-ゴスドラマ過去ログ:21101-21200- |
黒沢カオル「だーかーら! …それは…その。」 ト書き「むにゃむにゃ茶を濁し、両手の人さし指の先をつき合わせて酒井から視線を外す。」 酒井雄二「なんですか?」 黒沢カオル「感動した時とか…それこそ悲しい時とか、嬉しい時に感情が…一定値以上になると、出るんだよ。『涙』って。」 酒井雄二「は? それは…俺が、今し方感じていた感情が、ボスの言うどれかに当て嵌まると?」 黒沢カオル「ああ。」 酒井雄二「ふ〜む…………あの、ですね。」 ト書き「思慮深く考え込んでいた酒井が、ひょい、と黒沢へ顔を向けた。」 酒井雄二「ボスも…『そう』なのですか?」 黒沢カオル「『そう』って?」 酒井雄二「悲哀、感動…それらが著しく高まった際に、ボスも『涙』が出るのですか?」 ト書き「酒井の質問によって、黒沢は虚をつかれた表情になる。」 黒沢カオル「それは…。」 酒井雄二「『涙』は誰でも出すものなんですか?」 黒沢カオル「そうだね出す人も居れば堪える人も居る…俺みたいに『涙』を出さなくなった人も…。」 酒井雄二「ボス…?」 黒沢カオル「もう10年近く泣いてないかな…俺。…あの日泣いたっきり1度も…。」 ト書き「そう呟いた黒沢の脳裏に村上の顔が浮かび上がった。」 黒沢カオル「”泣く”って事、忘れちゃったんだろうな…淋しい奴だよな、俺って…。」 村上てつや「準備できたか?急げよ…。」 安岡優「急かさないでよぉ〜まだ3時間前なんだしぃ…。」 北山陽一「どうしてそんなに急いでいるんですか?まだ私たち場所も把握していないので…。」 村上てつや「まぁ…いいから。武器の確認とかシッカリしとけよ!」 安岡優「そう言うてっちゃんこそ、ソファーで寛いでないで弾の確認しといたら?」 村上てつや「俺は完璧だっつーの。(けど黒沢、よく10年前の事覚えてたな…忘れてたのは俺か…。)」 北山陽一「10年前に何があったんですか?いったい今日の23時は村上さんと黒沢の間にどんな約束が交わされたんですか…?」 安岡優「”あの場所”って言ってたよね…確か。」 村上てつや「…準備出来たな……出るぞ!」 安岡優「あ〜!ずるーいっ!」 北山陽一「ま…到着すりゃあ判明するでしょう。」 ト書き「新しい銃の弾の入ったケース片手に、村上は基地を出て行ってしまった。」 安岡優「…センセ……。センセは、10年前の約束って、憶えてる?」 北山陽一「ん? …約束にもよるけど。重要度次第で、50年以上憶えてる人とか、5分で忘れる人とかいるしね。」 安岡優「黒沢にとって…てっちゃんとの約束は、10年経過しても忘れないくらい…大切だったんだ。」 北山陽一「……よっぽど大事だったんだろうな。」 安岡優「でもさ。『恨み』とかも、結構根深い人は根深いよね〜……。」 北山陽一「『恨み』ねぇ…。あの人なら恨まれるようなこと自らしそうだよな。」 安岡優「のぉこめんと。……黙秘権行使。 だって、聴こえてたらヤだ。」 ト書き「安岡の心配をよそに、村上は車へケースを積み込んでいた。」 村上てつや「…俺は……オレハ、あいつを撃てるのか…?」 ト書き「車のフロントガラス越しに北山と安岡の姿が見えて、慌てて村上はドアを閉めた。」 安岡優「さってと。…何所に行けば良い?てっちゃん。」 ト書き「車のエンジンを始動させると、安岡はシートベルトを締めながら村上へ尋ねる。」 村上てつや「…とりあえず、車出してくれ。」 安岡優「‥‥アイサー‥。」 ト書き「諦めたように、安岡はギアを入れた。」 北山陽一「…具体的な場所名を言ってもらわないと。燃料をその分無駄に消費しますが。」 ト書き「村上は無言で窓の外を眺め続けている。」 安岡優「てっちゃん!?」 村上てつや「……都内で…一番でっかい森林公園…。