直線上に配置

鞍掛山(897m)
くらかけやま岩手県岩手郡滝沢村

2009.2.11(祝・水)の記録
 概   要  鞍掛山は岩手県滝沢村、岩手山山頂から南東に約4.2kmに位置する。20万図で見ると岩手山の等高線に飲み込まれているが、車窓からは馬の背のような盛り上りがすぐにそれと判る。ツアーで「岩手山展望の山」と銘打つだけに、山頂からはド迫力の岩手山が楽しめる。
 積雪期でも、日曜のせいか、雪に埋もれた駐車場には登山者の車で一杯。盛岡からも近く、雪を踏むにも、手ごろで人気の里山のようです。
 場   所
 交   通
 仙台方面からの車は、東北自動車道滝沢IC、県道278号、219号を通って相ノ沢キャンプ場へ。お山の湯もキャンプ場から1キロ余りで、すぐ近くです。
 注   意
 事   項
 登山道は西回りと東回りのコースがある。今回は急登が少なく、スノーシューを履いて歩くのに適した西回りのコースが選ばれたように思う。熟練ガイドの案内で、登山道を外れて歩いたが、危険な場所は無かった。でも他の登山者は、夏道に沿って登っていました。スノーシューを履けばどこでも歩けそうですが、夏道(右下の地図の黒点線部分)を歩くのが、間違いないです。なだらかな山ですが、南斜面は急な所もあります。
 又、クマの爪痕があちこちにあったので、ご注意下さい。
 コ ー ス
 タ イ ム
 仙台駅→(バス2時間50分)→相ノ沢キャンプ場駐車場→(歩2時間10分)→鞍掛山→(歩1時間30分)→相ノ沢キャンプ場駐車場→(車5分)→お山の湯→(車3時間15分)→仙台駅
 ※所要時間:歩行3時間40分+休憩70分=4時間50分
 ※男性6名程、女性12名位
 ガ イ ド
 ブ ッ ク
地図:「姥屋敷」1/25000図

※雪道なので黒い点線の登山道からは外れています。↑
歩行地図は同行のDさんのGPS画像を参考に記しています。
※カシミール3D使用  
※地図をクリックすると拡大します


 スノーシューハイキングツアー(Aトラベル社)にマラソンの仲間での参加。
岩手の山岳ガイドと言えばこの方、というO氏の案内。嬉しい。
→相ノ沢(あいのさわ)駐車場

 バスは仙台駅(長町、泉中央経由)を6時半に出発。東北自動車道で滝沢ICまで。ICからは20分弱で相ノ沢キャンプ場の駐車場に到着。
 レンタルのスノーシューを靴のサイズに合わせ、体操をしてイザ出発。
→道路を渡る

 駐車場は道路を挟んで2箇所あった。バスは県道219号の南側に停車したので、道路を渡り、向かい側の登山口のある駐車場に行く。ここは満車状態。へ〜、鞍掛山って結構人気の山なのね。
→登山口の案内板とポスト

 登山道は二手に分かれていますが、我々は左手(西回りコース)に進みます。
 仙台駅を6時半出発で、登山開始は9時50分。
→登り始めは平らです

 ツアー客総勢18人が、松と唐松林の中を進みます。展望台までは、スノーシューはザックにくくりつけ、つぼ足で登ります。
→右手に鞍掛山の裾

 バスから見た鞍掛山は、岩手山に寄り添うナメクジのような形。見目麗しい山ではないが判り易い。丁度牛馬の背のようになだらかで、鞍を掛けたくなるような山姿からの命名と思う。
→分岐
 登山口から20分。ここで小休止。案内板によると、左手から鞍掛山を回りこんで、岩手山の馬返し登山口に至る道があるようです。そして北側からも、鞍掛山に登る道も記されていますが、ペンキが剥げて判然としません。
 案内板の右手を登りますが、ここから次の休憩地、734m地点までは少し登りが急になります。
→道標あり

 ゆっくり登ること40分。地図の三角点
734.8m付近の展望台に到着。頂上まで
1.2kmと書かれています。
 分岐からの登りが急だった為、
ここから、スノーシューを履きます。

南側の眺望が楽しめます。(下の写真)

↑展望台からの眺め 手前は牧場 遠くに早池峰がうっすら・・
→ブナの木とガイド
 展望台からは、最初はトレースを踏んで。慣れてくると、夏道を逸れて、トレースの無い所をラッセルしながら進みます。先頭は疲れるので、時々隊列の順番を変え、体力のある人が前に出るようにとの事。ガイドさんは、色々説明をして下さいますので、前の人は説明がよく聞こえます。
→クマの爪跡だそうです。

