プリンセス・ジャケット(5)
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☆
二つの相違
プリンセス・ラインのジャケットはドレス・ブラウスとは相違して多くのバリエーションがあります。一般的に肩か らのラインが入るタイプをプリンセスと云い、肩からのダーツ線が袖ぐりに流れているタイプをパネル・ラインと云います。プリンセス、パネル・ラインには脇が前後に分かれて 4面のタイプ、脇身頃が前後連結して3面のタイプのもの等のバリエーションがあります。夫々に補助ダーツのあるものと無いものとが有り、シルエットは無限です。
此処では代表的なスタイルのパタンを紹介しますが操作は似ておりますのでポイントを理解されれば応用が可能になり、デザインの範囲も広がります。
下表はトルソー原型とのゆるみ分量の差を示しています。
ストレート・ジャケットの場合と大差はありませんが、目標とするシルウエットによって細かい部分で 変更する場合が多く、この数値は基本的な製図を示すデータです。
プリンセス・ジャケット(補助ダーツのあるケース)
ゆるみ・着込み分量の増加
☆ ゆるみ入れの操作はストレート・ジャケットの場合と同じです。参照してください。
後ろ巾の拡大(後ろ首巾分 0.5 cm + 後ろ肩ダーツの位置 0.9 cm )=1.4 cm
カマ巾の拡大 (カマ巾拡大分の 1/2 = 0.5 cm)
着込み分量 (バスト線の上 0.7 cm + バスト線の下 0.8 cm )= 1.5 cm
肩丈の拡大 (1.0 cm + 1.0 cm + 0.5 cm)=2.5 cm
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後ろ肩巾の調整(後ろ首巾分 0.5 cm + 後ろ巾分 0.9 cm を含む)= 1.5 cm
前巾の拡大(前首巾分 0.5 cm + 前肩ダーツの位置 0.5 cm )=1.0 cm
カマ巾の拡大 (カマ巾拡大分の 1/2 = 0.5 cm)
着込み分量 (バスト線の上 0.5 cm + バスト線の下 0.8 cm )= 1.3 cm
肩丈の拡大 (0.5 cm + 1.0 cm + 0.5 cm)=2.0 cm
前肩巾の調整(前首巾分 0.5 cm + 前巾分 0.5 cm を含む)= 1.0 cm
E と ab を直線で結び、この線上に後ろ肩巾(此処では 21.0 cm )をとり、E 〜 A として、残りの分量は後ろ肩ダーツとします。
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E 〜 A をコンパスにとり、E を基点にして円弧を振ります。また誤r肩ダーツ点、M 〜 ab の円弧を M を基点にして振り、先の円弧との交点を B とします。
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肩巾の調整 前ネックポイントHs のゆるみ
h 〜 B を結び、2等分して中央を M1 とし、M 〜 M1 を結びます。
M 〜 M1 〜 B を別紙に写して M を基点に B が ab に重なるまで右に振り、M1 〜 M 〜 M2 を後ろ肩ダーツとします。
Bp 〜 H をコンパスにとり、Bp を基点に肩先側へ円弧を振り、肩点 ab から後ろの肩線 h 〜 B をコンパスに取って円弧を振り、交点を Hs とします。(註 Hs の 変更については別記します。)
Hs の変更について
トルソー原型の製図の際に H 点は前中心線から『前首巾+ゆるみ』を取り、Hs 点は重心線から 『後ろ首巾+ゆるみ』を取り、この差をバストダーツ分量としました。肩丈に沢山のゆるみを加えた際には、前の肩点の位置が重心線とあまり離れない位置に来ることがよく あります。肩点が重心線に近いと云うことは前の袖繰り線が平板になり、横の地ノ目線は水平に保つ力が弱くなり、脇下方向に引かれて側面のシルエットが崩れる結果を 招きます。それで肩丈や Hs 点の高さを換えずに肩点を重心線より離してバストダーツを深める操作を行います。
トルソー原型では重心線から直角に『後ろ首巾』を 取って Hs を決めましたが『2.0 〜 3.0 cm 』のゆるみを加えます。(下図 B )この操作はコートなぞ、肩丈にゆるみを多く加えるようなケースに用いられることが多いので覚え ておくと便利です。
