日常生活で私共は色々な人との交流があると思いますが第一の印象はその人の体形でしょう。「ほっそり」した人、
「ずんぐり」した人,等々、様々な表現があります。私共の印象を分解して見ると次のような事を総合して『感じ』として受け止
めていると云えましょう。
私どもは何かの無意識な基準があって無意識のうちにその基準と較べて印象を意識しているのです。
人の容貌、体形は様々で似ている場合はあっても『同じ』と云う事はなく、みな相違しています。
パタンに関連する項目に
注目すると次のようなポイントが挙げられます。
- 身長とバスト(周径)の対比
体形の基礎となる部位で子供から成人に至る成長過程で変化し、成人に至ってある高さと周径(バスト)の組み合せが各人
凡て異なります。範囲は身長145 cm - 175 cm,バスト70 cm - 100 cm 位の範囲でこの組み合わせの分布表がサイズ表の基準に
なります。
その標準の比率はバスト=身長×1/2+ 2〜4 cm でしたが2000年代の統計では + 8 〜 10 cm と一般的にはバストは
大きくなっているようです。
- バストとウエストの対比
この比率は『肥満』と関連があり、青年女子と50代女性とでは相当の乖離があり、若い年齢層ではW=B−16~18 cm,ですが
50代女性では差が更に少ない、』肥満タイプが増加する傾向が見られます。
- 姿勢(反身か屈みタイプか?)
この比率は前丈と後丈を較べて前丈と後丈の差が大きい程『反身』で少ないほど『屈身』のタイプで、一般的には
同じ寸法でもバストが前方向に突き出ている『鳩胸』と逆に背が丸くバストがそれ程でていない場合と一緒になって姿勢の相違
となって現れます。近年は青年女子を中心に反身の傾向が強いようです。
- 肩の傾斜(怒り肩か撫で肩か?
腕に付け根の下、脇のっ下に柔らかい定規をはさみ、水平に背側に曲げて首脇のネック点からの垂直の長さを計ります。(これを
カマ丈と云う)同じく脇下の水平線から腕の付け根に沿って肩点までの距離を測ります。この長さを較べて差が少ないほど『怒り
肩」で多いほど『撫で肩』と判断します。
私どもの『脳』が瞬時に受ける印象を分解すると以上の様な判断をしているのです。
この判断は全体に対する部分の比率(プロポーション)と部分と部分の比率
(バランス)とに大別出来ます。例えば身長に対する背丈・脇丈・腕の長さ、等は(プロポーション)の判断ですが、前丈:後丈、バスト:ウエスト、は(バランス)の判断と云え
ます。
体形は以上の(プロポーション)と(バランス)に大別できますので私どもの体形の計測も前者に対する計測
(体格計測)と(体型計測)とに分けて考えなければなりません。
先述しましたパタンの不適合の問題は体格寸法が合っていても体型寸法(バランス)が合っていない
場合に起る現象です。
従ってパタンの作成には体格の寸法に加えて体型の寸法を計測し、パタン作成にその双方、『体格寸法』+『体型寸法』を考慮しなければなりません。
1・現象から原因の究明・・考え方と二つの方法
様々な不具合の原因はパタンのバランスが体型のバランスにに合っていないからです。着られるのに
不具合が生じて合わないはサイズが合ってもバランスが合わないからです。
では体型のバランスとは一体何でしょうか?そして此のバランスに合うパタンはどの様に描けばよいのでしょうか?