 クマはブナの実も好きなようです。あとからナラの木に、クマが登って折って、不自然に枯れ葉が残っている枝等も見ました。どんぐりも食べるんですね。
→バンザイ坊や

 オオカメノキの冬芽だそうです。ピンボケが残念です。ガイドさんに言われないと、見逃してしまうただの枝です。
→捜しながら・・・

 ガイドさんは、きょろきょろして、あちこち捜しています。末尾は呑気ですが、先頭に行くと、雪が踏み固められていないので、一歩一歩に力が入ります。慣れないスノーシューの掃き心地を確認しながらの歩きですが、前を行くルミちゃんは元気です。
→ウサギの食痕だそうです。

 本では見たことがありましたが、実物は初めて見ました。まるで、笹を斜めにカッターで切ったような鋭い切り口になっています。漫画などでは可愛い前歯も、もし噛まれたら大変なのかも。
→カラマツに絡むツルウメモドキ
  だそうです。

 生け花などの花材では、赤い実が愛らしいが、つるはこのように旺盛。からまれた唐松が気の毒です。
→夏道の合流点の少し上部

 正面が鞍掛山。夏道は右の尾根伝いに登るが、雪があればどこでもルートなので、まっすぐに最短距離を登って行きます。
 もちろん足跡はなく、山を熟知したガイドさんならではの裏技。
→もうすぐ頂上

 頂上までは傾斜がきつくなります。ペースを落としてゆっくり登って行きます。
 だんだん日が射してきて、これはラッキー!頂上での展望が楽しみです。
→出ました!岩手山

 まばらになった樹木の隙間から、岩手山!が見えたと思ったら、そこが山頂でした。
 登山口から歩行時間2時間10分で到着。
→雪に覆われた頂上

 山頂には木が無く、南側以外は三方の
展望が楽しめました。登山口に着く前に
バスの車窓から見えた、山頂付近の白い
部分は、この付近の雪だったのです。
→鞍掛山頂上

 標高897.1mと書かれています。
それにしても、大迫力の岩手山です。
登っている人が見えるほどの近さです。

↑鞍掛山頂上より(北西)、岩手山の眺め

↑岩手山の西山裾に見えるのが秋田駒ケ岳の連山(鞍掛山より南西方向)

↑(上をズーム)秋田駒ケ岳は高倉山に重なって見えない

↑鞍掛山より南東方向 盛岡市街地の奥には早池峰山が見えるはず・・
→姫神山(1124m)

 鞍掛山より東方向に、姫神山が。
端整な山姿です。

↓北方向は、岩手山の蔭に七時雨山が見え隠れしています。
→山頂で憩う人々

 風も無く暖かで、休憩も冬山とは思えぬ呑気さです。写真を撮り、パンのお弁当を食べてはしゃいでいると、あっという間に時間が過ぎます。(30分余休憩)
 A社の添乗員さんからホットドリンクをご馳走になり、いざ下山。
→下り始めます
 「歩き易い所を自由に下っていいですよ」とガイド氏に言われ、樹木の枝まばらな所を選んで下る。登ってきた方向と同じ方角に下る。もちろん夏の登山道からは(90度も)外れている。
 眺望の良い火山岩の露出する尾根道も下って見たかったが、こちらの方がスノーシュー初心者向きとの判断でしょう。
  
→ウサギの足跡

 向こうからこちらに向かってきたようです。ウサギの足跡が一番多く見られました。
→キツネの足跡か?

 ほぼ一列に進んでいます。
→ウサギの寝穴だそうです。

 ウサギは敵から身を守るため、寝る場所は毎日変えるのだそうです。
→啄木鳥(キツツキ)の巣穴だそう。
 どの穴も丸くきれいに穿ってあります。

 スノーシューハイキングの楽しみ方を、
今回は存分に教わりました。行程が楽な
分、観察の時間があり、冬ならではの(動物たちの痕跡など)発見が沢山ありました。
→下りは別なルートで
 どこを下っているのかも気にせずに、呑気に歩いていたら、ツアー客のご婦人が左手の山を指し「さっきは向こうの山を登ってきたのに(谷を下るの)ね」とおっしゃったのに、ガイド氏もビックリ。こんな雪の藪山で、現在地が判っているとは、かなり山慣れた方だと感心する。
→分岐に到着

 道なき道でしたが、ガイド氏に導かれ、ちゃんと分岐に出ました。
 ここで、スノーシューを脱ぐように指導される。同行した雪山デビューのルミちゃんは、「まだ履いていたい」と名残惜しそう。雪山熱中症に罹患したかも。
→バスが待っていた

 雪が暖かく感じた午後2時40分、駐車場に戻ってきました。心地よい疲れです。
 宮沢賢治が詠んだ「たよりになるのはくらかけつづきの雪ばかり・・・」の詩碑があるそうだが、見逃してしまった。残念。
→滝沢相の沢温泉”お山の湯”
 駐車場からバスで数分(1q弱)で到着。入浴550円。毎月第4火曜休業、10時〜だが、冬季は営業終了時刻が早いので要事前確認。露天風呂から岩手山が見え、、食堂で風呂上りのビールを楽しんだ方もちらほら。鞍掛の雪に癒された日でした。(仙台駅夜7時半着)
    
