パタン技術とCADとの結婚とは(4A)
CADの発展とパタン理論の関係
(前頁へ)
私は2年に亘ってパタンの技術をコンピューターに組み込む企画のお手伝いをして参りましたが両者の関係は「結婚噺し」のようで面白く、大変勉強に なりました。この問題点を掘り下げて報告したいと思います。
洋裁の技術は明治〜大正の西欧文化の流入と共に始まり、大正の末頃、洋裁学校の教育が始まりました。 日本の戦前の社会では『縫い物』は女性の必須の技術として考えられた時代もあり、戦後の変遷を経て洋裁技術は大変盛んに なりました。戦後の窮乏時代から復興・繁栄の時代を通して洋裁学校は日本の洋装文化を支えたと云えるでしょう。
日本独特のシステムとして洋裁技術が普及・発達した経緯と既製服業界がどの様に関わってきたか?を概観しましょう。
日本のパタン技術の歴史
下図は1920年頃から今日までの洋裁技術の大まかな変遷の図です。
�@ 1920年代〜文化学園の前身、並木洋裁所が渋谷に出来て洋裁の教育が始まりました。丁度筆者の生まれた時期ですが私の亡母が結婚以前に同所で洋裁を 習い、洋裁店を出した、と云う事を聞いた覚えがあります。
�A 1940年代の戦中・戦後の窮乏時代を経て1950年頃(昭和30年頃)は全国の洋裁学校の生徒数は29万人と云われ、空前のブームとなりました。洋裁校は全国に 連鎖校が開設され、その影響は今日も継続して居り、文化・ドレメの連鎖校は150校を超える数を擁しております。
�B 特記すべきは各洋裁校で教育される製図方法はイギリスで始まったミッチェル式と云う方式です。背丈・バスト・ウエスト寸法から各部位の寸法を 『割り出し方式』で計算して原型を描画する方式です。これは学校によって様々に工夫され、色々なバリエーションがありますが平面上に『体型の形』を 描いて原型とし、それを展開して色々なパタンを作成する方式では共通しています。
�C 戦後に既製服業界が再出発した時代、これ等の洋裁学校の卒業生が企業でデザイン・パタン作成を行い、それを商品化する為の工業用パタンに再生 して商品を製造しました。パタンは個人体型の注文服を目的に作られたパタンをその儘、多量生産の商業用に転用したと申せましょう。
�D 1960年代、漸くパタンの不備が痛感され、オリンピックの頃にアメリカのプラッツ大学から『大野順之介』先生が来日され、婦人服組合主催の セミナーで『ダミーによるドレーピング』を教えられ、立体裁断で原型を作成し、それからデザイン・パタンを展開する方法を学んだのです。爾後パタンナーの の努力により西欧に匹敵する水準にまで到達した、と云えるでしょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
�E 1980年代は昭和40年頃からの経済発展の絶頂期を経て1990年代のバブル崩壊期を迎えます。この頃のパタン技術にはCADが導入され、グローバル化と 相俟ってCADは企業の生産過程でパタン操作の中枢を占めるようになりました。
�F 以上が1920年頃からのパタン技術の概観ですが日本では『割り出し原型』が先に普及し、後になって『ダミーによるドレーピング』が広まりましたが 西欧では伝統的(原発生的に)にダミーによるドレーピングが行なわれ、此れを家庭の洋裁として普及すべく『ミッチェル式』が考えられた様です。 (ロンドンのロイヤル:アカデミー・オブファション談)
ドレーピングの教育は一度に教えられる人数に制約があり、且つ長期間の修練が必要ですが『割り出し原型』は多人数でも短期間でも容易に教えられる、 という特徴があります。
パタン作成方式の問題点
以上の様な歴史的なパタン技術の推移を見ますと日本特有の問題点が浮かび上がって参ります。
[A] 日本では『割り出し原型』が一般的には最初に接する原型描画の方式ですがヨーロッパではダミーによるドレーピングが最初に接する原型描画の方式 でアメリカのFIT大学でもドレーピングによる原型描画が公式の原型描画の方式になって居ます。
{B} ドレーピングによる原型描画方式はダミー上での直接造形ですから、感覚によって造形したシルエットを展開してパタンにするので別に体型に関して 論理的な解釈はなく、しかも基本的には個別の体型のパタンです。
同様にそれを簡便にした『割り出し原型』方式も基本的には個別の体型のパタンですので 性格は個別の体型のパタンに属します。
[C] ダミーでも『割り出し原型』でも特定のサイズ、例えば『9号Aタイプ』を基本としていますが此れは統計的に出現率の高いサイズを基本体型と 称して居るのみで基本体型とその他のサイズとの相違点や類似点等の分析は行われず、まして『撫ぜ肩と怒り肩』や『反身体や屈身体』等の解析もなく 経験的な出現率から基本型と便宜的に決められているに過ぎません。
{D] A〜C に見られるようにパタン作成過程では体型の性質や体型間の相違点や類似点等、体型を構成する要素について論理的な考察はなく、体型の 『形』を平面上に描画するのみです。この操作過程をCADに組み込むとすればパタンナーの図形の操作をCADで行い、ハンドでの定規や物差しでの操作を 代行するに過ぎない事になります。
