体型の『紙張り〜平面展開図』は『バランス計測値』と共に体型の構成や性質を知る為には最も重要なデータです。先にも述べたように我々の体型は
人毎に皆相違しますが全体として見ると類似点と相違点があり、『紙張り〜平面展開図』と『バランス計測値』からその性質を認識して原型を合理的に
描画する方法やグレーデイングの操作方法を案出します。
この展開図の分析とバランス計測とは体型の性質の両面で必ず数値の裏付けが大切です。原型は体型の性質に従って
数値を当て嵌めて描画するからです。
体形の各部位は相互に有機的な関連性を持っていて若しバストのサイズを拡大すると、それは単にバスト寸法が拡がるのみでなく、他の部位のバランス
にも影響します。
これは立体である体形の『平面に展開されたパタン』の理論が従来の平面パタンの理論と最も異なる部分です。
色々なサイズの展開図を分析すると体形のバランスは相互に様々に関連し合って構成されている事が判ります。分析に付きまし ては既に此の体型分析の稿の(1),(2)で述べましたが、近年これ等を纏め、更に簡略に計算する方法が案出されて参りました。
以上は紙張り〜平面展開図のデータを分析して得た体型を構成するバランスの相互の有機的な関連性を示すものです。
この性質(論理)は原型の描画やグレーデイング等、全てのパタン操作に関するルールと考えられます。
(1)体形の各部位の拡大する比率は部位によって異なり、全身で同じ比率で大きくなるのではない。例えばバストが
90.0 cm 〜 100.0cm へと拡大する際には部位によって拡大する比率が異なる。
更に前巾は前中心線−乳頭点のF部分を(a),乳頭点ー重心線のS部分
を(b)としますと
(a)の拡大量= 2.0 cm (b)の拡大量= 3.0 cm となり、(c) カマ巾のの拡大量= 2.0 cm
(d)後ろ巾の拡大量= 3.0 cmと全バストを分けますと極めてよく理解できます。
(2)部位毎の拡大比率の相違は又、バストのゾーンによっても相違します。バスト70.0 cm 〜 80.0 cm 〜 100.0 cm 〜 120.0 cm と
ゾーンが大きくなるほど前巾の比率は後ろ巾の比率より高くなる様です。此処ではテーマの、80.0 cm 〜 100.0 cm のゾーンを
中心に取り上げますと先ほどの比率は
(a)F部分の拡大量= 2.0 cm、
(b)S部分の拡大量= 3.0 cm、
(c) カマ巾のの拡大量= 2.0 cm、
(d)後ろ巾の拡大量= 3.0 cm となります。
これは次の様に一般化してバストの拡大についてのルールになります。
☆ バスト80.0 〜 100.0 cm のゾーンでは各部位の拡大比率の相違はバスト拡大量×1/2 に対して
(a)= 0.2,(b)= 0.3,(c)=0.2,(d)=0.3 となります。
計算例題
バスト82.0 cm 〜 94.0 cm でPt差 12.0 cm の拡大の際の(a),(b),(c),(d)の計算は
バスト差 12.0 cm ,1/2= 6.0 cm
(a)= 6.0 * 0.2 = 1.2 cm,...乳頭間隔
(b)= 6.0 * 0.3= 1.8 cm....,B/P - 重心線
(c)= 6.0 * 0.2= 1.2 cm....,カマ巾
(d)= 6.0 * 0.3= 1.8 cm....後ろ巾......... 合計 6.0 cm となります。
つまり各部位のバランス計算をしないでもPt差の
計算だけなら極めて容易に出来ます。
(3)(1〜2)の関連でカマ巾が (c)= 0.2 拡大すると同時に袖ぐりの深さ=カマ丈も有機的に拡大します。カマ巾の拡大は
腕の太さの拡大ですから横に拡大すれば同時に縦にも拡大する筈です。分量はカマ巾と同じバスト変更量×1/2を基準にし
て(e)= 0.2 となります。
(4)また前巾が(a)+(b)大きくなるとその分量は乳頭の前方向への張り出し、と考えられます。その結果バストの横方向への
前巾の拡大がありますので同時に縦方向へも有機的に拡大が起る筈です。
それが前丈の拡大で変更量は(f)= 0.2 の比率です。
