-ゴスドラマ過去ログ:21701-21800-
黒沢カオル「酒井が部屋から居なくなってるからどうしたのかと思えば…村上、酒井を連れ出すのやめてくれないか?」
村上てつや「聞いてたのか?」
黒沢カオル「少しだけな…。」
ト書き「黒沢は酒井の隣に座るとふぅと溜息をついた。」
酒井雄二「ボス、わたしは……!」
安岡優「・・・・」
黒沢カオル「べつに信じなくてもいいけど、お前は人間の嫌なとこばっか見てたんだな」
酒井雄二「・・・・」
黒沢カオル「お前さ、人間の嫌なトコさんざん見て俺に会ったんだよな…そこで人間の見かたがストップしたんじゃねーの?」
酒井雄二「・・・・・」
黒沢カオル「結局そのままのポンコツロボになっちゃえば?」
酒井雄二「ボス・・・」
黒沢カオル「それが一番安全な生き方じゃん」
村上てつや「・・・・・・」
黒沢カオル「成長はしないけどな・・・」
酒井雄二「そんなのは嫌です……。『これから』を知ることなく生きるなんて……!!」
ト書き「初めて、造りものめいた表情が、人間のもののように歪む。」
安岡優「ねぇ、黒沢さん。酒井さんは彼方が造ったんじゃないんですか?」
村上てつや「ヤス!お前…起きてたのか…。」
安岡優「北山さんも俺も、さっき電気消したばっかりだもん。ねぇ?北山さん。」
ト書き「眼鏡をかけながら起き上がる北山。」
黒沢カオル「…酒井は最初、本当に心を持たないロボットだった…。けど、俺がそのプログラムに付け足して人間に近いロボットを造ったんだよ。」
北山陽一「つまり、骨格や元になるプログラムは他の誰かが造った物で、3年前に彼方によって改良されたのが今の酒井さんと言う事ですか…。」
酒井雄二「そうだったんですか?ボス…。」
安岡優「確か黒沢さんのお父さんの会社って…機械開発研究所の系列の会社だよね?」
北山陽一「確かあの会社はココ5.6年ロボット研究に1番力を入れていましたよね…。」
黒沢カオル「酒井が造られたのはちょうど10年前。その時の最高峰のロボットでさ、感情は持たないけど人間のプログラムが組み込まれたロボットだったんだ。」
村上てつや「10年前って…。」
黒沢カオル「そのうち色んなロボットが開発されてきて…酒井はお払い箱になった。それを俺が貰って、改造に改造を重ね…ついに3年前に完成したんだ。」
安岡優「でも酒井さんのもとの人間プログラムを造ったのは黒沢さんでしょう?…開発してすぐにお父さんに譲って…。」
村上てつや「黒沢…それって10年前のあの時に言ってた事だよな!?」
黒沢カオル「せっかくの研究の成果を義父はまるで自分が開発したかのように発表した…自分の社長の座は譲りたくなかったんだろう…。悔しくってさ…それで村上に…。」
ト書き「顔を伏せ黙る黒沢の振るえる肩を抱く村上。」
北山陽一「自分の造ったプログラムを利用され、用がなくなればお払い箱…そんなロボットに彼方は自分を重ねた…。」
酒井雄二「私の心には昔の記憶があるんですね…10年前の記憶が…。」
安岡優「だから酒井さんは”人間”に対して心の底で憎しみを持っていた…。黒沢さんも同じでお父さん、会社の人たちに対して憎しみを持っていた…お互い”人間”が信じられなくなっていたんだね。」
村上てつや「…黒沢…。」
酒井雄二「しかし、私はボスのことは信じてます!!」
黒沢カオル「…それは、お前の本心?…それとも、俺のプログラム? …何かって、断言出来るか?」
ト書き「無表情に切り替わった酒井の顔を、眺めて黒沢は悲しみを含んだ視線を向けた。」
黒沢カオル「酒井が…俺を、尊敬するように作ってたら。俺を好きになるって事を前提としたプログラムを組んでいたら。そうだとしても、それをお前は自分の本心だって、言い続けるの?」
酒井雄二「……たとえ、最初にあなたに対して感じた信頼がプログラムによるものだったとしても、今の俺にはそれが本心だと言えます!あなたが俺を成長させてくれたから!」
村上てつや「酒井……」
酒井雄二「俺は…貴方の味方で、ありたいです。 ボスが、楽に呼吸の出来る、空間を所有していると…思わせて下さい。」
ト書き「そう言って、酒井は右手で顔の右半分を覆うと、顔を伏せた。」
村上てつや「黒沢よぉ、お前、自分の子供にまで心配されてんぞ。どうする?」
黒沢カオル「子供って…まぁ、俺が造ったから、あながち間違ってるとも言いがたいけど。」
北山陽一「『呼吸出来る空間』ですか…?」
ト書き「話を聞いていた北山が、ふと、呟いた。」
酒井雄二「飽くまでも抽象的な言い方で…、気を遣わないで居られる、ぐらいの存在になりたいんですよ。」
ト書き「その言葉に、一同は二の句が告げなかった。」
北山陽一「思うんですけど・・・今の言葉は酒井さんの本心だと思いますよ・・だから、信じてやってください。黒澤さん!」
安岡優「まぁ、敵がこんな事言うのもなんだけどね…。」
村上てつや「なぁ…。北山、安岡、チョット2人っきりにさせてくれないか?酒井もだ、頼む…。」
