方の傍らにいる事に…誇りのような…そんな感情を抱いて、います。」
黒沢カオル「はは…ありがと、酒井。」
ト書き「苦笑を浮かべる黒沢の表情が、偽りでは無い事を酒井は願っていた。」
黒沢カオル「お前だけは…信じられる気がするよ。」
酒井雄二「嬉しい限りです。」
黒沢カオル「さて、準備でもしようか。」
酒井雄二「はい!はやくやつらをやっつけちゃいましょう!」
黒沢カオル「酒井……。かわいいなあ…」
酒井雄二「かわいいって言わないでください!ボス!」
黒沢カオル「ごめんごめん。でもこう、愛情が湧くんだよね。やっぱりカワイイって言葉に喜ぶようにプログラム作っとくんだったなあ。」
酒井雄二「いえ、それだけは勘弁してください……」
ト書き「そう言うと酒井は、ちょっとだけ苦笑いした」
ナレーション「一方3人組の方はというと……」
安岡優「てっちゃ〜ん、思い出せたぁ??」
村上てつや「あっ…!黒沢の…。」
北山陽一「黒沢の?」
ト書き「動いていた手を止め、北山は」
ナレーション「村上を見た。…ですよ、ト書きさん。」
安岡優「やっぱり黒沢とてっちゃんの間の事なの?」
ト書き「ふと思い出したように隣の部屋へ立つ村上。」
北山陽一「あの…村上さぁ〜ん?!」
安岡優「ナニ、どうしたの?急に立って行っちゃって…。」
村上てつや「…そうか…あいつ…すっかり忘れちまってた…。」
ト書き「髪の毛をワシワシとかくと、机の引出しから何かを取り出し元の部屋に戻った。」
黒沢カオル「思い出してくれたかなあ……」
酒井雄二「何をですか、ボス?」
黒沢カオル「思い出の断片だよ。遠い昔の、」
酒井雄二「遠い昔…なんですか?」
黒沢カオル「イヤ、別にそんなに遠くはないんだけどね…10年前だしさ…。」
酒井雄二「10年はずっと前ですよ!まだ私なんか3年しか生きてないんですから…。」
黒沢カオル「俺もう29歳だし…4月で三十路だからさぁ…。」
ト書き「人生の酸いも甘いも乗り越えた、少し悲しげな表情の29歳黒沢。」
酒井雄二「あっ、イヤ…そういうつもりで言ったんではなくて…あの、その…ウラヤマシイなと…。…スミマセン。」
黒沢カオル「うらやましい??」
酒井雄二「はい。わたしから見ればうらやましい限りですよ、思い出があるということは」
ト書き「何気に天井を見上げながら、酒井は言葉を続けた」
酒井雄二「わたしは、見た目は20代の青年でも、記憶は作られてからの……3年前からのものしかありません。もし、わたしがロボットであることを知らない人から幼い頃の思い出なんて聞かれたら、わたしは混乱してすべての機能をストップさせてしまうかもしれない」
ト書き「だってわたしにはその記憶がないから、と酒井は呟いた」
黒沢カオル「酒井……」
酒井雄二「ボスには、そう言う思い出を語ることが出来る。それはとても貴重なことだと思うんですよね。」
ナレーション「なんか、酒井さんかっこいい……」
ト書き「そこで“さすがはマイダーリン♪”なんて言った日には……分かってるでしょうね」
ナレーション「ト、ト書きさん、ちょっと怖い……」
黒沢カオル「(なんか部外者が騒がしいけど、無視しとこう)」
酒井雄二「(そうですね……続けます)  だから、思い出は大切にしてくださいね。わたしの中には、この3年間、ボスと過ごした思い出が一杯詰まってますから」
黒沢カオル「なに言って……」
ナレーション「お二人に無視されるなんて……」
ト書き「(なに言ってるの仕事仕事) 淋しそうな笑顔で言う酒井の言葉に、黒沢は不安に押しつぶされそうになった」
酒井雄二「さて行きましょうか。敵さんも待ってるとしょうがないんで」
黒沢カオル「…ああ。」
ト書き「酒井の言動の理由を、追求したかった黒沢だったが…雰囲気に気押されて、出来なかった。」
酒井雄二「場所は、何所です?…車を移動させてきますので。」
黒沢カオル「ああ…、じゃあここに……」
酒井雄二「わかりました。」
黒沢カオル「あのさ…。この戦いが終わったら二人で出掛けような。それで、お前の作られた記憶を本物にしよう?」
酒井雄二「ボス……」
黒沢カオル「俺にとってお前との記憶は本物だし・・・俺の」
酒井雄二「俺の??」
黒沢カオル「酒井は、俺の側にいつまでもいてほしい・・・俺にとってとても大切な存在だからな!」
酒井雄二「薫さん……!!!!大好きですvvvオレ、感激…」
ト書き「酒井の目元から、勢い良く生理用食塩水が吹き出た。」
酒井雄二「ぼ…ボス?何ですかこれは……?」
黒沢カオル「あっちゃぁ…調整が上手く出来てなかった…。ごめん。『涙』だよ。それ。」
ト書き「ぴゅー、と弧を描いて酒井の目元から出ていた『涙』がぴたり、と止まる。」
酒井雄二「…すいません。何か、本気で哀しくなるような機能は付けないで下さい。」
ト書き「脱力し、壁に体重を預けた酒井が、顔に縦線を入れて呟いた。」
黒沢カオル「必要だと思ってたんだけどなー…いらない?本当に?後悔しない?」
酒井雄二「いりません…でも『涙』って必要なんですか?」
黒沢カオル「お前の、角膜とか…お前の視力でも識別出来ないゴミから、目を守ってるぞ。」
酒井雄二「だったら、こんな…噴出するような機能はいらないじゃないですか。」
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