拡大の変更量については後ほどまとめて説明いたします。
(5)前巾の拡大はF部分(a)とS部分(b)とに分けられますが体型全体の横方向への拡大は左右の重心線の間隔で計量でき、
これは肩点間の長さが体型の巾を構成します。
此が「後ろ肩巾」で此の拡大量は身長が変らないならば(g)= 0.2 の比率に
なります。するとバストの(a)部分の拡大量は(g)の後肩巾の拡大量と一致します。
するとS部分の(b)の拡大変更量はバストの変更量に含まれますが実際はバストの『前方向への張り出し分量』なのです。
以上の体形の構成要素を総合しますと次の様に要約されます。
(a)= B*1/2×0.2〜乳頭間隔(F部分)
(b)= B*1/2×0.3〜前巾ー乳間(S部分)
(c)= B*1/2×0.2〜カマ巾
(d)= B*1/2×0.3〜後ろ巾
(e)= B*1/2×0.2〜カマ丈(後肩丈)
(f)= B*1/2×0.2〜前丈
(g)= B*1/2×0.2〜後肩巾
(h)= B*1/2×0.1〜後首巾
以上のバストの拡大に関連する分析を通じて体形の理解はそれを立体の造形、即ち3次元の基準で分析して初めて拡大部位の
有機的な関連を認識出来た訳で、これは同時に従来のパタンの考え方では体形の真実には至り得ない事をしめすものと考えられます。
なお(6)=W/L,H/Lの配分、(7)=後ろ中心線の傾斜に付いて、はバスト線の拡大とは関係がないので原型の稿の説明に譲ります。
以上のバストの拡大をテーマとして体型を平面展開して得た論理は他にも種々の関連する事項を案出させます。
例えばバスト 80.0 cm - 100.0 cm の間の任意のサイズについてバランス計算は従来は『体型バランス計算式』に身体寸法を
入力させて計算値を算出しました。
此の様な場合、予めバスト80.0 cm のバランスを算出して置き、これを基準に任意のバスト寸法の体型バランスを算出し(+)し
て用いると云う、原型描画とグレーデイングを同時に行う、方法が考えられます。
計算例題
バスト 92.0 cm のバランスを計算したい場合(身長は156.0 cmで変らないと仮定します)
基準バスト80.0 cm のバランスは前巾=16.0 cm,カマ巾=9.0 cm,後巾=15.0 cm カマ丈=16.0+5.0 cm,前丈加算=1.5 cm
後肩巾=16.0+3.0 cm と予め基準値として計算して置きます。
バストの目標値ー計算基準値 92.0 cm - 80.0 cm = 12.0 cm、 1/2 = 6.0 cm と計算されます。すると基準バランスへの
加算量は次のようになります。
(a)= 6.0 cm×0.2= 1.2 cm 〜 乳頭間隔(F部分)〜 基準値 8.5 + 1.2 = 9.7
(b)= 6.0 cm×0.3= 1.8 cm 〜 前巾ー乳間(S部分)〜 基準値 7.5 + 1.8 = 9.3
(c)= 6.0 cm×0.2= 1.2 cm 〜 カマ巾 〜 基準値 9.0 + 1.2 = 10.2
(d)= 6.0 cm×0.3= 1.8 cm 〜 後ろ巾 〜 基準値15.0 + 1.8 = 16.8
(e)= 6.0 cm×0.2= 1.2 cm 〜 カマ丈(後肩丈)〜 基準値21.0 + 1.2 = 22.2
(f)= 6.0 cm×0.2= 1.2 cm 〜 前丈 〜 基準値 後丈+1.5 + 1.2 = + 2.7
(g)= 6.0 cm×0.2= 1.2 cm 〜 後肩巾 〜 基準値19.0 + 1.2 = 20.2
(h)= 6.0 cm×0.1= 0.6 cm 〜 後首巾 〜 基準値 6.5 + 0.6 = 7.1
と云う計算になります。
従って此の寸法で原型を描画するか、または予め作成されたバスト 80.0 cm の原型をグレーデイングすれば良い事になります。
私共の使う原型は多くの場合、9Aサイズで身長は160.0 cm の寸法の事が多いようです。然し近年の需要の多様化が進むと身長
は低く、バストの大きい体型、またはその反対の体型等、きめ細かい対応が必要となります。原型もブランド毎に特徴づけられ、