北山陽一「…わかりました。さあ行こうヤス。」
ト書き「安岡と北山は無言で酒井を外に連れ出す。広い空間に村上と黒沢の2人だけになった。」
村上てつや「人間恐怖症か…お前のロボットは高性能だな。」
黒沢カオル「俺だって信じない訳じゃないんだよ…人間だもんな、俺だって。」
村上てつや「…義父さん、元気してるのか?」
黒沢カオル「会ってない…会う気にもならない…。」
村上てつや「どうして俺がこんな事…まぁ世間一般に言う正義の味方をやってるか知ってるか?」
黒沢カオル「……。」
村上てつや「最初は暇だったからってバイト感覚でやってた、けど黒沢が敵として現れた時にそんな感覚はどっかに行っちまった…。」
ト書き「黙る黒沢に無言で話しつづける村上。」
村上てつや「お前が犯罪を犯す前に止めたかった…けど俺の力じゃ無理で、結局お前は宇宙で指名手配犯として名前が挙がった…。」
黒沢カオル「俺は悪い事はしてない…自分の道を進んでるだけだ。」
村上てつや「お前は昔から決めた事は最後までやり通すタイプだよな…それがどんなに間違った事でも、お前はそれの道を歩くのか?」
黒沢カオル「幸せになりたいんだよ!…村上が羨ましかった、温かい家族が居て、自分のやりたい事を全力でやれて、周りからも好かれて…俺には村上が幸せに見えた、俺の何百、イヤ、何億倍にも…。」
ト書き「感情が抑えきれなくなった黒沢の目には涙が光っていた。」
黒沢カオル「けど、俺にはそんな事は許されなかった…ただ義父の引く道に縛られ奴隷のように歩かされて…。やっと見つけたんだよ!俺の生きる道、俺が幸せになれる道を!!」
村上てつや「お前には酒井と自分さえ居ればそれで良いのか?他の大切なもの失っても…お前の道を歩きたいのか?」
黒沢カオル「何かをやるには犠牲が必要だ、失うのは仕方ないじゃないか!」
村上てつや「少なくとも俺は!…俺は黒沢と一緒に居る時間が1番幸せだった…。」
黒沢カオル「村上の中に居る黒沢薫はもうこの世には存在しないんだよ…村上を幸せにしてあげるモノなんてもう何もないんだよ…。」
村上てつや「俺は…おまえがいてくれるだけでいいんだよ!」
黒沢カオル「なに、言ってんだよ……」
ト書き「まるでプロポーズのような言葉に、黒沢は苦笑いを見せた」
村上てつや「悪いけど、今のお前、ちっとも幸せそうに見えないんだ。まぁ、酒井がそばにいる時は、少しはましだけど、なにをやってても幸せを感じてないような気がするんだ。」
黒沢カオル「他人のお前に、何が分かるって言うんだよ。」
村上てつや「他人だから分かることもあんだろうが。言っちゃ悪いがな、今のお前の目は死んでるんだよ。昔はもっと輝いてた。夢を語ってるお前の目が一番輝いてた。」
黒沢カオル「ガキの頃の話だろ?」
村上てつや「覚えてるか? あの頃のオレの夢」
黒沢カオル「一応……確かサッカーの選手になるって……だから勉強なんて必要ないとか言ってたよな」
村上てつや「あぁ、そうだよ。あれから大学行って、サッカー続けて、プロ目指して、あと一歩ってところまではいったんだ。でも、そのあと一歩のところでオレは事故に遭って、大怪我して……走ることは出来ても、選手としてやることは無理だって言われたんだ」
黒沢カオル「……………」
村上てつや「その瞬間、オレの夢は壊れたんだ。ズタズタにされて、目の前が真っ暗になって……オレはどん底につき落とされて、生きる気力すら失った。自殺も……考えたよ」
黒沢カオル「てつ……」
村上てつや「でも今はこうして生きてる。今だって自分が幸せかどうかなんて、はっきり言ってわからねーよ。でも、その瞬間瞬間で幸せだって思えることがあるんなら、オレは今の自分を好きでいたい。」
黒沢カオル「そんなの、自己満足じゃん」
村上てつや「まぁ、そうとも言うけど。だけど、恨み辛みあれもこれもと、悪いことばっか考えてる奴が、幸せだなんてオレは思えない。後から後悔することなら、最初からしない方がましだからな」
ト書き「村上はそう言うと、笑顔で黒沢を見た」
効果音「どよ〜〜〜ん(背景縦線だらけ)」
安岡優「そんなに落ちこまなくてもぉ、ねぇ」
北山陽一「仕方ないでしょう。自分が信頼していたはずのボスから、半ば突き放されてしまったんですから……」
酒井雄二「わたし、分からなくなってきました。わたしは、ボスに必要とされてないんでしょうか」
北山陽一「少なくともそれはないじゃないですか? あなたのボスはあなたの親も同然ですからね。まぁ、それ以上にかなりの確率で心を許してたのではないですか?」
酒井雄二「でもさっきの言葉は……」
安岡優「それが本心じゃないってことは、酒井さんが一番分かってるんじゃない?」
ト書き「慰める二人に、酒井は少しだけ苦笑いを見せた」
酒井雄二「あの、笑わないで聞いて欲しいんですけど……わたし、一つだけ夢があるんですよ。」
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