を考えてみましょう。
- 先ずパタンは立体の体型の設計図ですから、体型の『形・曲面』の性質(バランス)を理解する事と、
体型の『サイズとバランス』を平面上に共通の基準で描く事、この二つがなければパタンは
描けません。
- しかも双方に共通する基準がなければパタンは体型の実態を表現しないものになります。
この共通する基準なにか?それは『体型の基準線』です。
基準線は立体の縦・横・厚さを計測する基準になる線ですが、同時にパタンを描く基準にもなります。
- 体型の基準は一般的には身長・バストです。パタンを描く場合は縦は前後の中心線・周径はバスト・ウエスト・
ヒップ線の計測が一般的に行われる方法です。
しかしこれだけでは『厚み』の計測が出来ません。体型は立体ですか
ら縦・横・厚みの三つの計測が必要ですが『厚み』の計測がなく、横と厚みを一緒に計測してしまうと結果は横と厚みの
区切りのない平面的なパタンになります。
- バランス計測では厚みの基準として『重心線』を設定します。重心線は起立する
モデルの前・後からみれば体型の中央の前後の中心線と一致し、体型の左右のか傾きの中心となっています。
- 側面から見た状態では何処でしょうか?耳の前端から足長の中央へ走る垂直線が重心の走る線がそれで、体型の前後
の傾きの中心となっています。
それは計測上では腕の前端を通るので、それを『重心線』として体型の厚みの基準にし
ます。
以上はミューラーが提唱したパタンの考え方の骨子でこれはバランス・カッテイングの最大の特徴
といえましょう。
1の続き 何故、二つの方法が生まれたか? (裁断の歴史)
昔洋服が生まれた西欧の時代、私どもは「布地」を体形にあてがい、裁断して縫い合わせていました。この方法は
「ブッツケ裁ち」と云って直接的な立体裁断です。日本でも明治期までは横浜には中国人の技術者がこの方法で裁断を
行っていた、と云う形跡があります。
- しかしこの方法はお客にとっては大変「繁雑な」方法ですので「替わりに」人体に似せた人形を作成し、その上で裁断を
行ったと思われます。いわゆる『ダミー』の出現でそれは『身替り』と云う意味です。
- 然しこの方法も仕立てを業務とする人は別としてやはり面倒な事には変わりありません。それでもっと簡単に人体の平面の形『原型』を
描く方法が考案され、背丈とバスト寸法から各部位の『形』の寸法を『割り出し』てを描く方式が案出されました。
それはヨーロッパでは紳士物のパタンの描き方から発生したと云う事で、子供服等、簡便に家庭洋裁の技術となりました。爾来様々に改善され、『ミッチェル式』裁断として
一般化しました。
- この方式は原型からデザインを含めてパタンを作成し、裁断後に『仮縫い〜補正』と云う確認の過程を行う事を前提に
した方式で当時の需要を満たすには十分な技術であったのです。
大正時代、日本の生活様式の『西欧化』が始まり、洋裁学校が設立、洋裁技術の一般化が始まりました。しかし行われ
る教育は『仮縫い〜補正』を前提とする個人対象の技術です。戦後日本の衣服生活は経済の発展と共に様変わりし、
レディメードが大勢を占めるようになりました。でもその生産を担う技術者は先に述べた洋裁学校の卒業生でレディメード
の性質を教育されてはいなかったのでやはり無理がありました。
1960年頃アメリカの洋裁教育の第一人者である大野順乃介氏が日本の業界にアメリカ式の『立体裁断』を伝えられ、
日本の業界は格段の進歩を遂げたのです。爾来色々な方面からの改良が加えられ、現在は様々な『ダミー』が開発されて
います。
○ ダミーの問題点
ダミーによるシルエットの作成は視覚的な個人的な技能で最も優れた手法ですが、社会的な
商品の製造技術としては幾つかの制約,亦は限界があります。
- 個人的技能の制約
ダミーによるドレーピングの技術は飽くまでも個人の技能の域に制約され、その成果は作成者の
能力の範囲で留まります。丁度一つの曲を多数の演奏家が演奏したら結果はそれぞれ違った演奏になるのと同じです。
誰でも同様に作成出来ると云う技術ではありません。
- ○ ダミーの制約
ダミーのサイズやバランスはどの様に決められたか?
