グレーデイングでは体型のヌード寸法の拡大をしても≪緩み≫の寸法はその儘で、変化しません。これは緩みをバランスの変化に
合わせて計算し、Pt表に加算するのは極めて繁雑な手作業なので、敢えて省略したものと考えられます。
然しCADがグレーデイング計算の主体と
なる状況では自動計算によって体型バランスの拡大に合わせて緩み分量も拡大する事は敢えて難しい操作では有りません。
ヌード寸法の拡大に
合わせて≪緩み≫も拡大する計算式は果たして如何に行えばよいのでしょうか?・・を追求しました。
('09/8)
日本の女性の体型は高齢化の進展と共にバスト 90.0 cm 以上の中年女性の大きいサイズ(リッチサイズと云います)の需要が増加
し、其れは又グレーデイングの需要を増加させています。
然し若向きの体型バランスをそのまま延長して大きいサイズに拡大しても適合するとは限りません。何故なら若い女性の体型バランスでは中年
女性の体型に適合しなくなっていて、寸法としては着用できても何とはなしに『シックリ来ない』と云う『不適合感』が出てしまうのです。
女性の体型のバランスは子供からティーンズ、成人体型から中年体型と歳を経るに従って変化します。これを体型の『経年変化』と云い、体つき、
体型バランスの変化で表現されます。
体型バランスは標準的な計算方法は変化しませんがその経年変化に即して多少ずつ変更を加えます。中年体型に見られる点は肥満的な傾向もですが他にも
背面の肩の丸みの増加、それに伴う『着込み分量』の増加、上腕の肥満、バスト点の垂れ下がり、腹部の前方向への膨らみ、等々は共通の現象と云えましょう。
この稿では以上の懸案をバランス計算式にそのポイントを組み合わせて如何に取り込み、変更を加えるか?を述べたいと存じます。
もう一つ追記したいのはこの計算式はユーザーの目標とする体型グループに対応して自由に組み合わせを変更できる点、そしてCADの進歩はそれを
可能にしたと云う点です。これは2010年代に入ってパタン作成技術のパラダイムの変化と云えるでしょう。読者は更に研究されてCADの『人工頭脳的』
な機能の充足を果されるように、と願います。
この計算式を組み込んだCAD(グレーデイング)にご興味のある方は旭化成AGMS社のCADシステムにお問い合わせの上、デモをご覧ください。
詳細にご興味の方は →
<大きなサイズの計算式 (10B)へ>
お問い合わせ先
旭化成東京本社 東京都台東区台東1-6-4(タカラビル2F)
Tel 03-3839-0672 担当 池田
大阪 営業所 大阪市中央区久太郎町1-4-8(ガーデンスクエアー4F)
Tel 06-6263-8295 担当 川口
('09/6)
平成21年6〜7月に開催されたセミナーで多くの方から寄せられた質問には二つの大きな傾向があった様に思われました。
一つは『何故日本の
洋裁教育には立体バランスの訓練が無かったのか?』他の一つは『従来の洋裁教育との距離をどの様に埋めて融合するか?』のニ点であった様に
思われました。
最初の問題は日本の洋裁技術の歴史にあります。日本の『和装文化』の伝統にヨーロッパの伝統である『洋装文化の吸収』を
意図し、それを自らの文化として確立する為に1920年頃から始まった『洋裁学校教育』の特徴が大きな要因の様に思えます。
ヨーロッパの洋裁は人体の体型に生地をあてがって裁断する自然発生的な手法から発展した、『ダミーによるドレーピングでのシルエット造形』が今で
も主流です。その繁雑さを除いて家庭でも出来る『簡便な裁断法』がイギリスで考案されました。それは背丈とバスト寸法から各部位寸法を算出して
体形の図形を描くミッチェル式と云われる手法です。それが日本で工夫を加えられ、『〜〜式』の学校洋裁技術として盛んになったのです。
ドレーピングによる教育は少人数で長期に亘る修練の時間を要しますが、後者の『〜〜式割り出し原型』は短期間で多人数に教育するのには効率的で
あったからです。
割り出し原型方式もパタン作成後、『仮縫い補正』の段階を前提としますので制作の質としては別に遜色がある訳ではありません。ダミーによる
シルエット造形は指先の修練と感覚的な判断による造形方法で固人体型のパタン作成方法としては最も優れた手法でしょう。
然し製造方法・販売方法が時代と共に変化し、対象が個人から不特定多数の体型となり、サイズによる大量生産・グローバル化へと移行し、
