-ゴスドラマ過去ログ:10301-10400-
北山陽一「麻酔…持って来てませんよね?」
安岡優「駄目、このパックの中には…無い。」
ト書き「鞄の中を確認して、安岡は目を伏せた。」
安岡優「痛覚が麻痺してても、筋肉えぐったらその痛みで酒井さん死んじゃうよ。」
北山陽一「…いいです、久々ですけど、やってみます。」
ト書き「北山は半ば自分に言い聞かせるように呟くとポケットから小さな箱を出して中から針を抜き出した。」
安岡優「針…?」
北山陽一「麻酔針。成功したら一気に出血するから、ガーゼと…道具の用意、頼みます。」
安岡優「分かった。」
ト書き「北山は、息を吸い、止めると素早く針を背骨の横と首の付け根に刺した。」
ナレーション「うつ伏せのまま筋肉が弛緩し、苦しそうな呼吸を繰り返す酒井。」
安岡優「……てつっ、道交法なんて無視しちゃっても良いよ。こっちは人の命かかってるんだからねっ!」
村上てつや「言われなくても…とっくに無視してる。」
北山陽一「持って来た輸血用パックじゃ足りませんっ!」
安岡優「弾の摘出と…止血だけか、出来るのって。」
北山陽一「何もしないよりは…マシです。このまま放っておいたら命に関わりますから。」
ト書き「安岡と北山はその会話を境に何も言わず、黙々と酒井の治療を進めていった。」
村上てつや「……助かるよな?ヤス…酒井のやつ…。」
ト書き「沈黙に耐えきれなくなって、村上はハンドルを握ったまま話し掛ける。」
安岡優「怪我人以上に弱気になってどうするの?」
ト書き「特有の臭気が充満する車内で、安岡は答えた。」
北山陽一「“助かる”じゃなくて…助けます。」
村上てつや「よっし。んじゃ、俺は俺のするべきことをやる!」
北山陽一「安全運転でお願いしますよ。」
ト書き「車は何の変哲もない、廃ビルの中へと入っていった。」
安岡優「大ジョブ?追跡されてないっ?」
村上てつや「ああ…ヘリも車も、何も付いて来てねぇよ。」
ト書き「村上は入り口の前で車を止めると、即座に下りて扉を開けた。」
村上てつや「ヤスっ、酒井は俺が担ぐから、お前は準備してくれっ。」
安岡優「わかった!!カオルちゃんは??」
黒沢カオル「…っんん??コ・コ・は・・・??」
北山陽一「タイミング良いですね、麻酔が切れましたね。」
安岡優「カオルちゃん緊急なんだ、歩けるよね??」
北山陽一「無理なこと言うのはやめなさい…私が運びます。」
ト書き「安岡は北山の手をはらうと黒沢の身体を揺すった。」
安岡優「酒井さんが危ないんだ、大丈夫だよね??!」
黒沢カオル「…ぅん?酒井さん…?危ない…?…う…ん、わかった…。」
ト書き「黒沢はまだ意識が朦朧とする中、安岡の真剣な眼差しに圧倒されて返事をした。」
村上てつや「急げ!!早くしないと酒井が…!!」
ト書き「村上はすぐビルに入り、あとを追い安岡と黒沢と北山がビルに駆け込んだ。」
村上てつや「ここで良いか。 ヤス、北山、頼んだぞ。」
黒沢カオル「…酒井・・さん??…てつ兄ちゃん酒井さん…?」
村上てつや「…撃たれたんだ…俺をかばおうとしてな…。」
黒沢カオル「…!!?う…嘘でしょ…ねぇ、嘘だよね?!」
ト書き「黒沢は酒井に駆け寄った。」
黒沢カオル「酒井さん!!?死んじゃやだよぉ…ねぇ、酒井さん!!」
安岡優「カオルちゃん、離れてて!!」
黒沢カオル「イヤ!!もう誰も死んじゃイヤ!!酒井さん、起きてよ!!」
北山陽一「村上さん…!!」
ト書き「北山は激しく村上を見た。」
村上てつや「カオル!!離れろ!!」
黒沢カオル「イヤ!!」
ト書き「村上は手を掴んだが黒沢は動こうとはしなかった。」
安岡優「わがまま言わないで!センセも僕も今助けようと頑張ってるんだ!」
黒沢カオル「イヤ、イヤ!!酒井さんの側に居る!」
効果音「ピシンッッ!」
北山陽一「あっ…。」
安岡優「てつ…。」
ト書き「村上は今まで手を上げたことがなかった黒沢の頬を殴った。」
黒沢カオル「…っぅっ…うっ…。」
村上てつや「…いい加減にしろ…カオル…。」
ト書き「黒沢の目には涙があふれ、村上は下を向いたまま黙ってしまった。」
酒井雄二「っうっ…カ…カオル…くん…?!」
ト書き「酒井は力を振り絞りカオルの手を握った。」
黒沢カオル「さぁかぁい…さぁん…っう…。」
酒井雄二「いい子・・・だから…みんなの…言う事…聞いて…ね…っ。」
ト書き「精一杯の笑顔を黒沢に見せたが、その顔は苦しそうでならなかった。」
村上てつや「こっちで…待ってよう、な?」
ト書き「一室を指して村上は言った。」
酒井雄二「撃た…れ…るのは…これが、初め;てじゃないから」
ト書き「冗談めいた口調だったが、それが虚勢である事に全員察した。」
北山陽一「村上さん…。」
ト書き「北山が視線で村上に移動を促す。」
村上てつや「……行くぞ。」
ト書き「村上は酒井から引き離すように黒沢の腕をつかんだ。」
黒沢カオル「…っく…」
村上てつや「北山が頑張るから、大丈夫だ。」
ト書き「酒井を背負ったまま、村上は黒沢の頭を髪ごとくしゃり、と撫でた。」
安岡優「てつ。」
村上てつや「…あぁ。」
ト書き「村上は安岡と共に処置室へと向かった。」
北山陽一「カオル君、こっち…安静にして…ないと。」
黒沢カオル「………酒井さん………助かる?」
ト書き「簡易式のベッドに腰掛けて、黒沢は北山を上目遣いに見上げた。」
北山陽一「最善は尽くすよ。」
黒沢カオル「私もうどうして良いのか分らないよ…私のせいでみんなが怪我したり死んだりするの…もう見たくない…いっそうの事…私が死んじゃえば良いんだ…そうしたらもう誰も死なないで…苦しまないで済むもん…。」
村上てつや「カオル・・お前いつからそんな弱虫になったんだよ…なぁ。」
北山陽一「村上さ。」
ト書き「北山は村上の悲しそうな表情を見て言葉が詰まってしまった。」
黒沢カオル「てつ…兄ちゃん…。」
村上てつや「なんで、そこまで思い詰めるんだ?」
黒沢カオル「もし…てっちゃんが、故意にじゃなくても大量殺戮兵器のスイッチ押しちゃったら…どうする?」
北山陽一「………。」
黒沢カオル「自分に良くしてくれた人が」
ト書き「黒沢が、いったん言葉を切る。声が、涙声になっていた。」
黒沢カオル「目の前で…遠い場所で、死んで、二度と会えなくなるんだ。」
ト書き「村上は北山の肩を叩き、部屋から出すと黒沢の隣に座った。」
村上てつや「おい、カオル。もし俺が…故意にじゃなく兵器のスイッチ押したんなら…。」
黒沢カオル「…なら?」
ト書き「村上は、黒沢の肩を抱き寄せて優しく安心させるように叩いた。」
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