例えば身長 154.0 cm バスト 88.0 cm と云うような特別のサイズを原型として用いるようなケースがあります。
その様な場合、任意の身長とバストを組み合わせて原型を描画する、等は子の方式の最も得意とする分野です。
計算実例
☆ 身長 154.0 cm, バスト 88.0 cm の場合
後丈= 39.5, 背丈= 37.5 cm, ヒップ丈= 19.3 cm A基準=154.0/20+88.0/10=16.5 cm
(a)= 8.5+0.8= 9.3 cm,,,,,,,,,,,,,,,,,,(F部分)
(b)= 7.5+1.2= 8.7 cm,,,,,,,,,,,,,,,,,, (S部分)
(a+b) 16.0+2.0= 18.0 cm,.............. (前巾)
(c)= 9.0+0.8= 9.8 cm, ................ (カマ巾)
(d)= 15.0+1.2= 16.2 cm................ (後ろ巾)
(a+b+c+d)=(8.5+7.5+9.0+15.0)+(0.8+1.2+0.8+1.2)=40.0+4.0=44.0 cm = 88.0 cm ×1/2...バスト×1/2
(e)= 154.0/20+88.0/10+5.0 = 7.7+8.8+5.0 = 21.5 cm ..........(カマ丈)
(f)= 39.5+1.5+0.8=41.8 cm...................................(前丈増加分)
(g)= 154.0/20+88.0/10+3.0= 19.5 cm .........................(後ろ肩巾)
(e),(g)はA基準からのバランス計算、(f)は後ろ丈+加算分の計算、
☆ 身長 170.0 cm, バスト 84.0 cm の場合
後丈= 43.5, 背丈= 41.5 cm, ヒップ丈= 21.3 cm A基準=170.0/20+84.0/10=16.9 cm
(a)= 8.8+0.4= 8.9 cm,,,,,,,,,,,,,,,,,,(F部分)
(b)= 7.5+0.6= 8.1 cm,,,,,,,,,,,,,,,,,, (S部分)
(a+b) 16.0+1.0= 17.0 cm,.............. (前巾)
(c)= 9.0+04= 9.4 cm, ................ (カマ巾)
(d)= 15.0+0.8= 15.8 cm................ (後ろ巾)
(a+b+c+d)=(8.5+7.5+9.0+15.0)+(0.4+0.6+0.4+0.8)=40.0+2.0=42.0 cm = 84.0 cm ×1/2...バスト×1/2
(e)= 170.0/20+84.0/10+5.0 = 8.5+8.4+5.0 = 21.9 cm ..........(カマ丈)
(f)= 43.5+1.5+0.4=45.4 cm...................................(前丈増加分)
(g)= 170.0/20+84.0/10+3.0= 19.9 cm .........................(後ろ肩巾)
(e),(g)はA基準からのバランス計算、(f)は後ろ丈+加算分の計算、
★ @ 身長から丈のバランスを算出する。Aバスト寸法ー80.0 cm を算出して差に×1/2=、
B此れに0.2,0.3を乗じて増加量を算出し、D(a)〜(h)のバランスを算出する。E(e),(g)はA基準値から算出する。
私共が既存のパタンをチェックする場合、何を基準に判断を下すのか?は中々難しいテーマです。多くの方は『経験』によって
培われた基準から良否を判断する、と云われる場合が多いと思われるが、近年の状況では業界の技術者仲間の秩序にも変化が
生じて先輩・後輩の間でも『何らかの基準』を介して判断されるのが一般的になりつつあると思われます。
かっては先輩の仕事を見て何らかの技術的影響を受ける、と云う企業内の『技術の伝承』も中々難しい時代になり、その様な
