転機〜支えてくれるもの


シーズン途中で行われた異例のトレード

 力がありながらチャンスがもらえない。上司がえこひいきしているんじゃないか・・・サラリーマンなら一度ならず、そう考えたことがあるに違いない。そんな時、選択すべき道は二つしかない。ひとつは不満をぐっと胸の中に押さえ込み、上司の機嫌を伺いながら辛抱強くチャンスを待つ。そして、もうひとつは上司に辞表を叩きつけて会社を去る。どちらを選択しても待っているのは茨の道なのだが、腹をくくって踏み出した道なら、どんな苦難が待ち受けていようとも、それに耐えられるのではないか。
日本ハムの野口寿浩は4年前、究極の選択を迫られた。出るか。残るか・・・。野口が所属していたヤクルトスワローズには古田敦也という日本を代表するキャッチャーがいた。実力的にはかないっこない。しかし、数年後には・・・。そのためにはベンチに入り、控え捕手を務めながら古田のリードを学ぶ必要がある。ところが、野口はそのチャンスを奪われてしまう。監督の息子が入団してきたのだ。野村克也監督の三男・カツノリ。サラリーマンにたとえていえば、同じ部署に会社で最も仕事が出来る先輩がいて、その下について勉強していたら、ある日突然、同じ部署に社長の御曹司が配属されてやってきたという図式。第一戦でバリバリやりたいと張り切ってはみても、回ってくる仕事はコピーとりやエンピツ削りばかり。困り果ててまわりの先輩に相談してみても、誰も相談に乗ってくれない。下手に相談に乗っているところを監督に見られたら、“不満分子”扱いされるのがオチだ。その頃、野口は付き合っている彼女がいた。現夫人の由希さんである。悩んでいる野口を見て、フィアンセは言った。「あなた、そんなに悩んでいるんだったらトレードを申し出ればいいじゃない」自らの口で球団幹部にトレードを申し出た。野口の決意は固いと判断した球団は、その申し出を即座に受け入れた。トレードの話しはとんとん拍子に進み,球団に直訴した三日後には日本ハムファイターズとの間で契約がまとまった。シーズン途中でのトレードは異例のことだった。まさしく“内助の功”である。