多くは欧米のサンプルからの模倣であったり、製作者の個人的意図で「緩み」や「変更」が加えられたり
しても、その説明がなく、パタンナーは与えられたダミーに疑問があってもその範囲内での結果に制約された儘、
推移しています。換言すれば社会的に認知される客観性が有りません。
またダミーの癖はその儘製品に出て来るが変更したいと思ってもダミーのバランス以外には従来の洋裁知識では
対応出来ない。勢い個人の経験による変更を行うが背景の理論がない為に『個人的伝承技術』になってしまう事になります。
- ○未来への発展への制約
現在のグレーデイング概念はパタンの『相似形的な拡大』〈切り開きも含めて〉が中心で実際に
は納得出来る技術ではないことは皆気付いています。まして『修正』は個人的な『勘』に頼らざるを得ない事になります。
- 特に最近の{CAD}の発達・導入・による生産過程の効率化は目覚しいが、こと・パタンの作成やグレーデイングにはもう
一つと云う状況であると云えましょう。
詰まりダミーは形と数値の『架け橋』としてはその視覚的な真似できない優越性にも拘わらず、不足するモノは
立体と平面図形の間の『論理がない』と云う点であろう、と思われます。
以上の様な歴史的な経過の中でドイツのミューラーが提唱した方式が[1]で述べた
立体の3次元認識による方法論 です。それは{2}以下で述べるような体型計測や体形の形状認識
の方法に展開されます。
2・紙張り〜平面展開
体型は複雑な曲面で構成されていますが、それを知る「手立て」として体型曲面上に紙を張り、それを展開してその構成を調べます。
体型の紙張り・・・パタンの元の姿は『体型曲面を平面に展開した形』と考えられます。直接的なこの方法ですが最も
具体的に曲面の実態が判ります。しかしその平面展開には前項で述べたように
『共通の基準』をガイドとして行います。でないと各部位の相互の関連が解からないからです。
平面展開の準備〜予め平面の紙に計測値から得た数値を使って前後の中心線・重心線と周径線を記入します。寸法に合わせて
垂直に前後の中心線・重心線を引き、バスト線を水平に引きます。
其の上に切り開かれて展開された曲面の基準線をそれに合わせて貼り付けて行きます。
- 体型にはタイツを着せ、曲面通りに紙を貼り付けてテープで固定します。
- その上に前後の中心線・重心線及びバスト・ウエスト・ヒップの周径線にテープを貼り、固定してマジックペンで線を記入します。
- 体型から紙を取り外して切り開いて平面に展開します。
- 先ず肩線・脇線で前後の身頃を切り離し、前中心線を平面上の前中心の垂直線、バスト線に会わせて止め、バスト線を平らに展開します。当然バストの膨らみが盛り上がりますから肩線の中央からB・Pに向けて切り込みを入れて平らにバスト線を添わせます。
- 同様にウエスト線からB・Pに向けて垂直に切れ目を入れ、更に腹部の膨らみに切れ目を入れてバスト線を平面の水平線に合わせて広げ、ピンで止めます。
- 詳細は別項のページ『紙張りの詳細』をご覧ください。
3・計測
体型の計測・・・計測も前項に述べた『共通の基準』に添って行います。
計測の準備〜体型にはタイツを着せ、その上に前後の中心線・重心線及びバスト線とウエスト・ヒップの周径線をテープで貼り付けます。
- 計測そのものは一般に行われる方法と大差ありませんが特徴は前後を対比させながら計測を進めます。例えば「前肩幅:後ろ肩幅」といった具合です。
- バストでは重心線を境界に「前巾」と後ろ部分を分け、腕部分は直接計測出来ませんので「全バスト×1/10+1.0cm」を計算して『カマ巾』(後述)とします。従って「1/2バストー 前巾 −カマ巾 = 後ろ巾」となります。
- ウエスト線・ヒップ線は前中心線〜重心線を計測して『前ウエスト』とし、残りを『後ろウエスト』とします。ヒップ線も同様に『前ヒップ』と『後ろヒップ』に分けます。
- 詳細は別項のページ『計測の詳細』をご覧ください。
4・計測値の分析
5・双方に共通するポイント
このページでは衣服の設計図であるパタンは『立体』である体型を平面に展開した状態がパタンの基礎であると云う点を理解していただきたいと思います。
- それを可能にする方法が『体型基準線』の設定です。体型の面に前後の中心線と周径の線を設定しましたが更に重心線を設定し、縦・横・巾の三次元の基準線を設定しました。
- そして計測でも紙張り・径面展開でも同一の基準線を軸にして行いましたので『立体の基準=平面の基準』の関係が出来ました。
- その上で計測を行って体型の各部位のバランス関係の分析を行い、更に紙張り展開を通じて各部位の立体的な位置関係を確認しました。
- すると平面上に先ず基準線を描き、その上にバランス計測値に従って体型の部位の位置を求めて構成していけば最も忠実な立体のパタンが得られることになります。
以下順を追って詳細に入りますが従前の洋裁教育の技術との相違を認識されて先へお進み下さい。
Ladie's Patan Cutting のホームページ
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