DHと代打〜最強の代打屋


プロの中のプロ、スペンサーとの出会い

 高井がピッチャーの投球フォームの研究に目覚めたきっかけは、ダリル・スペンサーとの出会いである。66年、高井は初めて一軍のベンチに入った。そこで目の当たりにしたのが、ピッチャーの投球全てに目を光らせるスペンサーの真摯な姿勢だった。
 高井は言った。
「これがホンマのプロというもんやと思ったね。ピッチャーが投げるたびにメモを取るんやから。そこまでするか、とワシはカミナリに打たれたような気分やった。それからや、ワシがピッチャーのクセを盗むようになったんは。
今日は新人が投げる、と聞くと、ネット裏まで行ってじっとそのピッチャーを凝視する。真正面から見た方が分かりやすいからね。そこで、最初に見るのが手のスジの動きや。スジを見れば、ほぼ球種を言い当てることができる。だから、若いピッチャーにはよう言われましたよ。『高井さんだけは打席でボクの目を見てない。どこか違うところを見とるはずや』ってね(笑)」
 高井は引退した今でも、バックネット裏に数十分もいれば、ピッチャーの球種をほぼ間違いなく言い当てることができる。一振り稼業に生きてきた男の目は、ピッチャーのちょっとしたクセすら絶対に見逃さない。サイン盗みなどやらなくても、少し観察力に磨きをかければ今の時代でも球種を見破ることは十分に可能なのである。