この計算式を使っての実際例を示しましょう。
身長 160 cm ・バスト 84 cm ・ウエスト 64 cm ・ヒップ 92 cm の体型寸法のケースでは標準バランスは
次の様に算出されます。
部 位 | 計 算 式 | 計 算 値 | 説 明 |
---|---|---|---|
後ろ丈 | 160×1/4+1.0 cm | 41.0 cm | 身長に比例します。 |
背 丈 | 160×1/4 - 1.0 cm | 39.0 cm | 身長に比例します。 |
前 丈 | 42.7 cm | バストの膨らみの為後ろ丈より長く、バストのサイズにより更に長くなる。 | |
前身丈 | 42.7 - 7.7 cm | 35.0 cm | 前丈に比例します。 |
ヒップ丈 | 160×1/8 cm | 20 cm | 身長に比例します。 |
乳丈 | 160×1/20 + 84×10 + 8.5 cm | 24.9 cm | 身長とバストの双方に比例し、8.5cmは定数です。 |
カマ丈 | 160×1/20 + 84×10 + 5.0 cm | 21.4 cm | 身長とバストの双方に比例します。 |
後ろ肩丈 | 160×1/20 + 84×10 | 16.4 cm | 身長とバストの双方に比例します。 |
前肩丈 | 16.4 - 1.0 cm | 15.4 cm | 後ろ肩丈との差が大きければ前肩です。 |
後ろ首丈 | 2.0 cm | 2.0 cm | これは略変化がなく、定数とします。 |
前首丈 | 6.7 +1.0 cm | 7.7 cm | 後ろ首巾と比例します。 |
前巾 | 84 × 2/10 + (84 -80) × 1/20 | 17.0 cm | バストが大きくなれば後ろ巾に対して相対的に拡大します。 |
カマ巾 | 84×1/10 + 1.0 cm | 9.4 cm | バストに比例します。 |
後ろ巾 | 84 × 2/10 - 1.0 - (84 -80) × 1/20 | 15.6 cm | バストが大きくなれば前巾に対して相対的に縮小します。 |
乳頭間隔 | 84 × 1/10 + 0.5 cm | 8.9 cm | バストに比例します。 |
後ろ首巾 | 84×1/20 + 2.5 cm | 6.7 cm | バストに比例します。 |
前首巾 | 84×1/20 × 7/10 + 3.4 cm | 6.34 cm | バストに比例しますが、後ろ首巾より増加率はやや小さい。 |
後ろ肩巾 | 160×1/20 + 84×10 + 3.0 | 19.4 cm | 身長とバストに比例します。 |
前肩巾 | 19.4 - (84-60) ×3/100 | 18.7 cm | バストが( 60 cm)を超えると後ろ肩巾の拡大率より少なくなります。 |
前ウエスト | 64 ×1/4 - 1.5 cm | 14.5 cm | 重心線より前部分のウエストは後ろより短くなります。 |
後ろウエスト | 64 ×1/4 + 1.5 cm | 17.5 cm | 重心線より後ろ部分のウエストは前より長くなります。 |
前ヒップ | 14.5 + 2.5 | 17.0 cm | 前ヒップは前ウエストとの差が重要です。 |
後ろヒップ | 92×1/2 - 17.0 | 29.0 cm | ヒップ寸法に比例します。 |
然し此の25項目に亙る計算式を使って体型バランスを一回毎に計算する、と云う仕事は実際問題として可能でしょうか?
