切札〜ある「代走屋」のプロ根性


盗塁の成功率が上がるためにした特別な走法

 しかし、それでも思うように成功率は上がらない。なぜか?青木は悩み抜いた末、ひとつの疑問に思い当たった。<ピッチャーのフォームにクセがあるように、自分自身の走りにもクセがあるんじゃないか・・・>塁間わずか27.43メートル。この距離を主戦場とする者にとって、盗塁成功率の低さはストライクの入らないピッチャー以上に深刻な問題である。青木は近藤昭仁コーチの指摘で、足を一歩踏み出す際に体が上向きになり、ために時間をコンマ何秒かロスすることに気が付いた。
 青木の回想。「スタートするでしょう。その時の一歩が上に向かって体が伸びるようになるんです。体が硬いせいか、呼吸のせいか・・・いろいろと考えましたよ。それで結論は盗塁する一歩目から呼吸を止めてベースにつくまで呼吸をしないで走り抜いてみようと・・・。それをやり始めてから成功率が格段に上がってきた。長い間のクセというのは、なかなか自分では気が付かない。そのことにやっと気が付いたんです」青木は盗塁の成功率が高まるにつれて累審を欺くテクニックにも目を向けはじめた。きわどいタイミングをセーフに見せる、いわば累審を煙に巻く教科書には出てない“マル秘テクニック”である。ベースを盗むのではない。塁審の目を盗むのだ。青木は考えた。「アウト、セーフの判定というものは、もう本当にコンマ何秒の世界なんですよ。タッチの際、蹴った足がベースに深く入っていれば、塁審も人間だから迷う。タイミングはセーフでもダラーとベースに入ると、必ずアウトにコールされる。それなら勢いよくベースに突っ込もうと。塁審もいつも一番いい場所でジャッジしているとは限らないんです」