-ゴスドラマ過去ログ:22501-22600-
ト書き「支度を整え、いつも側にいるはずの存在がないことに気がついた黒沢は、建物の中を隈なく探した。そして入り口にほど近い椅子に座っている後ろ姿に声をかけようとした」
黒沢カオル「酒井? どうしたんだよ。寝てるのか? そんなわけない。酒井には寝る機能はないはずなのに……。」
ト書き「何度もその名を呼び、身体を揺らしたが、反応はなく、ただ鉄がぶつかる音がするだけだった」
黒沢カオル「洒井!洒井!洒井〜!!」
安岡優「…黒沢さん。」
ト書き「呼ばれた黒沢は慌てて振り返った。」
黒沢カオル「酒井が!酒井が!!」
安岡優「黒沢さん…落ち着いておれの話を聞いてください。」
黒沢カオル「・・・・」
安岡優「もう1人の黒沢さんが酒井さんのことを「どうでもいい」って言ったから、酒井さんはショックきちゃって、それで後になって、それがもう1人の黒沢さんだって分かって…黒沢さんだと見抜けなかったから…後悔して電源を切ったんです」
黒沢カオル「…そうですか」
安岡優「はあ?悲しくないの?」
黒沢カオル「ロボット一つが壊れても、世界はなにも変わらないし」
安岡優「え?黒沢さん?黒沢さんでしょ?」
黒沢カオル「これが俺の本音」
ト書き「黒沢は安岡に笑った」
黒沢カオル「幻滅したかな?でも俺ってこんな人だよ、みんなが思ってるほどピュアじゃない、みんなが俺の罪を軽くしようとしてくれて、俺凄いラッキーだよな」
安岡優「なに言ってんだよ!!酒井さんは…」
黒沢カオル「お前も言わなかったっけ?「ロボットのくせに」ってさ…ロボットのくせに感情なんか持ちやがって…」
安岡優「あんた…ホントに黒沢さん?」
黒沢カオル「黒沢だよ…もう1人の黒沢は死んだってテツが言ったじゃんかよ」
ト書き「黒沢の本当の性格が分かった安岡」
安岡優「…」
黒沢カオル「可哀想に…裏切られた気分?でもね、俺はあんたの事、敵としか見てないから」
ト書き「怒りと、哀れみとが入り混じり、安岡は混乱しそうになるが、必至で冷静さを保つ。」
安岡優「…そっちの黒沢薫、かぁ…。良かった。」
黒沢カオル「良かった?」
ト書き「黒沢が、眉をひそめ安岡を凝視した。」
安岡優「…俺達が知ってる、虫も殺せないような黒沢さんに…。」
ト書き「安岡は伏せていた視線を上げ、黒沢を哀れみの混じった目で見つめた。」
安岡優「あんたの犯した罪を、償って貰いたくないと思ってたんだ。 …間違ってるじゃん。そんなの。」
黒沢カオル「間違ってないだろ? …元々独りだったのに、二人になったのは…黒沢が酷く人を憎んだからさ。」
安岡優「…子供が何しても、親が謝りに行けば全部丸く収まるとでも思ってるのかな?」
ト書き「革靴の底と、床のタイルが擦れあって耳障りな音が発生する。」
安岡優「自分で、ゴメンナサイぐらい言わないと、死刑は中々軽くならないんだから。」
ト書き「安岡の、片手に握られた黒い棒が一振りされると、一瞬にして黒沢を射程距離内に捕らえた。」
黒沢カオル「罪を軽くしてもらおうなんか思っちゃいないよ。俺は自分自身を正当化するために、あんたたちと戦う。これでやりやすくなったってもんだぜ、めそめそするヤツがいなくなったんだからな!」
ト書き「思わず表情を歪める安岡を前に、黒沢カオルはカラカラと笑った。」
安岡優「…がきんちょ。」
ト書き「笑っていた黒沢の顔が、そのまま静止する。」
安岡優「このむかつき方はがきんちょと、同等ぐらいの脳レベルの奴にぶち当たった時だって…今思い出した。」
黒沢カオル「誰が餓鬼だって?」
安岡優「この場で、あんたと僕しか居ない。 で、発言者は僕。…判んない方がどうかしてるね。」
ト書き「交互に自分と黒沢を指差し、安岡は言った。」
黒沢カオル「オレは年上…」
安岡優「精神年齢はそういうの関係ないでしょ」
黒沢カオル「んんー!?」
安岡優「あっ、そうそう。忘れてた……」
ト書き「何かを思い出したように、安岡は酒井のこめかみあたりをなにやら」
ナレーション「しっかりィィ、ト書きさん!  ・・・・・・探っていた」
安岡優「えーとぉ、ここをこうしてあぁぁして・……あ、あった」
黒沢カオル「なんだよ、いったい」
