体形を構成する要素は三つあります。
（A） 体格 ・・・ 体形の大きさで身長の大小、バストの大小、で表されます。
（B） 体型 ・・・ 体形のタイプを表現して「ほっそり」、「がっちり」、或いは「痩せ型」、「肥満型」又は「撫ぜ肩」「怒り肩」等、様々な タイプで表されます。
（C） 変移 ・・・ 子供〜成熟期、更に熟年期と時間の経過に伴って体形は微妙に変化して行きます。
☆ 体型を把握する為の統計は？
それでは先に述べた「国民の体格統計」では体型は認識出来ないのでしょうか？そうではなく、タイプを表す数値に 置き換えて診ればよいのです。
例えば「ほっそり型」と「がっちり型」を例にとって考えて見ましょう。
「ほっそり型」は身長に対してバストが小さい」〜「がっちり型」は反対に身長に対してバストが大きい」と言い換える事がでます。
これは身長とバストを組み合わせて観る見方でこれを『バランスで見る』と云います。このバランスで見ると様々な タイプが表現出来るのです。
然し統計ですから感覚的な表現のみではサイズにはなりませんので次のように数値で識別します。
バスト＝ 身長×1/2+ 2.0-4.0 cm と云う一般的な平均値を中心に多くの人の数値を比較すると
、数値の大きい人は「がっちり型」、小さい人は「ほっそり型」、とタイプを類別できます。
またバストーウエスト
を比較してバストーウエスト= 18.0 cm と云う一般的な平均値を中心に比較すると「細い〜標準〜太い」と区分する事もで
きます。
☆ 体格とタイプ(体型）と変移（固体差）の関係
この様に体格寸法（身長とバスト）組み合わに視点を置いて比較すると様々なタイプが識別できます。
また前丈と後丈の寸法を比較して前丈＞後丈の人は『反身体型』前丈＜後丈の人はと『屈身体型』と識別出来ます。
この凡てのバランスは固体ごとに凡て相違しますが、そのバランスを統計的に見るとある『傾向』がある 事が判ります。
そのバランスの傾向を統計の分析によって導き出し、サイズ表に組み入れ、を構成していくと今迄のサイズ表の曖昧な部分が 解決出来る、 と考えたのがミューラーの体型計測及びバランス計測の背景なのです。
☆ 体形計測とバランス計測
従って体形統計をバランスと云う視点から見れば性質が変わり、タイプを読み取る数値になるのですからバランス統計とは特別な種類の統計ではなく、 『統計値の観点の違い』とも云えます。
またタイプを表現する体形の前後を対比する部位の数値は通常の計測調査では除かれています。
それは「後肩巾に対する前肩巾」、「後丈に対する前丈」と云うような体形のタイプを表す部位で、体型のタイプの識別には是非加えねばならない計測 数値です。この様な対比計測の部位は通常の統計計測では計らない部位ですがこれを加え、『バランス計測』の部位と云います。
☆ 二つの計測の考え方の相違は何から出たか？
この二つの相違の原点は『洋服の作り方』の問題と関連があります。元々衣服は個人の体形に合わせて一枚毎に裁断され、ぬい合わされて作られた、 と云えます。然し毎度体形に合わせる繁雑さを避けて『ダミー（身替り人台）を作り、それに合わせて製造されるようになりました。
処が時代が変わって予め、多様なサイズで製造して多様な体形の人がその中から自分の体形の合うものを選んで買い求める、と云う時代が展開します。 （此れを既製服といいます。）
洋服の裁断には一枚仕立ての場合ではタイプを考えなくとも最終的に『仮縫い〜補正』と云う過程があるので体形計測の背丈（身長）とバストから原型を 作り、展開して製造する、と云う裁断法が考えられて、現在の洋裁教育の元型になりました。これは色々な支流に改変されて一般化しました。 （これをミッチェル式系統の裁断法と云います。）
然し時代の変化と共に既製服の時代が到来しても先の技術をその儘に流用して生産が行われた為に先のような矛盾が生じる原因となったのです。 サイズの問題はその一部分なのです。
☆そのような時代の経過の中でパタンに求められる技術の内容も変化します。
一枚仕立ての技術・・・各体型の原型の制作技術→デザイン展開パタン技術
