復活の時
前田智徳


落合が唯一認めていたバッティングの天才。

 カープの前田智徳は、ケガをするまではこの国で最も恐れられたバッターだった。あの落合博満が「天才バッターは、今は前田ひとり。イチローでも松井でもない。」と語ったことは広く知られている。デビューして間もない頃、彼にインタビューを行った。「理想の打球は・・・」という質問に、前田は「ファウルならあります。」と答えた。これには驚いた。これまで100人を超えるスラッガーに話しを聞いてきたが、「理想の打球は?」という質問に「ファウルならあります。」と答えたバッターは後にも先にも前田ひとりである。
 このコメントから窺えるのは、前田は「打つ」ことには興味があっても「野球」というゲームにはさほど、興味がないということである。だから打球がラインの内側ではねようが、外に落ちようが、そんなことは大した問題ではないと考えているのである。その時のインタビューを、ここに再現してみよう。

・野球というスポーツは好きですか?
バッティングは好きですけど,野球は嫌いですね。守ることも走ることも好きじゃない。
・つまり団体プレーは好きじゃないと?
好きじゃないですね。その点、個人プレーのゴルフはいい。ホント、道を間違えましたよ。僕のちっちゃな頃はクラブなんてなかったもの。もう一度、少年の頃に戻れるんなら、今度はゴルフをやりたい。
・要するに自分一人の力で解決できる世界が好きだと?
そうですね。そういう(自分一人の力で解決できる)場面はできるだけ多い方がいい。自分のことだけ精一杯やっていればいいというか・・・そういう状況が好きですね。
・打席ではいつも怖い顔をしている。ピッチャーにナメられるのって嫌いでしょう?
ナメられるのだけは許せんです。ちょっと熱くなるものがありますね。
・ど真ん中のボールを投げられるのが嫌いだとか・・・
いや、まだ、それが好きだとか嫌いだとかいえるようなレベルの選手じゃない。「ああ、それくらいの選手なんだなー」と自分にいい聞かせて納得させるしかない。ただ、そういう甘いボールは必ず打たせてもらいます。それを打ち込まんことには、ピッチャーも厳しいボールを投げてくれんでしょう。甘いボールじゃやり甲斐がないし、それ以上に向こうに気持ちが入っておらんかったら、打っても面白くない。
・普通の選手は、打率やホームラン数、打点数を目標にしますが、あなたの目標はもっと別のところにあるような気がします。ところで、打席に立つ目的は?
理想の打球を打ってみたい、ということかな・・・。どんな打球が理想かと問われても、まだよう分からんですけど、イメージをしては頭にあるんです。それを言葉にできれば苦労しないんでしょうけどね。とにかく理想の打球への夢は簡単に諦めたくはない。そのこだわりがなくなったら、僕はおしまいでしょう。