重心線から右へ直角線を出し、『後ろ機微巾+2.0 〜 3.0 cm』の垂直線を引きます。Bp 〜 H をコンパスに取り、Bp を基点に円弧を振って垂直線との交点を新Hs とします。
新Hs 点から後ろの肩線 h 〜 B の円弧を振り、Bg からBg 〜 Ab の円弧を振り、交点を新Ab とします。
新Ab と新Hs を結び、2等分して中央を f とし、Bp 〜 f を半径として Bp から肩線に沿って円弧を描きます。
新Hs 〜 f を半径として H から円弧を振り、バストからの円弧との交点を e とすると e 〜 Bp 〜 f は前バストダーツになります。
ウエスト・ヒップの前後の配分
ウエスト・ヒップの配分は重心線を境界線として前のバストに対して前のウエスト・ヒップ線の配分は如何か?と云う考え方にたっています。 基準はバスト線の重心線前後の配分で、それに対してウエストが多ければ反身体型で腹部が前方向に出ている事になり反対に少なければ鳩胸的な傾向がある事になります。 新たがってウエスト、ヒップの前後の配分は体型に即応するか否か?を決定する要素になります。此処で扱う数値は標準的なバランスですが、個々のではその点に留意して 配分して下さい。
ウエスト・重心線の Wg から前方向へ「前ウエスト+ゆるみ」(14.5 + 1.5 = 16.0 cm を取り、tv としますと tv 〜 Wf は前のダーツ分量です。これを次の二つに配分します。
(tv 〜 Wf)× 2/3 = Bp 直下のダーツ分量
(tv 〜 Wf)× 1/3 = 前の補助ダーツ分量
同じく Wg から後ろ方向へ 「後ろウエスト+ゆるみ」(17.5 + 3.5 = 21.0 cm) を取り、th としますと th 〜 Wc は後ろのダーツ分量です。これを次の三つに配分します。
1.6 cm = 脇のダーツ分量
(th 〜 Wc - 1.6 cm) × 2/3 = M 直下のダーツ分量。
(th 〜 Wc - 1.6 cm) × 1/3 = 後ろの補助ダーツ分量
ヒップ・重心線の Gg から前方向へ「前ヒップ+ゆるみ」(17.0 + 2.5 = 19.5 cm を取り、gv としますと gv 〜 Gg は前の交差分量です。
同じく Gg から後ろ方向へ 「後ろヒップ+ゆるみ」(28.5 + 2.5 = 30.5 cm) を取り、gh とします。このケースでは gh =G ですから交差分量は有りません。
若し gh が G より 飛び出していると臀部はバストラインより出ているのですから其の分量はダーツを交差させて吸収させなければなりません。
H2 を 0.5 cm 下げて前衿ぐり線を引き直し、E を 0.3 cm 下げて前衿ぐり線を引き直します。
袖ぐり線脇の Sb,Sf を1.0 cm 下げて、前後の袖ぐり線を引き直します。
ダーツ・補助ダーツの記入・完成
前のラインはBp から直下する垂直線を案内線としてスムースな湾曲線を描きます。
後ろの補助ダーツは背巾線の際に取ります。前の補助ダーツは重心線とバストダーツの中央にとります。
ウエスト脇では Tb,Tf を 0.8 cm (脇のダーツ量× 1/2)内側に移動し、前後の脇線を引き直します。
地ノ目線は前は後ろ中心の垂直線に通します。前では前中心線に通します。
後ろ肩丈+ゆるみ:カマ巾+ゆるみの変更をしましたので計測し、C1:d:Ae の位置を訂正します。
これは後で袖の設計に重要なので忘れないで下さい。
プリンセス・ジャケット(補助ダーツのないケース)
準備とプリンセス・ラインの記入
プリンセス・ジャケットの原型をヒップ線までコピーします。プリンセス・ライン及び補助ダーツは省略します。
ウエスト・重心線の Wg から前方向へ「前ウエスト+ゆるみ」(14.5 + 1.0 = 15.5 cm を取り、tv としますと tv 〜 Wf は前のダーツ分量です。
同じく Wg から後ろ方向へ 「後ろウエスト+ゆるみ」(17.5 + 4.0 = 21.5 cm) を取り、th としますと th 〜 Wc は後ろのダーツ分量です。
ヒップ・重心線の Gg から前方向へ「前ヒップ+ゆるみ」(17.0 + 2.5 = 19.5 cm を取り、gv としますと gv 〜 Gg は前の交差分量です。
同じく Gg から後ろ方向へ 「後ろヒップ+ゆるみ」(28.5 + 2.5 = 30.5 cm) を取り、gh とします。このケースでは gh =G ですから交差分量は有りません。
