私どもは様々な教育や経験の形を通してパタン作成の技術を修得し、業務に携わって居りますがそれらの方式とミューラーの考え方との関係について,
及び今後パタン技術の中軸になるCADとの関連について述べたいと思います。 更に2000年代になってCADの採用が一般的になり、特に生産段階の作業はCADによる操作が中心となり、パタンナーの作業部分に大きな比重を占めるように
なりました。 現在教えられ、用いられているパタン作成方法は世界的に見ると次のような特徴があります。それぞれに優れた特徴がありますが現実の業務の技術とし
ては限界もあります。列記して見ると次の様に集約できるでしょう。
現在の洋裁教育では個人の体型を目標に「原型作成〜パタン展開〜仮縫い・補正」と云う順序でパタンを学び、加えて部分的にダミーによるドレーピング
やグレーデイングに付いて学ぶ、・・と云うのが一般的な過程と思われます。
然し業界へ入りますと会社ではダミーから作製された原型(ブランド毎に決められた)原型を用いなければならず、しかも原型から新しいパタンを起こす
業務より以前に作製され、用いられたパタン(有型パタンと云います)を利用、変更して新しいデザイン・シルエットのパタンを作成したり、
グレーデイングを行ったり、と云う作業が多く、加えて「縫い代付け」、「生産指図書作成」、「型入れ」、等々学校では経験しなかった業務が多くなり、
作成したパタンをトワルで組み立てて検証する、と云う業務も忙しい季節には省かれる事が多いと聞きます。
この状況ではパタンナーのパタン知識とCADの操作との間に大きな溝が出来、パタンナーはCADに引きずられてパタンを吟味して作製するより
単なるCADの操作担当者として単純作業に追われるという状況が多く見られるようです。
これはCADの開発・進歩に伴って1990年代になって現れた大きな問題点です。
上図右側のパタンナーの作業部分(ルーチン・ワーク)ではCADは高い生産性を示しますがパタンの性質に変更を加える創作部分について
(註1)のパタンナーの思考の論理とCADの論理とは通じ合えない部分(赤線で囲まれた部分)があります。その為グレーデイング・修正ではパタンナーの意図するような
操作が現在の段階のCADでは出来ないのです。
(註1)パタンの性質とはパタンを構成している要素―パタンのバランスやその数値、変更された基準線の組み合せ
(デザイン・展開されたパタンの)等を云います。CADの条件
理由の一つはCADは凡ての命令を数値に置き換えてプログラムされなければ可動しませんがパタンナーの意識はパタンの線を動かす意図があるのみでそれを
CADが理解出来る命令として伝えられないからです。云わばパタンナーとCADは言葉の通じない関係になっていると云えましょう。
それでパタンナーが具体的な作業行う際には戸惑い、無理してCADへの妥協をするようになりパタンに対する主体性を失うようになります。これも現在の
大きな問題点の一つです。
二つ目にはパタンナーの命令に応じてCADはどの様にパタンを操作するのか?パタンの仕組みを予め組み込んで置く必要がありますがその組み込み方が
出来ていない状態である事です。
これはパタン側がCADがどの様に操作すべきか?を論理的に説明出来ていない事が主な原因と思われます。従来のパタン操作はそのような理屈は必要とせず、
操作のイメージ=操作の実行、と云う形で行い得たからです。
従ってCADを用いて自由にパタン操作を行う為ににはCADが理解し得る『言葉=論理』と『操作の仕組み』とを予めCADに
教え込む必要があり、その技術の開発が必要なのです。
『操作の仕組み』とは体型の類似性から着目した身長とバストを基準とした体型バランスの各部位間の
関わり合いの仕組みであり、
『言葉=論理』とはその関係の変更を数値で命令する事を意味します。
それには現在一般的に用いられている技術は適さないので新しい方法を考えなければなりません。ミューラーの方式はそれを可能にする考え方の一つ
なのです。
【B】 パタン技術の概略とミューラーの発想
裁断法の特徴の比較
立体の造形上に生地(トワル)を貼り付けて具体的なシルエットを造り上げて行く手法は目で実際の生地の流れを確認しつつパタンを作成してゆく
方式で、造形的には最も優れた方式と云えましょう。しかしパタンの生産性から見ると次の様な特徴が有ります。
〜 ダミーより離れて緩みの増減、シルエットの変更には感覚的な難しさと永年の修行が必要
○ 学校の平面製図教育〜優れたポイント と その限界
以上の方式では既製服の生産についての研究・技術の研究はなく、個人の経験によって夫々の判断で経験を演繹して既製服生産に応用して、
行われているのが実情でしょう。
また肩巾を広くしたい、胸巾を拡げ、背巾を短くしたい、というような修正。変更では
9Aパタンの該当する部位のバランスを変えて行きます。グレーデイングや修正・変更をハンドで行う場合には前掲の著書に述べたように各部位の点を
移動し、点と点を定規で結ぶと云う操作を行います。
以上の操作は熟練したパタン経験者であれば経験から今までも行われていた事ではあるが、それを理論的に初心者でもバランスの構成を学べばその仕組み
を理解し、誰でも可能にした、と云う点が画期的であると思われます。
(ニ)CADとの対話機能
するとパタンナーはどの様に操作するのでしょうか?直接、線や点を移動する事はできませんので、CADの製図を見ながら、計算表やPt表を見て
変更したい部位のバランス数値を入れ換える事によって自動的にCADはその様にパタンを変更して参ります。
この様にCADに命令し、それの結果がどうであったか?を検証して相互に対話できる機能を対話機能と云い、CADの開発上最も
重要な機能の一つです。
CADは論理に依って動く機能ですからパタン側と共通の論理が無ければパタンナーの意図はCADには伝わらないのです。
従ってこの考え方をCADに組み込めば先に述べたパタンナーが主体的に行うべき『創造的なパタンへの対応』をも合わせて操作できるようになると
思います。
すると例えばグレーデイングの操作ではパタンナーの意思通りにバランスを変更して拡大・縮小は勿論「体型転換のグレーデイング」や「パタンの一部
に対して行う修正・変更操作」もCADを介して自由に行える事が可能になります。
若し顧客個人の身体寸法による注文があれば色々なデザイン・パタンについてその顧客の標準バランスのパタンを作製して注文に応じる、と云うような
新しい既製服の生産形態をも可能にするかも知れません。