場面でも『何らかの基準』があればお互いの理解にも大変良好な結果になります。
その見地からすると体型バランスの理解はお互いの理解の為に欠く事の出来ない基準となります。例として次の様な展開パタンの例で話しを進めましょう。
B図のパタンは展開されていて体型基準線が垂直・水平になっていません。この状態ではバランスをチェックする事は
出来ません。
パタンは組み立てられて着用される状態では必ず体型基準線は定位置になります。それが平面上に展開された
状態では定位置から離れてきます。
@ 先ずB/Pを推定しますと前身の横の水平線より可なり低位置にポイントがきます。
Aこのパタンはバストからの肩ダーツが閉じられ、ダーツはW線に移動された状態のパタンです。
B それで後身頃の
バスト線と前身のB/Pを繋ぎ、B/Pから前中心線に直角線を引きますと(B)図の様になります。
C すると重心線は垂直に、バスト線とは直角になり、バスト線は水平になります。この状態が『組み立てられて着用される
体型基準線の状態』なのです。この状態で始めてチェックが出来ます。
☆ 点検の要領
点検は体型基準線の組み合せによるバランスをチェックする事です。それには此のパタンは(Xcm)のバスト
を想定して作られているか?を調べましょう。今は仮にB 82.0 cm のサイズのパタンと仮定します。
Dすると(a)+(b)
のバランスは(16.0+(B-80)×1/2×0.5)ですから16.0+0.5= 16.5 cm です。内訳は(a)は8.7 cm ですから(b)は 7.8 cm
となります。
(c)は (9.0+0.2= 9.2) cm, (d)は (15.0 +(B-80)×1/2×0.3) ですから15.3 cm となります。
(A) 先ずバスト線を前中心線から(a),(b),(c),(d) と区分して夫々の寸法を計測します。
(B)各区分は(a+b)+イ;c+ロ;d+ハ と云う対比になり、イ、ロ、ハは各部位に加えられた『緩み分量』です。
(C)イ、ロ、ハ、の分量はアイテムにより差がありますが配分の対比が略、3等分されている状態が好ましく
@ 前後巾に多く、カマ巾に少ない場合、
A 前後巾に少なく、、カマ巾に多い場合、
B 前後巾の何れかが多く、反対側が少ない場合、
いずれもシルエットに影響があり、@、Aの場合は袖が細すぎたり、太すぎたり、Bの場合は(引かれ皺の多い)非常に
「着心地の悪い」シルエットになります。
緩みは本来、体表の上に”乗る”もので体表面から離れて浮いているモノではありません。前後の中心線の上にはタブらず、
重心線、背巾線の方向にタブリ、カマ巾の緩みの前後方向へのタブリ分と相まって体形の角にタブリ、体の動きに応じて
”緩み分量”は体表面の生地の不足を補う役割を果たします。
そして”緩み分量”はその適当な配分がシルエットを形成する
重要な要素にもなりますのでその分量と配分は慎重な配慮が必要です。
その基準は前後面と脇面との配分が3等分
になる事を基準にしてチェックします、
他にも考慮すべき点があります。それは”アイテム”による”緩み分量”の変化です。今まで述べた記事での”緩み分量”は
トルソー原敬、又はドレス、の最も体型に密着した場合のシルエットを基準に話しましたが、ジャケット、コート、ブラウス,
等、アイテムが変ることは主に”緩み分量”の変化によります。
アイテムによっては後首巾、後肩巾の”緩み分量”の変化が先ず設定されて、それに呼応してバストの”緩み分量”が
加えられます。
肩巾に 2.0 cm の分量が付け加えられるブラウスの場合、バストにはその基本の”緩み分量”に各面で 3.0 cm
の分量が加えられるケースもあります。その場合には前後の肩丈、にも上下に緩みが加えられ、肩先から袖全体にユッタリとした
シルエットになります。
アイテムの緩みの分量については拙著『パタンメーキングの基礎』を参考にして下さい。
紙張り、平面展開及び展開図の分析・推論の詳細は
小野喜代司著、
「パタンメーキングの基礎」
「婦人既製服パタンの理論と操作」文化出版局版
をご覧ください。