-ゴスドラマ過去ログ:21201-21300-
村上てつや「…黒沢…、まだ夢諦めてないよな?」
黒沢カオル「…わかったんだよ、村上。俺が『夢』を叶えたとしても、義父がレールを引いている限り”俺の夢”じゃなくて、”義父の現実”になるって事が。」
村上てつや「なに言ってんだよ…。」
黒沢カオル「いつか自分のレールを引いて走ってみせる…」
村上てつや「自分のレールで走れた時…お前どうするんだよ。」
黒沢カオル「…その時、またこの場所で会おう…村上のレールと俺のレール比べよう。」
ト書き「黙って聞いていた北山と安岡の耳に村上の溜息が微かに聞こえた。」
村上てつや「こんな結果だとはな…思わなかったよ正直言って。”黒沢のレール”を壊す事になるんだよな、俺…。」
安岡優「黒沢は”レール”を引き間違えたのかな…それとも初めから…。」
北山陽一「自分が引いた”レール”は美化してしまう、それがどんなに違っていたとしても…自分で”レール”を引いてしまった者の悲劇とでも言いましょうか。」
村上てつや「悲劇か…。」
安岡優「そんなことないよ!これが黒沢にとっていいことなのかもしれないじゃん!」
村上てつや「黒沢にとっていいこと? 悪に手を染めることがか?!!」
安岡優「あっ、言い方が違ったね。彼にとっていいことと思っていたことが、知らず知らずに悪い方に向かった……」
北山陽一「理論的には合わないよ。黒沢の行動から考えたら、ありえないことだ」
安岡優「そうかなぁ・・・・・・でも気になるんだ。あの人の、酒井への執着っていうか、入れこみようが」
村上てつや「それはお前、酒井はあいつが自分で作ったロボットだ。情が移っただけってことも……」
安岡優「うん、昨日も同じこと黒沢に言ったよね。でもさ、なんかそれだけじゃないような気もするんだ。」
ト書き「それに……とボソッと呟くように言った安岡は咥えてた煙草を吸殻入れに入れた」
北山陽一「なにか気になることでも?」
安岡優「ううん、なんでもないよ」
ナレーション「誤魔化す様子に、二人は彼がなにか隠していることに気付いたが、敢えてそれを聞こうとは思わなかった」
安岡優「(オレの記憶が確かなら、黒沢の父親が経営しているはずの会社はあそこだ……でも、あの会社は……)」
村上てつや「ひとまず、今の俺達の仕事は」
北山陽一「黒沢を捕まえる事ただ1つです…。」
安岡優「(酒井の感情モデルっていったい誰なんだろう…)…黒沢の分身?それとも…。」
村上てつや「何ブツブツ言ってんだよ、運転に集中しろよ危なねぇーだろ。」
安岡優「アッ…う、うん…ごめん…。」
北山陽一「人を守る事は犠牲を伴い、厳しい現実を見る事でもある…守られる快感と守る快感は紙一重なんです…よく私の御祖父さんが言っていました。」
ト書き「テールランプが光る外を見ながら北山は静かに呟いた。」
北山陽一「…村上さんの本当に守りたいものって何ですか…?」
村上てつや「……自分だろうな…きっと…。」
北山陽一「自分ですか……。」
一般人(男)「ニヤリ」
村上てつや「う、あっっ!!??」
北山陽一「え??今の誰?」
安岡優「知らない人…でも、何で僕らの方見て笑ったのかなー?別に変な車じゃないし。」
村上てつや「……よ、酔っ払いだ。ヨッパライ!ぜってーそうだ!そうに違いねぇ」
ト書き「何故か、狼狽えている村上。」
安岡優「てっちゃん…大丈夫だよ。ちゃんと脚は有るから。」
北山陽一「ホームレス、の方ですか?」
ト書き「立ち去ってしまった見知らぬ男性の話題で暫し盛り上がる3人。その頃黒沢と酒井も車の中にいた。」
酒井雄二「到着予想時刻より、早めに着きそうですが…。」
黒沢カオル「そか。」
ト書き「あまり動かしていなかった部分の筋肉を、ほぐしながら短く黒沢は答えた。」
黒沢カオル「待たされるのは…仕方ないな。苛々するけど。」
酒井雄二「敵さんも早めに到着してるってコトは、有り得ませんかねぇ。」
黒沢カオル「どぉだろ。遅刻常習者がこんな時だけ、5分前どころか、10前行動でもすると思うか?」
酒井雄二「しませんね、きっと…」
黒沢カオル「だろうな。」
酒井雄二「しかしこんな大都市にも大きな森林公園があるなんて、まだまだ私の知らない事はたくさんですね。」