勿論パタンの(縫い代付け)、(見返しパタン作成)、(裏地パタン)、(型入れ)等々の『パタンの性質 を変更しない業務』では従来のハンドによる作業効率に較べて格段の高い効率での作業が可能でしょうが、CAD本来の機能から云って更に高い機能が期待 されるべきと考えられます。
[E] 例えばグレーデイングと云う様な『パタンの性質を変更する業務』では従来の『切り開き方式』とか『比例拡大方式』とハンドで行なう操作を代行 するのみで、企業では拡大巾の大きいグレーデイングでは�Hの基本パタンから�Lの拡大を行い、�N以上は再度パタンをトワルで造形し直してグレーデイング を行なう、と云う二度手間を掛けざるを得ない、のが実情と聞きます。
亦ラグランやドルマン等の対応の困難なアイテムもあるようです。
[F] これ等の問題はCADの機能に問題がある訳ではなく、パタン技術の側にCADに対応出来ない原因があり、それの研究はなされない儘にCADの適用が進行 して居るのが現在の状況でしょう。
その『パタン技術の側の問題』とは先に述べたように自然発生的な造形技術、またはその亜流の『割り出し原型』の 技術はパタンナーの感性に基ずく操作に委ねられ、操作に論理的な必然性や蓋然性が考えられていない、事にあります。そもそもCADは行なうべき操作は 論理的な必然性が論理的に与えられないと機能しない、性質があります。ですから従来のパタン技術ではその時々に命ぜられた操作を実行するのみでハンド で用いる定規や物差しと同列の機能のみに限定され、CAD本来の機能が発揮されたとは云えない結果となります。
先の結婚噺しで云えば亭主関白なパタンナーに対する従順な妻の如く、定規や物差しと同列で命ぜられた操作のみを行なうツールと云えるでしょう。
しかしこの妻はずっと高い機能を持ち、予め段取りと手順を組み込んで置けばパタンナーは目標と寸法を入力すれば自動的に操作を実行して目的のパタン を作成する機能を持っているのです。
CADが理解できるパタンの理論とは?
それではCADに通じる論理とはどんな理論を云うのでしょうか?其れについてはドイツのミューラーと云う先生が約40年以前に研究、発表されています。 その考え方を元に研究されたのが立体グレーデイング理論で日本では旭化成AGMS社によって2007年〜2009 年にCADへの組み込みが試みられました。 詳しくは次章でのべますが要点は次の様な理論構成になって居ます。
[イ] 人体の体型は立体として理論的な要素を組み立てる。それには体表を縦と横、そして厚さの3次元の方向で捉え、3つの基準線の内厚さの基準を 消して2次元の形で平面上の製図としなければならない。従って3つの基準に添って組み立てれば元の立体になる製図である。
[ロ] これを構成するには体型を個別に、更に多数の固体についてデータを収集し、その解析からその性質を帰納的な方法で法則化する。その性質は 体型固体の各部位のバランスの構成と性質、多数の個体間の前項データの類似性と差異性、を統計的に抽出して法則化する。
[ハ] 具体的には体型の紙張りと平面展開、及び分析、体型のバランス計測と多数固体のデータのバランスの機能的な整理、と法則化、等々の作業です。 これ等についての詳細は夫々の項目で述べます。
[ニ] 以上の法則化された体型の性質に従って平面上にその立体としての『原型』を描画し、またその法則を利用して展開してデザインパタンを作成、 また体型のサイズに対応してパタンのバランスを変更したり(グレーデイング)、体型にそぐわないパタン部分の修正をしたり、等々のパタンの 性質を『変化させる操作を行います。
[ホ] このパタンの性質に関する情報を予めCADに組み込みますと亭主関白の妻はパタンナーの要請に対応して自主的に機能する賢明なる妻に変貌します。 元パタンを読み込み、体型の各ポイントに予め決められた NO,を付け、拡大サイズの身体寸法を入力するとCADは変更すべき各ポイントの変更量と 変更方向を自動的に計算、判断して拡大パタンを描画します。
[ヘ] 更にCADは予め袖のパタンを読み込んで置けば身頃の変更に準じて変更される袖ぐりの寸法の変更量から自動的に袖山の変更量を計算して拡大 袖パタンを描画する、と云う機能をも果します。衿の場合も同様です。
かくしてパタンナーは意図通りにパタンが変更されたか否か?を検証すればよく、CADに纏わる様々の操作作業から解法され、より高度な業務に 集中できる事になります。
要約と検証
以上がCADの新しい機能開発に伴うパタン理論の概要です。此れについては[A] ダミーによるドレーピング、[B]体型データの解析による立体構成 [C] 割り出し原型による原型描画、の三つの方法について、どの様に製図が違うか?の検証が必要と思われます。次章では具体的な製図での 考え方の相違について述べたいと思います。
Ladie's Patan Cutting のホームページ
(ホームへ)
(次へ)
(ページTopへ)