注文生産の様に一人の体型
のパタン作成なら良いですが既製服生産のように多彩なサイズに対応しなければならない業務ではかなり負担になります。
その様な状況に対応する為
に予めH → Rのサイズに対応して各号数を横に配列し、縦に各バランス項目を並べて各バランス項目の算出した計算値を記入した一覧表を作成して
用いる方法が考えられました。
単に各号の計算だけでなく、各号間のバランスの差(Pt=ピッチ)も記入してグレーデイングにも使えるように工夫した一覧表です。
確かに各サイズ毎に計算する手間は省けますが各体型毎に表を作成しなければならず、しかも各号の身体寸法が変れば計算し直さねばなりません。
私どもがパタン作成の業務に携わる時に、ハンドで行うケースでは数値はパタン作成のイメージから自ずと想定して作業を進めます。ミューラーの場合は
凡ての作業は身体寸法から計算されたバランス数値を基準に進めなければなりません。
この相違は前者は個別的な判断には最適ですが”サイズ”と云う抽象的な体型の判断には必ずしも適用し難い、と云う特徴があり、後者はその逆になります。
実際にはこの『すり替え』には何の不都合も無く、行われて来たのですが近年(IT〜CAD)の技術の発展は目覚しく、1990年代以降、既製服生産技術
の中核的な役割を占めるに至ってその矛盾が露呈し、パタンナーの日常業務の上での大きな問題点になりつつあります。
それはパタン作成者の感覚的な数値と操作方法の判断はその儘ではCADは受付られない、と云う点です。その結果CADは縫い代付け等のルーチンワーク
(一定の操作方法の決められたワーク)が主体となり、パタン作成の創造的業務は従来のまま、作成者の判断をCADが行う、つまりハンドで行った業務を
CADの画像上の操作に『代置』するに過ぎない事になっています。
具体的にはCADの画像の上でパタンの性質の変更を加える操作(シルエットの修正やグレーデイング)を行う事はハンドで行う操作より修得には遥かに
困難があり、実際にはルーチンワーク主体の業務が大半を占めるようになっているのが実態と思われます。これはパタンナーの創造的な意欲を阻害する
大きな要因となっています。
この一年余、CADにミューラーの理論を組み込んだら現在のCADの限界を超えられるかも知れない、と云う想定から私は旭化成AGMS社の依頼を受けて同社
のスタッフの皆さんと研究を続けて見て、一縷の方向性が掴めたように思えます。
それには二つの側面があり、一つは体型計測の自動化で二つはCADのパタン操作の自動化です。此れにより従来のCADの可能性は大きく拡がり、
パタンナーの業務は煩瑣なCAD操作を煩わせずに可能になるのではないか?と考えました。
此処では『体型バランス計算の自動化』について
述べたいと思います。
☆ デザインパタン及び原型のルール集(類型化)については項を改めて述べたいと存じます。
(1)私共がパタンの修正やグレーデイングを行う、と云う際には先ず、『此の様にしたい』と云うイメージが先行します。縫い代付け等のルーチンワーク
ではその様な意図はなくても実行出来ますがパタンの性質に影響を及ぼす操作では必ずイメージが先行します。
(2)次にはそのイメージに従って『形』をどの様にするか?と云う思考と、それは『どれ位の数法〈数値)』を、と云う具体的な手順の想定に換えられます。
(3-A)ハンドの場合は次に平面の紙上に直線や曲線を描いてイメージを実際の『数値に伴った形』のパタンに仕上げてゆきます。
(3-B)CADの場合はパタンを読み込むか、または既に入力してある原型を呼び出し、それを出発点にイメージをパタンに仕上げて行く、と云う過程を辿ります。
現在のCADではどんなに性能が優れていても(3-A)を(3-B)に置き換えるだけでその限界以上には出られません。それは(2)の思考段階は依然として(3-A)ですから問題は(2)の段階を如何にして
CADに組み込めないか?と考えました。
それはイメージの手順自体をCADに組み込み、パタンナーは組み込まれた手順を選択することによって操作を行うと云う仕組みを考える事です。
以上の関係は次表のようになります。
(3-B)ではパタンナーの思考の結果を操作する『描画』の手段がCADに組み込まれたのですが、ミューラーの方法論の
CAD化では寸法(数値)と原型・デザイン類型の描画過程をCADに組み込み、ユーザーは寸法とデザイン類型や原型を選択すればCADは組み込まれた論理に
従って描画します。
毎日繰り返されるパタンナーの業務をCAD化し、パタンナーは目的を選択すれば後はCADの領域になります。
組み込まれる『論理』は次表のような思考過程をそのまま、組み込みます。
此の項では冒頭に見た『バランス計算式』、グレーデイングの為の『Pt〈ピッチ)計算式』はどの様にルール化するか?を見ましょう。
これはAGMSの
システムでなくてもパソコンの『Excel』でも容易に作成できます。
[A](自動体型バランス計算式)に身体寸法を入力すると各部位のバランスが表示されます。
(シート2)以下は各アイテム別の緩み(サンプル)の計算式です。意図されるアイテムの緩み分量に入れ換えると
各アイテムパタンの標準バランス寸法が表示されます。
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