後ろのラインは@M 点の 0.7 〜 1.0 の移動:AM 直下への垂直線:Bウエスト線でからのダーツ線への案内線の 0.7 cm の移動:Cヒップ線での交差量の点検、 等を行った上でプリンセス・ラインを記入します。
前のラインは@Bp 点直下への垂直線を案内線としAウエスト線から下へのダーツ線への案内線は 0.7 cm 脇方向に移動し、 Bヒップ線での交差量を確認してプリンセス・ラインを記入します。
このウエスト線の上下での案内線の『ズレ』は出来上がったコスチュームの印象に影響します。脇側に『ずらす』のはプリンセスのラインが上はより細く、下へは広がった印象を与える効果があります。
脇身頃の地ノ目線の変更
ここでは脇身頃の地ノ目線の変更を行います。
☆ 前脇身頃の操作
前身頃の重心線とウエスト線の交点 Wg から前のウエストダーツ分量の 1/3 を脇側にとり、T 点とします。
前ダーツ 分量は tv 〜 Wf になります。パタンの実測値を計測して用いますが此処ではトルソー原型の計算値を使いますと(前巾 18.1 cm - 前ウエスト 15.5 cm = 2.6 cm × 1/3 ・・0.8 cm になります。
aE 〜 T を結んで脇身頃の新しい地ノ目線とします。A から新地ノ目線に直角線を出し、脇線との交点を新Tf とします。
元のTf 〜 Sf (脇点)をコンパスのとり、新 Tf を基点に Sf の上側に短い円弧を振ります。
前の袖ぐり線の d 〜 Sf を別紙に写し、d を基点にして振り、先の円弧との交点を 新Sf とし、ab 〜 C1 〜 新Sb を結んで前袖繰り線とします。また新Sb 〜 新Tb を 結んで後ろ脇線の上部分とします。
ウエストから下の部分を写し、A 〜 B 〜 Pf 〜 Tf をA を基点に上に振って新Tf につけてウエストの下部分を完成します。
☆ 後ろ脇身頃の操作
前の脇線で上げたウエスト線の分量 Tf 〜 新Tf と同じ長さを後ろ身頃の Tb より上に取って 新Tb とし、新TB 〜 E を結んで新しいウエスト線とします。
背巾線の C から新しいウエスト線に直角線を出して後ろ脇身頃の地ノ目線としましす。
元のTb 〜 Sb (脇点)をコンパスのとり、新 Tb を基点に Sb の上側に短い円弧を振ります。
後ろの袖ぐり線の C1 〜 Sb を別紙に写し、C1 を基点にして振り、先の円弧との交点を 新Sb とし、Ab 〜 d 〜 新Sf を結んで前袖繰り線とします。また新Sf 〜 新Tf を 結んで前脇線の上部分とします。
ウエストから下の部分を写し、E 〜F 〜 Pb 〜Tb をE を基点に上に振って新Tb につけてウエストの下部分を完成します。
前後の脇尾身頃共にPf 〜 B、Pb 〜 F から下の部分を上に繋げて完成させます。
何故パタンを曲げないで地ノ目線を変更するか?
ウエスト線を傾斜させて地ノ目線を変更しましたが、一見すると A 〜 Tf からした部分を脇側にずらしてパタンを書き直せば良い ように思われます。そうするとフレアーは体型の斜め方向に張り出さずますます脇方向に張り出すようになります。地ノ目線は縦方向に流れる性質があり、パタンの形だけではシルエット は決まらないからです。この操作のように地ノ目線を後ろ・前方向に換え、脇点を上げると着用した際に脇点は下方向に押され、地ノ目線は直下の方向に流れる事に よってフレアーは斜め前後の方向に張り出すことなります。この操作は脇面のシルエットが上手く収まらない時に応用されるので理解しておきたい操作です。
完成
後ろ脇の地ノ目線は C から新ウエスト線に直角に下ろした垂線です。後ろ身頃の地ノ目線は後ろ中心の垂直線で、後ろ中心線の地ノ目線は少し傾斜します。
前脇の地ノ目線は Ae から新ウエスト線に直角に下ろした垂線です。前身頃の地ノ目線は前の垂直線です。
プリンセス・ジャケットのカッティングはドレスの場合と殆ど同じで、相違は各部位の拡大の分量とゆるみの分量のみと云えます。ですから基準とする原型を作成して置いてパタン作成時に状況に応じてラインを入れて完成すると云う段取りは有効な方法でしょう。これは次に触れるパネル・ジャケットでも適用できる方法です。
Ladie's Patan Cutting のホームページ
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