転機〜支えてくれるもの


大切なのは“ピッチャーに気持ちよく投げさせる”こと

 不遇をかこったヤクルト時代、野口は希望を失い、クサリかけたこともあったが、それでも野球に対する探求心だけは失わなかった。自分のリードについて、野口はこう述べた。「野村監督のID野球は僕のリードの根底をなすもの。今でも僕の大きな財産になっていることは、まぎれもない事実です。だけど、バッターの狙いをはずしてばかりいる野球は、やっていてもおもしろくない。もっといえば、ピッチャーに僕の考えを押しつけた結果、うまくいったとしても、それはちっとも気持ちよくないんです。やっぱり野球はピッチャーがボールを投げることによって成立するスポーツなのだから、まず“どうすればピッチャーに気持ちよく投げてもらえるか”ということから考え始めるべきだと思うんです。その結果、僕のサインにクビを振られたとしても、それはそれで仕方ない。野球に対してはいろいろな考え方があると思います。これが正解だというものはない。ただ僕はピッチャーに気持ちよく投げてもらうリードを追求したいと思っている。バッターの狙いをはずしてばかりいて、たまたまうまくいったとしても、それはあまり長続きするものではない。だからピッチャーに勝負する時は勝負させたいと思っているんです」ピッチャー中心のリード、すなわち基本編か、バッター中心のリード、すなわち応用編か。
一流と呼ばれるキャッチャーは、常にこの両方を巧みに使いこなす。野口も例外ではないが、基本はあくまでも前者だと考える。それが彼の捕手観であり、同時に野球観でもあるのだ。その一方で、慎重にバッターの反応をうかがう用心深さも併せ持っている。「たとえば1−0のようなピッチャー有利のカウントでは、あえてバッターの狙いを読取ったりもします。外に投げた変化球にぐっとかぶってきたら、“ハハ、やっぱり変化球を待っているな”と。インコース胸元の速いボールに対して、よけるのが早かったら“内角を待っているんだな”という具合に。あるいはツマ先で体重のかけ方を読んだり、一球ずつスパイクの跡、つまりステップの形跡を調べるんです。スクエアなのか、ややクローズになっているのか・・・それによって、バッターが何を待っているのか、だいたい分かってくるんです」
98年、109試合、そして99年には134試合と出場試合数をのばし、パ・リーグを代表するキャッチャーに成長した。しかし、若手の台頭もあって昨季は99試合、今季は103試合とマスクをかぶるゲームが減っている。そこへ、阪神へのトレード通告。来年の6月で32歳。まだまだ老け込む歳ではない。再飛躍を期待した。