          ★宮沢賢治と鞍掛山

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         くらかけの雪

        たよりになるのは
        くらかけつづきの雪ばかり
        野はらもはやしも
        ぽしやぽしやしたり黝(くす)んだりして
        すこしもあてにならないので
        ほんたうにそんな酵母のふうの
        朧(おぼ)ろなふぶきですけれども
        ほのかなのぞみを送るのは
        くらかけ山の雪ばかり
          (ひとつの古風な信仰です)

        詩集 「春と修羅 〔第一集〕」
                  「東北庭と花と文学の旅」より写す   

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 宮沢賢治といえば、雨ニモマケズの詩人と言うくらいの知識しかない私。
今回の鞍掛山登山がきっかけで、ネットで検索していると、鞍掛山は賢治が
愛し、詩にも登場する山だと知る。なんと歌碑も、相ノ沢キャンプ場の駐車場脇に
あるそうだ。その歌碑が鞍掛山の稜線に似ているとか。見逃したのが残念。

 さらに文献をみていると、賢治は14歳で岩手山に初登山してから、生涯30回余
も岩手山に行ったそうだ。もちろん岩手山は好きだったに違いないが、作品の中で
「国立公園候補地に関する意見」というのがあって、”鞍掛山もむろんです”と、
言っているそうです。圧倒的な存在の岩手山に対して、地味な山裾の低山をなぜ
慈しんだのだろうか・・・

 「東北庭と花と文学の旅」では、弱いものびいきの賢治の特有の感情からでは、
との著者の推察がある。又「宮沢賢治の詩の世界」というブログでは、岩手山は
父政次郎、鞍掛山は母イチを象徴しているのでは、という推察もあった。
な〜るほど、とすぐに納得してしまう。

 私は、賢治が岩手の花巻の裕福な家に生まれたことを初めて知った。
幼い頃から成績優秀で、鉱物に興味を持ち、石っこ賢さんと呼ばれていたこと。
生涯独身で、37歳(昭和8年)で病没したこと。でも、18歳の時に、看護婦さんに
初恋したこと。盛岡中学校、盛岡高等農林学校を卒業後、実業家の父との確執で
東京に家出もしたこと。農学校教師の職も捨てて、農民を救うべく、肥料や稲作の
指導にあたったこと。晩年は、病を押して東北砕石工場の営業マンとして
奔走奮闘したこと。病に倒れて、あの「雨ニモマケズ」を書いたこと。
生前は作品が評価されなかったこと・・・全て知りませんでした。

 頑強な体ではなかったのに、自分の体調管理は後回しにして、やろうと思った
事にはとことん突き進んでしまう性質だったのでしょう。早世を残念に思います。
下記の賢治の手紙は、とても心に響いたので、長文ですが転記します。
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 僅かばかりの才能とか、器量とか、身分とか財産とかいふものが何かじぶんの
からだについたものででもあるかと思ひ、じぶんの仕事を卑しみ、同輩を嘲けり、
いまどこからかじぶんを所謂(いわゆる)社会の高みへ引き上げにくるものがある
やうに思ひ、空想をのみ生活して却(かえ)って完全な現在の生活をば味ふことも
せず、幾年かヾ空しく過ぎて漸(ようや)くじぶんの築いてゐた蜃気楼の消えるの

を見ては、たヾもう人を怒り世間を憤り従って師友を失ひ憂悶病を得るといった
やうな順序です。あなたは賢いしかういふ過りはなさらないでせうが、しかし何と
いっても時代が時代ですから充分にご戒心下さい。風の中を自由にあるけるとか、
はっきりした声で何時間も話ができるとか、じぶんの兄弟のために何円かを手伝
へるとかいふやうなことはできないものから見れば神の業にも均しいものです。
そんなことはもう人間の当然の権利だなどといふやうな考では、本気に観察した
世界の実際と余り遠いものです。どうか今のご生活を大切にお護り下さい。上の
そらでなしに、しっかり落ちついて、一時の感激や興奮を避け、楽しめるものは楽
しみ、苦しまなければならないものは苦しんで生きて行きませう。いろいろ生意気
なことを書きました。病苦に免じて赦して下さい。それでも今年は心配したやうで
なしに作もよくて実にお互心強いではありませんか。また書きます。


 亡くなる10日ほど前、花巻農学校時代の教え子・柳原昌悦宛に書いた手紙
            「宮沢賢治 あるサラリーマンの生と死」より写す
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 鞍掛山に登ったことで、少しだけ宮沢賢治の世界にに触れたような気がして
います。あまり登山には行けませんが、次の山までの間に、登ったあとの余韻も
充分に楽しめるので、それもいいかなと思っています。

参考文献:「東北庭と花と文学の旅 下」青木登著 のんぶる舎
「宮沢賢治 あるサラリーマンの生と死」佐藤竜一著 集英社新書
「<新>校本 宮澤賢治全集 第三巻 詩U本文篇 」筑摩書房


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