黒沢カオル「俺も初めて行った時は吃驚したよ…。(あの時確かサッカーやってたっけ…てつのヤツ。)」
酒井雄二「森林公園って言うのは何をする場所なんですか?」
黒沢カオル「えっ…う、うんそうだなぁ…スポーツする人も居るし、楽器で演奏している人も居るし…みんなが楽しめる場所かなぁ。」
酒井雄二「ボスはが10年前に行ったときも、やっぱり楽しかったですか?何をしたんですか?」
黒沢カオル「えっ…俺…。」
ト書き「動揺し言葉が詰まる黒沢。」
黒沢カオル「気分は楽しくなかった…けど…嬉しいかった、あの時は…。」
酒井雄二「楽しくないのに、嬉しい…?”楽しい”と”嬉しい”はイコールではないんですか?」
黒沢カオル「難しいな…けどあの時は悲しい気持ちで一杯で…どうして嬉しかったんだろう、俺…。」
酒井雄二「スミマセン、困らせてしまったみたいですね、ボス…。」
黒沢カオル「…気にするなって…。(嬉しかったのはどうしてだ?…てつが居たから?てつに会えたから?…助けを求めてるのか、俺…?)」
安岡優「ねぇ、てっちゃん北山さん…もし聞く耳があったらで良いんだ、俺の話し聞いてくれる?」
ト書き「長い沈黙が続いた車内で安岡が呟くように言った。」
安岡優「もし黒沢がレールを引いた事で孤独感に打ちのめされてたとしたら…やっぱり誰かに助けを求めるよね、人間なんだし。」
北山陽一「そうだろうな…。」
安岡優「”人間”って生き物はひとりじゃ生きていけない哀れな動物って聞いたことがある。黒沢は独りで何を考えていたんだろう…。」
村上てつや「……。」
安岡優「独りになる事で気が付いたと思うんだ…誰かが居ないとダメなんだって。…だからきっと”酒井”って言う人間に近いロボットを造ったんだと思う。」
北山陽一「人間に近い…。」
安岡優「そう、人間じゃないんだよ。いくら外観が精巧に出来ていたとしても、それは造られた感情を持った『人では無い物』なんだよ。」
ナレーション「安岡は村上に視線を向けて言葉を続ける。」
村上てつや「(もしかして…あいつ助けて欲しかったのか…?)」
安岡優「酒井にとっては黒澤は『正義』なんだよ。それが世間的には間違ったことでも…。」
ト書き「言葉を濁した安岡はそのまま視線をそらした」
北山陽一「ということは、酒井自身にそれなりのプログラムが組みこまれてないと、上手く行かないですよね」
安岡優「うん、それなんだけどね……」
ト書き「安岡が話を切り出そうとしたが、車はその場で停止した」
村上てつや「どうした? ヤス」
安岡優「目的地に到着。しかも、駐車場の向こう側、こんな真夜中だって言うのに車が1つ止まってるね」
北山陽一「如何にも、って感じですね。っていうかあからさまとも言うべきでしょうか……」
村上てつや「あいつ等らしいけどな…。」
安岡優「最後に言ってもいい…?…俺の勝手な推測だけど…。もしかしたら黒沢は”酒井”にてっちゃんをダブらせてる部分があると思うんだ…。」
村上てつや「…俺を…?」
安岡優「…そばに居て欲しい本当の人は居ない、けどそれに近い人ならって…まぁ、俺ならそうするなって思っただけだから、気にしないで。」
ト書き「エンジンを止めて速やかに車から出る安岡。」
北山陽一「俺たちも、行きましょう。」
安岡優「そうだね」
村上てつや「(そばにいてほしいひとか・・・俺が?あいつにとって!?もし、本当にそうなら俺はどうすればいいんだ?)」
安岡優「てっちゃん行くよ。だいじょうぶ?」
村上てつや「おっ、おう…。」
ト書き「安岡から視線を外し車から降りる村上。」
黒沢カオル「…11時…ピッタリ…。」
酒井雄二「I’ll Do my best」
黒沢カオル「…酒井…。」
酒井雄二「ボスの為、自分の為です。」
村上てつや「待たせたな…黒沢薫…。」
ト書き「不意に聞こえた村上の声に少し驚く黒沢と冷静な酒井。」
黒沢カオル「10年前の事…覚えてたな…。」
村上てつや「これがお前の引いた”レール”か?俺と比べようってのかよ?」
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