安岡優「これ、あんたじゃない黒澤さんに、酒井さんからのプレゼント」
ト書き「そう言って手に置かれたのは、小型のテープのようなもの」
安岡優「自分だけ、不幸背負ってる顔しないでよね。」
黒沢カオル「な…。」
安岡優「その再生機器ぐらい、造んのお手のもんでしょう? ああ、それと疑問ならお得意の、コンピュータ操作で僕らの経歴調べてみれば?」
ト書き「武器をしまい込むと、ふい、と安岡は黒沢に背を向けた。」
安岡優「…逃げようとしても、やるだけ時間のムダだからね。」
黒沢カオル「…。」
ト書き「黒沢は、無言で手の中のテープと、安岡の背中を交互に見る。」
黒沢カオル「…酒井から? もう一人の俺に?」
ト書き「胸中に、ざわり、という感覚を憶え、黒沢は床にテープを落としてしまった。」
黒沢カオル「…こんな、もの…。」
ト書き「踏み壊そうとしていた、その衝動を抑えて黒沢はテープを拾った。」
黒沢カオル「ふん…。」
ト書き「テープをポケットに落とすと、黒沢はその場を後にした。」
効果音「かちゃ…かちかち……‥ぎりぎり……ぎしぃっ」
黒沢カオル「あ…ネジなめた。」
ト書き「傍らのペンチを持ってネジの頭部を挟み、今まで回していたのと反対方向に回す。」
黒沢カオル「…うし。…これで…。」
ト書き「悲惨にも、分解されてしまった留守番電話とコンポの成れの果てを蹴り飛ばし、ポケットからテープを取り出す。」
黒沢カオル「…お前の話し相手の、プレゼント。だとさ。 消える前に、心して聴いてけよ。…俺の最初で最後の善業だからな。」
安岡優「かわいくないなあ……」
黒沢カオル「へへへ」
安岡優「本当にかわいくない。」
黒沢カオル「結構。…男に言われても、嬉しくない。」
ト書き「機械へテープをセットし、スピーカーの音量を調節すると再生ボタンを押した。」
効果音「ザッ…ザザッ…。」
ト書き「数秒、混じった雑音を二人は無言で聴いていた。」
酒井雄二「ボス、私の声が分かりますか?…本当に今までありがとうございました、私はボスに造られた事を誇りに思っています。」
黒沢カオル「……。」
酒井雄二「ボスは私に”村上さん”に似たプログラムを設定したみたいですね、しかし村上さんの代わりに私はなれませんでした…だからボスの中で色々な心が入り混じってもう1人のボスが生まれたんですね。」
安岡優「てっちゃんの…人格プログラム?」
酒井雄二「私はただのロボットです…所詮人間にはなれない物なんです。淋しかったんですね…ボスは。ボスがもっと自分と向かい合っていれば、もう1人のボスは生まれて来なかったんだと思います。」
黒沢カオル「…酒井…。」
酒井雄二「私はボスに本当の自分を取り戻してもらいたいです。だから私は居なくなります…1人で道を歩いてください。」
安岡優「黒沢さん・・・?」
酒井雄二「さようなら、ボス。今度会う時は人間として会いたいです…そして私も黒沢さんにとっての村上さんみたいな存在になりたいです。ありがとうございました。」
黒沢カオル「酒井…ゴメン、本当にごめん…。」
ト書き「罪悪感に満たされ黒沢は頭を抱えて泣き崩れた。」
安岡優「酒井さん、最後の最期に人間になったよ…。…これでもう戻る事無いだろうね、もう1人の黒沢薫に…。」
ナレーション「酒井の言葉により黒沢は本当の自分を取り戻した。」
ト書き「翌朝。移動の車の中には村上・安岡・黒沢の3人が居た。」
黒沢カオル「てつ、最後のお願いしてもいい?」
村上てつや「あぁ…なんだよ。」
黒沢カオル「…俺、人間を本当に殺した…酒井って言う人間を…。だから、精神鑑定も受けない、素直に罪を償う…普通に引き渡してほしい、村上が捕まえたかのように。」
村上てつや「黒沢…酒井はロボットだろ?それにやったのはお前じゃなく、もう1人の…!」
黒沢カオル「もう1人の俺を生んだのも消滅させたのも俺…酒井をやったのも俺…すべては俺が間違っていたからなんだよ、やっとわかったんだ。」
安岡優「…本当に孤独だったのは黒沢さん自身だった、それがもう1人の黒沢や酒井さんを生む原因になった…酒井さんの人格プログラムは、てっちゃんのモノなんだって…。」
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