切札〜ある「代走屋」のプロ根性
スタジアムを緊張させる個性的な選手が欲しい!!
青木実の通算盗塁数、79。走りのスペシャリストとしてはいささか寂しい数字である。しかし、成功率712という数字は驚異的である。彼が超一流の「代走屋」だったことを、この数字は雄弁に物語っている。いつだったか、青木はこう言った。「僕はいつもホームベース上でのクロスプレーではスライディングはしなかった。横へ回って右手で払うような(ホームベースの)タッチの仕方が多かったですね。ところが最近のプロ野球を見ていると皆体ごとドーンとぶつかっていく。あれじゃセーフにならないし、またセーフになったとしてもケガしますよ。ホームベースのどこをタッチしてもいいのに、なぜ最近の選手はホームベースの前の部分だけにこだわるのか。こと走塁に関しては、昔の方がレベルが高かったような気がしますね」青木の足は,まるでジャックナイフのようによく切れた。ゲームの終盤、彼が代走としてダイヤモンドの一角に立ち、ソロリとリードをとるだけでスタジアムには緊張が走った。昔はこういう選手が、どのチームも必ずひとりはいたものだ。近鉄バッファローズの藤瀬史朗、広島カープの今井譲二、巨人の千田啓介・・・。彼らは文字どおり、「足の切札」だった。当時、はやったミステリードラマ風にいえば、眼前にスリルとサスペンスを存分に提供してくれたのである。