既製服の技術・・・・・抽象的なサイズの体型の原型→デザイン展開パタン→サイズの拡大・縮小の技術（グレーデイング）
注意しなければならないのはグレーデイング技術の発生です。
個別生産の場合には各人の体型の合わせて原型デザイン展開し、個別に『仮縫い→補正』をすれば良いのですが既製服では 対象が不特定多数の人々ですからお客様が選択する為には各個の体型のバランスを標準化し（抽象化）してグループ化して （サイズ化）し、パタンの方が多様化しなければなりません。
その為にパタンを拡大・縮小する技術（グレーデイング）が必要になりなりました。グレーデイングはパタンのバランスを 変更する技術ですから体型計測では細部に亘ってバランス計測を行い、サイズ表からピッチ表（バランスの変化量の一覧表）を 作成して置かねばならない事になりました。
☆ 更に1990年代に入って『ＣＡＤ』の導入は生産過程でのパタンナーの職責を大きく変化させつつあります。恐らく今世紀のパタン技術者は『ＣＡＤ』 を駆使しなければならぬ様になると思われます。
欧州ではグレーデイングはパタンナーの一つの職務になっています。
その目標の変化に伴って計測の考え方も変化します。経験的な数値による製図や操作に加えて論理的な思考に合致する製図法や計測法は未来の『ＣＡＤ』 によるパタンの制作・管理の必要条件になるでしょう。
ミューラーの提案
このような実態からミューラーが提唱したバランス計測は従来の計測値に対する観点を『バランス』に置く事でありました。然しこれは 色々な前提を孕んでいます。
（Ａ） 一つは体形に対する考え方です。ミューラーは人体は立体である、だから『縦と横と厚さの3次元』の物体なのでそれを 基準に計測し、裁断する。と考えたのです。
（Ｂ） 然し縦と横の基準線は体形の前後の中心線とバスト線ですが『厚さの基準』は何処に置くのでしょうか？が問題です。
それで人体を側面から見て耳の前端から足長の中央に走る重心線が肩の前端を通るのを利用してこの線を前後に区分の基準とする事にしたのです。
これを基準にバストを前巾〜カマ巾（腕の前後長）〜後巾と区分し、ウエスト・ヒップも前後に区分して捉える事としました。
これは原型の描き方にも現れ、従来とは異なる方法となります。『原型の描き方』『計測の詳細』に付きましてはホームページの該当項目を参照して下さい。
（Ｃ） 以上のような経過を経て体形計測に新たなバランス計測の視点が加わり、更に細かいバランス数値を加えて体型のタイプ を計量出来るようになりました。
体型の計測点に印を付け、体形の前後面の部位を（前肩巾：後肩巾）というように対比させながら計測を行います。これに付き ましてはホームページの該当項目を参照して下さい。
計測値の分析〜五つのバランス
バランス計測の詳細はHPの該当項目に譲りますが、基幹となるバランスには５つの側面があります。
（イ）縦の大きなバランス 〜 身長に対する後丈・背丈・脇丈・袖丈等のバランスです
（ロ）縦の小さなバランス 〜 後丈に対する前丈・カマ丈（腕の付け根の深さ）等のバランスで前後の対比する部位の計測です。
（ハ）横の大きなバランス 〜 バストの後巾：カマ巾：前巾のバランスです。
（ニ）横の小さなバランス 〜 バストに対する後首巾、乳頭間隔等のバランスです。
（ホ）上下のバランス 〜 前巾に対する前ウエスト、前ウエストに対する前ヒップのバランスです。
（＊）この他に肩回りの寸法（後肩巾；前肩巾、後首巾：前首巾等の（身長とバストの双方）に比例する部位があり、（ロ）と（ニ）に配分してあります。
肩回りのバランスは身長とバストの双方に比例して変動するので別括りにしてあります。
統計値の分析の二つの意味
(1）体格の分析と体型の分析の視点の相違分析には二つの視点があります。
全体的の計測値を分析して身長の分布、バストの分布、その他のタイプのデータを整理して全体の傾向として認識する・・
もう一つは個人のデータのバランスを計測してその数値の集積を身長別・バスト別に区分して身長・バストの変化に伴って他の部位がどの様に変化するか ？を分析する・・
