「DHと代打〜最強の代打屋」
オールスター史上、唯一の代打逆転サヨナラホームラン
プロ野球オールスター戦は51年に始まって以来、51年の歴史を誇るその長い歴史の中で、代打逆転サヨナラホームランが飛び出した劇的な試合は、たったひとつしかない。
74年7月21日、場所は東京・後楽園球場。セ・リーグが2対1と1点リードで迎えた9回裏、一死走者一塁の場面でパ・リーグの指揮をとる野村監督が代打を告げた。バッターボックスに入ったのは阪急ブレーブスの高井保弘である。マウンド上のピッチャーはヤクルト・スワローズのエース、松岡弘。7回から登板した松岡は9回裏一死から代打の土井正博に内野安打を許すまで、パ・リーグ打線を完璧に封じ込んだ。3イニングの投球ということもあり、松岡は飛ばしに飛ばしていた。
プロ入り11年目にして、初めてオールスターの打席に立った高井は初球のストレートを平然と見逃した。高めのボール。高井はセットポジションでの松岡の投球動作に鋭い視線を送った。2球目、シュート回転のストレートがスーッと真ん中低めに入ってきた。高井が34.5インチのバットを強振すると、打球は快音を残して超満員の左中間スタンドへ突き刺さった。
それから十数年後のことである。そのシーズンについて訊ねた私に、高井はさらりと語った。「松岡には実はちょっとしたクセがあってね。カーブ投げる時には左肩が上がるけど、逆に真っ直ぐの時は心もち左肩が下がりよる。オールスターやから、それほど難しいボールは投げてこんやろうと思うて、ワシはストレートに的をしぼっとたんですワ。投げる瞬間、わずかに左肩が下がった。もろた!と思うなり、ワシの好きな低めにシュート回転で入ってきた。ただ低い弾道やったんで、まさかスタンドまで飛び込むとは思わへんかった」
高井はこの試合を含めて、オールスターにわずか2試合しか出場していない。いずれも代打で、2打席目はストレートのフォアボール。つまり6球のボールのうち、ストライクはたった1球しか来なかったことになる。ワンスイング。それが先述した球史に残る代打逆転サヨナラホームランというわけである。