ピッチャー〜技術論と経験値
円熟した工藤のピッチングは「枯山水」の境地に達した!?
日本シリーズ直後、工藤と会う機会があった。私は単刀直入に切り出した。
・日本シリーズ、ホークスは不利だといわれながらドラゴンズに4勝1敗と圧勝しましたね。その最大の要因が切り込み隊長の関川浩一を封じ込めたことです。工藤さんは初戦に先発し、完封勝ちをおさめた。関川に対しては4打数無安打です。関川の狙いを読み切ったといわんばかりの表情が印象に残っています。
工藤 ネクスト・バッターズ・サークルでの関川のスイングの仕方を見て,どこが打ててどこが打てないか、大体わかりました。
・ネクスト・バッターズ・サークルでのスイングで?
工藤 はい。これはほとんどのバッターが気付いていないと思うんですけど、普通、スイングする時って、誰でも一番好きなコースを振るんです。無意識のうちにね。つまり、”ここが一番得意だよ”という情報をバッターは知らず知らずのうちにピッチャーにあたえているんです。
・苦手なコースを振る人はいませんか?
工藤 まず、いませんね。続いて、バッターボックスに入ったらホームベースとの距離を見ます。大きくわけると、ホームベースにくっついて立っている人はインコースがうまい。離れて立っている人はインコースが苦手ですね。
・バッターボックスの中でも、ピッチャー寄りに立つ人とキャッチャー寄りに立つ人がいます。
工藤 長距離ヒッターはキャッチャー寄りに立ちたがりますね。昔でいえば山本浩二さんや田淵幸一さんがそうです。それで右打ちとか細かいことをやりたい人は、徐々に前(ピッチャー寄り)に出てくるんです。また一打席目は後ろで、二打席目は前という人もいますね。これなどは変化球を狙っている証拠です。
・要するに曲がったり落ちたりする前に打とう、ということですね。
工藤 そうです。中日のゴメスなんて、変化球が打てないのでだんだん構える位置が前になりましたよ。もう見え見えでしたね。
・では特徴の少ないバッターに対する探りの入れ方は
工藤 1球目、なるべく目線から遠いところ、具体的にいえばアウトローにストレートを投げてやればいいんです。確認するのはこの時のバッターのステップで、ストレートを待っていたら即座に反応しますが、変化球を待っている場合は若干、タイミングの取り方が遅くなりますね。他にもファウルを打たせるという手もあります。たとえば関川君の場合、基本的にインローとアウトハイが得意なんですが、その近くに投げると間違いなく振ってきます。ただ、好きなコースからボールひとつずらさなければなりません。インハイの近くに投げると、得意なコースだからキューンとすごいファウルを打ちますよ。
・それでカウントを稼ぐと。
工藤 ボールが走っていれば、コースさえ間違わなければ皆、ファウルになります。ただ自分のフォームがブレている時は注意しなければなりません。
現在、工藤公康39歳。
ユニフォームを着ていられるのは、もう2、3年だろう。円熟というよりも熟達のきわみのようなピッチングを、今年、工藤は披露している。
書画にたとえていえば、「枯山水」を見るような趣がある。これを堪能しない手はない。