と云う二つの認識の視点・方法があり、体型の把握によるサイズを考える場合は前者も使いますが特に後者はグレーデイングの操作にためには不可欠で、 その重要性が高くなります。
(2）体格の変化に伴うバランスの変動、例えば
身長が高くなれば後丈・背丈も大きくなる、
バストが大きくなれば後巾・カマ巾・前巾も大きくなる
・・（単純比例変動）・・体格計測
バストの大きくなる比率は後丈よりも前丈の方が大きい。同時に後丈より前丈の方が長くなる
・・(複合比例変動）・・体型(バランス）計測
(3）この複合比例変動のバランスは部位間のバランスの組み合わせから看取できるが『体格調査の数値の組み合わせ』からも看取できる。
例えば（身長 -バスト= ）の数値を各くデータから算出し、比較すると『ほっそり型』か『がっちり型』かを区別できる。
また（バスト - ヒップ = )を算出、比較すれば『肥満度』の類別も出来る,と述べました。
従って体格計測と体型計測は別の概念ではなく、計測に対する視点の相違で、バランスの視点で考えると、 体形調査に加えてバランスを精密に看取できる計測値を加えていると先述した次第です。
具体的な分析の計画と実施
どのような目的の為にはどの様なデータが必要か？を考えてデータの｛組み合わせ｝や｛導き出したい変動量｝の出し方、順序を考えて予定表を作成し ます。然し実際に操作を実施する途中で順序を変えたり、項目を付け加えたりして必ずしも予定通りの作業が進むとは限らず、シバシバ変更する事もあり、 記録はキチンと残すようにしましょう。◎一般的な体形データの分析計画
☆ 全データの記入〜項目〜順序〜計算計画
☆ 身長、バストの区分の決定
☆ 身長を昇順に配列〜区分する
☆ 身長区分毎にバストを昇順に配列・・・・Ａ 配列
☆ Ａ 配列の頻度率を出す。
☆ Ｔ×1/2 を計算し、基準にして各データの数値の大小を並べる。・・・痩せ型・肥満型の区分け
☆ Ｔ−Ｗ＝ を計算し、肥満度を類別する。（ＢＭＩ） ・・・・・・・・・・・・・・・肥満度のタイプの区分け
☆ Ａ 配列 の各グループ毎に配列する。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Ａ×Ｂ 配列
☆ 身長に対する丈関係の比率の計算→Ｔ／Ｘ＋Ｙｃｍ の型に表現する。・・・各グループ毎
☆ バストに対する巾関係の比率の計算→Ｂ／Ｘ＋Ｙｃｍ の型に表現する。・・・各グループ毎
☆ 肩関係の部位の身長比率とバスト比率の関係の照合・・双方の併合比率を出す。・・・ Ｃ 配列
☆ 身長比例、バスト比例、併合比例の各部位の数値をＡ配列表に記入 ・・・ 全体的の部位の比例傾向を観察、→ サイズ試案を作成
☆ サイズ試案のピッチを均して体形変化の矛盾を無くす。
◎実際の分析作業の操作
具体的な作業は「エクセル」を使って行います。
（ ）全データは一人一行に全項目に亙って記入します。この際に出来るだけ同一のフォントで記入すると後の操作での面倒が少なくなります。
〈 ）全データの身長を昇順に並べ替え、先の計画に従って身長の区分をし、各層のデータ数を確認します。
（ ）身長の区分毎にバストの数値を昇順に配列します。
（ ）バストの最大値、最小値、平均値を算出し、別に身長を横にバストを縦に取った表を作成して記入します。
（ ）以下の二つの表は実際に作業をする『記入表』の例です。
（ ）１表はバストの配分の分析です。
＊（イ行）で各人の後巾の共通基準値（Ｂ×2/10)を算出、記入し
＊（No64行)の 実際の後巾の計測数値との差を（ロ）行に記入します。
＊基準値との差の平均値・最小、最大値をバストゾーン毎に算出し、別表に 書き入れ、各ゾーン毎の変動率の傾向を調べます。
( ）カマ巾・前巾についても同様の計算を行い、バストの拡大と前巾の拡大率の変動をゾーン毎に計算し、計算式を作成します。
（ ）２表は後丈・前丈の配分の分析です。
＊（64行）で後丈の実測値を記入し、
＊（イ行）には後丈のＴに対する比率 を算出します。
＊『論理』（ロ行）に後丈の共通基準値（Ｔ×1/4)を算出、記入し