其処に向かってくれ。」 BGM「なーにか求めて 走り出す…」 村上てつや「なんだ??今の曲?」 北山陽一「カーラジオ、付けっぱなしでしたね。」 安岡優「チャンネル、変えてイイ?」 効果音「ぷち」 BGM「I wanna be your man...」 村上てつや「………切ねぇな………」 ト書き「無意識につぶやいた村上。二人は聞かぬフリをして、その曲が終わってから、ラジオを消した。」 ナレーション「なんか居た堪れないですぅぅ」 北山陽一「そう言う気の抜けるような口調はしないのっ(ビシッ)」 安岡優「っていうか、君の場合言葉に感情がこもってないよね。むかつくほどに」 ナレーション「なんか今回の皆さん、あたしに冷たい……」 ト書き「そう言うことをしてるからじゃないのぉ??」 村上てつや「そこ、うるせぇぞ」 ナレーション「よよよ……」 ト書き「(ナレーションは無視して進めましょう)無言の村上にそれ以上聞き返すこともできず、車を走らせる安岡と北山。」 村上てつや「黒澤・・・・・・」 安岡優「てっちゃん、ちょ、ちょっとタバコ吸っていいかな?」 ト書き「なんとなく落ち着かず、安岡は視線を前に向けたまま声を掛けた」 北山陽一「吸うんなら…窓、開けて下さい。非喫煙者も有毒煙に巻き込むつもりですか。」 安岡優「……今やるよ」 ト書き「ウィンドウを開けると、冷たい風が車内へ吹き込む。」 北山陽一「村上さん?」 ト書き「北山が肩ごしに話し掛けても、村上は蝋人形のような無表情でシリンダーへ弾を込めている。」 村上てつや「・‥…なんだ?」 北山陽一「今のあなたが黒沢と戦って勝てる可能性はどのくらいなんですかね?」 村上てつや「さぁな…。俺にも判んねぇよ。ここで腹括ったとしても、あいつを目の前にしたら…発砲を躊躇するかも知れねぇ」 ト書き「落ち着いた風体で、村上は弾倉を閉じた。」 村上てつや「なんたって、俺は人を撃つ……人を、殺す訓練なんか、した事もやろうと思った事もないんだからな。」 ト書き「ガンベルトに銃をしまい、村上は両手を組んだ。」 村上てつや「守ろうとしてた奴に、逆に攻撃されるなんて…誰が想像出来る?」 ト書き「自嘲気味に呟いた村上へ、北山は一旦前を向いた。」 北山陽一「…黒沢との間の事…差し障りがない程度に…話して戴けますか。」 安岡優「俺も…聞きたいな。」 村上てつや「…高校時代の同級だったんだよ…。」 ト書き「村上は頬杖をつき窓ガラスの外の夜景を眺めた。」 村上てつや「黒沢は真面目守ってやりたくなる位優しい奴で、俺とは全く逆の性格だった…。」 北山陽一「それが親友まで発展していったんですか…。」 村上てつや「…学年でもいつもトップで、俺のカンニングの手伝いもしてくれてた…。」 安岡優「…それって、ダメじゃない…。」 村上てつや「まぁ、それはイイとして…。ともかくあんなになっちまうなんて予想もして無かったよ…虫殺す事だって出来ない奴だったのに。」 北山陽一「卒業後は…?」 村上てつや「1回しか会ってない…それが10年前のだよ。」 安岡優「19歳だった頃だね…卒業してすぐの事かぁ。」 村上てつや「その時アイツはもう仕事もバリバリで、俺はただの大学生…。けどアイツは幸せそうな顔じゃなかった…。」 ナレーション「=回想シーン=」 村上てつや「オッ、久しぶりだな!元気だったか?お前の話は色々聞いてるぞ、凄いよな。」 黒沢カオル「そんな事ないよ…もう俺のモノじゃないしね。」 村上てつや「オヤジの後継ぐんだろ?功績が認められて次期社長かぁ〜うらやましいよなぁ。」 黒沢カオル「その功績はもう俺とは無関係だよ…俺なんて何も無いただの人間だよ。」 |
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