パタン作成方法もハンドからCAD操作が中心となった時代の変化にはこれ等のパタン作成法も変化を余儀なくされる様になりました。
このホームページの主要なテーマであるミューラー理論はヨーロッパでは古くから教えられていた理論で、それは従来のパタンの概念からは離れた
発想に基ずく理論です。この考え方は コンピューターにパタンの概念を組み込める論理性を持つ事からCADが主要テーマになると共に注目される
ようになりました。
以上の洋装文化を取り巻く時代の変遷とそれにパタン技術は如何に対応しつつあるかについて書きました。H/P(50B)【読者との質問(7)】を
ご覧ください。
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二つ目の質問は職場で行なわれている『従来のやり方』の中にいきなり『バランス理論』を継ぎ足しても上手く機能しないのでは・・・と云う疑問で
した。企業の仕事の現場には永い期間培われた『企業風土』とも云うべき仕事のやり方、雰囲気があります。それは職場の全員が保っているもので
上司が『この様にしよう』と決めても中々円滑に移行しない・・と云う問題です。
永年に亘って伝承された『職場の雰囲気』は様々ですが、要は何かが上手く行かない、(例えばグレーデイングが適合しない等)の共通の問題意識
が共通であれば全員がパタンに関して『共通の基準』を持つ事が解決への一歩となります。『共通の基準』とは体型を立体として構成の成り立ちが
如何なるモノか?それをバランスの変化として知る事が『共通の基準』となります。
結果パタン情報の伝達や打ち合わせは基準を通じて
話し合うようになるので自然に問題点の認識が同じになって来て意識の融合が生まれます。
具体的にはどのような方法があるか?についての
書きました。H/P(50B)【読者との質問(7)】をご覧ください。
詳細にご興味の方は → <読者との討論 7 (50B)へ>
平成17年3月('05)にUpしましたこのホームページの閲覧者が平成21年4月('09)に延べ10.000人を超えました。
こんなに多くの方が興味を持って
下さり、閲覧下さるとは予想できませんでした。心よりお礼を申し上げます。
老齢になって始めたPCの勉強に後輩の皆様に刺激を受けたのがキッカケでH/Pの立ち上げを決意したのは6年前の75歳の時でした。77歳の時にH/Pを立ち上げましてから各方面の方からセミナーや講演依頼のお声がかかり、旭化成AGMS社からはグレーデイング・システムの開発協力のご依頼を頂きました。
<<この頁の末尾に記録の記載あり>>
このH/Pがご縁で老齢の身でもお役に立てる事は大変嬉しく、一生懸命務めました。心より厚くお礼を申しあげます。
ミューラー理論がこの様に着目されたのは現在のパタン技術がCAD中心へと移行する傾向にある事、また従来のパタン技術のCADへの適用には『ミスマッチ』が生じている現状とに原因があろうか?と思います。
この理論は新しく出現したモノではなく、ヨーロッパでは古くからある理論です。
従来のパタン技術が個々の体型に合わせて感覚的にパタンを作成する、と云う考え方に対してミューラーは体型が立体である事を前提に、その特質を論理的に究明してパタンを造形しようと云う方法論に相違があるのです。
コンピューターはその性質から従来の理論ではその特性を発揮するには限界が生じ、特にグレーデイングではCADは従来の『物差し』なぞのツールの様にパタンを画像として操作する事に終始せざるを得ない事になります。
その間隙を埋めるべくミューラー理論が注目されたのでしょう。先述のAGMS社では身体寸法を入力すればP/Cは体型のバランス変化を自動的に計算し、予め用意されたデザインの類型に従ってパタンにNO,を記入すればCADは拡大パタンを自動的に描画する方式を開発しました。これはこの理論によって従前のCADの限界を突き破る試みで恐らく今世紀のパタン技術の『パラダイム』となるでしょう。
これ等の一連の変容はこのホームページから始まりました。私の40年に亘る勉強が人生の最終場面でお役に立つと云うのは望外の幸せと申すべきでしょう。
更に多くの皆様がこのH/Pに立ち寄られるのを機縁に次の時代のパタン技術の展開をご覧戴き、更に多くの研究者が生まれ、研鑽を重ねられて理論がより役立ちます様にと祈念します。
平成21年 4月 小野喜代司