＊（ハ行）に実計測値と基準数値との差を記入 します。
＊基準値との差の平均値・最小、最大値をバストゾーン毎に算出し、別表に 書き入れ、各ゾーン毎の変動率の傾向を調べます。
バランス計算式の完成
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以上は各個人的なバランス・データをどの様に標準バランスに抽象して行くか？の過程で、ミューラーの非常に面白い計算式の
作成方法です。
- 各データを身長×バストのゾーンに区分して前丈：後丈、バストの前巾・カマ巾・後巾のデータをバストのゾーン毎に 平均値（最大・最小値）を算出します。
- それを全体の基準数値（後丈は身長×1/4,前巾、後巾はバスト×2/10 カマ巾はバスト×1/10 と云う具合に算出する）と比較 して各データの＋、−を算出する。
- 基準値との差を別表にゾーン毎に書き出して見て相互間に逓増、或いは逓減の法則性があるか、否かを検分し、法則性がある 場合はそれを数式化する。
- 平均値と最大・最小値の比較から各部位の『許容巾』の広さを求め、『緩み量』と『サイズ・ピッチ』を求める。
- 先の法則性については部位のゾーン毎の範囲を決めて逓増する比率を数式化する。（例えばバストは60-80.80-100,100-120の 区分の比率を一連の比率に纏める。）
この分析を繰り返して全体のバランスの比率を計算式に纏めています。尚この計算式の特徴は基準数値を1/4,1/20,1/10,2/10,と 比率で定めているので体型間のピッチを簡単に算出できる様に工夫してある処です。
例えば身長152 cm と160 cmの後丈の 差は身長差160 - 152 = 8 cm の1/4 ですから後丈の差は 8 cm ×1/4 = 2 cm と算出できます。これはグレーデイングに於いては 各部位のバランス差を変更するのですからピッチの算出には非常に簡便な方法なのです。
バランス計算式
前記のような分析を積み重ねて完成したのが下記のバランス計算式表です。使い易いように身長・バスとに比例する部位と双方に 比例する部位とに分けます。
此れを使って定められたサイズ表に従って各サイズの標準体型の原型を描き、またピッチ表を 作成してグレーデイングを行います。
◎ サイズ表の完成・・・テストパタンの組み立て・・・試着テスト・・・問題の発見・・・再検討 →
◎ 以上は身頃の場合での例です。袖・パンツ・スカートの各アイテムには必要な部位項目を付加して作業を行います。
『サイズ表の作成』及び『ピッチ表の作成』の詳細はホームページの該当項目を参照下さい。
バランス計算式の使い方
この計算式は体型を構成する比率を標準化した計算式なので様々な応用ができます。その例を幾つか考えて見ましょう。- ◎ 身長×バストの体格寸法からのバランス計算〜原型の作成
- ◎ 体格寸法の差からの各部位の相違分量の計算（ピッチ表の作成）
- ◎ 既存のパタンのバランスのチェック、修正
例えば身長158 cm,バスト90 cm と云う体格の寸法から自動的に各部位のバランスが計算出来、それを基にして 『標準体型』の原型を描く事ができる。
『標準体型』はその体格の人の標準であるから「原型」に加えられた「緩み」の 許容巾の範囲であれば誰でも適合する可能性が最も高い「原型」と考えられる。
また任意の二つの体格の間の計算値を比較すればその間の部位の寸法差（ピッチ差）が計算できる。
従って標準体型 と肥満体型との間であってもその差のバランスを変化させればパタンの変化を行う事が出来る。（体型変換のグレーデイング）
この操作を同一の体型の体格寸法の間で行えばいわゆるグレーデイングが出来、その為の（ピッチ差）の一覧表が（ピッチ表）である。
既に作成さらたパタンに付いても「重心線」を設定してその各部位のバランスを比較してそのパタンが標準のバランスより どれ程相違するか？をチェック出来、そのパタンの特徴、癖、欠点を数値で知る事が出来る。
またそのパタンのバランスを 修正してパタンの改善を計る事が可能になる。